「……」グゥゥ
まただ。さっきからやたらとお腹が減る。朝ご飯、何時もより多めに食べてたのに昼前にはお腹が鳴り止まない。
「ちょ、ちょっとパーズ?」
「食べすぎじゃない?」
友達に声をかけられてハッとすると、いつの間にかお盆には普段の倍以上のご飯が並んでいた。無意識に取っていたらしい。
「は?え?何これ?」
「パーズ、大丈夫?凄い勢いで取ってたよ?」
「私が?」
お姉ちゃんに併走トレーニングをして貰ってから2週間。最近、やたらとお腹が減ったり、体重が乱高下する。一体どうなっているんだろう。
・・・
「……ということがあって……」
その日の放課後。私は伊丹トレーナーのいる秘密の練習場で話した。伊丹トレーナーは黙って話を聞いていたが、やがて笑顔を見せた。
「大丈夫だ。それは本格化前によくあることなんだ」
「本格化?」
「ああ。ただ、急激に体が成長するかもしれないから、しばらくは体に負荷の掛かりすぎないメニューにしよう」
やっと……私も本格化が始まったんだ。伊丹トレーナーの言葉に、嬉しさがこみ上げてくる。通常のウマ娘の本格化は大体中学に入る前後。中1の晩秋で本格化が始まった私はかなり遅い部類に入る。これでちゃんと練習をしたらレースにも出られる。
「本格化が終わったのを見計らって、デビュー戦に挑戦。デビュー戦に勝ったら、時期を確認しつつ色んなレースにも出ていくぞ」
「はい」
それから2か月の間、私の体は急成長を遂げた。食欲が増しただけじゃなくて身長も伸びて、筋肉も付いて、その……胸やお尻も少し大きくなってきた。今でもたまに大浴場の鏡を見て自分かと疑いそうになる。周囲で本格化した子の中には胸だけは全く成長せずに絶望している子も居たから、そこに関してはホッとしている。
ただ、困ったこともあった。一気に背が伸びたから制服からジャージ、衣類全般一気にサイズが合わなくなった。制服やジャージは学園に予備が沢山あるからすぐに用意できたけど、それ以外は大変だった。お気に入りの服が入らなかったのは正直ショック。
走ることに関しては、ビックリするほど変わった。今までよりも脚に力が入りやすいし、加速も速い。持久力も上がって、適性検査の結果長距離にも適性ありと診断された。勿論タイムも以前に比べてすごく縮まった。ダートの適性も上がって、今まで手こずっていたダートコースの練習も捗った。
「……よし。タイム更新だ。いいぞパーズ」
一方の伊丹トレーナーは、症状が治まってきて職場に復帰した。伊丹トレーナーは復帰してすぐに私と正式に契約を結び、トレーナーとして活動をはじめた。時折逆スカウトされるらしいけど『今はまだ複数人を担当できるほどの余裕はない』と断っている。
「明後日のデビュー戦だが……」
明後日。私の公式戦初レースがある。デビュー戦で、私を含めて8人が出走登録をしている。
「特に気になる相手はいない……が、初めての公式戦だ。絶対に油断するなよ」
「はい!」
・・・
パーズと別れてから、俺は1人トレーナー室で資料を読み漁っていた。今度のデビュー戦、パーズの走るレースに出走する子の情報は全員入手している。タイム自体はパーズの方が上ではあるが、パーズは複数人での模擬レースの経験がほぼない。経験のための選抜レースに数回出走させたぐらいで、それ以外は皆無。この差がどう出てくるかが、少し気がかりだ。
「レースに絶対はない……か」
椅子にもたれながら、新人だった頃に先輩トレーナーに言われた言葉を思い出す。レースは何が起きるか分からない。勝ちたい気持ちが強すぎる余りに掛かってしまって負ける子。周囲の気迫に押されて失速してしまう子。普段では速いウマ娘達がレースでは負け、普段それ程速くなかったウマ娘達が上位に食い込んだり、自己ベストを叩き出す。それが公式レースだ。