モブトレーナーの再スタート   作:夢の中の妄想2

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第十五話 デビュー戦 

「……」

「遂にデビュー戦だな」

「はい……」

 

今日は遂にパーズのデビュー戦。ダート1400。天候にも恵まれ、空は抜けるような青空だ。

 

「緊張してるのか?」

 

パーズは緊張してるのか、先程からソワソワして落ち着きがない。初めての観客ありのレース。経験したことのないレース場の雰囲気。無理もない。

 

「パーズ。深呼吸して、肩の力を抜いて」

「は、はい」

 

パーズは深呼吸をして、何度か肩を回すと、俺の方を見てきた。

 

「勝てるでしょうか?」

「勝てるよ。大丈夫。今日勝つために練習してきたんだろ?」

 

勝つためにパーズは俺のトレーニングに必死に付いてきた。その結果、十分に勝てるだけの実力を身につけた。トレーニング後のケアも入念に行い、怪我を予防してきた。何も心配は無い。

 

「さ、もうすぐ時間だ。行ってこい」

「はい!」

 

俺の言葉に、パーズは元気よくパドックの方へ走っていった。

 

「あ、伊丹トレーナー」

 

観客席に行くと、ブリッジコンプが声をかけてきた。俺はブリッジコンプの横に立つと、パドックにいるパーズを見た。流石に完全とまでは行かないが、さっきよりも落ち着いている。

 

「ブリッジコンプも来てたんだな」

「大事な妹の晴れ舞台ですから」

「そうだな」

 

怪我無く無事に走り抜けられるように、俺は心の中で手を合わせた。

 

 

・・・

 

 

「よし」

 

ゲートに入った私は周囲を見回す。私以外に7人のウマ娘。これに勝てば、晴れて兵庫シリーズに本格参加できる。

 

きっと私1人ではここに辿り着けなかった。もし伊丹トレーナーに出会ってなければ、私は今でも公道レースをしていたと思う。

 

「負けない」

 

私のためにも、私に付き合ってくれた伊丹トレーナーのためにも。ゲートが開くと同時に、私は勢いよく駆けだした。

 

 

・・・

 

 

「よし」

 

スタートダッシュは完璧。先頭集団の中でも前の方に位置取った。今日のレース作戦は先行。後半に一気に加速する予定だ。しかし……

 

『おーっとジュエルトパーズ。物凄い勢いで走る!!』

 

パーズはスルスルと先頭集団から抜け出して行く。別にスパートをかけている訳でもない。普通に走っているだけだ。

 

「実力が……違いすぎる」

 

幾ら頑張って適性を上げたとは言え、芝よりも適性が低いダートで集団を引き剥がしていくのは、実力の差が歴然であるということ。決して他のウマ娘達が手を抜いている訳でもない。

 

『ジュエルトパーズ!速い。速すぎる。2番手との差が開く。その差3馬身……』

 

パーズはあっという間に7馬身の差を付けてゴールした。圧勝だった。メイクデビュー戦でここまで差が付くのは園田ではあまりないのか、観客席は大歓声と拍手に包まれた。

 

 

・・・

 

 

今までの練習とは違った。景色も空気も。先頭集団でペースを見計らいながらスパートをかけるつもりだったのに、私のペースに皆が追いつけない。段々皆の息づかいが聞こえなくなっていく。その時はじめて、私は自分がトップにいると言うことに気がついた。

 

そして予定通りの終盤でスパート。観客の歓声が消えた。自分の耳が風を切る音が僅かに聞こえて、後は一気にゴール板を駆け抜けた。

 

息を切らしてゴールの結果を見ると、私は1着。2着と7バ身もの差を付けていた。勝った。デビュー戦とは言え、初めて公式レースで勝った。そう理解すると、沸々と喜びがわき上がってきて、私は右手を大きく突き上げた。

 

 

・・・

 

 

「伊丹トレーナー!!見てください!私の妹が!!初のレースを7バ身差で……」ブンブン

「ちょ、やめっ」

「園田のメイクデビュー戦は大抵僅差なんですよ!?それをあの子は7バ身もの差を……私の時なんてハナ差だったのに、あの子は凄いです!!」

「分かったから、落ち着け……」

 

妹の初勝利に興奮したのか、ブリッジコンプは俺の右肩を掴んで揺すってくる。ウマ娘の力で肩を揺すられれば、体が物凄い勢いで揺れる。それはまぁむち打ちになりそうなレベルで。そして……

 

ゴキッ

 

「あっ」

 

限界突破した俺の右肩は脱臼した。

 

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