モブトレーナーの再スタート   作:夢の中の妄想2

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第十七話 帝王

「……」

 

2人で一部屋あてがわれる寮の一室。そのベッドの上でボクはのそりと起き上がった。

 

「あーあ、また寝坊か」

 

ベッドの横に置かれた目覚まし時計は8時40分を指している。既に授業が始まっている。今月に入って何回目だろ。一度同室のマヤノに起こして貰ったけど、適当に返事していたら、寝過ごしてしまった。

 

「今日は休も」

 

スマホを取りだして、体調不良で休むと伝えると、ボクは再びベッドに体を投げ出した。

 

数ヶ月前。ボクはレース中に怪我をした。結構大きな怪我で、長期療養が必要になった。無論目標にしていた無敗の3冠は夢に消えた。

 

そして大きかったのは、トレーナーが突然退職したことだ。たづなさんにしつこく聞いて、ようやく原因が誹謗中傷のせいだと分かった。でもこの時にはトレーナーはとっくに引っ越してて、スマホも繋がらなくなってた。

 

ボクは必死に抗議したけど、たづなさんも理事長も『既に決まったことであり、我々としても残念だがマスコミ達にここまで叩かれて、生徒達もあらぬ噂を立ててしまっている現状では、彼がこのまま中央で勤務を続けるのは難しい』と言って、認められなかった。ボクは今、たづなさんに仮トレーナーとなって貰っている。けど、やる気も何も起きない。無気力になってしまった。

 

多くの人達はトレーナーが辞めたことに喜んでいる。それを見ると、益々やる気が削がれた。一体ボクは誰のために走ってるんだろう。

 

ボクはスマホに手を伸ばすと、何時ものようにネットサーフインを始めた。無数に現れる情報を流して見ていると、ある記事を見つけた。

 

「『未来の兵庫3冠?園田ジュニアカップを8バ身差で勝利したジュエルトパーズの強さの秘密』……?」

 

兵庫シリーズと言えば、確か地方シリーズの中でも中の中。中央トレセンにも転入してくるけど、多くは鳴かず飛ばず。転入者も少ない……って聞く。

 

ぼんやりと記事を読んでいく。この子の目標は中央に行って、かつてお姉さんが成し得なかった中央重賞を勝利すること。

 

「……いいなぁ」

 

写真に写るこの子の目は、夢や目標に向かって輝いている。きっと、ボクにもこんな時があったんだろうなぁ。

 

そう思いながら記事の最後に目を落とすと、ボクは目を疑った。

 

「何……で、そこにいるのさ……」

 

そこにはボクのトレーナーとウマ娘が記者会見を受けている写真だった。目元はサングラスをして、髪型も変えているけど分かる。間違いない。

 

 

 

 

・・・

 

 

「……」

「何を見ているんですか?」

 

昼休み。食堂でスマホを眺めていると、ブリッジコンプに声をかけられた。

 

「前の担当のことを調べていた」

「トウカイテイオーさんですか?」

「ああ」

 

トウカイテイオー。俺が中央で最後に担当したウマ娘だ。才能は猛者揃いの中央でも抜きん出ていた。特に柔軟性に優れていて、しなやかな走りができていた。

 

ただ、才能はあったが、体が付いてこなかった。怪我をさせてしまったことは、事前にこのことを見抜けなかったトレーナーである俺の落ち度でもあると思っている。もし見抜いていれば、早い段階で対処していただろうから、結果はもう少し違っていたのかもしれない。

 

「彼女、最近表舞台に出てきませんね。怪我の程度は私も風の噂で聞いてますが、そろそろ復帰してもいい頃なんですけれど」

「モチベーションの問題だろうな」

「……」

 

俺にとって、一番の心残りは怪我でモチベーションの下がった彼女を放り出してしまったことだ。無論、当時の自分にそこまで気が回るような精神的余裕がなかったんだけれど、いきなり放り出されてしまった彼女はかなりショックだっただろう。

 

もう一つ。それは中央を退職して、地方のトレセンでトレーナーをしていることだ。戻ってこずに別の担当を持っている。彼女が知れば、どう思うだろうか。

 

この前、パーズのレース後に地元の新聞社にインタビューを受けた。ネットにも載ったけれど、サングラスをして、髪型も変えていたからかコメントはそこまで荒れることはなかった。

 

どのみち、何処かで取材を受けることになるのは覚悟していた。でも、カメラのフラッシュや記者の質問攻めに遭うと、嫌悪感に近いものがこみ上げてくる。受けなくて良いものなら、受けたくないというのが本音だ。

 

「でも、やっぱり伊丹トレーナーはすごいですね」

「ん?」

 

ブリッジコンプの言葉に我に返ると、いつの間にかブリッジコンプは隣に座っていた。

 

「このままだと、私ができなかった兵庫シリーズ3冠、達成するんじゃないですか?」

「それはパーズ次第だ」

「でも、あの子をここまでのレベルに持って来たのは紛れもなく伊丹トレーナーの実力ですよ」

「まさか。あの子の才能だ」

 

俺はこれといったことをしていないと思う。ただ基礎の積み重ねを重視して、無理のないトレーニングメニューをその都度考えて調整し、実行しているだけだ。

 

「そういえば、君の所の子も、こないだ無事にメイクデビュー戦、勝ったそうじゃないか。おめでとう」

「ありがとうございます。あ、そうだ。今日仕事終わりに1杯飲みに行きませんか?」

「……酒乱を起こすなよ」

「あ、あのことは忘れてください!」

 

 

 

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