A:作者のモチベが乱高下しやすくて、前のアカウントの匿名投稿含め10作品以上書いて、そのうち完結できた作品は確か2作品のみという反省を踏まえ、ちゃんと完結させるために評価や感想やらお気に入り登録者数を全て捨てたから。
お気に入り登録してくださった方々、ありがとうございます。
「……」
実家に帰って1か月が過ぎた。未だに俺は実家から出ることができずにいた。筋トレとかこそしているけれど、出るのが億劫で出られなかった。お袋のため息の回数も増え、実家にもそろそろ居づらくなっていた。
ドンドン……
部屋の入り口の方で何か音がする。お袋だろうか。また何か小言を言われるのかもしれない。そう思って無視することにした。鍵をかけてるから、中に入っては来ないだろう。
ドンドン……
今日はやけにしつこい。
ドンドン……メキッ……ドガンッ!!
「……は?」
明らかにしてはいけない音がしたから起き上がってみると、見事に破壊されたドアと、何処から持ってきたのかバールのようなものを持った結が立っていた。
「起きてるなら開けてよ。ノックしてるのに」
「いや、せめてなんか言えよ」
「言っても開けないでしょ」
結はバールのようなものを壁に立てかけると、俺を無理矢理布団から引き摺り出した。
「ちょっと来て」
「おい。俺は外には……」
「じゃあこれ羽織っていけばフード目深に被っとけばいいじゃん。外寒いし。前見るのが怖いなら下向いたままでいいから。私が引っ張っていくから」
結は俺の許可無く勝手にクローゼットを開けるとフード付きのジャンパーを投げてきた、ついでにカーテンと窓まで開けると、俺を引き摺るようにして家の外に出た。
実家に戻って来たときは秋だったが、1か月が経ちすっかり気温も下がって寒くなってきていた。結は俺の服の袖を掴んだままドンドン歩いて行く。
「着いた。顔上げて」
結に連れられて歩くこと30分。着いた場所を見て俺は驚いた。
「ここって……」
「園田トレーニングセンター学園。通称園田トレセン」
園田トレセン。数ある地方レースの中の1つである兵庫シリーズを開催している。大阪などの大都市圏に近いお陰か、経営は地方トレセンの中ではかなりいい方。近年ではオンライン中継も盛んに行っている。
「……帰る」
「待って。まだよ」
帰ろうとする俺の袖を掴んだ結はそのまま正門をくぐり、グラウンドに出てきた。中央トレセンとは違い規模は小さく、芝がメインの中央に比べ、園田トレセンはダートがメインのグラウンドになっている。
結に引き摺られるままにグラウンドに出た俺を待っていたのは、親父と数人の初老の男達だった。親父達は結と俺の姿を見ると、笑顔で手招きしてきた。
「遅かったな」
「部屋から引っ張り出すのに手間取ったの。あ、ドアぶっ壊したから」
「おい。母さんにバレたらただじゃ済まないぞ。らしくない」
結の発言に親父の顔が青くなる。と言うよりも、昔の結は兄弟の中で誰よりも大人しくて、親に怒られる事なんて滅多に無かったし、ここまで無愛想じゃなかった。多分、これが思春期って奴なのかもしれない。
「おい、何なんだよこれ」
「あぁすまん。茂治。お前、来月からここで働かないか?理事長達も賛成している」
親父が初老の男達に視線を向けると、その中の1人が俺に近づいてきた。
「君が伊丹茂治君か。私は園田トレーニングセンター学園理事長の羽柴だ」
羽柴理事長が手を出して握手を求めてくるが、俺は中々手を出せずにいた。いきなり部屋から連れ出されたかと思えば、地方トレセンの理事長に握手を求められるなんて、理解が追いつかない。
そんな俺の様子を察したのか、羽柴理事長はにこやかに話し始めた。
「単刀直入に言おう。茂治君。我が園田トレセンに来てくれないか?」
「……」
「経歴書と履歴書は中央トレセンの秋川理事長から送って貰った。トレーナー資格以外にも、教員免許も持っているようだね」
教員免許は中高の数学。中央トレーナーの資格を取得するには、何かしらの教員免許が必要だったため、1番得意な数学を取得した。
「人格、指導力共に問題なし。評価も悪くない。うちには十分すぎる人材だ」
「しかし僕は……」
「……君を私に推薦したのは、秋川理事長と君のご家族、それに、うちのトレーナーだ」
呼んで来なさい。と羽柴理事長が近くにいた男に指示すると、5分もしないうちにウマ娘が走って来た。
「ブリッジコンプ……」
「お久しぶりです。伊丹トレーナー」
そのウマ娘は、俺が初めて中央で担当したウマ娘。ブリッジコンプだった。ダートのマイル~中距離が得意だった。卒業後は大学に進学したが、まさか地方のトレーナーになっていたとは思わなかった。
「トレーナーを辞めたと聞いていても立ってもいられず、秋川理事長にコンタクトを取り、伊丹トレーナーを羽柴理事長に特別推薦しました」
「……」
「トレーナー。あなたがいたお陰で、私はここにいます。あなたが無名の私をスカウトして、卒業まで一緒に戦ってくれたから今こうしてトレーナーになったんです」
「でも、俺はもう……」
思わず俯く。また怪我をさせたら?世間に叩かれたら?怖い。また同じことの繰り返しになる。いや、それ以上に酷い目にあうかもしれない。
俯いたまま動けない俺を見て、ブリッジコンプは俺の手を取った。
「あなたが必要なウマ娘達がいるんです。例え中央で評価されずとも、世間の目が冷たくても、あなたが私と戦って、夢を与えて、夢を見せてくれたことに違いはありません」
「……わかった」
彼女の言葉を信じる。もう1度だけ。俺も夢を見よう。
登場人物紹介
伊丹茂治
年齢:27歳
身長:173cm
体重:54kg(変化無し)
趣味:温泉旅行・読書・スポーツ観戦
顔は中の中というモブ顔。性格は温厚でやや根暗なモブ性。スポーツはあらゆる競技においてその年代の平均値を叩き出す地味に凄い能力を持つ。努力の末に中央トレーナーの資格を取得してトレーナーになったが、最初の数年間は担当をレースで勝たせてやれず悩んでいた。担当が怪我をしたことで世間から謂われのないバッシングを受け、家族にまで被害が及んだことと、自身も精神的に限界を迎え、中央トレセンを退職。現在無職。尚、中央トレセンの秋川理事長達は能力を評価していた模様。
ちなみに彼以外の家族は美男美女で、学生時代はそれをネタに嫌がらせを受けていたこともある。
痩せの大食い。でも筋トレしても筋肉がほぼつかない。体重も殆ど増えない。学生時代はバスケットボール部に所属していたが、この体質のせいで苦労した。