モブトレーナーの再スタート   作:夢の中の妄想2

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第七話 見回り

「昨日は本っ当にすみませんでした!!」

 

翌日。出勤早々ブリッジコンプは顔を真っ赤にして謝罪してきた。話を聞けば、昨日酔いから醒めた後、両親にしこたま怒られた上に、かつてのトレーナーの前で泥酔したと聞いた妹や弟からも呆れられたらしい。

 

「その、昨日のお代……幾らでしたか?」

「気にしなくていい。それより、学園の評判や妹さん達のためにも今後は酒を控えた方がいいな」

「はぃぃ……」

 

財布を出そうとするブリッジコンプに釘を刺すと、ブリッジコンプは肩を落とした。その様子を見ながら、俺は今日の業務の準備をする。今日は放課後まで理事長に付いて仕事をするから、この後は理事長室だ。

 

 

・・・

 

 

「伊丹君。この学園をどう思う?」

 

理事長室で勤務をはじめて早々、羽柴理事長から質問をされた。目の前の山積みになっている仕事から目を背けて窓際に立って外を見る羽柴理事長に『それよりも仕事をしてください』と言いそうになるのを堪えつつ、俺は少し考えてから口を開いた。

 

「中央に比べれば、レースへの関心はさほど強くないのかと感じます。皆それぞれ、思い思いやりたいことをしていますね。それはそれでいいことだと思います」

「ふむ」

「また、学園やレース場周辺の清掃活動などのお陰か、近隣住民からの評判も上々ですね」

「成程。では、問題点は?」

 

言いづらいことを聞いてくるな。と思いつつも、俺は正直に思ったことを口にした。

 

「……地方の特徴とも言えますが、スター性があるウマ娘がいない……ですかね」

 

地方のレースはばんえい競馬を行っている北海道などのごく一部を除けば、見応えのあるレースは殆どない。中央のレースに比べれば言い方は悪いが劣化板と捉えられても仕方ないレベルな所が多いのだ。走る本人達からの気迫ややる気が中央とは比べものにならない。

 

さらに、観客の目を引くような走りをするウマ娘がいないのだ。圧倒的な強さと、人々を引きつける魅力……カリスマ性やアイドル性を持ったウマ娘がいない。数年前にカサマツに所属していたオグリキャップがいたときは、カサマツは大いに盛り上がった。そんなウマ娘が地方には今ほぼ皆無なのだ。

 

「他には?」

「……思い浮かびません」

「そうだな……確かに君の言うようなスター性のあるウマ娘は何処の地方も現状皆無に等しい。資金的にも苦しいところが多くて、設備更新もままならない。地方の特色でもあるナイターレースも地域住民や生徒の負担を考えるとそう多くは開催できない。才有るウマ娘は設備も資金も潤沢な中央を最初から目指すだろう」

 

だが、と羽柴理事長は俺の方を振り返ると笑った。

 

「生徒が満足する学園生活を送らせ、社会に送り出す。それが我々の使命でもある。レースが人生の全てではない。引退後も生きていかねばならない。寧ろレースから引退したその後の方が長いからね。生きる術は身に着けておいて損はない」

「成程」

「何なら君がスター性のあるウマ娘をここで見つけて、指導してくれればありがたいのだが」

「あはは……」

「……問題としてはそうだな……色々あるが、急ぎの問題は公道レースをする子が我が学園でも増加傾向にあることだ。特に数年前から深刻でね。実際に死亡事故も何件か起きている。おまけに下手をすれば一晩中走るわけだから、授業中に寝て学力低下の危険もある」

 

園田トレセンも中央と同じく全寮制だ。しかし、就寝時間後に隠れて抜け出して公道レースに参加する子が後を絶たないらしい。保護者にも注意を促す手紙を送ったりするが、思春期で反抗期真っ盛りの生徒には効果なし。寧ろ公道レースへの興味を示す生徒まで出てくる始末。見回りをしようにも時間は深夜から早朝にかけてで職員の負担も大きく、おまけに何処で行われているか分からず完全に根絶には至らないのが現状だ。

 

「この辺りの公道レースが行われている場所は?」

「幾つかあるようだが、六甲山や北摂方面が多いらしい」

 

六甲山は昔から走り屋が多いことで有名だ。あまりに無茶が過ぎたのか、二輪車に至っては通行規制まで掛かっている場所もある。北摂方面はよく分からないが、山を越えるからそれなりの峠道なのだろう。

 

「このままでは校則をより厳しくせねばならん。が、退学後のウマ娘は編入先にも苦労するし、難しいんだ」

 

ウマ娘は通常の人間とは違い、色々な配慮が必要になる。そのせいか、トレセン学園以外の高校ではウマ娘の受け入れを拒否する学校もある。中学は義務教育のお陰で公立でもそういうことはないものの、義務教育から外れた高校はまた違うのだ。羽柴理事長が困るのも無理はないだろう。

 

「僕も見回りをしてみたいのですが、いいですか?」

「構わないが。それなら見回りの翌日は午後からの出勤にしよう。見回りの前日には連絡してくれ」

「ありがとうございます」

 

 

・・・

 

 

「さて、そうは言ったものの……何処を巡ればいいのやら」

 

昼休み。俺はトレーナー室で頭を抱えていた。六甲山と北摂方面を一夜で回るのは実質不可能。範囲も広い上に、毎晩集まる訳でもないだろうから、空ぶる可能性も十分あり得る。

 

「まずは六甲山かな。その次が国道173方面、んで次が国道477、次が423……他は何処があるんだ?」

 

六甲山は園田トレセンの寮からも比較的近い。集まる可能性が最も高いと見た。その次が寮の近くを通る国道などの主要道を順番にあたる。

 

「何してるんですか?」

 

今日の夜回る場所を決めて伸びをしていると、ブリッジコンプが覗き込んできた。

 

「今日から公道レースの見回りをしようと思って。今日は六甲山」

「1人で大丈夫ですか?まだ完治してないんですよね?」

「車内から覗くだけだから大丈夫だ」

 

相手はウマ娘。どうせただの人間の俺が追いかけても勝てない。一応バイクや車の免許は持っているが、乗り物に乗って追いかけるにも漫画の主人公みたいに超絶テクニックを持っているわけでもないから、無茶な走りをすれば事故るのがオチだ。ギャラリーに紛れて証拠写真を撮って生徒指導に渡すのが精々だろう。それもグレーな気がするが。

 

「……私も行っていいですか?」

「え?」

「実は妹が公道レースにはまってるみたいなんです」

 

ブリッジコンプの妹……そう思って俺は生徒名簿を確認する。めくっていると、ブリッジコンプがあるページで俺の手を止めた。中等部1年のジュエルトパーズだ。レースデビューはしていないものの、一応レース志望のようだ。数回高等部の生徒も混じった選抜レースにも出ているが、その全てで3着以内と中1ながらかなりレベルが高いように見える。

 

「確かに素行面で頻繁な夜間無断外出があるな。生徒指導も3回受けてる。補導歴も有……次に生徒指導を食らえばまずいかもな」

「そうなんです。でも、私や親が言っても聞かなくて……」

「……」

「昔はよくお姉ちゃんって言って追いかけてきてくれたのに」

「とにかく、今日の見回りは六甲山。時間は21時から。一緒に来るなら連絡してくれ」

 

ネットで調べてみたけど、公道レースが始まるのは遅くても22時。終わるのが朝の6時頃。21時に家を出発すれば丁度いいだろう。

 

 

 




羽柴理事長

年齢:58
身長:163cm
体重:62kg
趣味:居合・茶道

園田トレセンの理事長。中央トレセンの秋川理事長とは顔見知り。実家は大昔から続く園田トレセン周辺の土地を持つ大地主で、その現当主も務める。学園の運営や実家の仕事に煩殺されながらも、生徒の幸せを願う良き教育者。

以前は中央でトレーナーをしていたが、父親が急死し、実家が傾きかけたために園田トレセンに転職した。理事長就任当時は前理事長の無計画な人員計画により深刻なトレーナー不足に直面したこともあって、若手の育成にも熱心。ブリッジコンプや茂治にはトレーナーとしてだけでなく、教育者としても期待を寄せている。

理事長としての評価は特別に目立つ改革などを行っている訳ではない上、就任して経営状態が飛躍的に好転した訳ではないために『凡将』と呼ばれている。しかし堅実な学園経営を行い、若手を積極的に採用するなど、無策な訳ではない。

趣味は居合と茶道で、どちらも師範代を務められる実力。が、最近は忙しすぎて顔を出せていない。茂治の父親とは居合道場で知り合った飲み仲間。

家族構成は妻と息子と娘の4人家族で、妻と娘はウマ娘。2人とも走ることに関しては中央のレベルには遠く及ばなかったが、現在は医師として活躍している。息子は大手貿易会社に勤務している。

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