魔術学院の最後の黒   作:松ぼっくりの舎弟

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プロローグ

「ルインザース魔術学院」

何処の国にも所属しない土地にある魔術師を育成するための学院。

世界中から集められた200人の魔術師見習い達が己の魔道を発展させ、極める為の教育機関。

それ故に有望な魔術師が毎年卒業し、世界に羽ばたいていく。しかし卒業出来るのは7割程度、残りの3割は学院内で死んでいく。

そんな魔境ともいえる学院に今年も15歳の少年少女達が通い始める。

 

 

 

 

 

 

□■□

学院に通ずる一本道を新入生達が歩いている。ある者は緊張しているのか周りを見渡し、ある者は自分の将来に希望を持ち眼を輝かせ、その新入生の中に灰色の髪を靡かせている少年が1人。

「ここが魔術学院。凄まじい大きさだな。」

遠目に見える魔術学院の校舎を見ながらそんな言葉を吐くこの少年の名はアドラ=エルドゥーク。今から魔術学院に通う新入生の1人であり、緊張している新入生の1人である。

 

「君、そんなに緊張しなくたって大丈夫さ!1年生の内は危ないことなんて多分起きないからね!」

1年生の内、多分という言葉に疑問を持ちつつも声をかけてきた上級生らしい人の顔を見る。茶髪に茶色の目、その特徴からしてイラディア共和国辺りの出だろうか。

 

「貴方は?」

 

「おっと!自己紹介を忘れてた!僕の名前はシアン。シアン=セルシア2年生!よろしくね!新入生の学院までの案内は2年生が行う決まりなんだ!だからそんな警戒しなくたって大丈夫だよ!」

アドラが警戒していた事に気づき、先程から絶やさない笑顔のまま自己紹介を行う。

 

「先輩だったんですね。申し訳ありません。先輩の言う通り少し緊張していまして。」

アドラがシアンに向かって頭を下げる。シアンはそれをいいよいいよと頭を上げさせ、笑顔のまま言葉を紡ぐ。

 

「あ!言い忘れてた!ようこそ、【ルインザース魔術学院】へ!」

そういうとシアンは周辺にいた新入生にも声をかけ、入学式のある大講堂に案内し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□■□

場所は変わり大講堂、そこには新入生200名が腰掛ける椅子が置かれており、新入生達は入学式が始まるのを今か今かと待ちわびていた。

 

「静粛に!新入生諸君、これよりルインザース魔術学院入学式を始める!」

隅に立っていた学院の教師であろう人物の声が講堂内に響き渡る。

 

「学院長より、祝いの言葉だ!心して聞くように!」

その言葉が終わると今まで誰も立っていなかった壇上に美しき魔女が現れた。

 

 

「まずは新入生諸君、入学おめでとう。妾が学院長のユグレシアだ。この学院に入学出来た時点で君達はこの学院に入学出来なかった者よりも上の存在となる。」

その言葉に新入生達は沸き立つ。やはり自分は選ばれし者だと、自分は天才だと。

しかし学院長の言葉は続く

「しかし、しかしだ若人諸君。それはここにいる総勢200人全てに言えることだ。君達の相手は入学すら出来なかった凡夫共か?違う!違うだろう!諸君らの相手はこの学院にいる者達だ!才能など持っていて当たり前、才能を持っている事などこの学院に入学する最低条件だ!魔術師の本懐とはなんだ?己の才能に酔いしれることか?否!否!!否!!!己が魔道を追求し、極みへと至る事だろう!

妾は諸君らに期待している。願わくばこの中から妾と同じ場所へと至ることの出来る者がいることに。」

その言葉を聞いていたアドラは心の内で慄いていた。

(あれが、あれがこの世にあのたった1人しかいない第10階梯【ツェーン】の魔女。ユグレシア=メリスゴール。世界最強の魔術師、その圧倒的な強さからつけられた異名は『統魔の魔女』。魔術を統べる者という意味と聞いた。しかしあれは、規格外過ぎるだろう!そこにいるだけで、存在感だけで冷や汗が止まらない。文字通り格が違う。)

 

学院長が言葉を続ける。

「あと言い忘れていたことがある。この学院を五体満足で卒業出来るのはこの中の7割程だ。残りの3割はどうしたかって?死んだ。ある者は迷宮で迷宮生物に殺された。ある者は自分の魔術を制御出来ずに灰も残らず燃えて死んだ。そして魔術師として生きるに辺り、必ず起こり得ること、それが【堕魔(フォールン)】魔に堕ちるとも言われる。」

堕魔】(フォールン)その単語に新入生達は震える。【堕魔】とは魔術師の成れの果てだ。理性を失い、思考を失い、ただ全てを破壊する為だけに行動する生きる屍。それに滅ぼされた国は10や20では足りない。永き魔術の歴史、それ即ち世界の歴史。その中で登場し、歴史を破壊する【堕魔】達。それを恐れぬ者などいない、それになりたい者などいない。

 

しかしそんなこと知ったことかとユグラシアは言葉を紡ぐ。

 

「恐れるな!魔に堕ちることを!諸君らは魔術師だ。魔に堕ちることを気にして魔道の探求などできるはずも無い!恐怖など捨てよ!死を恐れるな!友を!仲間を!家族を傷つける事など恐れるな!魔術師ならば己が魔道の為ならば自分以外の事など切り捨てよ!それが出来ぬ者に魔術師たる資格無し!!」

 

講堂内がシーンと静まり返っている。ここにいる全ての者が今の演説に圧倒され、言葉を発せないのだ。震えることすら出来ず、恐怖し涙を流すことすら出来ずに固まっている。

 

「…以上だ。この後は歓迎の夕食が用意してある。大食堂に移動するといい。」

その言葉を最後に音もなくユグラシアは消えた。

 

 

 

「 …今の言葉を聞いていたな!大食堂に移動しろ!2年生は1年生を先導しろ!」

先生の言葉を尻目に動かずにいた1年生達は動き出す。そして全ての新入生の思いが一致した。

((((((やばい所に入ってしまった!!))))))と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□■□

数分の時間をかけて到着した大食堂。そこには数々の豪華な料理が置かれ新入生達の心を奪っていた。

入口には上級生が何かが入った四角い箱を持ち座っている。

 

「はーい、新入生の皆はくじを引いてねー。」

上級生はそういう時は前にいた新入生から順にくじを引かせていく。

そんなことを考えているといよいよアドラの番が回ってきた。

 

「はーいくじ引いてー」

その言葉でくじを引く。

 

「B列の3番ねー。あの右側から2番目の真ん中の席に座ってー」

なんのくじなのかが分からないので上級生にくじにつあてたずねる。

 

「これはなんのためのくじ何ですか?」

その問いに上級生は笑って答えを返してくれた。

 

「これはねー、色んな人と仲良くなる為の政策でねー君と同じくじを引いた子達と同じ席になるんだー。」

つまりは先程アドラが引いたB列の3番という場所に同じ物を引いた人達が集まるということだ。

 

「…なるほど。理解しましたありがとうございます。」

アドラが頭を下げる。

 

「いえいえー楽しんでねー。」

上級生は手を振って後列の人達の相手をし始めた。

 

 

 

指定された席に行くと、既に4人が席に着いていた。

 

「おっ!最後の1人が来たみたいだぞ!」

赤茶の髪色した少年が他の3人にアドラのことを伝える。

 

「早く座れよ!」

アドラが座る椅子を叩きながら少年が言う。

 

「あぁ失礼する。」

アドラが椅子に腰掛ける。

 

「よし!全員揃ったことだし自己紹介でもしようぜ!まずは俺から、俺はカイト!カイト=メンドゥだ!家は昔は結構栄えてたみたいだが今は没落してちゃんとした魔術が使えるのは俺くらい。よろしく!」

赤茶の髪の少年、いやカイトが自己紹介を終えると次はその横に座っていた金髪の美少年が自己紹介を始める

 

「じゃあ次は僕が。僕はライ=ノーデンス家はまだ生まれて100年も立っていない新興魔術家庭だよ。これから7年間よろしく。」

ライは数多の女を落としていそうな甘いマスクに笑みを浮かべて自己紹介を終わらせた。

 

「では次は私が。」

藍色の髪を高い位置でポニーテールにした美少女が自己紹介を始める。

 

「名はエリス=ユーウェント。」

ユーウェント。その名を知らぬ魔術師はいない。『剣の魔術師』と呼ばれる身体強化魔術の大家であり、魔術師が多く使用する『ユーウェント流』の本家である。

 

「ユーウェント家に属する者として、強さの為にこの学院に来た、よろしく頼む。」

エリスが頭を下げる。随分と生真面目な性格のようである。

 

「じゃあ次は俺が、」

アドラが自己紹介を始める。

「名前はアドラ=エルドゥーク。ライと同じで家はまだ100年も立っていない新興魔術家庭だ。よろしく。」

簡潔に自己紹介を終える。

 

「最後は私ね!」

燃えるような赤い髪と眼をした少女が勢い良く立ち上がる。

 

「私はアタナシア=ヴァーミオン!炎の大家であるヴァーミオンの息女よ!私はこの学院で最強の存在になる!今の内にサインでもいるかしら?」

ふふん!と胸を張り満足げに上を見上げている。

しかしヴァーミオンは紛うことなき名家である。本家は『八大魔公家』いや今は『七大魔公家』か。

その1つである『シンクレア』の分家であり、現当主はシンクレアの当主の弟だという。

 

「いや要らねぇわ。」

カイトが手をひょいひょいと振りながらアタナシアの言葉を適当に流す。

 

「なによ貴方!没落した家庭出身のくせに!」

その態度でアタナシアは怒りカイトに噛みつく。

 

「お前学院長の話聞いてなかったのか?この学院の生徒は全員才能持ってるってな、現時点では俺とお前はタメって事だろ、違うか?」

 

「えぇ、違うわ。私は貴方と違って5歳の時から魔術に関わってきた。それが魔術のまの字も分からないような貴方なんかと同格な訳がないでしょ!」

彼女の言うことは正しい。確かにカイトにも才能があるのだろう。しかし彼女はヴァーミオン、生粋の魔術家系だ。現時点で魔術師としての力量は圧倒的にアタナシアの方が圧倒的に勝っている。

 

「あの2人凄いな。もう仲良くなるなんて。」

エリスが感嘆する表情をして呟く。

「「どこが!!」」

2人の言葉が重なる

「ほら息ピッタリだ。」

計らずもエリスのお陰で2人の言い争いは終わり、5人で食事を取り学院生活初日は終わった。

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