「……はい、確かに受け取りました」
書類の束をとんとんとテーブルに打ち付けながらミニスが静かな声で言った。その途端、詰めていた息を吐き出したのはナチねぇだ。やっと緊張から解放されたとばかり安堵のこもった溜め息が場に響くけれど、貸し切り状態の食堂にはミニスとナチねぇ、そしてお茶のお代わりを運んできた俺しかいない。臨時休業の札に加えてセイロンたちにも席を外してもらったからなんだけど、そうまで念入りに人払いを掛けたのは理由があった。二人が、仕事の話をするためだ。
本当だったら派閥外への持ち出し厳禁らしい古びた文献に分厚い資料、そいつらを元にナチねぇが解読した中身をまとめた報告書に解説やらの成果物……その内容こそさっぱり分からないけど、こんな場末の宿屋のテーブルには似つかわしくない代物が無造作に広げられているってことは分かる。少しでも召喚術に通じていたなら垂涎物のお宝だらけ、ほいほい部外者を招き入れるわけにはいかないってのは確かだ。そうした意味じゃ、俺だって決して例外じゃないはずなんだけど……
「はぁ、よかった。ミニス先生のお眼鏡にかなったならひとまずは安心かな」
「あのね、言いたいことは山々だけど……これはオマケってレベルじゃないでしょ。もう、こっちが本題みたいになってるんだから、ナチは余計な仕事を背負い込みすぎ!」
「一度気になったら止まらなくなっちゃって。テイラーさんにも了承は得ていますし、趣味と実益を兼ねてるってことでひとつ?」
「あのさ、二人とも……用が済んだなら早くしまってくれよ!?汚すのが怖くておちおちお茶も出せねえって!」
ミミズがのたくったようにしか見えない文字がびっちり並んでいるのはサプレスの霊界言語で記された希少な本で、ナチねぇの繊細な字が何だか小難しい文章を綴っているのは毛羽立ちひとつないやたら上等な紙で、万が一にも紅茶の滴が跳ねちまったらと思うとトレーからカップを下ろす気にもなれない。切実な訴えはどうにか届いたようで、あらありがとう、なんて澄ました顔で言いながら手早く書類を片付けたスペースにカップを置くミニスだけど、ナチねぇの仕事の窓口をやってるのがこいつだからこそ色々と融通を利かせてくれてるんだろうな。場を提供して貰ってるんだから当然でしょ、と俺が何か言うより早く立ち会いを許可してしまったミニスに呆れ半分、その気遣いが察せるくらいの付き合いになった今だからこそ余計、思ってしまわずにはいられない。
俺と大して変わらない年のくせ、ミニスのやつ、派閥で一体どれだけの立場についてるんだろう?
いつにも増して花でも飛んでいるような柔らかい笑みのナチねぇが見つめる先には、目を閉じて優雅に紅茶の香りを楽しんでいるミニスの姿がある。大事な友達だって、あのナチねぇが何の衒いも気負いもなく言い切った相手なんてイオスの他にはミニスくらいのものだ。俺の知らない過去にそれだけの絆と友情を結んだ出来事があったと思うとやっぱり気にはなるけれど……多分それも、ナチねぇがイオスやルヴァイドと仲間だった頃の話に関わってくるんだろうな。だとしたら、はたして俺から尋ねていいものか?空のトレーを手にしたまま無言で百面相をしてしまう俺の前、カップを傾けた二人が満足そうな息をこぼす音だけが響いた。
ともあれ、ミニスがトレイユの町を訪れるのも随分と久々だ。腕によりを掛けた料理を出してびっくりさせてやろうとひそかに意気込んでいたけれど、告げられたその予定はあまりに忙しないものだった。
「え。明日には帰っちまうのかよ?」
「残念だけど色々立て込んでて。もっとゆっくりしたかったんだけど、ファナンにトンボ返りの予定よ」
肩を竦めてミニスが言うには、ここ最近どうも無色の派閥の動きが活発らしい。あくまで水面下での動きなのもあって情報が掴みにくく、断言しがたくはあるものの、残存勢力の小競り合いと見做すには若干迷うところなんだとか。その目撃情報が帝国と聖王国の国境付近なのもあって、いつもはナチねぇがワイヴァーンに乗ってファナンまで届けている書類も陸路で引き取りに行くと決めたらしい。
帝国と聖王国の関係は悪くはない。とは言え、断りもなく領空侵犯なんてしていたら火種になるし、あらゆる面で算盤勘定に長けた金の派閥のすることだ。これまでだってきっちり手続きは取ってたんだろうけど、情勢を鑑みてわざわざ足を変えたんだろう。そういったところのバランス感覚はさすがだよな。無色の連中が使う召喚術や召喚獣への警戒が高まっている中、いくら事前に許可されてるからって大空を悠々横切って注目を集めるような真似をしちゃあ軍や一般市民の心証的にもよろしくないもんな。
「ワイヴァーンでの移動はちゃんと帝国に許可も取ってるし問題ないって言えばないんだけど、念には念を入れてね。おかげで日数が掛かる分、滞在期間は削らざるを得なかったってワケ」
「はぁ……にしても忙しないもんだな」
さっきのリシェルとの模擬戦も町の顔役であるテイラーさんへの挨拶ついでで、これまで預かってもらった書類も回収済みだそうだ。内容の精査はファナンに戻ってからになるそうだけど、ナチねぇにしてみれば最初にして最大の関門であるミニスを突破したことですっかり仕事のことは頭から消えたらしい。本当に残念ですね、としょんぼり気落ちした様子で呟くその足下にシズクやプニムの姿がないのもあって一層寂しげに見える。あいつら、真面目な話になるとすぐどっかに消えちまうからな……。まあ、なんだ。旧交を温めるっていうには短すぎる訪問になっちまったけど、せめて今夜くらいはゆっくり寛いでいってもらうとするか。
「それじゃ、話は変わるけどさ」
「ええ、ここからはお説教よ。ナチ!」
気を取り直してセイロンたちのことでも紹介しようと口を開いた俺だったけど、その目論見は呆気なく潰えた。いきなり目尻をきつく吊り上げたミニスがこっちの背筋まで伸びるような厳しい声を放ったからだ。びくっと首を竦めて身を縮こまらせたナチねぇだけど、まるで叱られるのが分かっていた子供みたいにその視線は不自然に泳ぎ始める。ええと、その、と歯切れ悪くこぼす声にも力はなく、バツの悪そうな顔をしたまま明後日の方向を向いている。突然のミニスの変貌とナチねぇの狼狽ぶりに驚きつつも、どうやらお説教の内容に心当たりがありそうな様子に俺が首を傾げた矢先、答え合わせとばかりにミニスの叱りつけるような声が飛んだ。
「報告書の輸送以外でワイヴァーンを使った移動は禁止!って前から言ってたじゃないの!特にナチは!!」
「はい、ごもっともです……本当にすみませんでした……!」
ワイヴァーンに乗って移動するのは、本当は拙かった?それならこの間、アロエリを追ってワイヴァーンで共同墓地まで移動したのは……
思わぬ展開に呆気に取られて声も出ない俺を置き去りに、いよいよ小さくなって頭を下げるナチねぇにずいずい詰め寄ったミニスが勢いよく言葉を連ねていく。
「これまで一度も破らなかったのにどうして今頃になってそんな不用意な真似をしちゃうのよ!?情勢がどうとかの話じゃないことくらい、分かってるわよね?召喚するだけならまだしも、ワイヴァーンでの長距離移動に耐えうる魔力がある召喚師なんてそうそういないんだから。……幸い、目撃者は殆どいなかったみたいだけど、これで人目についていたらお小言じゃすまなかったわよ。あなたの情報が変に出回っちゃったら、困るでしょ?」
ついには隣に立って釘を刺すように横目でじとりと見据えるミニスに、ナチねぇはぐうの音も出ないとばかり深く項垂れきっている。一切の反論もなく大人しくしているナチねぇとこんこんと言い聞かせているミニスを唖然として眺めるうちに、やっと俺にも分かってきた。
事前に許可された空域じゃないからとかの話じゃない。どうしてナチねぇがこの町にいるかをちゃんと理解していたら、最初から選ぶはずもない行動だったんだ。だって、ナチねぇがトレイユの町にいるのはミント姉ちゃんみたいな理由じゃない。正式に派閥から派遣された召喚師としてこの町にいるミント姉ちゃんと違って、ナチねぇがここにいるのは金の派閥のお偉いさんに匿われた結果としてだ。ここにいるのがバレちゃいけないんだから、目立つような真似はもちろん、優秀な召喚師がいるって情報もなるべく伏せなきゃいけなかった。
本当だったらあの時点で気が付いていなきゃいけないことで、実際、ナチねぇはそれが拙いことだって分かった上で提案していたのに。ミニスに言われて、今頃になってようやく気が付いた、俺の察しが悪かったのだ。
「この宿屋が町外れにあったのは本当、不幸中の幸いね。これで市街地の上空だとか真っ昼間の召喚だったら誤魔化しきれなかったけど……ま、過ぎたことは過ぎたこと。今回はこのくらいで許してあげるわ。感謝なさいよね?」
「うん、……いつも迷惑掛けちゃってごめんね。ありがとう、ミニス」
へにゃりと目尻を下げた緩んだ笑みを見せるナチねぇに、本当にナチはもう、と言葉にならない気持ちを持て余したかのように両手を伸ばしたミニスがその頬を包み込む。むにむにと頬をつまむように揉まれて楽しげに笑っている声を聞きながら、勝手に情けない思いに沈み掛けていた俺はどうにか気持ちを立て直した。ミニスの言うとおり、過ぎたことは過ぎたことだ。いくら悔やんでもやっちまったことはどうにもならないんだから、出来るのはただ、二度と同じ失敗なんてしないように気をつけることだけだ。そう、無理矢理にでも気持ちも姿勢も前を向こうとしたところだった。
「ところで、湖の方が凍ってるみたいだけど?もしかして、何か厄介事に巻き込まれてるんじゃないでしょうね……?」
うぐっ、鋭い!?ナチねぇの頬を包み込んだ手はそのまま、ふと思い出したように投げ掛けてきたミニスに俺は思わず固まった。確かにルトマ湖の氷はまだ完全には溶け切っていない状態で、日の当たりにくい一部の湖岸は未だに分厚い氷雪に覆われている。それでも魚を取る分には支障もなくなったしと、滅多にない珍しい光景を見にピクニック気分で足を運んでいるひとたちもいるらしいけど……そんな話を一体どこで聞きつけたのか。風の噂で聞いたのか、むしろ情報収集をしてきたのか……単にテイラーさんとの世間話で知ったのかもしれないけれど、よくよく考えてみればワイヴァーンで墓地まで移動したことを知っているミニスだ。どこに情報源があってもおかしくない。
勘繰るような目で一瞥されてどっと冷や汗をかいた俺だったけれど、その視線を真正面から突き付けられることになったナチねぇに逃げ場はなかった。降り注ぐ視線の圧力に押し負けてついに口元を引き攣らせたナチねぇに、ふぅん、と何かを察したようなミニスの意味深な笑みが返る。
「あ、あはは……やだなぁ?ミニスにまさか隠し事なんて」
「してたじゃない。前にも。……でもま、そうね。私が本気で尋ねたなら、ナチは絶対教えてくれるものね?」
「あ、う、うぅ……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!?ワイヴァーンの件もだけど、全部俺のせいなんだって!?ナチねぇはただ俺のために」
しどろもどろに言葉を濁すナチねぇを見ていられなくなって割り入るように飛び込んでしまったけれど、ミニスの態度は変わらなかった。
「だとしても、ワイヴァーンを召喚するって決めたのはナチなのよね?ならその責任があるのはアナタじゃなくって、ナチよ」
堂々と腰に手を当てて俺を見据えるミニスの声は淡々と、冷え冷えとした金色の瞳は少しも揺らがない。威圧感すら漂うその視線にたじろぎそうになるも、ここで引き下がるのも違う気がして足裏にぐっと力を入れて踏み止まる。ミニスの言い分は間違っていない。どんなに選択肢が並んでいても、誰にどんな助言を受けたとしても、どんな行動に出るかを選んで決めるのはそのひと自身だ。それを否定する気なんてない。だけど……
「そうですよ、ライ君。実際に召喚したのは私なんですし」
「ナチねぇまでどっちの味方だよ!?」
後ろから聞こえてきた声に衝動的に頭を抱えたくなるけれど、大声を出したことで何かが吹っ切れた。勢いのまま顔を上げた俺は、挑み掛かるようにミニスを見据えて声を張っていた。
「だけど、それでもナチねぇだけのせいじゃない。そうするように選ばせちまったのは俺のせいなんだ。だからこれ以上、ナチねぇばっか責めないでくれ。……そうじゃなきゃ、さすがに気が済まねえよ」
自然と俯きそうになる顔を堪えて真っ直ぐに顔を上げたまま、情けない本心まで吐き出しきった俺は黙り込む。それから数秒か、十数秒か、それとも何分か経ったのか。ミニスもナチねぇも何も言葉を発さない、居心地の悪い沈黙が終わりを迎えたのは唐突だった。
「……ふーん、何か理由があるみたいね。それって廊下で息を潜めている方にも関係あるのかしら?」
「えっ」
「あっはっはっ!……いやはや、気付かれておったか。何やら大きな声が聞こえてきたものでな?」
呆れたような顔をして腕組みをしたミニスが視線で指し示した先、廊下の影から現れたのはセイロンだった。部屋で待っていてくれるよう頼んだのにどうして、と間抜けな声を上げてしまう俺とは対照的に、明らかに人間じゃない見た目のセイロンが出てきてもミニスはちっとも動じていない。苦笑交じりに肩を竦めるセイロンをしげしげと見上げているけれど、主人はいるのかとか誓約はどうしたとか、そういった話を向ける気配さえもない。不思議そうではあるけれど、ミニスがするならいつもどおりの、派閥の召喚師がする反応としては常識外れに寛容すぎるものだ。だけど、それで腹を括ったところはある。
「……分かった、説明するよ。お察しのとおり、こいつ……セイロンも俺たちの事情に深く関わってるからさ、同席して貰っていいよな?ちょっと色々あってウチには今、召喚獣の居候が大勢いるんだけどさ、召喚師だからって闇雲に突っかかるような奴らじゃないし。ナチねぇとも普通に接してるしさ」
ミニスが知りたいのは俺たちが置かれた状況というより、それがナチねぇの事情にどんな影響を及ぼしかねないかだ。ナチねぇをこの町に匿うことに決めた派閥のお偉いさんが誰かは知らないけれど、まず間違いなくミニスはそれに一枚噛んでいる。滅多に顔を合わさないと言っても数年もの付き合いだ。ミニスがどれだけナチねぇの身辺に目を光らせていたか、情報が漏れないよう気を張っていたかは、俺が一番知っている。その上でこれを頼むのには抵抗があるけれど……背に腹は代えられない。刃傷沙汰になったアロエリの件は意図的に伏せて、俺は口を開いた。
「ただ、どう説明したところで今、大変な状況になってるのは確かだ。その上で頼みがある。少しの間だけでいい、これから聞く話はミニスの胸だけに留めてくれないか?」
ずっとなんて言わない。この騒動が落ち着くまでの間だけだ。素性の知れない奴らが多く出入りする場所にナチねぇを置いておきたくないだろう気持ちは分かるけど、派閥にまで情報が伝わってしまうのは避けたかった。コーラルの身の安全や御使いたちの事情を思えば、今はどうしてもミニスに黙っていてもらう他にない。
「話をする前からこんなこと頼むのはズルいと思うけどさ。でも、頼む……」
「ライ君……」
ミニスにまで隠し事の片棒を担がせるのは本意じゃない。派閥に属する召喚師相手に無茶を言っている自覚はある。それでも、と一層深く頭を下げる俺だったけど、返ってきたのはあまりに軽い声だった。
「なんだ、気にしてたのはそんなことだったの?変に構えて損しちゃった。別にいいわよ、そのくらい」
耳を疑うほどあっさりした了承に慌てて顔を上げた先、平然と腕組みしたままのミニスを見つけて瞠目する。その反応はセイロンにしても意外でしかなかったのか、そなた、とまじまじとミニスを見つめて驚いたような声をこぼしている。
「召喚獣が大勢いるって話なら、むしろ安心したわ。下手な人間なんかよりはこの方みたいに、しっかり理性と自制心の効いたヒトがいた方がいいもの。詳しい話を聞かなくちゃ何とも言えないけど、どうやら持ち帰ったところで面倒なことになる話みたいだし」
「あ、有り難いけど、いいのかよ?金の派閥も一枚岩じゃないんだろうし、それでお偉いさんからミニスが睨まれるってことは……」
「あら、言ってなかったかしら?」
肝が据わってる、なんて話で片付けていいんだろうか。胆力があるとセイロンなら評しそうなその落ち着きぶりと判断の早さに半ば圧倒されながら口を挟んだ俺だったけど、続いた言葉にまたもや度肝を抜かれることになる。
「私はミニス。ミニス・マーン。金の派閥の現議長、ファミィ・マーンの一人娘にして今のナチの後見人を務めているものよ」
つまりあなたの心配は杞憂ってコト、と背中に流していた髪を片手で軽くなびかせながら威厳たっぷりの笑みを見せたミニスを前に、俺は大きく開いていく口をそのまま、素っ頓狂な声を上げていた。
しっかし、なんというか、やっぱとんでもなかったんだな、ミニスのやつ……
金の派閥有数の実力者、ナチねぇの仕事の専属担当者なんて大層な肩書きを背負っている時点で只者じゃないとは思っていたが、ようやく合点がいった。あの妙な貫禄も威厳を感じさせる振る舞いも今となっちゃ不思議でもなんでもない。それだけの知識と経験、責任と立場に裏付けされた自信だったんだと舌を巻いてしまったけれど、驚くのはそれだけじゃ済まなかった。
「まったく、本当に面倒な事態になっているみたいね。大体の話は分かったけれど、ひとつ見過ごせないものがあるわ。人工的にサモナイト石を作れちゃうって機械のことよ。派閥への報告は伏せる方向でいいとして、その場には蒼の派閥のミントさんもいたのよね?真理の探究が目的の蒼の派閥としては頷けないかもしれないけど……あのひとなら大丈夫かしら。ともあれ、少しは話を詰めておかなくっちゃ」
ひとまず異常気象の線で、だの、口裏を合わせるなら、だのぶつぶつ早口に呟きながら段取りを立てていくミニスの姿は頼もしいの一言に尽きる。事情を説明しきった俺たちが口を挟める余地はない。ナチねぇの隣に腰を下ろして熱心に思考を巡らせているミニスを前に息をひとつ、隣で同じように所在なく立ち尽くしていたセイロンと俺は、何とも言えない苦笑いを浮かべた顔を見合わせた。
「あのね、誰のせいとかはいいから。知りたいのは今現在あなたたちの置かれている状況と、どうしてそうなったのかっていう経緯だけよ!」
事情を説明し始めてすぐ、俺とセイロンはさっきのナチねぇみたいに身を縮こまらせる羽目になった。これまでの経緯をなるだけ正確に詳らかにしようとすれば、どうしたって竜の子を巡る騒動とその発端に触れずにはいられない。店主たちは我らの事情に巻き込んでしまっただけで、とこんな局面で損な役回りを引き受けようとするセイロンに、いやコーラルを守るって決めたのは俺たち自身の意志で、と咄嗟に主張を返す俺だったけど、すったもんだの押し問答に終止符が打たれるのは早かった。
「ねえ、庇い合うのは後にして?こうしている間にも時間は刻々と過ぎてるんだって、分かってるのよね?」
にっこりとミニスが微笑んだ、次の瞬間には凜とした声でぴしゃりと叱り飛ばされていたわけだ。そりゃ、明日までっていう制限時間付きで滞在しているミニスにしてみれば言葉どおりに時は金なりだったんだろうけどさ。この年になってあんな雷が落ちるような苛烈さで叱られるとは思わなかったぜ……利益の追求を主とする金の派閥だけあって、その場に応じた優先順位と取捨選択があまりに徹底している。普通だったら事情説明の後には責任の追及が付きもんだし、セイロンが少しでも矛先を自分に向けようと気を回してくれた気持ちも分からなくはないけれど、ミニス相手には失敗だったみたいだな?
「マジでタケシーの雷が落ちたかと思ったぜ……セイロンもびっくりしたろ?」
「ああ、参った。店主ばかりを矢面に立たせてはいられぬと思ったが、はは、これでは形無しだな……」
こそこそと声をひそめて言葉を交わしたセイロンは困ったように眉尻を下げていたけれど、どこかその声が嬉しそうに聞こえたのは気のせいだろうか?ともかく、地味に頭を悩ませていたじいさんの置き土産の件がこれで解決しそうなのは素直に有り難い。ミント姉ちゃんともちらっと話したけれど、人工的な方法でサモナイト石を精製することが出来るなんてこれまで聞いたこともないらしいし、その存在が明るみに出れば世間の注目を集めてしまうこと間違いなしの発明だったみたいだからな。冷却装置とセットじゃなきゃ真価を発揮しない機械だけに、その装置をグランバルドがぶっ壊しちまったのはある意味、結果オーライだったみたいだ。
「高度で精密な機械であるほど扱いは繊細になるわ。定期的な保守管理だって必要になる。それだけ機械に精通してるひとなんて開発者のおじいさんか……私の知り合いくらいのものでしょうけど、今回はおかげで助かったわ」
嘆息しながら呟くミニスだったけれど、ファナンの方での件が片付き次第、信頼できる人間を派遣してあの機械設備を回収してくれるつもりらしい。トレイユの町の代表を務めるのが金の派閥のブロンクス家だったのも都合がよかったようだけど、その時にはやっぱ、テイラーさんにも話を通すことになるんだろうな。となると必然、俺も説明に立ち会うことになりそうで……今から胃が痛くなる錯覚を覚えてしまうけど、まだ先の話になると思うわよ、とミニスは神妙な顔をして言った。
「今はまだ、この町に無用な混乱を引き起こしたくはないもの」
私としてもね、と付け加えたその横顔に何となく、イオスのことを思い出してしまった俺を見抜いてだろうか。にこりと小さく微笑むなり、さぁて一気に片付けるわよ、と声を上げたミニスの号令に従うまま、その後は夕飯になるまで息をつく暇もない大忙しの行程になった。ミニスと一緒に宿屋に戻ってきた時にはまだおやつ時にもなっていなかったのに、ミント姉ちゃんと話をしに出かけるミニスを送り届けて、その間に吟遊詩人の活動や偵察から戻ってきていたシンゲンやアロエリに軽く事情を説明して、一気に増えた人数分の仕込みを大特急でこなしているうちに今度はミント姉ちゃんを連れたミニスが戻ってきて、一緒に厨房で並んでいたナチねぇを連れてオマケの方の現地調査だとかに出かけて行って。リビエルやアロエリへの説明はセイロンが請け負ってくれたし、ミント姉ちゃんとシンゲンもコーラルと一緒にお茶を飲んでくれていたから助かったけれど、全員が揃って食堂に顔を出す頃にはすっかり夕日が落ちていたのだった。
「いやぁ、こんな盛大な歓迎会を開いて下さるなんて!まさに恐悦至極、自分は幸せものですなぁ!」
「いや、シンゲンだけじゃなくミニスの歓迎会も兼ねてるからな?」
小躍りしそうなほどの上機嫌でどんぶりご飯をかき込みながらシンゲンがのたまってくれたけれど、その弾んだ声色どおりの賑やかな夕飯になったことは確かだ。ナチねぇも厨房に立ってくれたことで全体的にシルターン風の仕上がりになった夕飯は、ショウユにミソ、昆布やキノコから取った出汁をふんだんに使った代物ばかりで、長らく故郷の味に飢えていたシンゲンからしてみれば感涙物だったらしい。おまけにセイロン提案の白玉団子にショウユと砂糖を甘辛く煮詰めたタレを掛けた、みたらし団子なんていうシルターンじゃよく知られたデザートまで用意されていたらそりゃあ喜ぶのも無理はないだろう。
「こちらは豚肉と大根の煮物です。セイロンさんが干していたダリマの実の皮も使わせてもらったので、風味が面白いと思いますよ」
「はっはっはっ!心して味わうがいいとも!」
「む……やるわね。ライ、あなたまた腕を上げたんじゃない?」
ナチねぇが箸先に摘まんだダイコンの煮物を狙ってむずむずと身動ぎしていたプニムを無言で抑え込みに掛かるシズクという攻防には目もくれず、真剣な顔をして俺やナチねぇの料理を味わってくれているミニスには正直言って感謝の気持ちしかない。夕飯までの時間でどうにかイオスたちがここに立ち寄った件までは説明できたけど、本当だったらもっと根掘り葉掘り聞きたかっただろうにさ。セイロンやリビエルたち御使い組だけじゃなく、詳しい事情を知らないシンゲンや打ち合わせついでに同席してくれたミント姉ちゃんもいるからの配慮なんだろうけど、むず痒さとこそばゆさの入り交じった気持ちで鼻の下をかいていた俺はそこで不意に思い出した。ミニスに提出していたオマケって、結局どんな内容だったんだろう?
ナチねぇが本来の報告物とは別にオマケを付けることは前からある。ナチねぇに振られる仕事のメインはサプレスに由来する文献の解読らしいけど、解読途中に気が付いた応用編とでも言うべきか、文献に記されていた技術や技法を活かした新しい発想や思いつきをざっくりまとめたものを私見や推論って名目で出しているのだ。今回なんてわざわざ限られた時間を使って現地調査に行ってるくらいだし、相当の出来のオマケだったようだけど……それは一体どんなものなのか?
「そういえば、ミニスに出してたオマケってなんなんだ?」
シンゲンと話していた用心棒の内容も一段落したようだしと、ミニスの注意がセイロンの語り始めた料理の蘊蓄に向いたところで俺はこっそりナチねぇに話し掛けた。昼間は途中で席を外してしまったから聞けなかったけど、シンゲンに付いてきてもらうのはあくまで農場入り口までの予定らしい。召喚獣の失踪事件もあるし、アルマンさんと話している間だけでもガゼルの様子を見ていてくれれば。そんなふうにシンゲンに声を掛けているナチねぇに相変わらずだなとくすぐったいような気持ちになったり、白いご飯に夢中になっているようで要所要所で的確な相槌を打っているシンゲンに感心してしまったばかりだけど、それとなく意識を切り替えて尋ねれば、そうだね、と迷うように首を傾げてからナチねぇは呟いた。
「どこから説明しようかな……指標生物っていうのがあってね?普通の植物じゃ育たないようなマナの薄い場所にばかり育つ植物があるの。トレイユの町外れにある忘月の泉にはそうした植物ばかり生息しているみたいで、初めて見かけた時から気になっていて……恒常的なマナ不足に陥ってるのは何故なのか?もし原因があるならどうすれば解決できるのか?前々から考えていたんだけど、どうもそれが妖精樹に近い性質を持つ木の影響のせいだって分かったから、その打開策らしいものをまとめてみた感じかな」
「ふーん……?」
やっぱり、あの泉の傍に元々生えていた木が特別だったのか。リビエルたちから聞いた妖精樹ってのはマナを宿すことで外界から隔絶された特別な空間を生む力を秘めているってことだったけど、そんな不思議な雰囲気の欠片もないのは肝心要の木が切り倒されちまったからなんだろうか?あの泉がただの濁った水溜まりと化しているのも、十分なマナが供給されなくなったからってことなんだろうか?辺り一帯の木々も立ち枯れているし、草花だって元気がないし、生気もなければ活気もないって感じだもんな。それをどうにかするってことは……あの切り株に近い状態になっている木をどうにか復活させるってことか?
それはいくら何でも、と微妙な顔をしてしまった俺に気付いてだろう。そもそもあそこにあった木が本当に妖精樹かどうかも分からないんだけどね、と付け加えながらナチねぇは膝の上で伸びたシズクを優しく撫でた。
「偶然召喚された苗木にリィンバウムの樹木が交雑して、ってことは考えられるし、少なくとも近しいものであることは確かじゃないかってテイラーさんも推測していたみたい。となると、あの場に異変をもたらしているのは十中八九、弱り切ってしまった妖精樹。一度成長さえしてしまえば自ら活発にマナを生み出してくれるけど、それまでは周囲のマナを大量に吸収してしまう植物。ひとまずそう仮定して動いてみることにしたの。あの場のマナが枯渇しているのは妖精樹が根こそぎ吸い上げているからだけど、それはきっとあの場所を少しでも安定させるためのものだろうから……別のところから足りないマナを補填する、定期的な魔力供給の機会さえあれば木も劇的に生長して、場が安定し始めるんじゃないかなって」
検証してたんだ、と微笑んでみせるナチねぇだけど、その場の植物を枯らすほどのマナとなると相当な量になるはずだ。一体どこからそれだけの魔力を持ってくるつもりなんだろうと期待半分不安半分、忘月の泉がいつかの記憶どおりの姿を取り戻してくれる可能性に自然と胸がそわついてしまう。もしナチねぇの算段どおり、あの場所が昔みたいになったなら……そんな考えに頭を持っていかれたせいですぐ隣に座っていたコーラルの不安げな眼差しにも気付かなかった俺を引き戻したのは、咳払いをひとつ挟んだミニスの呼び掛けだった。
「それよりも!日常的に戦いに巻き込まれてるって聞いたけど、召喚術は活用できてるの?さっきライから聞いたけど、この間イオスも立ち寄ったそうじゃない。そもそもアイツ、ちゃんとサモナイト石を持っていたの?」
「ふふ、そんな心配しなくって大丈夫ですよ。イオス君なら相性のいいナックルキティをお気に入りにしてるみたいで、名前だって付けてましたし」
「あら、意外……って言いたいところだけど、どうせ魔力の消費を抑えるためでしょ。ナチもそんな嬉しそうな顔しなくっていいから!」
「なぁ……話の途中に悪いけどさ、召喚獣に名前を付けるってなんだ?ミント姉ちゃんのオヤカタみたいなもんか?」
和気藹々と話しているところに気が引けるけど、そろりと片手を小さく上げて尋ねた俺にミニスとナチねぇはちょっと目を丸くしてから納得いったようにああ、と頷いた。お気に入りとか名前を付けるとか、召喚師からしたら常識なのかもしれないけれど俺からすれば初耳の言葉がいくつも出たように感じたからだけど、その直感は当たっていたらしい。召喚術の話ですか、とミント姉ちゃんもフォーク片手に首を傾げれば、そうね、と視線の先を虚空に投げたミニスが探るように言葉を並べていく。
「お気に入りとか名前を付けるっていうのは、その子の力をより引き出しやすくするための技法。あるいは擬似的な名付け、かしら?」
「名付け??」
「えーっと、まず召喚獣には真の名っていうのがあってね……?」
ますます首を捻ってしまった俺だけど、ナチねぇが言うには召喚獣にはその魂に刻まれた真の名というものがあるらしい。召喚師たちが召喚した相手に言うことを聞かせられているのも真の名を読み取って行動を縛っているからで、逆に言ったらこれを知っていないと呼び出した相手に何をされても、それこそ殺されたっておかしくないらしい。それだから召喚師は何世代にも渡って突き止めた真の名を家系毎に秘伝していて、それが強力な力を持つ召喚獣であるほど大きな力を持つようになっていったんだとか。家毎の力関係を決めるのもどれだけ強い召喚獣の真の名を知っているか次第だから、当主が亡くなった際ののどさくさでその名が受け継がれなかったりするとあっさり衰退してしまったり没落してしまった家もあるそうだ。何だかよく分からない世界の話だけど、その真の名でなくても召喚獣との心の結びつきを前提にして再度命名し直すことを擬似的な名付けと呼んでいるらしい。だから召喚獣側が不満に思うような名前だと真価を発揮できないの、と付け足すナチねぇだったけど、真の名ってやつでもないのに不満に思うとかあるんだろうか?そんな疑問は、けれどあっさりと氷解した。
「うーん、例えば……今日から君の名前はイオスにするね、って言われてライ君、しっくり来るかな?」
「あ、無理だわ」
イオスが嫌ってわけじゃないけど、その名前で呼ばれたって俺のことだとは思えそうにないし、正直言って違和感しかない。となると真の名が本当の名前で、擬似的な名付けが愛称みたいなものになるんだろうか?だとするとオヤカタは……一応、愛称ってことになるんだろうか?うんうん考え込んでしまう俺に、鋭いじゃない、と楽しそうに目を細めてミニスが頷いてくれたのには一瞬浮かれそうになったけど、続いた言葉にまたもや疑問符が浮かんでしまう。
「確かにそれは愛称よ。ただ、その子自身が望んでオヤカタで在ろうとしている今、実態としては真の名と化している気もするけどね」
「種族名や個体名とはまた違うものなんですよ。もちろん個体名に意味がないわけじゃない、むしろとても大切なものだけどね?その子の存在、その個の在り方を世界に対して証明する核となるもの……自他の区別、存在の確立に関わってくる魂に刻まれたその根源……それを真の名って呼んでるんだよ」
あぁ、と納得したように相槌を打っているミント姉ちゃんだけど、駄目だ……俺にはさっぱりだ。折角説明してくれたのになんだけど、俺には理解の範疇を超えていた話だったみたいで、そろそろ頭の方が限界だ。召喚術の根底に関わってくる大事な話らしいけどそこまで一般常識として知られていることでもないのか、聞き耳を立てていたらしいリビエルと視線がぶつかり、後は任せたとばかり目顔で席の交換を申し出る。仕方ないですわね、なんて言いながらいそいそとやって来てくれたリビエルを新たに迎えたナチねぇやミニス、ミント姉ちゃんは今の話ですっかり探究心にスイッチが入ってしまったのか。それぞれの属性の専門家らしく忌憚のない意見を交わし始めたその表情はどれもとても楽しそうで、見るからに話に花が咲いている様子を横目に見ながら俺は少し冷めたキノコの味噌汁を流し込んだ。しかし、イオスのやつは召喚師でもないのにそうした技法を知っていた上、使っていたってわけだよな……?やっぱあいつってすごいんだな、としみじみ感じ入ってしまったところで思い出したのは、ミニスをミント姉ちゃんの家まで送り届けた帰りのことだ。
「おいらは聖王国で暮らしてたからさ、帝国じゃ召喚術が自由に勉強出来るって聞かされた時は嘘だろって思ったよ」
「確かにそうだけど、でも誰もが学べるわけじゃないよ。強力な召喚獣を使役するには資格とか取らなきゃダメだし、サモナイト石は国が管理しててすごく高価なものだから、独学で学ぶなんて実際は無理なんだよ」
駐在所の前を通りかかった時のことだった。帝国と聖王国での召喚術の扱いについて話していたルシアンとアルバが、結局のところはどちらも一般人が触れるには難しい技術に力だって落ち着いたところで兄貴がひとつ助言をしたのだ。一般人が召喚術を学ぶのに最適な方法があるとしたら軍学校だろう、と。少なくとも帝国軍人になれば召喚術は使えて当然、本職の召喚師に比べれば威力も練度も劣るだろうけどその知識があるとないとじゃ勝敗も大きく変わってくる。無色の派閥を相手取ることも多い帝国軍人には必須の教養なのが召喚術なんだ、とコーヒー片手に意気揚々と語っていた兄貴だったけれど、それもアルバが少し明るい表情で頷き返すまでだった。
「うん、イオス副隊長に聞いたことがあるよ。あのひとは元々、帝国の親衛隊とかの一員だったから」
「親衛隊だって!?」
ぶっ、とコーヒーを噴き出す勢いで驚いた兄貴に俺もルシアンもびっくりして目を見張ってしまったけれど、イオスが所属していた親衛隊っていうのはそれだけとんでもないものだったらしい。帝国のトップもトップ、真聖皇帝の身辺警護を任せられている上級軍人の一種だそうで、皇室の作法だとかにも幅広く通じていなければならないのもあってその候補生は幼いうちから宮廷に仕えて訓練を受けているんだとか。存在すら疑問視されているような別世界の人、雲の上の人だったイオスの過去に驚いたり呆気に取られてしまったけれど、それがどうして旧王国デグレアの騎士なんかになっていたのか。ナチねぇやミニスと知り合って、その仲間に収まることになったのか。
「なるほどなあ。道理であいつ、やたら真面目で礼儀正しかったわけだぜ」
真剣な顔つきで眉間にシワを寄せながら説明する兄貴と、仰天したように裏返った声を上げているルシアンを見ながら、呆れたような口調でそんなことを呟いた俺だったけど、頭の中ではいくつもの疑問が広がっていくのを止められなかった。何かひとつ新しいことを知るたびに、またひとつ新しい疑問が湧いてくる。仕方ないことだって何度言い聞かせるように繰り返しても、もやもやした気持ちが胸にわだかまっていくのはなんでだろう。思い切ってミニスに全部聞いてみたなら、この気持ちも少しはスッキリするんだろうか?
そんなズルい考えが脳裏をよぎるのを片手でぱっぱと追い払いながら、それでも完全には消し飛ばせない自分自身の弱さに呆れかえるまま、俺はこぼれそうになる溜め息ごとご飯の塊を飲み込んだ。
「ライ?ちょっと話があるんだけど」
夕飯の片付けを終えて、明日の朝食の仕込みも済ませて、今日の分の日誌も付けて。ベッドに潜り込もうとする寸前でふと思い立って足音を忍ばせながら階段を下りた俺は、鈴を鳴らすような声にぎくりと背中を強張らせた。
厨房の火の気はとっくに落ちて、食堂の明かりは消えている。非常灯代わりに廊下や階段の端っこに置いている小さな燭台からこぼれる橙色以外に光源はないけれど、窓から差し込む月明かりや星明かりのおかげで真っ暗ってほどでもない。輪切りにした柑橘系の実とすっきりした香りのハーブを入れた水のボトルと、厨房奥にある氷を取りに来ただけだからそれで充分だったんだけど、階段前まで戻ってきたところで現れた人影に観念するような気持ちで顔を向ける。水気の残る金色の髪をゆったりと流して、ナチねぇに借りた大きめの寝巻きに身を包んで、それでも威風堂々とした立ち姿で俺を見据えるミニスがそこにいる。
「……分かった。ただ、階段を上がったところの談話室まで移動しないか?さっきまでナチねぇと話し込んでたんだろ。風呂の時間も遅かったみたいだし、喉が渇いてるんじゃないか?」
「気が利くじゃない。そうね、有り難く頂くわ」
ちなみにナチはもう休んでるから気にしなくって大丈夫よ、と頭の中を読んだようなタイミングで告げるミニスに思わず目を向けてしまうものの、しれっとした顔で階段を上っていく動きは淀みない。御使いたちやシンゲンの部屋を一階にしてよかった、と過去の判断を噛み締めながら一段一段、階段を踏みしめていく俺の前で艶やかな金色が揺れていた。
「左の二の腕」
「うぐっ」
談話室と言っても階段を上がってすぐの空きスペースに半端な椅子や小さな丸テーブルを置いているだけだ。ハーブ水のボトルを下ろすと同時、開口一番にミニスが告げた一言に堪らず呻きを漏らしつつも、どうにか椅子に腰を下ろした。バレるかも、とは思っていたけれど、やっぱりか……ミニスの目敏さにはこれまでも度々驚かされていたし、風呂に一緒に入ってた時点で半ば覚悟はしていたけれど、単刀直入に切り込まれて暗がりでも分かるくらい動揺が顔に出てしまったんだろう。椅子の上で足を組み直しながら、そりゃあ分かるわよ、とミニスは嘆息交じりにぼやく。
「殆ど治りかけだったけど、メイトルパの術で応急手当をしたんでしょ?召喚術や治癒の奇跡での治療は傷跡も残さないけど、かすかに魔力の残滓を残すもの。それでも……相当深い傷だったみたいね?」
ちらりと横目で見てくるミニスに、ナチねぇの腕に短剣の刀身が半分近く刺さっていた光景を思い出す。あれから一週間と少し経つってのに、さすがはメイトルパの召喚術のエキスパートってことか……ハーブ水をコップに注いでいた手を止めて窺うような視線を送れば、ふんと鼻を鳴らしたミニスは命令でも下すように言ってのける。
「私の目を誤魔化そうなんて百年早いわよっ。何があったのか、洗いざらい話しなさい?」
「……へいへい、分かりましたよ」
だけど、それは俺からしても願ってもない提案だ。セイロンと一緒に説明した、コーラルを巡る騒動のことだけじゃない。イオスやルヴァイドから聞いた五年前の話、ナチねぇが語ってくれた四年前の話、人前ではおいそれと口に出来ないような話も含めてミニスには打ち明けておきたかったし、きっと、ミニスは知っているはずだ。旧王国の騎士だった二人とナチねぇがどんな形で仲間になったのか、当時のナチねぇがどんな立場だったのか……真実に踏み込むことへの躊躇いと緊張に渇きを訴え始めた喉には一口のハーブ水を流し込んで、腹を決めた俺は顔を上げた。
「ふぅん。そういうことになったんだ」
案の定と言うべきか、ひとしきり語り終えた俺へのミニスの反応は落ち着いたものだった。
「そうね、どちらかと言えばイオスやルヴァイド側の立場だったのは事実よ」
「ってことは……イオスたち同様、知らないうちに悪魔の手下になってたんだな?」
顔色ひとつ変えずに頷かれてしまったらそれ以上もう何も言えない。前のめりに顔を覆って呟いた俺にミニスは何も言わなかったけれど、グラッド兄ちゃんから聞いた戦争の話や前にナチねぇがこぼした悪魔の話を組み合わせれば納得するしかなかった。
五年前の傀儡戦争を引き起こしたのは旧王国を隠れ蓑にした悪魔の連中だったらしいけど、その前から旧王国は帝国や聖王国に対して敵対的な行為を取っていたらしい。俺が生まれるよりずっと前から何度も武力侵攻を仕掛けてきていたそうで、戦争の際に国境を越えて侵入しようとしてきた悪魔の軍勢も、初めは旧王国の手引きによるものだと思われてたんだとか。兄貴自身そう思ってたらしいけど、本当はその頃にはもう生きてる人間なんか殆どいなくて、イオスやルヴァイド、それにレンドラーのおっさんみたいな一部の人間しか生き延びられなかったんだとか……それでも旧王国が過去に侵攻してきたのは確かな事実だったから、レンドラーのおっさんがルヴァイドたちを旧王国の騎士って呼んだ時にああも兄貴の顔色が変わったってことらしい。そして、だからこそイオスのやつはナチねぇがデグレア側だった事実を伏せたんだろう。自分たちのように、兄貴やルシアンたちから糾弾や非難の声を受けずに済むように。
「私は魔力を二種類持ってるの。一つは自前の魔力でメイトルパとサプレスの力を行使できるもの。それで、もう一つがリビエルちゃんの感じ取った、大悪魔に仕えていた近衛悪魔の魔力」
リビエルを居候に迎えた晩、ナチねぇが泣きそうな笑みと震える唇で語ってくれたことを思い出す。
「私にとって恩人みたいな子だったの。私はその子が大好きで、その子も私を好きだと言ってくれた。幸せだったな、その子の傍にいられて」
けど、そいつは悪魔で、そいつらのせいでナチねぇやイオスは悪者になっちまった。悪魔に騙されてしなくてもいいことをしちまって、そのせいで今もイオスやルヴァイドは苦労しているし、ナチねぇも複雑な立場に置かれてるんだろう。
「イオスたちが自由騎士になるのも厳しい条件や制限が課せられたけど、ナチはそれに輪を掛けて面倒な事情持ちよ。でも、私の大事な友達っていうのも本当。それだけの話よ」
「それだけって……そんな単純な話じゃないだろ?」
なのにこの期に及んでもミニスはあっさりしたもので、ナチねぇの友達だって当たり前に言い切る声に思わず疑問を返してしまう。何があっても友達でいる、ってのは口で言うほど簡単なものじゃない。金の派閥の召喚師であるミニスなら尚更、周囲からあれこれ言われただろうに少しも悩まなかったんだろうか?そんな疑問の眼差しを感じ取ったのか、単純な話よ、とばっさり切るようにミニスは言った。
「ナチと友達でいることで起きる、良いこと悪いこと、嬉しいことイヤなこと、全部ひっくるめた上でどうしたいかって話なだけ。変に難しく考えようとするからこんがるのよ。もっと単純に、事実だけを天秤に乗せていってその傾きを見ればいいの」
「それは……」
損得勘定、ってことだろうか。ナチねぇが優秀な召喚師だとかサプレスの希少な文献を解読できる人材っていうのが良いことで、デグレア側の人間だったから一緒にいるだけで遠巻きにされたり後ろ指さされたりするかもしれないってのが悪いことで、そうしたものを見比べて友達で居続けるかどうかを決めるってことなら……あまり好きな考えじゃない。だけど、ミニスが言っているのはそういった意味じゃない気がする。自分で聞いておいてなんだけど、ミニスのやつなら多少の面倒事なんて鼻も引っかけずに流してしまいそうだ。それならミニスが気にするような悪いこと、イヤなことってのは何なんだろう?
「そうね……例えば、罪悪感かしら?」
疑問符を浮かべた俺を見て取ったのか、ミニスは僅かに小首を傾げて呟いた。だけど俺はいよいよ首を傾げてしまう。罪悪感って……逆ならまだしも、どうしてミニスがナチねぇ相手にそんなものを感じる必要があるんだ?
「だって、私はナチから大事な友達を奪ったもの」
「それって……ナチねぇが好きだったっていう悪魔の話か?でもそれは、ナチねぇがそいつに騙されてたんだろ?」
知ってたの、と呟くだけで俺の質問には答えず、ミニスはその場に深く目を伏せた。
「あの子を倒したこと、後悔なんてしてないわ。私は私がしたいと思うことを、正しいと思う方法でやり遂げた……あの時の私が出来る精一杯のことをしたって今でも信じてる。だけど、それでナチをひどく傷つけて、泣かせてしまったのは本当だから……一緒にいるとたまに、すごく苦しくなるの。ナチに名前を呼ばれるたび、笑顔を向けられるたびに、嬉しいのに辛くてたまらないような気持ちになる。間違ったことをしたなんて思ってもいないのに、ごめんなさいってひたすらに謝って、許して欲しくて仕方がないような気持ちになる……」
ナチは本当にあの子のことが好きだったから、とコップに揺れる水面を見つめて噛み締めるように呟く声は遠い。
「ナチからすれば一生掛かっても許されないことをした、その自覚はあるわ。ナチは絶対そんなこと言わないし、謝ればきっと許してくれるでしょうけど。そうしたら私のこの胸もずっと軽くなるんでしょうけど……だからこそ、何があっても謝らないって決めてるの。どんな理由があってもナチからその子を奪ったのは事実なのに、それをナチに許させるようなひどい真似……他の誰が許しても私自身が許せない。どんなに苦しくても辛くても、この気持ちを手放してしまったら私はナチの友達でいられなくなる。胸を張ってその隣に立つ資格を失ってしまう気がするから。……ねぇ、ライ?」
誰に聞かせるためじゃない、自分自身に強く言い聞かせているような熱のこもった口振りに圧倒されつつあった俺は、不意に名前を呼ばれたことで弾かれるように背筋を伸ばした。コップの水底より深い遠くを見つめていたはずのミニスの目はいつの間にか持ち上がって、柔らかい微笑みを湛えた金色が俺に向いている。
「誰かと付き合うってことは全部が全部、思い通りになることはないわ。さっきの話は極論としても、大好きな相手であればあるほど会えない間は不安になるし、寂しくもなる。誰かを疑ったり悪い気持ちを抱いたり、そんな自分に嫌気が差してしまったり……でもそれだけじゃない。嬉しいことも悲しいことも背中合わせの裏返しでしかないんだもの。だから、それでも付き合っていきたいって思うなら、一緒にいたいって思える相手なら……全部まとめて引き受けなきゃ。いいとこ取りなんか出来ないの」
どれだけ面倒があったって、どれだけ大変なことがあったって、それでも一緒にいたいって思うなら。そういった辛さや苦しさを引き受けてでも、一緒にいようって決めたなら。誰に何を言われても、あとは迷うことなんてない。
「全部ひっくるめた上で、私はナチと友達でいたい。ただ、それだけ」
事実をなぞるように再度の結論を口にしたミニスを前に、たっぷりの間を置いてから俺は緩く片方の口角を持ち上げた。
「…………ミニスは、すごいな?」
それだけとは言うけれど、それを言うのとやるのとじゃ雲泥の差があるってことを今や身を以て知っている。コーラルを守るって決めてひと月も経っていないのにどれだけの衝突と葛藤があったか、わざわざ振り返るまでもなく鮮やかに思い出せるけれど、ミニスはそれを何年にも渡ってやり遂げているのだ。いや、今もずっとやり続けているのだ。ナチねぇと友達でいるって決めたから、そこに付いてくる面倒事を全部まとめて引き受けて、何でもない顔をしてここに座っている。それが出来るだけの自分であるために、それに必要なだけの立場や力を得るために、途方もない労力を払って努力を積み重ねたきたことをおくびにも出さずにナチねぇに会いに来ている。そうまでして大事にしたいナチねぇが、俺なんかと一緒に暮らすことを許してくれている。
「ふふん、当然でしょ」
軽く胸を張って得意げな顔をするミニスだけど、そんなふうに振る舞える自信なんてない俺の目にはひどく眩しく映って目を細める。ナチねぇとずっと一緒にいたい。そのために出来る限りのことをしようとしてきたけど、ミニスみたいな度量の広さは俺にはない。ナチねぇと離れるかもしれないって考えるだけで胃が捻じ切れるような感覚に襲われるのに、相手のためを考えて実際の行動に移せているミニスのような境地に辿り着くには後どれくらい掛かるんだろう。
「ところでナチねぇ、そんなに疲れてたのか?そのうち起きてくるかと思ってたけど……」
体温で温くなり始めていたコップの水をちびちび飲みながら聞けば、大丈夫とでも言いたげに片手をひらつかせながらミニスもコップを傾けた。
「私に付き合って長湯したからってだけよ。ここのお風呂はいいわよね。身体の芯まで温まるし、お肌もしっとりする気がするし」
仕事の他にも積もる話は山ほどあったようで部屋であれこれ話し込んでいたナチねぇとミニスだけど、聞こえてきた足音からして風呂に向かったのも相当遅かったみたいだもんな。ウチの風呂は実のところ、ちょっと珍しいことに温泉だ。まだ借家だった頃にクソ親父が興味半分で井戸を増やそうとしたら源泉にぶち当たったそうで、何やらロレイラルの科学技術を使った特殊合金パイプだとかでお湯を引き込んでいる。生活用水としても便利この上ないし、地下の岩盤をくり抜いて作った風呂は結構立派な造りで俺も気に入っているけれど……俺が5つの頃から取り替えていないのに余裕で現役のパイプは多分、テイラーさんに面倒掛けまくって設置したものなんだろうな……。切り傷や火傷の治りもなんか早い気がするし中々いい湯だとは思うけど、少し温度が熱めなのもあってナチねぇの方は部屋に戻ったところで限界だったらしい。ミニスはドアが開く音に気が付いて追い掛けてきたそうで、そうでもないと出来ない話だったでしょ、とのことだが、こうまで行動を読まれていると悔しいを通り越して気恥ずかしさすら込み上げてきちまうな。
「ご馳走様、美味しかったわ。……お風呂も料理もいいんだし、もうちょっと流行ってもよさそうなものなんだけどね、ここも」
「お褒めに預かりありがとな。まあ、精一杯やってはいるけど偶然やってこれただけって気もするし、この先どうなるもんかね……」
いくら虚勢を張ったところで敵わない相手ってのもあって、ぽろりと弱音がこぼれたのは無意識だった。たったひとつしか違わないのに大人らしいミニスの姿にちょっと引け目を感じてしまったのかもしれない。苦笑交じりに呟いた俺だったけど、それを拾ったミニスの反応は思いもしないものだった。
「何を弱気なことを言ってるのよ?これでも私、結構あなたのこと評価してるんだからね?」
「え」
「何よその反応。だってそうでしょ?偶然でもたまたまでもここまでやってこれたって事実だけですごいことよ。何の努力もせずにあぐらをかいたままで辿り着ける結果じゃないことくらい、私にだって分かるわよ」
むっとしたように眉を吊り上げたミニスが言葉を連ねていく。いつかのイオスとよく似た表情で、ここまでの俺の頑張りを当たり前に認めて、だからこその結果なんだろうって叱りつけるように突き付ける声は厳しいけれど温かくて。ぽかんとしてしまう俺の胸元を軽く叩くように押しやりながら、ミニスは当然の事実を告げるように言い切った。
「しゃんとなさい!今、ナチの隣にいるのはあなたでしょ。なのに情けない顔なんかしていたら容赦しないんだから!」
しっかり胸を張って顔を上げて前を見ろとばかり、真っ正面から俺を映して輝く金色の瞳は笑ってなんかいない。むしろ怒りすら滲んでいる。なのにその勢いに圧されてしまったせいだろうか、勝手に緩んでいく頬を止められないまま笑い顔になってしまう俺を見て余計に勢いを増すミニスだけど……まったく、本当になんなんだろうな。ナチねぇの友達っていう奴らはどうしてこうも、優しいひとばかりなんだろう。
ついに笑い声すらこぼれてしまった俺にミニスが言葉を切って、仕方がないわね、と呆れたように呟いた。その響きすらもが今は何だか心地よくって、俺は肩を揺らして笑っている。
「それじゃあ、またねっ!近いうちに遊びに来るから、次はゆっくりお茶でもしましょっ!」
翌日昼過ぎ、ミニスは乗合の幌馬車でトレイユの町を去っていった。門前の広場まで見送りに来ていた俺は街道奥に消えていく馬車の姿に振っていた手を止め、誰にともなく苦笑した。遊びにって言い切ってたけど、ありゃいいのかね?
ナチねぇに代わって見送りに来たけれど、ひとまず用事も済んだし一旦戻るとするか。そう考えて踵を返したものの、さっきまでミニスと話しながら歩いてきたせいか、話し相手もいなくなったのに頭の中をいくつもの独り言が流れていく。予定どおりにナチねぇと農場に出かけて行ったシンゲンだけど、あの感じなら男が駄目っていう事情を伝えるまでもないかな?昨日からの様子を見ている限り女性の扱いは長けてそうだし、居心地のいい距離感を保つのも上手いみたいだし、先走って余計な真似をしなくてもいいだろう。別に俺から言わなくっても必要があればナチねぇから言うだろうしな。宿屋の方は洗い物を残して出てきちまったけど、リビエルやセイロンもいるしそこまで急いで戻らなくっても平気かな。前から暇があれば手伝いを買って出てくれたけど、シーツを干したり客室の掃除だったり、食材の下拵えだったり配膳だったり、二人ともいよいよ欠かせない戦力と化している。率先して動き回ってくれてるコーラルの影響もあるんだろうけど、アロエリも偵察ついでにシリカの森や水車小屋の方で白身魚や甘い実だとかの食材を集めてきてくれてるんだから、つくづく頭が上がらなくなってるな。
そんなふうに今朝からのことを取り留めもなく思い出していたけれど、やっぱりどうしても浮かんでしまうのはミニスと交わしたばかりの会話だった。
「イオスが言わなかったこと、気になる?」
宿屋を出て門前の広場までの道を歩いて行く途中、何気ない調子で投げ掛けられた声に知らず言葉を切った。視線だけを隣に向ければ、からかうでもなく真面目な顔をしたミニスと目が合った。
「昨日話したことが全部じゃないのは、分かってるんでしょ。知らなきゃ動けないこともある……イオスから口止めされてるわけでもないし、本気でナチのことを知りたいっていうんなら私が教えてあげてもいいけど」
もっともらしい理屈まで付けて抜け道を案内されて、一瞬考えた。イオスがぼやかした過去の話、ナチねぇの隠し事、俺の知らない二人のいつか。知りたくないって言ったら嘘になる。少しでもナチねぇの力になるには、頼りにしてもらうためには、ミニスが言うように先に知っておかなくちゃ動けないことだってあるわけだし。でも。
「いや、いい」
やっぱり、それはナシだ。
「気持ちは有り難いし、知りたいのは山々だけどさ。イオスのやつが俺はまだ聞くべきじゃないって判断したことなんだ。それをズルして知るのは違うだろ?……ナチねぇにだって悪いしさ」
そのうちミニスに聞いてみようかとも思っていたけれど、やっぱりナチねぇが自分から話してくれるのを待ちたい。力になりたい、頼りにされたい、守ってやりたい……一番の味方でありたい、なんてのは結局のところ、俺の身勝手な願いでしかないんだ。ナチねぇ自身に頼まれたわけでもないのに、それを理由に隠していることを暴き立てるような真似をするなんてあんまり勝手が過ぎるってもんだし。何より格好悪いにも程があるもんな?
「いつか話してもらえるだけの俺になれるよう、コツコツ信頼を積み重ねていくのが真っ当なやり方ってもんだろ?」
格好付けて強気に笑ってみせれば、ちょっと目を見張ったミニスは初めてこぼれるような笑みを見せた。
「うん、そうね……ライならきっと大丈夫!」
掛けられた温かい励ましの言葉と力強い笑みを胸に握り締めながら、だけどアロエリから聞いたばかりの話も思い出す。朝食後、ルトマ湖の様子を見に行くと言って早速飛び立とうとしていたアロエリに声を掛けた時だ。
「そういえば、いつの間にナチねぇと仲良くなったんだよ?」
前々から気になってはいたのだ。どうしてナチねぇに気を許したのか、ナチねぇにアロエリちゃんと呼ばれるような仲になったのか。共同墓地でのあの一件から一体、何があって二人が打ち解けたのか。水を汲みに裏庭に出たところで見かけた背中にせっかくだしと話を振れば、怪訝そうに振り返ったアロエリはたちまちバツの悪そうな顔をしてそっぽを向きながら言った。
「あのニンゲンはオレたちの同胞を気に掛けているようだったから……よく知らないまま勝手に決めつけて判断するのは良くなかった、そう思っただけだ」
どうやらアロエリのやつ、俺に謝りに来たその日のうちにナチねぇにも詫びを済ませていたらしい。町の郊外を偵察に飛んでいる時にたまたまガゼルを連れて歩いている姿を見かけて、それが町の入り口にある門じゃなく北側の森の方へと向かっていたから慌てて目の前に降り立ったんだとか。獣の軍団の残党が潜んでいるかもしれないのに不用心な、と叱りつけるつもりだったらしいが、町の外周沿いに広がるあの森には忘月の泉があって人の出入りもそこそこあるし、実は宿屋の裏手まで抜けられる林道もあって町中を通らずに戻ってくるには近道なんだよな……だけどその時はまだそんなこと知るはずもないアロエリだ。純粋な善意と親切心からの行動だったってのに護衛獣よろしく気を張っていたガゼルには敵に映ってしまったらしく、着地と同時に強烈な体当たりを食らって吹っ飛ばされたり、驚きながらも必死にガゼルを止めるナチねぇに気遣われたりで、何ともしまらない形での謝罪に繋がってしまったらしい。しかし、ナチねぇが宥めている間もガゼルのやつ、鼻息荒く前脚で地面を引っ掻いていたっていうんだから恐ろしい……
「そりゃあ災難だったな……最近は野盗やらはぐれやら多かったから普段より警戒してたんだろうぜ。だけど人気のない道でいきなり前を塞がれたらガゼルの反応だって無理ないぜ?」
「うっ……さすがにその時だけだ!以降はしていない!」
早く謝っておきたくて気が急いちまったんだろうけど、おかげでアロエリが心配して降りてきたのは伝わったらしいから結果的には良かったのかな?そんなこともあったから、町の外でガゼルを連れたナチねぇを見かけるたびに何となく目で追っていたらしいけど、そのうちに散歩の行き先が町外れの果樹園だったことに気が付いたそうだ。そこで働く亜人たちとナチねぇが何か遣り取りしている様子が見えて、てっきり農場主側に付いていると思っていたナチねぇの言動がどうも召喚獣に肩入れしているようなものに見えたから、ある日思い切ってその理由を尋ねてみたらしい。
「アイツに感謝するように頭を下げている同胞の姿を見た。農場主だとかいうニンゲンには刺々しい目を向けていたヤツだ。ならば、アイツはそれだけ信用されているということだろう?」
「どうしてそこまで肩入れするんだ、と尋ねたら、アイツはこう返してきた」
「ズルしてる自覚があって、なのに何もしないで見て見ぬ振りをしているのは一番、卑怯な気がして。それは嫌だなって思ったから。それだけですよ」
もういいか、と黙り込んだ俺を一瞥して飛び去っていったアロエリの姿が見えなくなって暫く、知らず呟いていた言葉を繰り返す。
「…………ナチねぇは、何を考えてるんだろう」
もしその頭の中を覗くことが出来たら少しは分かるんだろうか。ナチねぇがガゼルの散歩としか言わないそれが、農場主からすればより効率的な召喚獣の有効利用の相談に、本当はそこで働かされている召喚獣たちの待遇や環境改善のために出かけてるんだと知っている。俺に黙っているのは余計な心配を掛けないよう、宿屋のことに専念出来るよう気遣ってくれてるからだって理解している。ミント姉ちゃんの話やミニスの素振り、こっそり覗いた水鏡の向こうから薄々察しは付いてるってだけで、ナチねぇが俺に教えてくれない以上はそれを正面から手伝うことも支えることも出来やしない。
俺に見えない、俺の知らないところでナチねぇがどんなことを考えてるのか、何を思って動いているのか。
ひょっとしたら、ミニスやイオスのやつなら言葉にして聞かされなくたって自然と分かっちまうのかも、なんて益体のないことをついつい考えちまう。俺に出来ることも増えてきたって思ってるけど、やっぱりまだまだ足りない……足りていないんだろうな。
そんな物思いに耽りながら大通りの入り口まで戻ってきたところだ。視界の端を勢いよく過ぎていった人影に何となく目を向けた俺は、それがポムニットさんだったことに足を止めた。一体どうしたんだ、あんなに慌てて……と思う間もなく、ライさん、とこっちに気が付いて急ブレーキを掛けたポムニットさんが踵を返して走り寄ってくる。
「ライさん、いいところで会えました!」
「どうかしたのか?」
「ええ、夕食のお買い物に出た時に小耳に挟んだんですけど、いかつい鎧の集団が町外れをうろついてたらしいんですよ」
ってことは、剣の軍団の連中か?あのおっさん、こりもせずにまた襲ってきたのかよ……。呆れながらも一気に緊張の高まる俺に、ミントさんの方には私が知らせてまいりますので、と口早に言いながらポムニットさんは早く店に戻るようにと急かしてきた。だけど、ミント姉ちゃんの家だってトレイユの町の中では外れの方だ。ポムニットさんひとりで行かせて大丈夫なんだろうか?
「一人っきりで大丈夫か?」
心配して尋ねる俺に、ご心配なく、とポムニットさんはちょっと得意げに胸を反らした。
「こう見えて私、逃げ足は早いですし。それに敵の目的はコーラルちゃんなんですもの。しがないメイドの私なんて眼中にないですよ♪」
まあ、あのおっさんの猪突猛進っぽい性格を思えば、確かに目的のこと以外には気が回っちゃいなさそうだな。町の外に出かけたナチねぇの方も気になるけど、今頃農場で話し合いの真っ最中だろうし、下手にそっちまで呼びに行くよりかは町に残ってる面々だけで対処しちまった方がいいかもしれない。それをポムニットさんに言えば、それもそうですね、と神妙な顔での同意が返ってきたことに、よし、と話を切り上げる。
「それじゃ、お互い気をつけてな?」
「かしこまりましたっ♪では行ってきます!」
あっという間に遠くなる姿が見えなくなるのを待たず、俺も勢いよく地面を蹴って駆け出したのだったけれど。
「アルバ!ミント姉ちゃん!そこで何してんだよ!?」
宿屋の手前の坂を上ってきたところで見えた人影に驚きの声を上げずにはいられなかった。溜め池の前で構えた剣を熱心に振るっているのはアルバで、その近くに腰掛けて見守っているのはさっき、ポムニットさんが呼びに行ったはずのミント姉ちゃんだ。まさか、こんな時に入れ違いになっちまったのか……。剣の稽古していたらしいアルバとアルバが無茶をしないよう見張っていたらしいミント姉ちゃんだったけど、勢いそのままに駆け寄った俺が急いで事情を説明すると、見る見るうちに険しい表情へと変わっていった。レンドラー率いる剣の軍団がまた攻めてくる。前の時は怪我人として大人しく部屋にこもっているしかなかったアルバにとって、それは思いもしない再戦の機会を与えられたようなものだったらしい。
「っそれならおいらも!」
「ダメだ」
一緒に戦わせてくれないか、とでも続けるつもりだったんだろう真剣な瞳に、俺は間髪入れずに返した。驚いた様子で目を見張ったのも一瞬、アルバは睨み返すように真っ向から食って掛かってきた。
「なんでさ!?ルヴァイド隊長も、イオス副隊長だってきっと!」
「お前はまだ本調子じゃないだろ?一日でも早くルヴァイドたちに追いついて立派な騎士になるって言うんなら、ここで無茶をするのは違うんじゃねーか?」
今だって体力と実戦のカンを取り戻すために剣を振るっていただけで、本格的に鍛錬を再開したわけじゃない。怪我が治るまではただじっとしているだけ、俺たちの戦いを見ているしか出来ない自分が歯痒かったんだろうけど、イオスにアルバを頼まれたことを抜きにしてもそれは認められない。アルバの主張は確かに有り難いものだし、イオスだって俺たちの力になってくれるつもりだろうけど、少なくとも今はまだダメだ。アルバはまだ本調子の身体じゃない。自分の身体を大切にしなきゃならない状態で無理させるようなことなんかしたら、イオスにだって顔向け出来ないことになっちまう。
「夢のために頑張るアルバのこと、俺も応援してるんだぜ?だから余計な回り道に繋がるかもしれねえようなことはさせたくない」
「ライ……」
それでも不安げな顔をするアルバに向かって、空元気は承知の上で俺は明るく笑ってみせた。
「心配すんなって!俺たちは簡単にやられたりしねーよ。これまでみたいにサクッと終わらせてくるからさ?」
話が終わったならぐずぐずしてはいられない。ミント姉ちゃんと目を交わして大きく頷いた俺は、早くも大勢の気配が集まり始めている坂の方へと走り出すのだった。
宿屋に続いてる道は大きく分けて二つある。緩やかな坂をうねうね蛇行するように伸びた階段を行く道と、はっきり言って道の体裁もしていない下草だらけの急斜面を一気に駆け上る道だ。階段の方だって杭や長めの木枝でそれらしく整えているだけだけど、獣道に近い斜面の方は荷物の少ない時や時間がない時に勢い任せでしか通っていない。だけど、おかけでレンドラーたちにもバレずに上まで上がれたらしい。開けた場所や階段の途中に散った兵士を尻目にこっそり家まで戻ってきた俺は、必要なだけの武器を引っ掴んですぐさま取って返した。竜の子を引き渡せ、といつもの恫喝めいた物言いで脅しに掛かってる声からコーラルを庇うように前に出る。
「だからって、引き下がる理由にはならねえよっ!」
「あ……」
とうとう店までやってきちまったレンドラーのおっさんは今日もぞろぞろ兵を引き連れている。セイロンたち御使いや兄貴、遊びに来ていたらしいリシェルたちが脇を固めていたって心細かったんだろう。不安げな顔をしていたコーラルがほっとしたような息を吐くのを背中に聞きながら睨み付けた先で、レンドラーのおっさんも忌々しげに鼻を鳴らした。
「出おったか、小僧め」
「俺は損得勘定でこいつらと一緒にいるワケじゃねえ……きっかけは成り行きでしかなかったけど、今じゃもう、すっかり俺の身内も同然なんだよっ!」
始まりはただの他人でも、一緒に過ごしていけば変わっていくものがある。心の距離だとか信頼だとか、そういったものを積み重ねるのに時間の長さは関係ない。相手を大事に思うのに大層な理由なんていらないし、一度懐に入れた相手にそっぽを向いて切り捨てるような真似はしたくない。少なくとも俺は、身内だって思った奴らをほいほい切り売りするような人間にはなりたくない。
一度関わるって決めたんなら、いいとこ取りなんか出来ない。
誰かと付き合うってことは全部が全部、思い通りになることはない。ミニスに言われた言葉が頭の中を過ぎていく。ああ、そうだよな。それでも自分で決めた以上は、どれだけ辛かろうが大変だろうが投げ出すなんて選択肢、端からありゃしないんだ。大事にしたいと思った、そんな相手とこれからも付き合っていくためになら……剣の持ち手をぎゅっと握り締めて、レンドラーのおっさんを見下ろした俺は腹の底からの怒号を返している。
「身内を庇うために苦労するのなんてどうってことねーよ。だから、絶対にテメエらの好きにはさせねぇっ!!!」
「ふふ、ふははははっ!!親子揃ってなんと単純明快な連中よ!」
だからクソ親父と一緒にするんじゃねえよ、と吐き捨てる俺に構わず愉快そうに笑い飛ばしたおっさんだったけど、ぴたりとその笑みが消える。
「だが、その心意気。はたして最後まで貫けるものか……見せてもらおうか!!」
かっと目を見開くと同時、腰に構えた大斧を振り上げて構えを取ったその姿にもう言葉は要らないと悟る。本気の眼光でこちらを見据えるおっさんに向かって、俺も剣を抜き放って迷わず突き返していた。
改めて坂の下へと目を凝らしてみれば、いつもの鎧の兵士だけじゃないようだ。大剣や槍、弓を構えた兵士たちが陣を展開している一番奥、明らかに他の奴らとは練度の違う召喚師が佇んでいる。フードを目深に被っておっさんから付かず離れずの距離にいるそいつを見るのは初めてだけど、遠目にも伝わってくる不穏な気配と冷たい空気……ピンと来たのは兄貴も同じだった。
「あれは……無色の召喚師か?」
「ええ、おそらく。あの特徴的なローブに冷え切った気配は覚えがありますわ……」
訝しむように眉をひそめる兄貴に真剣な表情のリビエルが頷いて、それにセイロンも目を細める。
「将軍の背後に控えるあやつ、かすかな妖気を感じるぞ」
どうやらシルターンの術を使うようだな、と呟くセイロンの声を聞きながらざっと視線を走らせてみたけれど、どうやら下草だらけの斜面の方にも兵が陣取ってしまったようだ。こうして話している間にもじりじりと距離を詰めてくる連中は大きく二手のようで、階段側と斜面側にちょうど半数ずつ割り振ったように見える。それならこっちも二手に分かれるのが定石だろうけど、階段を下りきったところには桁違いに強いおっさんと怪しい召喚師が控えているからな。おっさんが指揮官として振る舞うだけのつもりなら部下の兵士連中を倒すだけで何とかなりそうだけど……こんな場所までやってこられたんだ。痛い目のひとつも見ずに帰らせるつもりなんかねえ。出来たらおっさんとあの召喚師諸共倒しちまいとこだよな、と手早く算段を練り始めた俺を見抜いてだろう。
「あんた、また強気なこと考えてるわね?」
杖を構えながらの呆れ顔を寄越してきたリシェルに向けて、だけど堂々笑って返してやる。
「そりゃあ、気持ちで負けてちゃ始まらないからな?」
そうすれば軽く笑って、それもそうね、と好戦的な光をぎらりと目に宿らせるのがリシェルだ。こんな状況でも意気込みは十分、けれど単身突っ走らないだけの冷静さは忘れずに、一度戦闘に集中してしまえば後はあっという間のことだった。
宿屋の前まで攻め込まれたことに動揺を覚えたのは初めだけ、圧倒的にも程がある地の利を活かせば人数差も戦力差も大して恐れるようなものじゃなかった。召喚術の巻き添えになるのを警戒してだろう、数人ずつ接近してくる兵士たちが微妙に距離を保ったままなのには辟易したけれど、それならこっちもこっちで手を変えるだけだ。敵も味方も密集している場所に範囲の広い術を落とせないのはお互い様でも、俺たちの方は生い茂った草に隠れて見えない高低差や放置された樽の中身を知っている。兄貴の槍で反撃ついでに貫かれた樽から舞い上がった粉塵を浴びたり、草陰にあった微妙な段差に躓いたり、はたまたミント姉ちゃんやリシェルの召喚術で麻痺や眠りを食らったり……そうやって動きの鈍った兵士相手ならリビエルたちも安心安全に攻撃できるって寸法だ。これまでも杖での肉弾戦に持ち込んでる光景は何度か見ていたけれど、変換した魔力を物理的な攻撃力に乗せるマジックアタックっていう技法らしい。微妙な段差を活かして一方的な攻撃をぶち当てながら斜面側の連中を蹴散らしていったけれど、その反面、階段側ではおっさんたちを刺激しないギリギリの距離で敵を捌くことに徹していた。
「ふははははっ!どうした小僧!?びびっておるのか!?」
やたら挑発を飛ばしてきたおっさんだけど、その言葉に乗って飛び込んでいたら呆気なくやられちまっていただろう。中々踏み込んでこないこっちに焦れてたんだろうけど、見るからに勝ち目の薄い状況に突っ込んでいくほど無謀じゃない。確実におっさんを、ついでにその後ろの召喚師もぶちのめすために欠かせないのは、まず他の奴らを片付けることだ。そう割り切って斜面側の兵士を片付けた皆が最下段まで辿り着くのを待っていた俺は、開けた場所に揃い踏みしたセイロンたちへとおっさんの注意が逸れたその瞬間、階段を塞いでいた最後の兵を押し退けて駆け出した。
「やるぜっ、コーラル!」
ぴぎっ、と竜の姿の時は雷を落とせるようになったコーラルが勇ましい鳴き声と共に隣を駆ける。召竜連撃が来ると見抜いてだろう、大斧を盾のように構えたおっさんが重心を低くした。その横をすり抜けて、俺はコーラルと息を合わせた必殺技をローブの召喚師へと全力でぶち当てている。
「なっ……!?」
短く息を呑んで振り返ろうとするレンドラーだったけど、その目がいよいよ大きく見開かれたのは頭上でバチバチと火花を放つ魔力の奔流を見たからだろう。それを振り返りもせずに駄目押しの一撃を召喚師へと叩き込んだ俺の背後、階段側にいたリシェルや斜面側から来たリビエルたちの放った召喚術がまとめておっさんに叩き込まれる。おっさんが舐めて掛かれる相手じゃないのは分かっていたからな。それでいて俺が真っ向から向かっていけば必ず気を引けることも分かっていたからこその、電光石火の挟み撃ち。おっさんにも召喚師にも余計な行動を取らせない、いや、動く暇すら与えずに先手を取って倒してしまう作戦は見事にハマったらしかった。
「くっ、こしゃくな小僧め……!」
これだけボロ負けすれば観念するかと思ったけれど、どうもおっさんはまだやる気らしい。大斧の先を地面に突き立て無理矢理に身体を起こす姿にまったく呆れなかったではないけれど、そういうことならと俺も一度は下ろした剣をすぐに構え直した。そっちがそのつもりなら……いいぜ、今日で白黒つけてやる!そう、おっさんの心意気だけは買ってやるつもりで怒鳴り返そうとした時だ。
「そこまでだっ!」
突如として響き渡った声に、鋭く睨み合っていた俺とおっさんははっと視線を振り上げ、同時に顔を歪めた。たった今下りてきたばかりの坂の上、宿屋前に広がる草地にいくつもの黒い影が現れていたのだ。見覚えのある仮面に鋭い爪やナイフといった物騒な得物を持った連中のうち……声の主だろうリーダー格の男が一歩前へと踏み出した。けれど、それに追随するように足を進めた別の男が羽交い締めにする人物こそが問題だった。
「その場に武器を置け、召喚石もひとつ残さず捨てるのだ……逆らえばこの娘の喉笛を掻き切るッ!」
「ポムニット!?」
それは、大通りで別れたはずのポムニットさんだった。
「も、もうしわけ……ございません……」
リシェルの悲鳴のような驚愕に弱々しい震え声を返すポムニットさんだけど、怯えきった顔の中で頬だけが赤く腫れ上がっている。逃げようとして殴られたんだろう、メイド服のスカートや真っ白な手袋もあちこち草きれや土で汚れてしまっているようだ。ポムニットさんは綺麗好きだ。メイドとして身嗜みを整えるのは当然です、と誇らしげに胸を張っていた姿を思い出して思わず唇を噛み締める俺の後ろで皆も口々に非難の声を上げていく。
「戦う力なきものを人質に取るとはなんと卑劣な……」
「これが貴様のやり口か、レンドラー!?」
こんな状況なのにポムニットさんの表情には俺たちの足を引っ張ってしまう心苦しさと申し訳なさが滲んでいて、義憤と苛立ちに厳しい表情になったセイロンの向こうでは兄貴が荒々しい声で弾劾の声を放っている。だけど、レンドラーの返した反応は思いがけないものだった。
「黙れっ、若造がっ!!」
兄貴の声ごと掻き消すような怒声を放った。と思いきや、それとは比べものにならないほど険しい表情で仮面の男へと噛み付いたのだ。
「……どういうことだ?我が輩は命じたはずだ。万が一の時に備えて待機していろと。このような姑息な手段を取れなどとは命じておらんっ!!」
仮にも仲間に向けているとは思えないほど殺気立った顔つきで凄みを利かせるおっさんに、そのとおり、と白々しい肯定を返しながら仮面の男は言い放つ。
「しかし、それよりも優先するべき命令が我々にはあっただけ。我々の本来の主人より与えられた命令がな」
「まさか!?」
勿体ぶるように腕を組んで見下すような素振りで告げた仮面の男に、おっさんが俄に顔色を変えた。思い当たる節があったらしいその様子に疑問を覚える間もなく、仮面の男は聞き分けのない子供にでも語りかけるようにゆっくりした口調で告げる。
「竜の子を捕らえることこそが最重要。将軍殿が三度も続けてしくじるはずがなかろうが、その時はお前たちのやり方でお助けしてさしあげろ、と」
「あやつが、そう……命じたのか……」
いかにも、と認める声に、いよいよ悔しげな唸りを上げているおっさんだけど……この状況がおっさんにとっても本意じゃないことは聞くまでもなかった。頭から湯気が噴き出る勢いで歯噛みしているおっさんは今にも憤死してしまいそうな勢いだけど、おっさんのことばかりを気に掛けてもいられない。仮面の男の視線がすいと流れて、突き刺すような鋭利さで俺たちを射抜いたのだ。
「もう一度繰り返す。武器と召喚石をその場に捨てるのだ」
「ふざけ……っ!」
「ダメですアロエリ!落ち着いてっ!?」
「お願いだよっ!ポムニットさんのこと見捨てないで!!」
一方的な命令にかっとなったアロエリが食って掛かろうとするけれど、それを必死に引き留めたのはリビエルとルシアンだ。ポムニットさんの拘束は解けていない。ここで逆らうような真似をすればどんな目に遭うか、分からないはずもない。二人の勢いに悔しそうに言葉を切ったアロエリだったけれど、そのまま武器を足下に置いていく俺たちの様子に声を張り上げたのは当のポムニットさんだった。
「やめてくださいまし!わたくしのことなんか気にしないで!?構わずこいつらをやっつけちゃって下さいまし!!」
我が身を顧みずの訴えに思わず動きを止める俺たちだったけれど、それを黙って見過ごしてくれるような敵じゃない。やかましい、と無造作に振るわれた拳にポムニットさんが悲鳴を上げて崩れ落ちる。その痛々しい姿についに我慢の糸が切れたリシェルが飛び出したのは一瞬のことだった。
「ポムニットぉ!?」
「リシェル!?」
涙交じりに呼び掛けながら無我夢中でポムニットさんに駆け寄ろうとするリシェルだけど、間に立ち塞がった仮面の男が虫でも払うような素振りで爪を振るう。薄手のコートごと腕を切り裂かれたリシェルが悲鳴を上げて草むらに倒れ込むと、青々とした草にぱっと赤い血が散った。お嬢様、と悲痛な声で叫んだポムニットさんに届かない手をそれでも伸ばして、リシェルが絞り出すような声で訴える。
「ううっ……ポムニットを、ポムニットを……っ放せぇ……!人質だったら、あたしがなるから、だから……っポムニットを、……っ放してよぉっ……!」
お嬢様、と震える声でポムニットさんが呟いた。途端に場の空気が揺らいだのは俺の気のせいだろうか?コーラルやリビエルがはっとしたようにポムニットさんへと目を向けたと思う間もなく、リーダー格の男が指示を下した。
「見せしめだ……その小娘は始末しろ。人質は二人もいらん」
「ッシャアアァァッ!!」
威圧するように佇んでた仮面の男が勢いよく爪を振り上げる。くそっ、ここからでも間に合うか!?どうにか割って入ろうと焼けるような熱を持つ腕輪を無視して地面を蹴りかけた俺の前、だけど、迷いなく飛び込んできた影があった。
「でやあああっ!!」
気迫のこもった雄叫びと共に振るい抜かれた大剣が男の爪を弾き返す。鈍い金属音と腕にまで伝わる振動に狼狽えたのか、大きく飛び退ろうとする男に向けて、その動きを読んでいたかのように目にも止まらぬ早さの突きが飛んだ。
「逃がすかっ!ハッ!」
「アルバ!?それにイオスも!?」
イオスの鋭い一撃を食らって横倒しになった仲間の姿に動揺したのか、狼狽えるようにリーダー格の男まで身じろいだ。それをきつく睨み上げたアルバが、宣誓でもするかのように剣を高々と構えながら声を張る。
「どんな時でも暴力によって非道を行うものを許しちゃいけない。それが巡りの大樹自由騎士団に属するものたちの誇りであり、おいらにとっての騎士道なんだ!だから、戦う……おいらはお前たちを見過ごしはしない!!」
「……だからなんだ。勢いで飛び出したところで数の利は覆せん。何より、こちらには人質がいることを……」
アルバの気迫に一瞬でも飲まれたことを恥じ入るように言葉を並べ立てる男だったけれど、それも最後まで言い切ることは出来なかった。言いながら目配せを送ろうとするより早く、ポムニットさんを捕まえていた男が濁った嗚咽をこぼして前のめりに倒れ込む。その腕から取り戻したポムニットさんを抱えてにこやかに笑っていたのはシンゲンだった。
「いやはや、残念。人質は取り戻させて頂きましたのであしからず……」
三味線のひと、と竜の姿から戻っていたコーラルが思わずといったようにこぼした先、事態について行けず瞬きを繰り返しているポムニットさんとシンゲンを仮面の男たちが遠巻きに取り囲む。アルバやイオスが飛び込んできたのとは別の位置、ちょうど仮面の男たちの背後から急襲を仕掛けてきたシンゲンを警戒してだろう。いつの間に、とナイフや投具を構えて間合いを計る男たちにシンゲンは悠々と返した。
「貴方たちが得意げに口上を述べている間に近づいただけですよ。恩人を見捨てて逃げるのは自分の性分じゃありませんしね。それに……」
「……死ねっ!!」
その言葉を最後まで聞かずに腕を振り上げた男たちの手から一斉に凶器が飛ぶ。だけど次の瞬間、凄まじい轟音が降ると同時に澄み渡った金属音が響いていた。
「……けえぇいっ!!」
「あ……あがっ……!?」
不意打ちで投げつけられた投具やナイフは全てシンゲンに辿り着く前に地面に叩き落とされていて、それを指示したリーダー格の男には強烈な雷撃が落ちている。前触れもなく虚空から落ちた稲妻は、タイミングをずらして投げつけるつもりだったんだろう、リーダー格の男がひそかに振り上げていたナイフを通じて腕から足まで一気に駆け抜けたようだ。ばちばちと周囲に帯電する勢いで火花を散らしているその雷の出所がどこかなんて聞かなくっても知っている。これ以上なく見知ったサプレスの魔力、送還されていくタケシーの姿、ゆったりとした足取りでシンゲンの向こうに現れた人影。
「皆、遅れてごめんね?」
「ナチねぇ!どうしてここに、ていうか、イオスのやつも?」
杖を抱えて小首を傾げるナチねぇは笑っていた。だけどそれはいつもの笑みとはまるで違う、冷え切った気配を存分に纏った冬の湖のような微笑みだ。感情を押し殺したような笑みを浮かべて、灰水色のローブの裾をたなびかせて、悠然と足を進めてきたナチねぇに居ても立ってもいらず声を投げ掛けた俺だったけど、遠目に微笑んだナチねぇが唇にそっと人差し指を立てたことに口を噤む。敵に取り囲まれている状態じゃあ教えられません、ってことか。
「今のって、タケシーの?でも、シンゲンさんのは一体なに??」
「ほう、居合いか!鬼妖界の剣士サムライが用いる剣技のひとつだ。あの御仁、やはりただの道化者ではなかったか……」
ルシアンとセイロンの遣り取りが聞こえてくる間にもシンゲンはポムニットさんを抱えたまま油断なく距離を取って、ナチねぇも背後の草むらに控えていたらしいプニムやシズクを引き連れてイオスたちの傍へと下がる。想定外の増援が来たことをようやく理解したんだろう、よろよろと身体を起こした仮面の男たちに向かって声色だけは柔らかに、かすかな微笑みすら浮かべてシンゲンは語り掛けた。
「ちゃんばらの芸をやるのは好きじゃないんですがねぇ。外道が相手でしたら良心も痛みませんし……切り捨て御免にさせていただきますよ?」
最後、温度の一切を表情から消して告げたシンゲンにたじろいだように息を呑んだリーダー格の男だったけど、短く息を吸った次の瞬間には苛立ちのこもった怒声を放っている。
「っ、かかれっ!まとめて始末をしてしまえええっ!!」
「ほう、いい度胸だな。ならばまとめて片付けてやろう」
「はいっ!副隊長の足手纏いにはなりません!」
「はてさて、ここは皆さんと共演と行きましょうか」
「ライ君、こっちは任せてね?」
立て続けに声を掛けられて頭がくらくらするけれど、そんなこと言ってられる場合じゃないなんて百も承知だ。一気に湧き立つ胸をどうにか抑えながら、剣の柄をきつく握り直した俺も威勢よく返している。
「ああ、分かったぜ!さあ、テメエら覚悟しやがれ!」
窮地に立たされていたのから一変、心強い味方の登場にこれ以上なく発憤する俺たちに対して、敵の連中は動揺を引きずったままのようだ。さっきまでとは逆に今度は俺たちが上へと向かっていく形だから高所の利を考えなくても厳しい戦況だけど、考える余裕も与えないとばかり激しく攻め立てているイオスたちのおかげもあって奴らはすっかり混乱しちまってる。シトリス高原での一戦で学んだことだけど、暗殺者ってのは気を張って用心しててもするりと間合いを抜けてくるし、背後や横から攻撃しても反射的に衝撃を逃がすのか、思ったほど威力が出ないなんてザラにある厄介な連中だ。だけど今回は片手剣やら長めのナイフを構えた無色の兵士連中が殆どのようだし……ここは正攻法で階段から攻め上がるべきだろう。
「さあ、急いでみんなのところまで戻って!」
「さてさてお嬢さん、貴方は下がっていて下さいな。つまらない芸ですが退屈凌ぎに見物してって下さい」
アルバの声に背中を押されてふらつく足取りで走ってきたリシェルを迎えたけれど、ポムニットさんの方はさすがに合流するには厳しい位置だ。ぽかんとするポムニットさんを優しくナチねぇの方へと押しやりながら前に出るシンゲンや、心配いりませんよ、と穏やかに声を掛けつつ肩に手を添えるナチねぇの姿も見えたし、今はそれぞれの場所から敵を撃破していった方がいいだろうな。それでも心配でたまらないんだろう、リビエルに手当てを受けながらも不安げな顔で見つめているリシェルに、示し合わせたかのように俺とリビエルの声が重なった。
「ナチねぇも付いてるんだ、心配すんなって!すぐにあいつら全員ぶちのめしてやるからよ?」
「何ならここは休んでいてくれても構いませんわよ?あんな奴ら、お茶の子さいさいですわ!」
こんな時だからこそ明るく自信満々に、余裕たっぷりに言ってのけた俺とリビエルを呆気に取られたように見つめ返したリシェルだったけど、ややあって小さく笑って息をこぼす。
「そうね。きっと……あたしがいなくたってきっと、余裕であんな奴ら、勝てちゃうわよね?」
僅かに強張った表情で声を震わせながらも笑い顔を浮かべてみせたリシェルに大きく首を縦に振る。いくら励ましの文句を並べたところで不安になるのも当然だ。だから、と剣戟の響く頭上を睨みながら立ち上がった俺は、一足飛びに階段を駆け上がりながら剣を振り上げた。リシェルとポムニットさんを早く会わせてやるためにも、こんなところで手をこまねいてなんていられねぇよな!
「せいっ!はっ!」
「これまた……お粗末な攻撃ですねっ!」
剣戟の響く斜面の方ではシンゲンが無色の兵士を翻弄している。絶えず襲い来る剣の切っ先を刀で器用に受け流し、と思いきや振り向きざまに一閃、死角狙いで放たれた投具を返す刀で払い落とす。挑発めいた笑みと立ち回りで頭に血が上った奴らが取り囲もうとすれば、他への注意が疎かになった隙を逃さずイオスの槍が唸り、手傷を負って体勢を崩したやつにはアルバの重い斬撃が叩き込まれていく。竜の姿に変化して一足先にそっちに辿り着いたコーラルもアルバと同じく、足を止めた敵に急所狙いの堅実な一打を入れているし、それでも立ち上がろうとする敵にはナチねぇの呼んだタケシーが容赦なく雷を落としている。いつにも増して大盤振る舞いで召喚術を使ってるけど、ポムニットさんを一人にしないためだろう、その片手はずっとポムニットさんと繋がれている。
「ナ、ナチさん。どうか私のことはお気になさらず……一人でも大丈夫ですから……っ!」
ポムニットさんが言うように、動きにくいのは間違いないはずだ。上にも下にも敵が散らばっている状況、一人残していくよりは隣にいた方が確実に守れると踏んでだろうけど、敵の召喚師が放った召喚術の余波や弾かれてきた投具からも庇っているせいだろう。いつもは三つ編みに結われているナチねぇの髪は解けて、風を受けて緩やかに波打っていた。だけどそんなの痛くも痒くもないばかりに笑って、もう片方の手にまとめ持った杖とサモナイト石に魔力を込めていく。
「ポムニットさんが我慢強いのは知ってますけど、だからって怖くないわけじゃないでしょう?」
詠唱を唱えながら繋いだ手を軽く持ち上げて、召喚されたタケシーがまたひとつ、目も眩むような電撃を放つのを後ろにポムニットさんへとにっこり笑い掛ける。
「ほら、手を繋いでたって大丈夫」
「あ……」
瞬間、泣きそうに瞳を揺らしたポムニットさんだったけれど、それならせめて、と思い立ったのだろうか。近くで戦っているアルバやコーラルに応援と注意を織り交ぜた声を上げ始めるのに時間は掛からなかった。きっと連戦になるこっちの分まで補うつもりでいたんだろう、シンゲンもアルバも目を見張るような戦いぶりだけど、とりわけイオスとナチねぇのそれは目覚ましいものがあった。
「中途半端に広がっちゃって、困るんですよねそういうの。……仕方ない、またお願いね?」
腰のポーチから持ち替えた紫色のサモナイト石に囁くように唇を寄せて、魔力を一気に練り上げるなり。
「サモン、氷魔コバルディア!魔氷葬崩刃!」
こないだの活躍だって記憶に鮮やかだってのに、どこか誇らしげな悪魔の戦士が勢いよく鉾を掲げた途端、氷の割れるような音が響き渡って身も凍るような冷気がざっと足元を吹き抜けていく。召喚術の威力どころか対象まで調整したのか、近くにいたイオスやシンゲンを不自然に避けて降り注いだ氷柱に貫かれて、霜の降りた無色の兵士がろくに動けずにもがいている。魔力で出来た氷が消えるのを待たずに強引に抜け出そうとしてるけど、それをみすみす見逃すようなイオスたちかと言えばそんなわけがない。獅子奮迅の勢いで素早く距離を詰めては猛烈な追撃を入れていく。
「隙だらけだ、やっ!」
その卓越した槍捌きと身のこなしにはさすがとしか言いようがない。威力の乗った突きを繰り出した後でも投具や爪での不意打ちをあっさり避けて、それが間合いに入っていようものなら先手を取ってのカウンターをお見舞いしている。背中に目が付いてるのかって疑っちまうほどの勘の良さ、槍を振り回すたびに兵士がよろけるほどの膂力には感心するしかないけれど……攻撃力の上がる憑依召喚まで掛かってるんだと気付いたらもう笑うしかないだろ。けれどもちろん、俺たちだって指を咥えて見ていたわけじゃない。
「出過ぎだ、セイロン!兵士の陰に隠れて召喚師がいるぞっ!」
「もうっ、私の目が届くところで傷つくなんて許しませんわよっ!」
その場に高く飛び上がって状況を俯瞰しての警告と弓矢での牽制をしてくれるアロエリ、怪我をしたり様子のおかしい仲間に即座にクイックヒールを飛ばしてくれるリビエル。前線を張るだけじゃない、援護や支援だとかの役割分担もしながら着実に敵をぶちのめしていけば、次第に宿屋だって見えてきた。倒れ込んでいてもまだ立ち上がる気があるらしい連中にはプニムやシズク、いつの間に召喚してたんだろうナチねぇのポワソやミント姉ちゃんのオヤカタがトドメの一撃を食らわせていってるし、とっくの昔に形勢逆転は叶っている。
「残すは……あいつらだけだなっ!?」
やっと合流できたナチねぇからポムニットさんを受け取って睨んだ先には、あのリーダー格の男とそれを守るように得物を構えた暗殺者の姿があった。涙ぐんで抱き合っているリシェルとポムニットさんの方はもう大丈夫だろう。近くにいるのは召喚術での麻痺やシズクの毒を重ね掛けされて息も絶え絶えな兵士や、魔力が切れたところをリビエルに杖で沈められた召喚師くらいだ。見える限りに動けるやつらはもういない。一気に片を付けてやろうと思ったのはナチねぇも一緒だったのか、仮面の男たちに視線を定めてかすかな笑みを浮かべた時だ。ナチ、と玲瓏な声がその場に響く。
「手を貸す。奴らに身の程を思い知らせてやれ!」
地べたに転がる敵の兵士を無造作に槍で払うが早いが、神経を集中させるかのような息をひとつ、重心を低く槍の穂先を下げたイオスが構えを取る。ナチねぇの手の中で静かに輝き始めていた緑色のサモナイト石へと吸い込まれるようにイオスの魔力が流れていき、二人の魔力が自然に溶け合うのが分かった。僅かに目を見張ったナチねぇの口角が分かりやすく持ち上がり、ふふ、と隠しれきない嬉しさの滲む声が揺れて。
「さっすがイオス君!それじゃあご期待にお応えしまして……力を貸してね、ワイヴァーン!」
弾んだ声が響くや否や、上空に現れたメイトルパの飛竜、ワイヴァーンが大きく翼をはためかせながら地上を睥睨した。厳しい眼差しの先にはあるのは気圧されたように足を下げようとする男たちの姿だったけど、がぱりと躊躇なく開かれたその口元に真っ赤な炎がいくつも輝いていって……間を置かず、凄まじい速度で降ってくる!魔力と熱が凝縮された焔弾が流れ星になって降り注いだ先、多少は魔力耐性もあっただろう男たちがなすすべもなく焼き焦がされた地面に膝をついていく。ただでさえ威力のある術がイオスのアシスト召喚で一層強力になったんだろうけど、これはまた、ミニスのシルヴァーナを思い出しちまうような凄まじさ……。やっと焔弾が途切れたところで這々の体で逃げようとするリーダー格の男だったけれど、その視線が不意に俺たちを通り越した先を射抜いた。
「将軍殿、なぜ加勢をして下さらぬ!?」
それまでの余裕をかなぐり捨てて捲し立てるように叫んだ先には、無色の奴らが劣勢になっていく間も一切手を出さすことなく静観の構えを取っていたレンドラーのおっさんがいる。縋るようにも詰るようにも聞こえる男の声に動じることなく、おっさんは淡々と声を返した。
「この戦い、そもそも我が輩の流儀ではない。それに貴様らは我が輩を助けるのだと口にしたではないか。逆に助けを求めるのは本末転倒というものではないか?」
ぐっと言葉に詰まる男を少しの間見ていたおっさんだけど、とはいえ、と呆れたような溜め息を吐く。
「味方を見殺しにしてしまうわけにもいかぬ。…………とっとと下がれいッ!しんがりは我らが引き受けてやるッ!」
「う、ぐうぅ……っ」
すっと息を吸ったと思いきや、びりびりと肌が震えるような怒号が辺り一面に響き渡った。その気迫と威圧感に噛み付くだけの余力も残っていなかったんだろう。悔しげな唸りをこぼす男だったけれど、無色の連中に短い号令を掛けるなり満身創痍の身体を引きずりながら一目散に逃げ去っていく。覚束ない足取りながらに見る見る遠ざかっていく姿を横目に見つつ、おっさんは吐き捨てるように言った。
「ふん、所詮は主人の威を笠に着ておるだけの小物共よ。さて」
「もう一戦やってくか?レンドラーのおっさん」
ちらりと視線を投げ掛けてきたおっさんに先んじて聞いてやったけれど、苦々しい顔をしたおっさんは俺の期待どおりの答えをくれた。
「分かっていて聞くな、イヤミな小僧め。このような状況で決着を付けても我が輩が納得など出来るか」
「ああ、俺も同感だ」
少なくともおっさんはそんな姑息な真似をするやつじゃないって、これまでの戦いで知っているからな。何となしに満足めいた笑みをこぼしてしまった俺を嫌そうに見るなり背中を向けるおっさんだけど、ふと思い出したようにアルバに目を向ける。
「そこの騎士見習い。確か、アルバと言ったか?貴様の騎士道とやら素直に感心したぞ」
驚いたように目を見張って曖昧な相槌を打つアルバだけど、すぐにその隣に佇むイオスの方へと視線を移して、だがな、とおっさんは複雑そうな表情で呟いた。
「ひたむきさが必ずしも報われるとは限らぬ。心へと留めておけ。……そこの上官はよく知ってのことだろうがな」
気になることを言い残していってくれたけど、撤収していく剣の軍団を引き留めて尋ねるだけの気力なんか残っているわけがない。ポムニットさんに抱きついて緊張の糸が切れたようにわんわん泣いているリシェルにルシアン、即席の共闘の出来を讃え合っているシンゲンにアルバ、さながら台風一過の惨状になってしまった宿屋への道に眉を曇らせているミント姉ちゃんにグラッドの兄貴……。すっかり山の端に沈み掛けているお日様に急かされながらそれぞれの怪我の具合を見たり、これからの話なんかをしていたら時間は矢のように過ぎていって、気が付いた時にはとっぷりと日が暮れちまっていたのだった。
「今日は大変だったな……」
その晩遅く、やっと自分の部屋に戻ってきた俺は机に開いた日誌を前に大きな息を吐いた。
全員が疲れ切っていたのもあって随分遅くなった夕飯も軽いもので済ませてもらったけど、汗を流すのもそこそこに宿屋に残った皆と話をしていたらこんな時間になってしまったのだ。イオスやナチねぇから合流までの経緯を聞いたり、加勢してくれたシンゲンやアルバにお礼を言いに行ったり、御使い連中たちからは真剣な謝罪なんかを受けてしまったり……特にセイロンは今回のことを気にしていたんだろう。ひとまず厨房へと急ごうとした俺を呼び出して、頭を深々と下げての正面切った謝罪には思わず面食らった。
「すまぬ、店主よ。そなたらの好意に甘えあのような事態を招いてしまった……詫びのしようもないことだと思っている。そうは思っても我らには身を寄せる当てが他にないのだ。いま少しだけ、ここに留まらせて欲しい……二度とあのようなことが起きぬように我も十分に気を配るゆえ。だから、頼む」
いつもの偉そうな態度はどこへやら、顔向けすら出来ないとばかり下を向いたまま苦しげな声を絞り出したセイロンに、俺は慌てて顔を上げるように言いながらその肩を軽く叩いた。
「頭を上げろっては!セイロンらしくないぜ、そういうのはさ。もっと豪快に笑って図々しくしてないと調子狂っちまうよ。それに言っただろ?お前らはもう俺の身内も同然だって」
ひどく気に病んでいる様子のセイロンだけど、そういう危険や厄介ごとの可能性も全部ひっくるめて引き受けた上で身内だって言ったんだ。俺がそう決めたんだって、とミニスとの遣り取りを思い出しながら笑ってやれば、セイロンは僅かに目元を緩めたようだった。ポムニットさんのことは本当に肝が冷えたけど、それでも今、こうして誰も欠けることなく日常に戻ってこれたのだって事実だもんな。戦う力のないポムニットさんすら巻き込んじまったことにアロエリのやつも心を痛めていたみたいで、もう戦いに関わることのないよう手を引かせるべきだとも言われたけれど……アロエリを怒らせるのは承知の上でそれには頷いてやれなかった。どんなに危険でもポムニットさんは絶対、リシェルの傍にいようとする。リシェル自身が止めたって付いてくる気しかないポムニットさんを思えば、その気持ちを無視するような真似なんて俺には出来そうにもなかった。
「あたしのことより、あんたはどうなのよ?」
「ミントさんに治して貰いましたし、頑丈なのが取り柄ですからね。へっちゃらです♪」
宿屋前の草地に座り込んだままポムニットさんを心配げに気遣うリシェルへと、あんなことがあったとは思えないような明るい笑顔を浮かべてポムニットさんは言った。誰かを思う気持ちっていうのは理屈じゃないのだ。常識で考えればどんなに馬鹿馬鹿しい選択でも、そのひと自身が心から望んで決めたことなら何より正しい答えに変わる。一度は引き下がってくれたはずなのにとびっきりの援軍を引き連れて駆け付けてくれたアルバにしたって同じだった。
「ライがあんなにおいらのことを思い遣ってくれたのに、悪いとは思ったけどさ……」
「少なくとも僕の目が届く場所なら、無茶をする前にそこらに転がしておけるしな」
お前が気にすることじゃない、とアルバの足の具合を見ながらさらりと物騒なことを言うイオスに苦笑をこぼすアルバだったけど、どうもミニスとは知り合いだったらしい。タイミングが合わず顔を見ることは出来なかったけど、ミント姉ちゃんやルシアンの話からその頑張りようを聞いていたら居ても立ってもいられなくなって、あの溜め池での鍛錬に繋がったんだとか。負けてらんないなって思ったんだ、と頬をかきつつ笑うアルバだけど、お礼を言いに行ったはずのこっちの方が励まされちまった気分だな。口数少なく黙りこくっているコーラルを慰めるように一曲ぶってくれていたシンゲンにしたって、頭を下げる俺に何でもないような顔で笑うだけだった。
「しかし助かったぜ。まさかあんたがあんなに強いなんてな?」
「いやはや、自分にまでお礼とは義理堅いもんですねぇ……そんなに感心するようなことじゃありませんよ、隠し芸とも言えない下らぬものでして」
あまり大きな額じゃないけれど路銀の足しにでも、と差し出そうとしたお金もやんわり断られてしまったけど、剣の腕はあっても荒事で稼ぐようなのは趣味じゃなかったらしい。ちゃんばらの芸で金を稼ぐことにはもう飽き飽きでしてね、と何気ない調子の呟きだったけれど、それなら余計何かの形でお礼をしなきゃ気が済まねえ。せめてウチに滞在しているだけでも真っ白なご飯と腕によりを掛けた料理を振る舞ってやるか、と思い付いたままを口にすれば、シンゲンは飛び上がって喜んだ。
「ひゃっほーっ♪有り難いことこの上なしです!」
べべん、と三味線までかき鳴らして満面の笑顔を見せてたけど、本当にどっちが礼を言いに来たのか分からなくなっちまうな?
それから、リシェルたちが落ち着くまで様子を見てくれたナチねぇからも色々話を聞いた。農場での話し合いが早めに済んで、門前の広場まで戻ってきたところで偶然イオスと行き合ったらしい。アルバが世話になったからとミント姉ちゃんの家を訪ねようとしていたイオスに付き合ってみれば、菜園の前でそわそわと所在なさげにしているアルバを見つけて、どうしたのかと思っているうちにこっちに気付いて血相を変えて走り寄ってきた、という流れらしい。
「アルバ君から事情を聞いた後はライ君たちも知ってのとおりかな?ミントさんの家の裏手から森の方に出て、宿屋までの近道を急いで来たの」
ギリギリ間に合ってよかった、とさっきの戦闘で少し捻ったらしい足首をさすりながら笑うナチねぇに俺は渋い顔をしてしまう。ポムニットさんを庇ってあんな前衛めいた立ち回りをしてたんだから当然だ、と苦言を呈したい気持ちはあれど、さっき目にしたばかりの光景が脳裏をよぎったことに口を噤んだ。
「大丈夫ですよ。何事もなく済んでよかった、今日はそれだけでよしとしましょう、ね?」
「……はい。そうですよね」
帰り際、何度も頭を下げていたポムニットさんにナチねぇが優しく声を掛けると、ポムニットさんは目を潤ませながら安堵のこもった息を震わせた。俺やリシェルも知らない何かの事情を共有しているような二人の素振りに思うところのひとつもなかったわけじゃないけれど、不思議とそこまで羨むような気持ちにはならなかった。
俺の知らないナチねぇをポムニットさんは知ってるんだろうけど、俺だって俺しか知らないナチねぇを知ってるんだ。子供っぽい優越感なのは承知の上でそれをお守りのように握り込む。一緒に暮らしていたって相手の全部を知ることなんて出来ないし、それこそミニスの受け売りだけど、誰かと付き合うってのは良いことばかりじゃ終わらない。それでも一緒にいたいなら、一緒にいようとするのなら……こんなみっともない自分にだって向き合って、引き受けていかなくちゃならないんだ。
それよりも問題は、とペンを止めて眉根を寄せる。
ついに出てきた無色の連中、あいつら相手にどう立ち向かっていけばいいものか。レンドラーのおっさんやゲックのじいさんだって決して油断できる相手じゃないけど、人質を取るような姑息な手を使うことは一度もなかった。特にレンドラーのおっさんなんか、戦場にさえ出ていればリシェルたちみたいな女子供でも容赦なく敵と見なしたけれど、物陰に隠れて応援や手当てだとかの後方支援に徹していたポムニットさんまで狙おうとしたことはない。元は騎士だったっていうおっさんなりの最低限の矜持だったんだろうけど、それを紙切れ一枚の価値もないように平然と踏み躙った。そんな奴らがこれからの戦いには出てくるのだ。
情けない話だって思うけど、こうして一人になると事の重大さを考えずにはいられない。コーラルの隠れてる場所がこの宿屋だって知られちまった以上、間違いなく敵は集中攻撃を仕掛けてくる。今日みたいな卑怯なやり口で来ることも躊躇わないだろうし、無関係な町の人たちまで巻き込もうとするかもしれない。そんなの、想像するだけでもぞっとしてしまうけど……
「……まだ、弱音を吐くには早いよな?」
一人で戦ってるわけじゃないんだ。皆が力を貸してくれている、一緒に立ち向かってくれている。なのにこんなところで臆病風に吹かれて逃げたりなんか出来るかよ。
雨雲のように広がった不安を振り払って、気合いを入れ直すように頬を張って、勢いよく日誌に走らせたペンを置いて両腕を突き上げての伸びをひとつ。とりあえず、こっちの気も知らずにベランダで夜風を浴びてるナチねぇにはそろそろ声を掛けておくか。何か温かいものでも入れてやろうかと思案しながら椅子を軋ませて立ち上がった俺は、そっと自室のドアを押し開けた。
この夢を見るのはいつも突然だ。
空に輝く丸い虹、どこまでも続く花畑。悲しいことも苦しいこともないような綺麗で穏やかな世界には、やっぱり今日もひとりぼっちの、花のようなあの子がいた。
「ライ……ひょっとして、何かあったんですか?気のせいかもしれないけど、いつもより元気がないように見えます。私じゃあ、貴方の相談相手にはなれませんか?」
おずおずとした問い掛けにきょとんとした顔を返してしまった俺だけど、真剣なエニシアの表情に一拍遅れで笑みをこぼした。さすがだな、エニシアは。夢でしか会えてないのに俺のことをよく見てくれてるんだろう。嬉しい気持ちが込み上げるのを感じながら、ちょっとばかり考える。
確かに、あれから少し凹んだのは事実だ。守りたい相手を危険な目に遭わせてしまったり、逆に助けられたり守られたりしてばっかで、迷惑を掛けることは避けられなくって……でも、言うほどじゃない。ありがとな、と返しながらエニシアを見て、笑い掛けることだって出来る。
「でも、本当にもう大分吹っ切れてんだ。だから今から話すのは相談じゃない。ただの決意表明みたいなもんだけど……それで良ければ聞いてくれるか?」
もちろん、と大きく首を縦に振って一生懸命に頷くエニシアに笑って、ざっくりと今日あった出来事を話していく。本当に真剣な顔で聞いてくれるもんだからつい熱がこもったところはあるけれど、エニシアに語った言葉に嘘はひとつもなかった。
「悔しいけどさ、今はそれが俺の実力だったんだ。だからもっともっと強くなりたい……いや、絶対に強くなる。次は負けたりなんかしねえように、守りたいひとを守り切ることが出来るように。子供だから、なんて言い訳したくねえしさ」
自分の不甲斐なさとか情けなさとか、無力さを受け入れて諦めちまうくらいなら、少しでも出来ることを増やそうと足掻く方が断然、性に合っている。失敗も全部バネにする。悔しさも情けなさも次に活かす。だって、そうだ。
「俺はそいつらと知り合ったことを、間違いだったなんて言いたくない。少しでも強くなって、今よりもっと守ってやりたいんだ」
「そっか……強いんだね、ライ」
言い切って顔を上げれば感嘆の表情でそんなことを言ってくれたエニシアだけど、いや、と俺は苦笑半ばに返した。
「多分これは、いつだって俺のことを応援してくれてるひとが傍にいるからかな。俺一人だったらもっと弱気になっちまってたかも?」
「弱気なライかぁ……想像するのが難しいかも」
言ったなコイツ、と笑い合ってからふと思う。そういえば、前に言っていたエニシアの立場ってやつは何なんだろう。俺に笑顔でいて欲しいというエニシアだけど、そのエニシアは初めて会った時、泣いていた。エニシアの傍には、エニシアの笑顔を守ってくれるやつがいないんだろうか。
「なあ、エニシア。お前の傍にはそういう奴はいねーのかよ?」
「私の傍に……?うん、いる。いるよ。とっても大切で大事なひとが」
俺が知りたかったのはエニシアを守ってくれるやつがいるのかどうかだったけど、エニシアはどうやら別の意味で受け取ったらしい。私も、とややあって目を伏せながらエニシアは小さな声で呟いた。
「ねぇ、ライ。……私も強くなれるかな?私のことを助けてくれる大事なひとを、私も守ってあげられるようになれるのかな?」
自信なんてひとつも感じられない弱々しい声だったけど、俺の耳にはバッチリ届いた。いつも大人しいエニシアが初めて口にした願い事だ。大きく首を振って満面の笑みで頷き返すのに躊躇いなんて有るはずもない。
「もちろん!エニシアが本気でそう思うなら、いつかきっと!」
ありがとう、ライ、とほっとしたようにエニシアが笑う。互いの笑顔を見つめてますます顔を綻ばせる俺たちの間に、ただ穏やかな風が流れていった。
ミニスはいつだって最高に格好よくて可愛い。