「私の名前は、スイクン。この森の住民です」
スイクンと名乗るそのポケモンは和らげに微笑む。
それにしてもスイクン……うーん……。
「すまない……私には……」
ずっと野生として生きてきた私には世間的な知識はあまりないようだ。
なんだか申し訳なくなって頭を下げたが……。
「本当ですか!?嬉しいです……!」
なぜか嬉々としていた。
知られていない方が喜べるということなのだろうか。ならば、私と似ているところがあるな……。
私はあえて彼女のことは聞かないことにしておいた。
「ところで、貴女は私のことを知っているのですか?私を待っているようにも見えましたが……」
「ええ。私はここに誰かが来ることはわかっていたのです。それで、来た貴方がウインディというポケモンであることは、元々知っていた。それだけです」
「来ることを知っていた?なぜ貴方がそんなことを……」
「いえ、私だけでなくここに住んでいる方たち全員知っていました。ちょっとここには変わっている方がおりましてね……。その方が教えてくれるんです」
「はぁ……」
変わっている方とはいったい誰のことだろうか……。
考えれば考えるほど謎が増える場所だな……。
まさか、死後の世界なのか?
「ふふ、安心してください。ここは現実ですよ」
「なっ……なぜ私の考えを……?」
「顔に出やすいタイプなんですね、貴方って……」
スイクンはまるで子供を見たかのように微笑んだ。顔に出やすい……そういえば、家族にもよく言われたものだ。……家族……。
「ウインディさん。少し……いえ、だいぶ疲れてませんか?」
「え?ああ、まあ……」
「すみません、私としたことがお気遣いが出来なくて……。しばらくこの場でお休みしてはいかがですか?大丈夫、ここは安全ですから」
「……ああ。ありがとう」
気になるところは多々あるが、今は本当に疲労困憊な状態だ。ここで休みを取っても損はないだろう。
それに、なぜだかここは心を安らげられる。居心地が良くて、体を横にした途端、急激に瞼が重くなった。
…………。
聞こえるか……選ばれし者よ……。
……これは使命だ……。
救うのだ、世界を……仲間と共に……。
悪しき業を断ち切るのだ……。
さあ、創り変えよう……世界を……。
「……っ!」
はっと目が覚めた。先ほどまでオレンジ色だった空にはすっかり月が昇っていた。
今のは……夢なのだろうか。
選ばれし者とは、私のことか……?
私がぼーっとしていると、再びスイクンが現れた。
「あ、起きましたか。もう少し寝ていても良かったと思いますが……」
「ああ、いや……。急に目が覚めてしまってな。いいんだ」
「その様子……。ふふ、なるほど……」
なぜかスイクンは私の様子を見てクスリと笑った。どういうことなのだろうか……。
「ところでお腹空きませんか?」
「うーん……もう何日も何も食べていないからか逆に空腹という感覚を忘れてしまっているようだな……」
「そ、それ大変じゃないですか!」
さっきまでおしとやかだったスイクンが急に焦りだす。私自身もで口に出してから今の状態の危険さに改めて気づいてしまった……。
「今から向こうでここの住民たちと自己紹介交じりの食事をしようとしましたが……それどころじゃないですね。今すぐにでも何か食べていただかねば……!」
「い、いや、大丈夫だ。それよりほら、誰かと一緒に食べれば自然と口にすると思うし……」
「ほ、本当ですか?わかりました……。では、今すぐ向こうへ!」
スイクンは終始慌てた様子で通路を歩き始めた。……なんだか、彼女に似合わないが、少し可愛いな……。
「ここです」
スイクンが立ち止ると、狭い通路とは一転、広い草原が広がっていた。
ところどころに木があるものの、それでも非常に開放的であった。
そして、そこには住民と思われるポケモンが多く存在し――
「――っ!?に、人間……!?」
思わず声を漏らしてしまった。なんと、ポケモンしかいないと思っていたその場所には人間が2人いたのだ。その人間たちは小さなポケモンと一緒にいた。
やはりここも人間の縄張りの区域なのだろうか……。
私が人間を見つめていると、スイクンが優しく諭してくれた。
「疑う必要はありませんよ。彼らも私たちの立派な仲間。どうか信じてください」
「あ、ああ……」
スイクンの言い方は、どうも嘘には聞こえなかった。
彼女は私の様子を見て、また微笑んだ。
「では、参りましょうか」
スイクンはそう言い、住民らの元へ出た。
「皆さん、新たな仲間を連れてきましたよ!」
彼女がみんなにそう声をかけるや否や、色々な声があがりつつも迅速に食事の準備がされていった。どうやら食事は調理済みだが、私のことを待っていてくれたようだ。皆、私のことを必要としてくれているのだろうか……?
私はスイクンの隣に座った。一応、スイクン以外の者とはまだ距離を置いておくことにしたかったからだ。
周りの準備が終わると、1匹のポケモンが緊張気味に前に出てきた。オレンジ色の身体に浮き袋を巻いている。あのポケモン、水辺で見たことがあるな……。
「え、えと!きょ、今日、新しい仲間が増えたので、歓迎会を、ひ、開きましゅ!あう、噛んじゃった……」
ああ、そうだ。フローゼルだ。
そのフローゼルは緊張してか涙目になっていた。私どころか周りの半数以上のポケモンより小さいしまだ年齢も若いようだが……。何故彼が仕切っているのだろうか。
「え、えーと……。と、とにかくじこしょーかい!いつものように!まずは俺からだな……」
フローゼルは緊張を抑えるため、いったん深呼吸をしていた。
「スーハー……よし。えっと、俺はフローゼル!一応この森に一番長くいるからこうやって長をしてるんだ。その、ちょっと頼りないと思うけど、頑張るから、よろしく!」
この森のリーダー……。なるほど、それで仕切っているのか。なかなかの好青年で好感を持てるポケモンだ。
しかし、若い彼が一番長くいるとは一体どういうことなのだろうか……。まあ、それはいったん置いておいて他の住民の自己紹介を聞こう。
「次は俺か……。俺はレントラーだ。他に言うことはないな……。まあ、よろしく」
レントラー、無口でクールなポケモンだな……。悪い奴ではなさそうだが。
「俺はバクフーンだ。お前、炎タイプだよな……むぅ……!」
「……?」
次に紹介してくれたバクフーン。なぜか私を睨んできたが……。何か悪いことでもしてしまっただろうか……。
「ま、バクフーン。お前の気持ちもわかるが落ち着けって!あ、俺はボーマンダ。よろしくな!」
バクフーンを諭していたのはボーマンダ。顔は怖いがなかなか社交的だな。
バクフーンの気持ち……私にはわからんな。
彼の次に出てきたのはメスポケモンだった。
「私はオオタチ。困ったことがあったら何でも聞いてくださいね」
オオタチ。顔はまだ幼いがかなりしっかりしているようだ。
彼女の背中には小さなポケモンが乗っかっていた。
「ほら、デデンネ。あなたの番よ」
「はーい!私はデデンネ!新しいお友達がきっともっと楽しくなるよね!よろしくおねがいしまーす!」
デデンネ、あの人間たちと一緒にいたポケモンか……。子供らしいずいぶんと明るい性格だな。
次に前に出てきたあのポケモンは……確かチェリムだったか?いや、でも私が知ってるチェリムとは少し違うような……。あんなに青っぽい花びらだったか?
「あ、あの、私は、チェリムです……。で、でも、他のチェリムとはちょっと身体の色が違って……。はぅ……すみません!意味わからないですよね!」
花びらで顔を覆ているから表情はわからないが……少しネガティブなようだな。
「ふふ、チェリム。大丈夫ですよ、自虐的にならなくて。あ。改めまして、スイクンです。これから共に生活するわけですが、よろしくお願いしますね」
隣にいたスイクンは挨拶交じりにまた和らげに微笑む。うすうす感づいてはいたが、やはり私はここで生活するのか……。それが前提のように進んでいたから気づかなかったな……。まあ、あのままここにたどり着かねば死んでいたから良かったことなのか。
だが、気になるのは……。
「え、えーと……。つ、次!ミライとアヤノ!自己紹介!」
「はいはーい」
「わかりました……」
フローゼルが緊張気味に人間たちを呼ぶ。そう、気がかりなのは人間……。
「え?」
思わず声を上げてしまった。今のは会話……なのだろうか……?……え?
「えっと、十時未来でーす。未来って呼んでね。僕、ちょーっと特別でポケモンと会話できるんだー。ほら、僕の言ってることもわかるでしょ?まー、その理由は後々わかるから、今は気にしないでー。あは、これからよろしくねー!」
「え、え……?」
ここにきて心の整理がつかなくなった。人間と、私たちが喋れる?ど、どういうことだ?
私の心中を察してかスイクンがなだめてきた。
「まあ、こればかりは驚きを隠せないのも無理はありませんが……。ミライ君の言うとおり、そのうちわかる日が来ますので」
「は、はぁ……」
なんだか、スイクンの落ち着きようを見てると慌てるこっちが恥ずかしくなるな……。
「あの、そろそろいいですか?」
「え?あ、ああ……すまない……」
もう1人の人間が私に話しかけてくる。やはりこの子も話せるのか……。私より年下だろうが、声が委縮してしまう。
「私は鈴村綾乃です……。呼び方は綾乃でいいです。私も未来くんと同じであなたたちポケモンと話せます……。よろしくお願いします」
ずいぶんと物腰の柔らかい子だが……やはり今はまだ警戒してしまうな……。
「で、では!住民全員の紹介が終わったので、う、ウインディ!よろしくお願いします!」
最後は私か……。人間の一件でまだ心がもやもやしているが……。ここは落ち着いて。
「えっと……。私はウインディ。なんだかよくわからないがここで生活するようになってしまったようで……。今はよろしくお願いします」
心を乱さないため、極力人間の方を見ないようにしておいた。
「ふふ、素晴らしい挨拶です。貴方はこの住民でも年上のようなので、きっとみんなを引っ張っていける存在になるでしょう」
「私が?でも、今は……」
「今は知らないことが多いだけです。馴染めばきっと、みんな貴方を頼りにしてくれるはずです」
「そうか……」
確かに私は周り年齢が高いようだ。だが、今は不安が大きい。スイクンの言ってくれた通りになれるだろうか……。
私は1人悩んでいると、再びフローゼルが話し始めた。
「あ、ありがとうございました!今日は歓迎会なので、えと、い、いっぱい食べてください!い、以上です!」
「あは、フローゼル可愛いー!もう終始可愛い!」
「み、ミライ!可愛いって言うなもう!」
ミライと名乗った人間はフローゼルをからかっていた。本当に話せるのだな……。
それにポケモンたちとも仲が良いようだ。私もうまくやれるであろうか……。
「あ、ウインディ。とりあえず、今はフローゼルの言ったとおりたくさん食べてください」
「……ああ、ありがとう。スイクン」
いや、考えてるだけじゃ進まない。今はこの森のことをたくさん知って普通に生活できるようにしよう。そして、怪我が治った時には、家族を……取り戻すんだ。
スイクンは♀設定なのさ!