私は夕食を食べ終わり、森の者たちも解散したところで一人木の下に佇んでいた。
「結局食事中はスイクン以外と話せなかったな……」
心の中ではやはり警戒してしまっているのだろうか。なかなかあと一歩を踏み出すことが出来ずにいた。
固い人格だと思われなければいいんだが――
「こんばんはー!」
「わ!?」
突然後ろから誰かに話しかけられ、思わず大きな声を出してしまった。
相手に悪いことをしてしまったな……。
心を落ち着かせ、改めて相手の方を見る。
「あっ……」
反射神経で目をそらしてしまった。
そこにいたのは人間の……トトキミライ君だった。
どう見ても悪い人柄には見えないのだが、やはり人間という生物を心のどこかで否定してしまっている。
「あ、もしかして、僕のこと怖がってる?」
「わ、わかるのかい……?」
目をそらしつつそう答える。ああ、大きい図体して情けないな……。
「なんとなくねー。あは、そんなに怖がらなくてもいいんだよ?って言っても今は無理かなー」
「え、えーと……」
「あ、そうだ!ちょーっと待っててねー」
「え?」
ミライ君はそういうとどこかへ行ってしまった。
なんだか……すごく不思議な子だな。
私たちポケモンと会話することもできるし、それ以外にも普通じゃない何かを感じられる……。
私がミライ君について考えていると、すぐに戻ってきた。
が、今度は1人じゃなかった。
「ほらほら、こっちこっちー!」
「わ、わかってるって!」
彼が連れてきたのはこの森の長、フローゼルだった。
相変わらず彼は緊張気味だった。
「あ、改めまして!フローゼルです!」
「あ、ああ……」
私はぎこちなく返事をする。なぜミライ君は彼を連れてきたのだろうか……。
「人間とポケモンの比率が1:1じゃやりにくよねー。だからフローゼル!1:2ならちょっとはやりやすいかな?」
ミライ君は私の考えを知っていたかのようにそう言った。やっぱり不思議な子だ……。
「お、俺で話し相手になるのかな……」
「なるなるー。というか、フローゼルの方が緊張してどうするの!」
「うう……ちょっと大きくて怖いかも……」
「は、はは……」
怖い……か……。少し内心を傷つけられつつ苦笑いをする。
「あ、で、でも!」
「ん?何か言いたいことが……」
「あ、その……」
「……?」
「あはは、ごめんねー。この子ちょっと怖がりだから。でも、悪い子じゃないんだよ?」
ミライ君がそう言いながらフローゼルの頭を撫でる。フローゼル……本当にこの森の長なのだろうか?
「でも、頼りになりそうなポケモンが来てくれて良かったよー」
「? 頼りに……?」
「きっと、主力に――」
「み、ミライ!それはまだ早いって!!」
「あは、そうだったそうだった!」
頼りになる、とは何のことなのだろうか。
この森の謎が深まるばかりだ。
よくわからない2人の会話が終わったところで、ミライ君はなぜか私とフローゼルに視線を配った。そして、唐突に「さてと」と立ち上がった。
「そろそろ寝ようかなー。あ、寝るところについてはフローゼルに聞いてねー」
「あ、ああ……」
「あれ、でも寝るにはまだちょっと早い時間じゃ……」
「今日はちょっと眠くてねー。じゃ、ウインディ。次は2人で話せるようにしましょうね♪おやすみなさーい!」
ミライ君は最後にやんわりとほほ笑むと、隣の木のてっぺんからおりている木製のハシゴをつかんで昇って行った。どうやらツリーハウスになっているらしい。
結局ミライ君とはぎこちなく喋ることしかできなかったな……。もともと家族以外で人づきあいがなかった私だ。上手くやっていけるのだろうか……。
私は1人不安がっているとフローゼルが「あ、あの!」と緊張気味に話しかけてきた。
「あ、えーと……。寝床についてなんだけど……。その、寝やすいところで自由に寝て良いいから……」
「そうか、ありがとう」
「あ……ど、どういたしまして!」
緊張している彼を少しでも安心させようとにっこり笑う。私の顔を見たフローゼルは少し笑ってくれた。
私もその様子を見て安心するとフローゼルが「実はさ……」と話を切り出してくれた。
「俺、まだみんなのこと、よく知らないんだ……」
「え、そうなのかい?」
私はその言葉に驚いてしまう。
「実は俺だけじゃなくてみんなもここに集まってからあまり時間が経ってなくて……。ウインディもちょっと来るのが遅かったってだけで……」
「君は元々ここの森に棲んでいたわけでは……」
「実は違うんだ。みんな、ウインディみたいに気づいたらここにいたって感じだと思う……」
「そうなのか……」
あまりにも常識はずれしたこの森に頭が混乱しそうになるな……。
「フローゼルはどうしてこの森に?」
「え……?」
私がそう聞くと彼の顔から笑みが消えてしまった。
悪いことを聞いてしまったのだろうか……。
もしかして、私と同じようにつらい出来事があって……。
「すまない。今のはデリカシーがなかったな……」
私は即座に謝る。しかし、フローゼルは首を横に振って「ううん」と言った。
「大丈夫。話していいかな?俺がここに来た理由」
「いや、無理をしなくても……」
「なんだか話せそうなんだ。ウインディと一緒にいるとなんだか安心して……。不思議だな……」
フローゼルは柔らかく微笑む。
安心できる……。
その言葉を聞いて私は少しだけ嬉しくなった。
「少しだけ長くなっちゃうけど……。ここに来る前……。特にブイゼルだったころ。今もなんだけどさ……俺、すごく人見知りでずっとお母さんとお父さんにべったりで。水遊びをするときも家族みんなで遊んでたんだ。だから、お母さんたち以外とは話すことも出来なくて。当然友達なんていなかった。
そんなある日。すごく強い嵐が俺達の巣を襲ったんだ。その時に起きた大洪水で俺、流されちゃったんだ。それからずっと一人……。もう世界の終りかと思ったよ。でも、お母さん、お父さんにまた会いたくてずっと探し続けてた。それはもうフローゼルに進化するくらいに……。
どれだけ探しても見つからなくて、もう会えないのかなって思ったら涙が止まらなくなって……。泣きながら歩いてたらこの森に着いたんだ」
「…………」
やはり暗い過去があったのか……。
私は申し訳ない気持ちになってしまった。
「あ……。そ、そんな顔しないで!本当に、俺が話したかっただけだから……。あはは、なんだか全部話したらちょっとスッキリしたかな。この話をしたの、ウインディが初めてだから……」
「え、私が?」
「うん。ここに住んでるとどういうタイミングで伝えればいいかわからなくて……。でも、ウインディは身体もすっごく大きいし、俺より年上だし、ポカポカ暖かいし……。なんだかお父さんが近くにいるみたいなんだ……」
「……そうか」
私が父親みたいか……。私でも、フローゼルの父親の代わりになれるだろうか……。
なんて、まだ出会ってから一日しかたってないのに馴れ馴れしすぎるか。
それと、私は一つの疑問が浮かび上がった。
「フローゼルはここに来たのは一番最初なのだろう?そのときはどうしたんだい?」
「ああ、それはね。……あ、それはまだ言えないかな」
「言えない……?」
「うん。実はこの森、俺よりも上の存在がいるんだ」
「え?でも、君はこの森の長なんじゃ……」
「そうなんだけど……。まあ、管理人って言えばいいのかな。たまにしかここに来ないんだけど……。その管理人さんと一度話したことがないとこの情報は言えないんだ」
「そうなのか……。じゃあ、その管理人はいつ頃来るのかわかるのかい?」
「うーん、不定期だし俺も3回くらいしかあってないからあれだけど……。たぶん、ウインディがここに来たってことだから近々来てくれると思うよ」
「そうか。教えてくれてありがとう」
私がお礼を言うとフローゼルは少し照れたようなしぐさを取った。こうしてみると、本当に自分の子供みたいで可愛いな……。
「あ、でも言えることといえば……」
「ん、なんだい」
「ミライは絶対良い人だから!」
「え……?」
唐突にミライ君の名前が出てきた。なぜだろうか……。
その理由はすぐに分かった。
「ミライは俺がここに来た直後に来て、俺のこと……まあ少しからかうときがあるけど、ずっとそばで見守ってくれていて……。多分、俺とウインディを2人っきりにさせたのも俺に気を遣ってだと思う。きっと、ウインディになら喋れるだろうと思ってくれたんだと思う……」
「そうなのか……。しかし、すごいな。そこまで手配してくれて……」
「ミライ、すっごく頭が良くて。それに、なんだか他人の感情に敏感なところがあるらしいから……。だから、すっごく頼りになるんだ。ウインディはちょっとニンゲンのこと避けてるみたいだけど……でも、仲良くなってほしいんだ」
「……そうか、わかった。すぐには無理かもしれないけど、ちょっとずつ頑張っていくよ」
「うん!」
フローゼルは無邪気に笑う。最初はあんなに緊張していたのに、嬉しいな……。
彼は眠くなったのは「ふあぁ……」とあくびをした。
「そろそろ寝るかい?」
「うん。……なぁ、ウインディ。今日、一緒に寝ていいかな?まだ、ここに来てばかりで1人で寝るのは不安だと思うし……」
「大丈夫だよ。でも、気を遣ってくれてありがとう。うん、一緒に寝ようか」
「へへ……。じゃあ、ここでいいかな。ふあぁ……。おやすみ……」
「ああ。おやすみ」
私はフローゼルと隣同士で寝た。私の心に開いた穴を、フローゼルが埋めてくれた気がする。私もフローゼルの心の穴を埋められているだろうか……。
気になることはたくさんあるが……明日は何が待っているのだろうか。
絶望しかなかった日々に少しだけ、希望が見えてきた……。
「うん、ウインディとフローゼル仲良し大作戦成功。やっぱりあのウインディ、なんだか暖かいオーラがあって、あれだけ緊張していたフローゼルの心をすぐに開かせた……。これはもしかして……僕も期待していいのかな……」