「この道、まっすぐ進めば着きます……」
私はアヤノちゃんたちに連れられて今まで通せてもらえなかった通路を歩いていく。
とはいえ、周りの風景は特に変わってはいなかった。
一体何が待っているのだろうと少し興味がわいてきたところで、目的地へ着いたようだ。
最初に目に入った物は……。
「これが、錬金釜?」
フローゼルの高さと同じくらいの大きめの釜が置いてあった。蓋は閉じられており、一見すると特に変わった様子はなかった。
……が、私はすぐに錬金釜の周りにある透明な物体に気が付いた。
「このキラキラ輝いてる物は……?」
「それは結晶ですよ」
私の疑問に答えてくれたのはオオタチだった。
「これを素材として釜の中に入れるのです」
「釜に……?すると、どうなるんだい?」
「全く新しいものができるのです」
新しいもの?
私はパッとせず困惑した表情をする。
私の様子に気が付いたのか、フローゼルがフォローを入れてくれた。
「初めて聞かれたときはそうなっちゃうよな。えーと、じゃあ、ためしに何か作ってみよっか」
「その釜の様子もぜひ見せてほしいな」
私もすっかりこの森になじみ始めたのか、すんなりと要求できるようになりつつあった。
「じゃあ……お皿!最近、お皿足りない気がするからお皿作ろうか!アヤノ、お願い!」
「わかりました……」
アヤノちゃんは応答したかと思うとおもむろに結晶と取り握りしめた。
そして……。
「…………」
「なっ……!?」
アヤノちゃんの手が突然ひかり始めたのだ。
何事かと思わずその様子にくぎ付けになってしまう。
しばらくすると、光は消えていった。
アヤノちゃんが握りしめていた結晶は透明からほのかに桃色に色づいていた。
「アヤノちゃん、今一体……?」
「私の思念をこの結晶に送り込みました……。あとは、錬金釜に普通の結晶と一緒に入れるだけ……。思念の修正は釜が自動的に修復……だから、最終的に構造に問題はなくなります……」
「……ん?」
なんだか、突然よくわからない話になってしまい首を傾げてしまう。
どういうことなんだ……?
私は困惑しているとオオタチが助言を入れてくれた。
「簡単に言えば、アヤノちゃんやミライくんが想像したものを具現化することが出来るんです。まあ、なんでもというわけではないのですが……。これもディアルガたちの力でつくられたのですよ」
「なるほど、それはすごいな……」
「神がつくった物を扱えるのは神の力を持つ者のみ。だから、ディアルガ、パルキアの力をそれぞれ持つミライくんとアヤノちゃんにしか扱えないのです」
すごい……。
それではまるでミライくんとアヤノちゃんが神の子のようではないか。
「確かに、私も十時くんも神の子と言えなくもない……」
「あ……。アヤノちゃんにも私の考えがばれてしまうのか……」
いつの間にか錬金を開始していたアヤノちゃんに指摘されてしまう。
人間にも考え事を読み取られてしまうとは、いったい私はどれほど顔に出やすいのだろう……。
私は自分の悩みに苦悩しているとフローゼルが笑いながら何気なくつぶやく。
「ミライなんて2つの意味で神の子だもんなー」
「ん?フローゼル、それはどういうことだ?」
「え、ああ。それはミライに直接聞いた方が良いかもな。本人のことだし」
「はぁ……」
よくわからないが、後で聞いてみることにしよう。
「あ、錬金が終了したみたいですよ」
「本当か?」
「ええ。アヤノちゃん、お願いね」
「はい……」
アヤノちゃんはずっと握りしめていた本を地面にそっと置いて釜の蓋を開ける。
眩しいほどの白い光で一瞬目を瞑ってしまう。
アヤノちゃんも光がやむとすぐさま中の物を取り出す。
出てきた物は、みんなが使っていた物とほぼ同じ形をした、何の変哲もない普通のお皿だった。
しかし、本当に結晶がお皿が変わってしまったのだから私は驚いてしまう。
「ほ、本当に変わってしまったのか……。不思議だな……」
「ディアルガたちが来るたびに新た結晶を追加してくれるのですが、それまでは限りがあるのでむやみやたらには出来ないんですけどね」
「やりすぎ防止も出来ているというわけか。他にはどんなものを増やしているんだい?」
「主にミライくんやアヤノちゃんの服とかですね。あ、アヤノちゃんの本もこれで作ったんですよ」
オオタチが視線を移し、私もアヤノちゃんの本を見る。アヤノちゃんは再び本を抱きしめる。
「世界に一冊しかない小説……。とても、ユニークな内容……」
「内容まで構築されてしまうのかい?」
「そう……。世界中の面白い小説から内容を抽出、それを参考にしてつくられるらしい……。だから、どんな内容もはずれはない……」
「そ、そうなのか……」
相変わらずよくわからなくて頭がグルグルするため、考えないようにした。
アヤノちゃんが蓋を閉めて錬金を終了させたところでフローゼルがパンと手を叩く。
「はい!えーと、これで終わり!ど、どうだったかな?」
「とても興味深かったよ。見せてくれてありがとう」
「本当?良かった!」
フローゼルは笑顔で喜んでくれた。それにしても、私に対して随分と気さくに話してくれるようになった。
最初は怖がっていたのに……嬉しいな。
「えっと、じゃあ、あとは自由に行動していいよ!」
「ああ、ありがとう」
フローゼルの合図で解散となった。
私はさっきの会話で出てきたミライ君の元へ行くことにした。
広場へ戻ってミライ君を探す。
彼はバクフーン、ボーマンダと一緒に雑談をしていたため、すぐにミライ君は見つかった。
が、少し話しかけるのにためらってしまう。
(バクフーン……。また何か言われそうだな……)
会うたび会うたびなぜか罵倒してくるバクフーンが今では少し怖くなっていた。
で、でも、住民のみんなとは仲良くならなければならない……!
それに年下の子にビビるというのも情けない話だ。
私は心を落ち着かせて彼らの元へ向かった。
「や、やあ、こんにちは」
「あ、ウインディ!」
「お、ウインディ!」
少し緊張してしまったが、なんとか挨拶は出来た。
ミライ君とボーマンダは普通に挨拶をしてくれた。が……
「ちっ、ウインディか……」
案の定、バクフーンに睨まれてしまった。
また何か言われるのかと思わず構えてしまったが、意外なことにもその必要はなかった。
「あは、またバクフーンはツンツン、デレデレーしちゃって!」
「素直になろうぜ!ま、素直じゃないのがお前の個性かもしれんがな!!」
「う、うるさい!!それに少なくともデレデレはしてないっ!」
バクフーンは、ミライ君とボーマンダに弄られていた。
あれ、意外と弄られキャラなのか……?それにしても、なぜ私には素直じゃないのかいまだにわからないな。
ミライ君はひとしきりバクフーンを弄ったところで私に話しかけてきた。
「それで、どうしたの?」
「ああ、それはだな……」
私はフローゼルが言っていたことを話してみた。
「ああ、それねー。確かに、2つの意味で神の子って言えないこともないかもね」
「いったいどういう意味なのだ?」
「僕、ギフテッドなんだって」
「ギフテッド?」
初めて聞く言葉に首を傾げる。
ミライ君はその言葉の意味を淡々と話してくれた。
「いわゆる天才ってやつ?周りとなんか違うなーとは感じていたからわりと自覚はあった方かな」
「……というと?」
「まあ、この年齢にしてはよく勉強ができたって感じかな?単なる頭のいい人がギフテッドってわけではないみたいだから本当にギフテッドかどうかは疑わしいんだけどさ」
「……で、それがなぜ2つの意味に?」
「ギフテッドって神からの贈り物って意味なんだって!そして、ディアルガからという時の神から力を貰ったからね!」
「なるほど、そういうことか」
それにしてもミライくんが天才だったとは……。
そういえば、以前フローゼルがミライ君のことを「すごく頭がいい」と言っていたが……本当にそうだったのか。
しかし、天才といってもあまり実感がわくものではないな。確かに、ミライ君は周りとは少し変わってるとは思っていたが……。
ふと視線をミライ君に移してみると、なぜか私の方をじーっと見ていた。
「…………」
「ど、どうしたんだい?」
「いや、ウインディって前から思ってたけど、良い色してるよねー」
「い、良い色?」
「そう、その体色!スレート色の筋にカドミウムオレンジの身体!もっふもふなイエローフローライト色の毛も悪くないね!」
「え、えーと……。それは、色なのかい?」
「そうだよー。色っていろんな種類があって飽きないよねー」
「色が好きなんだな」
「そうそう。他のことにはあんまり興味持てないけど、色だけは追及したくなるんだよねー。それにしてもウインディの体色、本当にいいね!官能的って言うかー」
「か、官能的!?」
「あはは、冗談冗談!冗談って思っといてー」
知れば知るほど不思議な子だ……。これが天才の所以なのだろうか。
このことにはボーマンダも苦笑いしていた。
「実は俺も体色が良いってことで気に入られてるんだよな。中身より色で決めちゃうみたいでよ。中身で気に入られてるのはフローゼルくらいかもな!」
「そ、そうなのか……」
さっきの一面を見てしまった私は納得しそうになっていた。
しかし、意外なことにミライ君はそれを否定してきた。
「そんなことないよー。人もポケモンも中身は大事だと思ってるよ、本当に。ボーマンダの熱血なところもウインディの紳士的なところもバクフーンのツンデレなところもみんな違ってみんないいって感じでさ!」
「だから、俺はツンデレじゃないって!」
バクフーンはすかさずツッコんでいたが、ミライ君は華麗にスルーしていた。
「でも、ボーマンダの色が好きというのは事実かな。タヒチアンブルーに混ざるアクセント的なカドミウムレッド!僕ってカドミウムの色みたいなのが好きなのかな?あ、カドミウムって金属元素だよー」
「は、はぁ……」
残念ながら、私にはその名称を覚えるのは無理そうだった。
その後もしばらくミライ君のギフテッド話が続いた。ほとんど色の話でついていけなかったが……。
でも、ミライ君が楽しそうだったから良かったかな。
数日後――
「ウインディさーん、起きてー!」
今日もいつも通りデデンネさんが起こしに来てくれた。
「ああ……。おはよう。デデンネはいつも早起きだな」
「えへへ、偉いでしょー!」
「うん、偉い偉い」
喜ぶデデンネを見て私も思わず微笑む。……決してロリコンなどではないという事だけは言っておこう。
「ねえねえ、ウインディさん!今日はいつもより楽しそうなことが待ってる気がするね!」
「え、そうかい?」
デデンネはなんだか不思議なことを言っていた。そういえば、ディアルガとパルキアが来た時もそんなことを言っていたな。
もしかして……。
「また、誰かがやってくるとか?」
「うん、そうだよ!そんな気がするの!」
「でも……どうしてそんなことがわかるんだい?」
「電波がビビビって受信するの!」
「電波?……ああ、そういうことか」
デデンネはアンテナのようなひげで電波を受信したり放ったりできるらしい。
つまり……。
「誰かが来るときに電波がくるのかい?」
「うん、私にはよくわからないけど受信してるってことはそーいうことなんだと思う!」
まあ、私がいた世界とここは異次元らしいから、つなげるときになんらかの磁場が起きてもおかしくはないか。
誰かが来るという事は……ディアルガたちか、それとも……。
私は少しだけ楽しみになってきた。
広場に向かってみると、スイクンが私を待っていたかのように鎮座していた。
「あ、おはようございます」
「ああ、おはよう。どうしたんだ、そんなところで」
「私、今日は仕事があるのでせっかくだから内容を軽く話しておこうかと」
「仕事?」
スイクンには特別な役割でもあるのだろうか。
「今日、デデンネが異世界同士をつなぐ電波を受信したとの報告がありました」
「異次元……そんな難しいことは言ってないような」
「ふふ、デデンネの言う『楽しそうなこと』とはそういう事なのですよ」
「なるほど……」
「でも、ミライ君たちにはその情報は届いていない。つまり、ディアルガたちではない。つまり……」
「新しい……仲間?」
「ふふ、ご名答。私はその新しい仲間のお迎えに上がるという仕事があるのです。ほら、貴方を迎えたのも私でしたでしょう」
「ああ、そうだったな」
もうすぐあの日から一か月は経ちそうだが、私は今でも鮮明に覚えている。
私の人生を変えた、あの日のことは……。
「ですが、新しい仲間がいつ来るかまではわからないので私は入り口で待っていなければならないのです」
「なるほど……あ」
その言葉で私は驚くことに気が付いてしまった。
「私が初めてここに着いたときは夕方だった……。ということは……!?」
「ああ、朝から夕までずっと待ちっぱなしでした。なかなか来ないのであの日はさすがに不安になりましたね」
「す、すまないことをしたな……」
「いえ、あの日は貴方にとっても不可抗力のようなものでしたから罪は全くありませんよ。……では、そろそろ行ってきますね」
「ああ。早めに来るといいな」
スイクンは笑みだけ返すと広場を去って行った。
新しい仲間か……。
「ウインディさん!スイクンさんが帰ってくるまで一緒に遊ぼうよ!」
「ああ、そうだな」
スイクンには少し申し訳なかったが、私はデデンネたちと共に時間を過ごすことにした。
昼時過ぎ。
食後で少し眠くなってきたところで、スイクンは戻ってきた。
「皆さん、新たな仲間を連れてきましたよー!」
私をここに連れてきたときと同じ言葉だ。決まり文句なのだろうか。
私は身体を震わして身体を起こす。
声が聞こえてきた方向を見てみるとそこには。
私と同じ炎タイプ、ヘルガーと思われるポケモンが立っていた。