SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

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10話 亀裂

 情報屋《鼠のアルゴ》。

 

 凄腕の情報屋であり《アルゴの攻略本》の制作者として最前線を攻略するプレイヤーの生命線となっていると言っても過言では無い存在。

 

 だが、どんな情報でも売る事を信条にしているため、迂闊に話をしようものならいつの間にかあらゆる個人情報を抜き取られ商品にされかねないと言われる気の抜けない人物。…………そう、どんな情報(・・・・・)も商品となるのだ。

 

 非常に不味い。想像を絶する最悪さだ。

 

 娯楽に飢えたSAOでトッププレイヤー二名が女の子を宿に連れ込んだなんてスキャンダルが表沙汰になれば格好の話のネタになるだろう。そんな事があった日にはもうオレンジプレイヤーみたいに何処かのダンジョンの安全地帯でひっそりと生きていくしか道は無い。

 

「へ、へえー、あのアルゴさんですか。あ、俺アシュロンって言います。あなたの本いつも読ませていただいています」

 

「知ってるヨ。ディアベルのパーティーに所属してる両手剣使いのアシュロンだロ。オレっちにはそんなに堅苦しく話さなくても良いゾ」

 

 流石は情報屋と言うべきか俺の事もしっかり知っているみたいだ。…………この状況ではいっそ名も無い一般プレイヤーであった方が有り難かったのだが。

 

「それで、クライアントに頼まれたって事はもしかしてまた例の交渉か?」

 

「あア、そのもしかしてなんだガ…………」

 

 アルゴはそこで言葉を切ると俺の方をチラリと見る。

 

「ああ、俺邪魔かな? それだったらしばらく部屋の外で待ってるけど」

 

「いや、大丈夫だ。アルゴも気にせず話を続けてくれ」

 

「ん〜……ンン〜〜……まァ、キー坊がそう言うなら良いけどヨ。…………そんジャ、本題ダ。キー坊のその剣、今日中なら、三万九千八百コル出すそーダ」

 

「…………さ…………」

 

「サンキュッパとかマジで!? その剣ってアニールブレードだろ、一体何したらそんな値段が着くんだよ? まさか、もう極限まで強化成功させてたりするのか?」

 

「いや、まだ+6までしか強化はしてない。これ位ならちょっと時間は掛かるけど四万なんて金を払わなくてもほぼ確実に同じ様な剣を作れる筈だ」

 

「オレっちも依頼人に同じ事言ったんだけどヨ、それでも譲って欲しいの一点張りダ」

 

 アニールブレードはクエストでしか手に入らない代物であり第一層で手に入る片手剣の中で一番の性能をしている武器ではあるが、そんな法外な金を払わなくても買う事は可能だ。

 

 それが分かっていても買おうとするなど別の目的があるとしか思えない。

 

「…………アルゴ、あんたのクライアントの名前に千五百コル出す。それ以上積み返すか、先方に確認してくれ」

 

「…………分かっタ」

 

 アルゴはウインドウを開くと指先が霞む程の速さでタイピングをしてクライアント当てにインスタント・メッセージを飛ばす。そして、一分程してクライアントから送られた返信を告げる。どうやら公開される運びらしい。

 

「依頼人の名前はキバオウ。今日の会議で大暴れしたからキー坊も知ってるだろうシ、何なラ、そちらのアシュロン君はパーティーを組んでるヨナ」

 

「キバオウさんが…………?」

 

 身近な人物の名前が出てきて思わず聞き返してしまう。

 

 キバオウが使っている剣はアニールブレードではないが、それでもそこそこ良い性能をしている物を持っているし、つい最近その武器を強化したばかりであるため態々高い金を払って買う必要も買う余裕だって無い筈だ。

 

 そうすると、アニールブレードを手に入れるのが目的ではなくキリトから(・・・・・)武器を取り上げるのが目的か?

 

 キバオウはベータテスターを憎んでいる。そして恐らく…………キリトはベータテスターだ。

 

 ほんの少し共闘しただけでも分かる程に他のプレイヤーとは隔絶した戦闘センスに加えてソロでも生きていける知識と度胸。これで初心者は流石に無理があるだろうが…………結局それも憶測でしかない。

 

 キバオウは確かに短慮な所はあるが、だからといって根拠も無いのにキリトをいきなりベータテスターだと決めつける事はしないだろう。

 

 そして何より大金を払ってまで邪魔をするのが分からない。期限が今日までという事は明日のボス戦でキリトの邪魔をするのが狙いなのだろうが、キバオウがそこまでしなければならない理由は無い筈だ。

 

 そうなると、キリトがベータテスターだと知っていて、邪魔をする事で得をする誰かがキバオウに頼んでいるとしか思えないが、そんな奴に心当たりは──────

 

「……………………あっ」

 

 ………………… いた(・・)

 

 呼吸が止まる。筋は通っている。だが、信じられない。信じたくない。

 

 それでもこの瞬間、まるで答え合わせでもする様に今まで意識していなかった小さな違和感すらもパズルみたいに噛み合っていくのを感じた。

 

「…………とりあえず剣の取引は不成立って事ダナ。そんジャ、オレっちはこれで失礼するケド、帰る前に隣の部屋借りるゾ。夜装備に着替えたいカラ」

 

「ああ…………って、ちょっと待った!!」

 

「へ?……………わあアッ!!」

 

「きゃあああああああ!!」

 

 キリト達がやけに騒がしい。こちらはそれ所じゃないのにと苛つきながら顔を上げると視界に少し赤みが掛かった肌色が入ってきた。

 

 ……………………そういえば、アスナが風呂に入ってたな。

 

「こっち見ないでっ!!」

 

「アダッ!!」

 

 思い出した瞬間、勢いよく投げつけられた香料の小瓶が顔面にヒットする。俺を打ち取るとは、きっとアスナは良いピッチャーになるだろう。

 

 

 

 

 

     ----------------

 

 

 

 

 

『アシュロン、今良いかな? 少し話したいことがあるんだ』

 

 キリト達と別れた後、部屋の中で自身の推理を永遠と考えていると突然控えめなノックと共にドア越しにディアベルの声がした。

 

「…………分かった。今開けるよ」

 

 今泊まっている部屋はアスナが憤慨していたオンボロ宿屋そのものであり、とても手狭な上に椅子も一つしか無い。そのため、そちらをお客様に勧めて俺はベッドの縁に座る。硬いベッドが椅子として使用すると丁度良いというのは中々皮肉が効いている。

 

 ディアベルは椅子に座るとストレージの中からワインとチーズを取り出した。

 

「祝杯にはちょっと早すぎるんじゃねぇか?」

 

「ボス戦後の打ち上げの前に少しでも君のお腹を満たしておきたくてね。じゃないと、明日稼いだコルが全部無くなってしまいそうだからさ」

 

「流石に俺だってそこまで食えねぇよ」

 

 そんな軽い冗談から入り、いつも通りの調子でお喋りが出来た。

 

 ディアベル達の方では明日のボス戦に向けてレイドの連携の練習をしていたが、リンドが張り切り過ぎてパーティーの歩調が揃わなかったり、長物部隊が盾部隊の背中を突いてしまい危うく乱闘になりかけたりとアクシデントがあったらしい。それでも最後はしっかりと形にした辺りやはりディアベルは優秀な指揮官なのだろう。

 

 俺もキリトの部屋での出来事を話すと案の定大笑いされた。

 

「そっちは随分と面白いことになってたんだな。記録結晶で撮っておけば良かったのに」

 

「こっちは笑い事じゃねぇよ。お陰で明日はちゃんとパーティーとして機能するかも怪しいんだぜ。幾らオミソだからってボス戦で何も出来ないんじゃキバオウさん辺りにでもドヤされちまうよ」

 

 気軽な発言だったが、どうやら気にしているワードがあったためかディアベルは笑顔を引っ込めて少し躊躇うと急に真面目な顔をする。

 

「…………アシュロン、聴いて欲しい。君をサポート部隊に回したのは決して君の力が他より劣っていたからじゃない。寧ろオレは君の事を一番に信頼しているからだ。君にはそこで─────」

 

「キリトがボスのLAを取ろうとしたなら、それを阻止しろって言いたいのか?」

 

 自分でも驚く程冷たい声が出てしまった。

 

「…………そうか、気付いていたのか」

 

「最初は俺も分からなかったけど、キバオウさんがキリトの剣を買おうとしていた事で何となく察したよ。…………流石に露骨すぎたぜ、ディアベル」

 

 そう、全部ディアベルが仕組んだ事だとしたら辻褄が合う。

 

 あり得ない程の高値で剣を買おうとしたのはボスのLAをキリトに奪われない様にするためだが、そこまでしても確実に狙う事が出来るのはリーダーとして全体を指揮できるディアベル以外にはいない。

 

 攻略会議の場でベータテスターが初心者のために情報を公開しているという証拠があるのにキバオウがテスターへの非難をするのを最後まで止めなかったのは多分彼に交渉をしてもらう交換条件だったからだろう。

 

 更に、パーティー編成を出来る立場でありながら一番の戦力になる筈のキリトを本陣に加えなかったのは寧ろそうする事でボスに最後まで触る機会を与えないためだ。

 

 そして、万が一キリトが黒幕の正体と目的に気が付いたとしても……………否、気が付けばこそディアベルの仲間である俺の存在によって動く事が出来なくなる。

 

 正に完璧な策略だ。これでLAのボーナスは間違いなくディアベルのものになるに違いない。

 

 ………………信じたくなかった。ディアベルは心から信頼できる友達で、俺を部活から追い出すために嫌がらせをしてきた野球部の連中とは違うのだと思いたかった。

 

「………………君は知らないかもしれないけど、フロアボスのラストアタックボーナスは一度しか手に入らない特別品だ。それを入手することでオレはトッププレイヤーたちをまとめ上げるリーダーとして完成する。私利私欲のためじゃない。これは今後の攻略を左右する絶対に必要なことなんだ」

 

「だからって、ここまでやらなきゃいけなかったのか? …………こんな手段を使って、お前は楽しいのかよ!?」

 

 俺の叫びにディアベルは表情を崩す。…………初めて、ディアベルは憤怒の表情を見せる。

 

「楽しいだって!? 本気で言っているのかアシュロン!? 自分のだけじゃない、ここでは大勢の命が掛かっているんだぞ!! やるべき事をやらないで、そのせいで人が死んだらどうするつもりだ!?」

 

「だからって誰かを陥れる様な真似をして、やりたくない事を我慢して、そうやってこの先ずっと苦しんでいくつもりなのか!? 俺はそんなの嫌だ!! 楽しめないなら、この世界に来た意味がないっ!!」

 

 大好きだった野球から逃げだして、それからの空虚な時間は苦痛だった。

 

 時間は酷くゆっくり進むのに気が付いたら一日が終わってしまう。何のために生きているのかも分からず、ただ無意味な事を繰り返して生活していく。

 

 それが耐えられなかったから、夢中になれるものを探して世界初のVR MMO RPG《ソードアート・オンライン》に手を伸ばした。

 

 ………………楽しかった。何度も死にそうになって、怖い事も沢山あったけど、それでも信頼できる仲間と一緒にする冒険は心が踊った。

 

 それも全部ディアベルのお陰だから。………………ディアベルは俺にとってこの厳しくて楽しい世界の象徴だから、汚い手段なんか取って欲しくない。

 

「…………俺はお前の考えに賛同出来ない」

 

「………………そうか。良く分かったよ。君はオレとは違う。君は天才でオレは凡人だ。誰かを蹴落としてでも一番になりたいって気持ちは理解出来ないのも無理はない」

 

 ディアベルは立ち上がると振り返る事もせずにドアの方へと向かう。そして、出ていく瞬間に最後に一言呟いた。

 

「…………それでも君は、君だけはオレの味方になってくれるって信じたかった。

 

………………だって、君はオレの相棒だから」

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