SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略! 作:封魔妖スーパー・クズトレイン
十二月四日、日曜日、第一層フロアボス攻略当日。
昨晩のやり取りが尾を引いてしまい、殆ど睡眠を取る事が出来ずに朝を迎えてしまったため、現在寝不足でふらふらの状態で迷宮区までの行軍をしている。
正直今すぐに宿に戻って、あの硬いベッドに寝転んで眠ってしまいたい。どうせ俺のお役目は雑魚狩りだ。俺一人いなくなったってキリトが問題無く倒してくれるだろうし、…………ディアベルはボスのLAを問題無く取れるだろう。
「───ロン! 聞いてるのか、アシュロン!」
「えっ? ああ、悪い。ボーっとしてた」
「どうしたんだ? もうすぐボス戦なのに、随分と気が抜けてるじゃないか?」
キリトが訝しげに眉をひそめる。
昨日ディアベルの考えには賛同出来ないと言ったは良いものの、結果的に今こうしてキリトとパーティーを組んでいる事であいつの思惑通りになってしまっている。
その事実が申し訳なくて思わずそっぽを向いてしまう。
「別に。何でもねえよ」
「嘘。あなた、あのディアベルって人と何かあったんでしょ? 昨日は最前列に座って、あの人の演説を囃し立てたりもしていたのに、今日は顔を見ようともしないじゃない」
「何だ? もしかして、やっぱり取り巻きの相手をするのが嫌だったから喧嘩でもしたのか?」
「ち、違えよ! ………………まあ、その、なんだ。音楽性の違いみたいなやつだ」
「はあ〜…………どうして喧嘩したのか話してみなさい。ずっとうじうじされても迷惑だわ」
「いや、別に相談とか良いよ。これは俺とあいつの問題でお前達に態々話す様な事じゃ───」
「い・い・か・ら!!」
ずいっと詰め寄ってくるアスナの気迫にたじろいでしまう。
こいつこんな奴だったのか?
近づいてきた人間には誰彼構わず噛みついてきていた昨日までとはまるで別人だ。風呂に入ってリラックスしたから態度も軟化したのだろうか?
…………ただ、アスナの言う通り、確かにこのままだと本番でどんなヘマをやらかすか分ったものではない。この際だ、知られるとやばい所はなるべくボカすとして、相談に乗ってもらった方が良いかもしれない。
「…………昨日さ、あいつが色々汚い手を使ってるって事を偶然知っちまってよ。それが無性に許せなくて。やめろって言ったけど、ディアベルは絶対に必要な事だからって聞いてくれなくて、それで喧嘩になっちまったんだ」
ラストアタックボーナスの獲得はリーダーとしてトッププレイヤーをまとめ上げるためには必要な事だとあいつなりに考えた結果なのだろうし、それに対してディアベルには清廉潔白であって欲しいなんて気持ちは単なるエゴの押し付けだ。
そう分かっているのに、誰かを出し抜こうとする今のディアベルを見ていると、まるで自分の方が裏切られたみたいな気分になってしまう。
「………………ディアベルとはこのゲームが開始した時からつるんでいて、あいつの事本当に尊敬してた筈なのに、実は俺がリアルの方で嫌いだった奴らと変わらないんじゃないかって思えてきて、そうしたら、この先また一緒にやっていけるのか自信が無くなっちまったんだ」
今まで楽しくやってきたのに、またディアベルと一緒に肩を並べて戦いたいのに…………あいつの笑顔が信じられなくなっている。
「…………ぷ、くく」
「…………ふふ、ふ」
「っ!? な、なに笑ってんだよ!?」
「わ、悪い。ただ、昨日彼女から同じ様な相談を受けたばかりだったから、つい可笑しくなってな」
「ええ、…………わたしもここに来る前にベータテスターだった友達に見捨てられちゃって、その子のことを信じられなくなってたの。だけど、そのことを昨日彼に話したらこう教えてくれた。『SAOは普通のゲームじゃない、命が掛かっている。でも、そんな状況で現れるのが人間の本性だとは限らない。何気ない普段の姿こそ、その人の真実なんじゃないか? 彼女がどんな人物なのか、それは君が知ってるはずだ』って」
「普段の姿こそ真実…………」
そう呟きながら、これまでの旅を思い出す。
…………ディアベルはかなり情に脆かった。
アニールブレードを入手するクエストには病気の少女が出てくるが、あいつは相手がNPCであるにも関わらず元気になる様にと頭を撫でてやっていた。
…………ディアベルはノリが良かった。
トールバーナーに到着した記念の宴会では夜通しパーティーメンバーと馬鹿騒ぎをしていた。
…………ディアベルは負けず嫌いだった。
大食い大会を開いた時には最後まで俺と張り合った挙げ句、最後には盛大にぶっ倒れてしまっていた。
リーダーの仮面を脱いだあいつは何処にでもいる気の良い奴で、だからこそこれまでの旅は楽しかった。
「わたしはその友達のこと、また信じてみようと思うの。だって、その子は本当はとても優しい子で、その子と一緒にいた時間は本当に楽しかったから」
そう言ってアスナはフード越しからでも分かる位に朗らかな笑みを浮かべる。
ようやく合点がいった。昨日までのアスナは友達に裏切られたから誰も信じる事が出来ずに周囲と壁を作っていた。
たが、その事をキリトに相談した事で解決し、俺の悩みに気付いてくれる今みたいな…………多分、本来の彼女になる事が出来たのだろう。
だからこそ────
「…………アスナは強いな」
信頼していた友達に裏切られた心の傷を長い間一人で背負いながら生き抜き、そしてまた信じようとする。そんなアスナの事を尊敬してしまう。
「別にそんなことないわ。…………ちょっと待って、今わたしの名前───」
「全員、ここで止まってくれ!」
アスナが何か言いかけた時、丁度一番前を歩いていたディアベルから指示が飛んできた。
前方を見れば恐ろしげなコボルドのレリーフがされた扉がある。どうやら、話に夢中になっている間にダンジョンの最深部にまで来てしまっていたらしい。
ディアベルはレイドメンバーの方を向くと高々と剣を掲げてみせる。その姿に、はじまりの街の小さな広場で勇者として全てのプレイヤーを救ってみせると誓った時の事を思い出す。
「───行くぞ!」
短くそう告げると、青いロングヘアをなびかせて背を向け、重厚な扉をゆっくりと押し開く。
あの日から変わってしまった事も沢山あったけど…………それでも、俺はやっぱりディアベルの事を信じたい。
「ありがとな二人とも。俺このボス戦が終わったらもう一度ディアベルと話してみるよ」
「そうか。あのナイト様がどんな汚い事してるか知らないけど、まだ第一層だ。多少の罪なら許されるくらいどんどん活躍してもらおうぜ」
「まあ、その多少の罪の被害者がお前なんだけどな」
「はあ!? おい、ちょっと待て、それどういう意味だ!?」
怒鳴るキリトを置いて開かれた扉からボス部屋に駆け込む。こんな所でぐずぐずしていられない。早く終わらせて、またディアベルと冒険がしたいのだ。
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レイドメンバー全員がボス部屋に入った瞬間、背後の扉が勢いよく閉まり、それと同時に壁が不思議な色に輝き出し部屋全体が明るく照らされる。その演出がゲームのボス戦らしくて、悔しいが少しだけ感動してしまった。
部屋の奥にある粗雑かつ巨大な玉座に座るこの部屋の主は自身を打ち取ろうとする不届者達をその赤金色をした鋭い目で睨みつけると、その巨体からは信じられないくらい高く飛び上がり、部屋全体を揺らす程の轟音と共にプレイヤー達の近くに着地する。
第一層フロアボス《イルファング・ザ・コボルドロード》。
俺達が越えなければならない最初の強敵、始まりの階層に君臨するコボルド族の王は己の強大さを示すかの様に大きく吠えた。
「全軍、突撃!!」
ディアベルの指示と共にこちらも負けじと大声を上げて走り出す。
コボルドロードの周囲には情報通り、取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》が現れる。その数三体。どいつも硬そうな兜と鎧を身に纏い、手には片手斧や長柄斧を持っている。
こいつらの相手がキバオウ率いるE隊と長柄物装備のG隊、そして俺達オミソ部隊の役目だ。
「アシュロン、作戦通りに頼む!」
「おうよ!」
作戦は至ってシンプル。俺かキリトが敵の姿勢を崩し、その隙にアスナがとどめを刺す。以上。
長柄斧を持ったセンチネルが勢いよく飛びかかると、俺に目掛けて両手斧ソードスキル《ヴァイオレント・スパイク》を放つ。顔面に向けて振り下ろされる一撃は中々の恐ろしさがあるが、レベルによる筋力差と地面を踏み締めているという点で俺の方が有利だ。
「うおおぉぉぉぉぉ!!」
《サイクロン》による迎撃を放つと刃同士がぶつかり合う鋭い音が響く。
そのまま力任せに押し返すとセンチネルはまるでボールの様にゴロゴロと転がり、勢いが止まった瞬間にはアスナが喉元に《リニアー》を撃ってHPを削り切る。
「飛ばし過ぎよ! もっと加減して!!」
「す、すまねえ…………」
謝罪をしつつ、先程のアスナの一撃に舌を巻く。いとも簡単にやってのけていたが、あの姿勢の相手の喉元に正確に攻撃が出来るとは凄まじい技量だ。
とりあえずセンチネルを始末出来たので前方を見ると、本陣はボスコボルドに対して有利に立ち回っている。戦斧による攻撃は情報通りであり、それに対してディアベルは的確に指示を送り、攻撃、防御、部隊の入れ替えをまるで一つの生き物みたいに見事に動かしている。
それに対してキバオウ達の部隊はというと、どうやら二体のセンチネルの素早い動きに手を焼いているらしく、負傷者は出ていないまでも決定打に欠けている様子だ。
「キバオウさん、こっち終わったから一匹くれ!」
「…………フン、まあ、ええやろ。好きに持ってけ!」
お言葉に甘えて片手斧を装備しているセンチネルに《ブラスト》を仕掛ける。上手く不意を突けたと思ったのだが、小柄なコボルドは剣をひらりとかわすとソードスキルではなく通常の攻撃で切り付けてきた。
「アシュロン、スイッチだ!」
「わ、分かった」
慌てて飛び退けば、後ろから来たキリトが無駄の無い最適化された一撃で武器を弾き、そこから更にアスナが仕掛け、哀れなコボルドは見事に瞬殺されてしまった。
キリトと言い、アスナと言い、このあぶれ者達強すぎやしないか?
「ほら、次来るわよ。早く回復して!」
末恐ろしさを感じている暇も無くアスナの催促され、慌ててポーションを一気飲みした。