SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略! 作:封魔妖スーパー・クズトレイン
コボルドロードとの戦闘は壁役のパーティーが何度かHPを半減させた程度で危なげなく事は運んでいる。ここまで上手くいっている理由は指揮官の采配が良いのもあるが、何よりレイド全体の平均レベルが攻略本に記載されていた推奨レベルより遥かに高いからだろう。
例えボスの攻撃をモロに喰らってしまったとしても、HPが
そして、俺達雑魚狩り部隊に至ってはキリトとアスナのコンビが鬼の様にセンチネルを刈り取って行ったため現在手持ち無沙汰だ。
護衛兵というだけあって当初想定していたより遥かに厄介な敵ではあったが、二人がそれを上回るレベルで無双してくれたお陰で奇しくもパーティー編成時に宣言した通りディアベルの活躍を傍観してしまっている。
そんな俺の背後からドスドスと聞き覚えのある喧しい足音が聞こえてきた。
「おいアシュロン、…………あいつらと随分仲良うしとるけど、まさかジブンの役目忘れた訳じゃないやろうな?」
「役目? センチネルの討伐なら結構頑張っていると思うけど」
「アホウ、そっちやない! ジブンの仕事はあのテスター坊主の見張りやろうが!」
「…………キバオウさん。ディアベルから聴いてないのか? 俺はそうやって誰かを攻撃しようって考えには反対なんだ」
「ああ、聴いたで! ディアベルはんが随分辛そうに教えてくれたわ! けどな、お前は騙されとる! あいつはベータ上がりの奴らの中でも一際小狡い奴や! 今回もきっとベータん時と同じ様にボスのLAを盗み取る腹積りやろ! そうして、わいらの事なんか何も考えずにジブンだけぽんぽん強なろうとしてるに決まっとる!」
………………やっぱり、キバオウは律儀な奴だ。
ディアベルの計画に反発してキリト達と仲良くしている時点で裏切り者と揶揄されても仕方ない筈なのに、それなのに態々こうして説得しに来てくれるのだ。
パーティーを組んでいた時だって、粗暴な態度を取りながらも他のメンバーの事を気に掛けていたりと意外と面倒見が良い所があるし、これで後はもう少し融通が効く様になってくれれば言う事ないんだけどな。
「…………分かった。もしキリトが自分勝手な事をしようとしたら、その時は出来る限り説得してみるよ」
「ほ、本当か!?」
キバオウが表情を和らげる。
ディアベルやキバオウは警戒しているけど、俺としてはキリトが自分本位な行動を取るとは思えない。
まだ遊びだった頃は強くなるために悪どい事をしていたのかもしれないが、今のSAOはベータテストの時とは違い最早もう一つの現実だ。そんな中で俺やアスナの悩みに真摯になってくれたあいつなら信頼しても良いだろう。
「だけど、代わりにひとつお願いがある。ベータテスターだとか以前の行いとか、そういうのを抜きにしてキリトの事を見てやって欲しいんだ」
「あいつをやと…………?」
今の俺がキリトにしてやれる事なんて、多分こうやって少しでも偏見を無くしていく事くらいだろう。だが、このゲームはどんなに強いプレイヤーであってもたった一人でクリアは目指せない。
それなら、一人でも多くの仲間を増やす事の方がフロアボスが落とすレアアイテムよりもきっと役に立ってくれる筈だ。
「よし! 残り一本! みんな後もう一踏ん張りだ!」
気が付けばボス戦は既に終盤に入っている。ディアベルの言葉に周囲から、おおっしゃ! という様な歓声が弾けた。
「ウグルゥオオオオオオオーーーッ!!」
追い詰められたコボルド王は怒りに任せて戦斧と盾を壁に投げつけて破壊すると、遂に腰に刺していた得物を抜いた。
そして、それと同時に取り巻きコボルドもこれまで通り三匹出現する。
「…………まあ、そこまで言うなら考えといてやるが信用するかはあいつ次第や。せいぜい雑魚コボ狩って役に立ちいや」
そう告げると、キバオウはE隊の仲間の元へと走って行った。
ウカウカしていられない。俺も新しく湧いたセンチネルの討伐のため少し離れた所にいるキリト達に急いで合流する。
「何を話してたの?」
「ん? ああ、いや、後もう少しで勝てそうだし、お互い頑張ろうぜってな」
「あのキバオウとか? 冗談だろ…………?」
どうやらキリトはもうキバオウに苦手意識を持ってしまったらしい。これはもしかすると仲直りするまでかなり骨が折れるかもしれない。
「C隊は俺に続いてボスを包囲! 他の部隊は距離を取って有事の事態に備えてくれ!」
ディアベルが全隊に指示を飛ばす。
ボスが使用するソードスキルは既に周知されており、その中に複数人に対して攻撃できるスキルは無い。そのため一つのパーティーで囲って戦うのが最適であるのは事実だが、その真意は別にある。
…………とうとう仕掛けていくのか、ディアベル。
その行為にはやっぱり思う所はあるけど、それでも今はあいつの戦いを見届けよう。そして、無事ボスを仕留めた時には『流石は俺達のリーダーだ。次の攻略も頼りにしてるぜ』と言ってやるのだ。
陣形が完成すると同時にディアベルはボスに向けてソードスキルの一撃を繰り出す。剣から発せられたライトエフェクトに照らされて青髪が更に鮮やかに煌めいていた。
「だ……だめだ、下がれ!! 全力で後ろに跳べえぇぇぇーッ!!」
「キリト、お前急に何言って───っ!?」
驚いてキリトの方を向いてしまった瞬間、イルファングの唸り声、複数人の呻き声、刃が複数のアバターを切り裂く鋭い音が部屋中に響き渡る。それと同時にC隊の…………ディアベルを含む六人のHPが一瞬で半分以上削られた。
「……………………は?」
前方ではコボルド王の周りには奴を包囲していたC隊が力無く倒れていて、その身体には一文字の切り傷が血の様に赤い光を発している。そして、六人の頭上には回転する黄色い光───スタンの表示がされている。
どういう事だ? ボスがそんな攻撃をしてくるなんて情報に無かった。いや、そもそもこんな出鱈目なソードスキルは曲刀には無い筈だ。
………………いや、違う。コボルドロードが持っているのは曲刀じゃない。細く、ゆるく反った、鋼鉄特有の輝きを放つ武器。
俺でも分かる。
『明らかにベータテスターを狙った罠がある』
実際にコボルド村で痛い目に合ったのだ。俺もディアベルもそんな事、百も承知だった。
だが、フロアボスのLAを取り合う事に夢中になりすぎる余り…………そして、多分俺との衝突で余裕を無くしてしまったためにディアベルは変更点への警戒を忘れて勝負を急ぎすぎてしまっていた。
「追撃が…………!」
キリトが乾いた声で叫ぶ。その声にエギル以下数名のプレイヤーが我に返り援護へと急ぐが距離が開き過ぎてしまっていて間に合わない。
コボルドの王は獰猛に笑う。
両手に握った刀に再び光を纏わせると、凄まじいスピードで攻撃を開始する。標的は───ディアベルだ。
「…………やめろ…………」
恐怖で凍り付いてしまった身体から漏れ出した言葉は無情にも何の意味もなさない。
床すれすれの軌道から放たれた斬り上げによってディアベルの身体がまるで風に巻き上げられた木の葉の様に高く宙に浮く。そこから更にボスの刀が赤く輝くとソードスキルが襲いかかる。
ズヴァァン──
振り上げた状態から斬り下ろす一撃目、
ズヴァァン──
そこから再度斬り上げる二撃目、
最後に刀を真っ直ぐに構え直し、一拍溜めてから放たれる強烈な三撃目、
ズガァァン──
「ぐあぁっ……!!」
連続で放たれた斬撃はその全てがクリティカルヒットだった。重いソードスキルをモロに喰らったディアベルは勢いよく吹っ飛ばされ、レイドメンバーの頭上を超えて俺達の近くにある石の柱に叩き付けられる。
「…………デ、ディアベルッ!!」
ようやく金縛りが溶けた足を全力で動かしてディアベルの元へと向かう。その間にもあいつのHPは今まで見た事も無い速さでドンドンと削れていく。もうセンチネルの存在に構っている余裕は無い。
──嘘だ。ディアベルが死ぬ筈が無い。だって、あいつは勇者で、俺が騎士で、二人で一緒にこのゲームをクリアするって約束したのに…………。
何とかディアベルの元に辿り着き、倒れている彼の上半身を起こし、ポーションを取り出す。急がねばならない時に限って震えて言う事を聞かない左腕が切り落としてしまいたい程恨めしい。
──ボス戦が終わったら仲直りするつもりだったのに…………。
やっとの事で掴んだポーションを口元へ運ぼうとした時───その腕をディアベルが止める。その表情には儚い笑顔が浮かんでいた。
「ディアベルッ!!」
背後からキリトの声がする。ディアベルはそちらを見ると口を小さく開き、か細い声を漏らす。
「…………キリトさん、後は頼む。
…………アシュロン…………ごめん────」
最後まで言い終える事なく…………ディアベルはその身体を青いガラスの欠片へと変えて四散させた。
──まだ、お前の事…………一度も相棒って呼んでないのに…………。