SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

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13話 開花

「い、嫌だああぁぁ、死にたくないいぃぃっ!!」

 

「立て─シュロン! 早くしな───ボスが──ぞ!!」

 

「…………何で……何でや……。───ルはん、リーダーのあん───何で最初に…………」

 

「センチネルが─匹も!? ──じゃ────じゃなかったのかよ!?」

 

 指揮官の死を引き金に先程までの快勝ムードから一転し、ボス部屋のあちこちから悲鳴や怒号が聞こえてくる。

 

 …………だけど、もう、そんな事どうだって良い。

 

 逃げ惑うプレイヤーの悲鳴も、コボルドロードの吠え声も、キリトの叱咤も全てが遠い世界での出来事の様に感じる。

 

 ディアベルが死んだ。

 

 はじまりの街の前の平原で助けてもらってからパーティーを組み、デスゲームが始まってからもずっと導いてくれた存在はたった今、余りにも呆気なく消え去ってしまった。

 

「…………あ…………あぁ…………」

 

 何の意味もないかすれ声を漏らしてただ呆然とする。

 

 泣いてない。泣いてしまいたい。いっその事、こんな辛い現実を忘れて子供の様に泣き叫んでしまいたいのに…………こんなにも芯が震えているのに、涙の流し方を思い出せない。

 

『ここでは大勢の命が掛かっているんだぞ!! やるべき事をやらないで、そのせいで人が死んだらどうするつもりだ!?』

 

 昨日のディアベルとのやり取りを思い出す。

 

 あいつの言う通りだった。ここまでの道のりが楽しかったから、人が死ぬという事の本当の意味をまるで考えていなかった。

 

 何がこのゲームを楽しみたいだ。それは、親友を苦しめて死の淵まで追いやってまで求めるものだったのか? 何故ディアベルが死んで、お前がのうのうと生きているんだ、アシュロン?

 

「ウグルゥオオォォッ!!」 

 

 コボルドロードが一際大きく吠える。戦意を失った雑兵を刈り取る時とは違う、敵対者を威圧感する声だ。

 

 こんな状況でボスと戦える奴など限られている。きっと、あの二人はディアベルの遺志を継いでこれ以上の犠牲者を出さないために挑むのだろう。

 

 お前は何をしている? このまま、木偶人形のようにここに座り込んで斬り刻まれるのを待つのか? その間に一体どれ程の犠牲者が増えるだろうか? あのクソッタレな犬はご自慢のナマクラを振りかざして……キリトを……アスナを……他のプレイヤーの命を断とうとするだろう。

 

 ………………ディアベルにそうした様に。

 

 バキンッ! という音がした。見れば左手には薄緑色の液体がボタボタと滴っていて、その周辺には散らばった硝子片が青いエフェクトとなって空気に溶けていた。いつの間にか持ったままだったポーションを握りつぶしてしまったらしい。

 

「………………そうだな。せめて、あいつだけは始末しないとな」

 

 イルファング・ザ・コボルドロードを…………ディアベルの仇を殺せ。それだけで良い。それさえ出来れば後はどうなろうとも構わない。押し寄せる後悔も、リアルから持ってきた鬱憤も、道標を無くした不安も、全て、全て捨ててしまえば良い。

 

 ああ、それは何とも────快い事だろう。

 

 バチンッ! いう音と共に頭の中の奥底にあるスイッチが切り替わる。そして、それと同時に周囲の動きも軌跡を描きながら酷くゆっくりと進む。

 

 ───呼吸が止まる。この感覚は知っている。豪速球を前にして、次の瞬間にはそれをバットの芯で捉えたと確信した時と同じ…………SAOにログインしたあの日、教わったばかりのソードスキルの軌道に合わせて身体を動かした時に感じた感覚…………《ゾーン》だ。

 

 心臓にドス黒い色の火が灯る。抜け殻の様だったアバターに力が籠る。

 

 身体が…………命が…………羽根の様に軽い。

 

 立ち上がり、一歩ずつゆっくりと足を動かす。地面をしっかり踏み締めなければ次の瞬間には身体が宙に浮いてしまいそうだ。

 

「ウバァウゥ──」

 

「邪魔だ」

 

 一匹のコボルドセンチネルが持っている手斧にライトエフェクトを纏わせ踊り掛かってくる───が、雑魚に構っている暇は無い。

 

 上段に構えてから一気に振り下ろした《ブラスト》の一撃が、センチネルを 手斧や防具ごと(・・・・・・・)両断した。

 

 センチネルの残骸が撒き散らす爆散エフェクトの中を掻き分けて更に歩みを進めれば、そこはフロアボス攻略の最前線…………キリトとアスナ、そして憎きコボルド王の死合いの場だ。

 

「アシュロン!? だめだ、下がれ! 俺が奴の攻撃を弾く! お前はその隙にアスナと一緒に攻撃するんだ!!」

 

 その指示に一瞬立ち止まりそうになる。そして、キリトが集中を欠いたその隙を狙ってコボルドロードは刀を左腰に構えてソードスキルを発動させた。

 

「あれは《絶空》っ! 不味い!!」

 

 キリトが叫ぶ。確かに刀のスキルは随分と出が速いみたいだが…………問題はない。ブレーキを取っ払った脳味噌が刃の軌道を教えてくれる。相手の攻撃を弾くためその軌道に剣を合わせて《アバランシュ》を放った。

 

 刃同士がぶつかり、相対した駄犬の顔が大量に飛び散る火花に照らされ赤々と映し出される。

 

「スイッチだ!!」

 

「っ!? あ、ああ!」

 

 合図を送るとすぐさまキリトとアスナがコボルドロードの左右に周り、ガラ空きとなった脇腹に強烈な一撃を叩き込む。HPが目に見えて削れ、痛みを感じるのかボスが唾液を撒き散らしながら悲鳴の様な叫び声を上げた。

 

 いいぞ、もっと苦しめ…………。

 

 そんな暗い満足感が胸の内を支配する。

 

「アシュロン、お前、あいつのソードスキルを受けられるのか!?」

 

「……………………ああ、出来る」

 

 正直言えば、ゾーンによる集中状態をここまで長時間続けた事は無い。もしかしたら、途中で集中力が切れてしまうかもしれないが、それでもコボルドロードにトドメを刺すまで…………もしくは俺自身がディアベルの様に殺されるまで、止まるつもりは無い。

 

「………………分かった。それなら交代で奴の攻撃を弾こう。言っておくがあくまで他パーティーの回復が終わるまでの時間稼ぎだから無理はするなよ」

 

 そう告げるや否や、キリトはボスの正面にまで向かってタゲを取ると放たれた攻撃に対して見事にブーストさせたソードスキルで相殺する。

 

 …………時間稼ぎなんて悠長な事は出来ない。こちらは今この瞬間にも身体の中で燃え続ける炎に焼き尽くされてしまいそうなのだ。

 

 キリトが作った隙を狙って多段ヒットスキル《ファイトブレイド》を、反対側からはアスナが《リニアー》を打ち込む。

 

 その調子で、俺が受け止めればキリトが、キリトが弾けば俺が攻撃を仕掛けていく。そして、アスナはコボルドロードを翻弄するかの様に軽やかに動き回り、僅かな隙を狙ってダメージを稼ぐ。

 

 やがてついにボスが残り三割を下回り、最後のゲージが赤く染まった。

 

 …………もうすぐだ。もうすぐ奴は死ぬ。

 

 この戦いが終わった時に訪れるのは仇を当てた歓喜か、脅威が去った安堵か、…………それともディアベルが死に自分だけが生き残ってしまった事に対する悔悟か。

 

 攻撃する瞬間にそんな風に思いを巡らせ────突然、視界が大きく歪んだ。

 

 コボルドロードはこの隙を見逃さず、自身の身体が切り裂かれるのも構わずに俺を標的に突貫する。

 

「しまっ……!? アシュロン!!」

 

 キリトは剣技を相殺した衝撃で後方にノックバックしており、アスナはソードスキルの発動により硬直中。どちらも援護は出来そうにない。

 

 床すれすれの軌道から放たれた斬り上げによって俺の身体がまるで風に巻き上げられた木の葉の様に高く宙に浮く。そこから更にボスの刀が赤く輝くとソードスキルが襲いかかる。────そう、これはディアベルにトドメを刺したのと同じ連撃。

 

 空中にてコボルドロードと目が合った。

 

 ………………笑っていた。自身を追い詰めた敵を最後の最後に殺す事が出来ると、ディアベルにそうした様に自慢の技で八つ裂きに出来ると、残酷な笑みを浮かべていた。

 

 ………………上等だ

 

 

 へ  し  折  っ  て  や  る 

 

 

「アアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!」

 

 ついに俺の中で燃え続けていた炎が盛大に爆破した。

 

 この世界に来て初めて覚えたソードスキル……何十回、何百回と繰り返し繰り出した《サイクロン》のモーションを宙に浮いた状態から起こす。

 

 そのまま、血の様な色に染まった刃を凝視した時、ある一点が目に入る。表面上は何の変化も見られない…………だが、何故かその部分を突けば奴の刀を折れると確信した(・・・・)

 

 迷いはない。コボルドロードが振り下ろした刀と俺の両手剣が激突する。

 

 ガシャァァァン!!

 

 金属製の甲高い悲鳴を上げ砕け散る刀と信じられないものを見る様に目を見開くコボルドロード。

 

 その光景を見て自分が宙に浮いている事を忘れてしまった俺は盛大に背中から着地した。

 

「ぐうっ!!」

 

 肺から空気が逃げ出し、頭はぐらぐらする。だが、寝転んでいる場合じゃない。

 

 何とか身体を起こすと、コボルドの王は追い掛けるキリト達に背を向け、後方で新しく湧いてきたセンチネルから両手斧を奪い取ろうと一目散に駆け出していた。

 

 その無様な姿に溜飲が下がる所か、より激しい怒りが込み上げる。

 

「やめろ! もう十分だろ!? 後はあの二人に任せておけ!!」

 

 追いかけてトドメを刺そうとした俺をいつの間にか背後にいたエギルが羽交い締めにする。

 

「放せっ!! アイツは殺さないと───」

 

「このドアホウがっ!! 自分のHPも見れへんのかい!! 犠牲になんのは……ディアベルはんだけで十分や…………」

 

 怒鳴り声と共にキバオウがポーションを無理矢理口の中に突っ込んできた。そこで漸く自分のHPがレッドゾーンにまで減少していた事に気付く。

 

 悔しい…………。いつの間にか怒りは何処かに消え去り、後は己の無力さに歯を食いしばりながら、キリトとアスナがボスにトドメを刺す瞬間を遠くから眺めていた。




ようやくタイトル回収が出来ました。
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