SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

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14話 冷たい剣の世界で

 【Congratulations!!】

 

 イルファング・ザ・コボルドロードがその体を硝子片へと変えて盛大に四散すると同時に、上空にプレイヤー側の勝利を讃える言葉が明々と表示される。

 

 レイド崩壊一歩手前の絶望的な状況から大逆転を果たした挑戦者達は最初その奇跡を信じられないといった表情で眺めていたが、やがてそのシステムアナウンスが本当の事だと理解し始めると弾ける様な歓声がボス部屋に響き渡った。

 

 一ヶ月もの間、自分達を閉じ込めていたこの世界にようやく一矢報いる事が出来たのだと、それは今ここに居る自分達が勇気を振り絞って起こしてみせたのだと。

 

 そしてその功績によって莫大な経験値やコルやレアアイテムが一気に自身のストレージの中に入っていくのだ、皆が押さえきれない喜びを各々の方法で表現してみせていた。

 

「………………エギルさん、もう大丈夫だ。十分落ち着いたから離してくれ。キバオウさんも心配してくれてありがとな」

 

 皆が歓喜に酔いしれている光景を目にしてボスが倒されたという事を嫌でも思い知らされる。気が付けば内側から身を焦がしていた炎は跡形もなく消え去り、立ち上がるのも億劫な程の倦怠感が押し寄せてきた。

 

 エギルは「そうか……」とただ一言呟いて離れると一番の功労者であるキリトの元へと向かう。余計な気遣いなどせずに今はそっとしてくれる彼の心遣いがとても有り難く感じる。

 

「アシュロン、ディアベルはんの事は…………」

 

 それに対してキバオウの方はというと態々こうして傷口を開きに掛かってきた。まあ、それは不器用な彼なりの優しさであるし、軽い苛立ちは感じるものの気持ち自体は少し嬉しくもある。

 

 だから、今は一人にして欲しいと告げようと口を開きかけた所で───

 

「────なんでだよ!!」

 

 突然、半ば裏返った、ほとんど泣き叫んでいるかの様な声が部屋全体にこだました。

 

 声の主はリンドだった。

 

 彼は滝の様な涙を流しながら今この瞬間にも噛みついてきそうな形相でキリトを睨み付ける。

 

「────そこで讃えられるべき人はディアベルさんだったはずだっ!! よりにもよってなんで そいつ(・・・)なんだ!? そいつは…………そいつはディアベルさんを 見殺しにした(・・・・・・)張本人じゃないかっ!!」

 

「見殺し……?」

 

「そうだろ!! だって……だってアンタは、ボスの使う技を知ってたじゃないか!! アンタが最初からあの情報を伝えてれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!!」

 

 血を吐く様な糾弾に触発され、周囲からも疑問の声が次々と生まれ、広がっていく。

 

 そんなプレイヤー達の前に躍り出たのは皆の疑問に対する答えを知っているキバオウ───ではなく、彼が率いていたE隊にいた痩せぎすのダガー使いの男だった。

 

「オレ……オレ知ってる!! こいつは、元ベータテスターだ!! だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ!! 知ってて隠してるんだ!!」

 

 キリトを指差しキンキン声でそう喚き散らす。

 

「まって! ベータ時代の情報はわたしたちだって攻略本から得ていたじゃない! あのボスについてベータテスターとわたしたちの間に知識の差は無かったはずよ!」

 

「そ、それは…………、それは、あの攻略本が嘘だったんだ!! アルゴって情報屋がウソを売りつけたんだ! あいつだって元ベータテスターなんだから、タダで本当のことなんか教えるわけなかったんだ!」

 

 アスナの理論的な発言も最早リンドには届かない。

 

 …………リンドは《ダルハリ地塁》攻略を目指した際に一番最初にパーティーに入った奴でディアベルの事を心酔していた。だからこそ、憧れだったディアベルの死に絶望し、何も出来ない自分の惨めさを痛感して、丁度良い矛先があったから歯止めが効かなくなってしまったのだろう。

 

 だが、命懸けのこの世界において芽生えてしまった小さな不信感は他のプレイヤーにも伝播していき、やがてほぼ全てのプレイヤーがキリトへ、アルゴへ、そしてまだ隠れているだろう元ベータテスターへ敵意を向け糾弾の声を上げる。

 

 それは、とても恐ろしい光景だった。この状況を黙って見ている訳にはいかない。このままでは、初心者と元ベータテスターとの間にある溝は修繕不可能な程に深まってしまうだろう。

 

 …………この状況を解決する方法を知っている。

 

 皆の前に出てこう言えば良い。

『ディアベルが死んでしまったのは、あいつがボスのLAを取るのに躍起になっていたからだ。そして、元ベータテスター達はボスに変更があったなんて事は知らなかった。何故ならディアベル自身が元ベータテスターだったのだから』と。

 

 …………だが、それは死んだディアベルの残された名誉すらも傷つけ地に落とす所業だ。それを俺の手で…………曲がりなりにも相棒だった俺がやらなければならない。

 

 分かっている。やらなければ、きっと多くの血が流れる事になる。そんな事ディアベルならば絶対に望まない。

 

 分かっている。だけど、…………怖い。

 

 それをしてしまったら最後、俺はどうしようもない 人でなし(・・・・)になってしまう。他の誰かが…………例えディアベル自身が許そうとも、俺は一生俺自身を許せなくなってしまうだろう。

 

「あんた、さっきから随分とベータ共の肩を持つな。もしかして、あんたも ベータテスター(グル)なのか?」

 

 キリト達を擁護し続けたアスナに対して誰かがそんな言葉を投げかける。

 

 ───不味い。このままでは、アスナにまで被害が及ぶ。

 

 …………最早迷っている暇は無かった。

 

「…………みんな、聞いてくれ。実は────」

 

「ハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 俺の告白は突如発せられた笑い声に掻き消された。

 

「冗談だろ? そいつは正真正銘ビギナーだぜ。困るなぁ、 細剣士(フェンサー)さん。そう懐かれたら仲間だと思われちゃうだろ? そっちの木偶の坊みたいに黙って俺の言う事だけ従ってくれてれば良かったのに」

 

「キリト……お前…………」

 

 前に出てきたキリトは俺に向かって少し微笑みかけると、次の瞬間にはふてぶてしい表情を作り、リンドを冷ややかな目で眺める。

 

「元ベータテスター? 情報屋? ……俺をあんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな。たった千人のベータテスターの中に本物のMMOゲーマーが何人いたと思う? ほとんどはレベリングのやり方も知らない 初心者(ニュービー)だったさ。でもな、俺は 本物(・・)だ。誰よりも上の層に登って……誰も知らない事を知っている」

 

「………………なんだよ、それ……そんなの……ベータテスターどころじゃねえじゃんか……もうチートだろ、チーターだろそんなの!」

 

 E隊の男の言葉に周囲からもチーターだ、ベータのチーターだ、という声が幾つも湧き上がる。それらはやがて混じり合い、まるでひとつの単語の様に聴こえてくる。

 

「……《ビーター》!! いいなそれ! 気に入ったよ。LAボーナスと一緒に俺がいただいた!」

 

 そう言ってキリトはウインドウを操作すると、彼が着ていたくたびれたコートがまるで夜闇の如く黒いロングコートへと変化する。

 

 大規模MMORPGであるこの《ソードアート・オンライン》において、フロアボスのLAを取った者にのみもたらされる二つと無いレアアイテム。ディアベルを死へと誘った呪われたコートに身を包み、今ここに居る全てのプレイヤーを敵に回すかの様に不適な笑みを浮かべる。

 

「俺は《ビーター》だ。今後はテスター如きと一緒にしないでもらおう」

 

 大胆な宣言を終えると、「二層の転移門はアクティベートしといてやる。ついてくるなら初見のMobに殺される覚悟をしておけ」と捨て台詞を吐き、ただ一人第二層に繋がる扉に向かって歩き出す。

 

「……ふざけるな……謝れよ…………ディアベルさんに謝れよっ!! ビィィィタァァァアアッ!!!」

 

 ───黒く染まったその背に怨嗟の声を受けながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………なあ、ディアベル。何でお前が騎士を名乗る様になったのか、やっと俺にもわかったよ。

 

 ……………… 勇者はキリトだ(・・・・・・・)

 

 

 

 

 

   ----------------

 

 

 

 

 

『わたしは彼の後を追うわ。…………追いかけて、伝えたい事があるの』

 

『それなら、ひとつ伝言を頼まれてくれないか? 二層のボス攻略も一緒にやろうってな』

 

『ちょい待ちぃ…………伝言…………わいからも……頼むわ。…………今日は助けられたけど、ジブンのことはやっぱ認められん。わいはわいのやり方でクリアを目指す! 以上や! …………頼むで』

 

『……分かったわ。…………あなたはどうするの?』

 

『俺は………………』

 

 アスナとの別れ際、何を伝えるべきか色々考えてみたが、結果的に簡単なひと言にまとまってしまった。

 

『…………ありがとなって、そう伝えてくれ』

 

 ありがとう。

 

 …………一緒に戦ってくれて…………相談に乗ってくれて…………ディアベルの遺志を最後まで継いでくれて…………ディアベルの……名誉を守ってくれて。

 

 こうして俺の第一層フロアボス攻略は終了した。

 

 第二層への転移門は既にアクティベートされているが、今は階を登るだけの気力は無い。それどころか、気が付けば俺はスタート地点……《はじまりの街》のあの広場にいた。

 

 その場所で全てが始まったあの日の様に、ただ闇雲に素振りをする。そうしていなければ、自分自身の感情に押し潰されてしまいそうだから。

 

『俺はディアベルだ。よろしくな』

 

 振るう、振るう、振るう、振るう───

 

『…………それでも君は、君だけはオレの味方になってくれるって信じたかった。

 

………………だって、君はオレの相棒だから』

 

 振るう、振るう、振るう、振るう───

 

『…………アシュロン…………ごめん────』

 

「クソッ!! クソクソクソクソ!」

 

 もう……もう限界だ。何をしてもあいつと過ごした記憶が込み上げてきて、悲しくて、寂しくて、苦しい筈なのにそれらを吐き出す方法が無い。

 

 そうして、俺は腹立ちまぎれに剣を───

 

『アシュロン、オレと一緒に行こう! 君と一緒ならきっとこのゲームをクリアできる!!』

 

「………………ディアベル…………」

 

  捨てられなかった(・・・・・・・・)

 

 剣の柄に額を強く押し当てる。

 

 この剣を拾い上げて手渡してくれた奴はもうこの世界にはいない。今この剣を手放してしまえば、二度と俺は戦う事は出来ないだろう。

 

 何が正しいかなんて分からない。……それでも、この現実から逃げ出してしまうのだけは間違っているとはっきり分かる。

 

 悲しくて、寂しくて、苦しいけど、それでも──

 

「…………一緒に…………行こう」

 

 そう約束したから。お前はもういないけど、約束だけは連れて行こう。

 

 そして、願わくば……戦って死のう、ディアベルがそうした様に。それだけが、何処までも愚かな自分が出来る唯一の償いだ。

 

 そう決心した瞬間……この冷たい剣の世界で今触れている柄にだけ、ほんの少し温かさを感じられた。




 これにて第一層の物語は終わりです。ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございました。
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