SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略! 作:封魔妖スーパー・クズトレイン
15話 アシュロンという男
──────【Message】───────
From: Asyuron
To :Kirito
どうしても話したい事がある。十八時にそちらに向かうから待っていて欲しい。
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二泊三日掛けて体術スキルを習得し、やっと一息つけると思っていた矢先にこんなインスタントメッセージが送られてきた。
送り主であるアシュロンは第一層フロアボス攻略の時にパーティーを組んだ両手剣使いであり、鋭い吊り目とがっしりした体つきによる威圧感のある外見とは裏腹に明るく人懐っこい性格の人物で、人付き合いが得意でない俺でも気軽に話をする事ができる数少ないプレイヤーの一人だ。
ボス攻略後に別れた際にはアスナに伝言を頼むなど、《ビーター》となってしまった俺に対してもそう悪い印象は持っていないと思うのだが、短く綴られたメッセージと態々俺の居場所を事前にアルゴから買い取って──エクストラスキル習得クエの近くであることも相まって途方もない金額となっている──から会いにくるという行為からはどう考えても嫌な予感がしてならない。
アシュロンは何が目的で接触しようとしているのか。それを知るために俺も彼の情報をアルゴから買い取ることにした。
『今フロントランナーたちの間で一番ホットな話題だからナ。知らないのはキー坊くらいだゾ』とカラカラ笑われながら一プレイヤーの情報の割には随分と安い料金で伝えられた内容によると、今回の目的は恐らく現在の彼の立ち位置が影響しているのではないかと予想できる。
《ディアベルの後継者》────アシュロンはそう呼ばれている。
初のフロアボス攻略の指揮官であった騎士ディアベルの戦死によって、現在攻略を目指すプレイヤーたちはキバオウ率いる《アインクラッド解放隊》と俺を糾弾したシミター使いのリンド率いる《ドラゴンナイツ》の二つに分かれてしまっていて、各々が自分こそがディアベルの遺志を継いで攻略チームを引っ張っていくと言い張っているらしい。
だが、そんな中で多くのプレイヤーからはディアベルとは最も古くから組んでいて常に彼の傍にいたアシュロンこそが真の後継者なのではないかと議論されているとのことだ。
そんなアシュロンが亡きディアベルの遺志を継いで攻略を進めるつもりであるとしたら、俺にこうして接触する理由はただ一つ、フロアボスのレアドロップである《コート・オブ・ミッドナイト》だろう。
本来ディアベルの物になるはずだった世界に一つしか無いフロアボスのレアアイテム。それを掠め取った《ビーター》を撃ち倒し、真の後継者として亡き友の代わりに全てのプレイヤーを導いていく。全くもって良くできた物語だ。
もちろん、その悪のビーターである俺にはそれに付き合う必要はない。
現在このコートに釣り合うレアアイテムなど発見されておらず、それを賭けてまで闘わなければならないメリットは俺には無い。
大義だとかそんなものはクソ喰らえとばかりに逃げ出し、他のプレイヤーたちがいがみ合っている間に最前線のリソースを独り占めするのが正解なのだろう。
このデスゲームが始まった日、この世界で初めてできた友達を見捨てた日に誓ったはずだ。どんなことをしてでも俺は絶対に生き延びてみせると。
「………………よお、久しぶり……って程でもないか、アシュロン」
………………だが、俺はこうしてアシュロンと会ってしまっていた。
こんなことをしてしまったのは、きっと心のどこかではアシュロンのことを信じたかったからだ。
ビーターと呼ばれ、他のプレイヤーから忌避される存在となった俺に残されたほんの僅かな理解者。その一人であった彼が敵にまわってしまうという可能性が恐ろしくて、確認しなければ胸の奥がチリチリと疼いて落ち着かなかった。
「…………ああ、ボス戦以来だな」
アシュロンは彼らしくない簡素な挨拶を返す。
やはりディアベルの死が相当堪えたのか、以前のような親しみやすさは無く、硬い表情のまま鋭い目だけがある種の強い光を帯びている。
その様子は第一層のダンジョンにて自身の破滅を望みながら無茶なレベリングをしていたアスナに酷似していた。
「…………アンタのことはアルゴから聴いたよ、ナイト様の後継者さん。だから、こうして来た目的も大体予想できる」
「…………他の奴らがなんて言おうが関係ない。俺は俺の目的のためにお前に会いに来た」
そう言って、アシュロンはウインドウを開く。
────やはり
背中の剣に手を当てて身構える。
アシュロンは《サイクロン》を得意としていて、確かにそのブーストは目を見張るものがあるが、それ以外のソードスキルは他のプレイヤーたちと大きな違いはない。だが、コボルド王との決戦の際に見せたあの戦い方───初見であるはずのカタナのソードスキルに対応してみせたあの爆発力は未知数だ。
もし、あれ程の力を発揮されたとしたら────
「お願いします! 俺を……弟子にして下さい!!」
思考を巡らせていた中で突如、血を吐くような懇願の声と共にその場で勢いよく土下座をするアシュロンと莫大な金額───恐らく彼の全財産───が表示されたトレードウインドウ。
「……………………………えっ?」
その予想外の展開に脳の処理が付いていけずに、数秒間フリーズしてしまった。
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「ちょ、ちょっと待てよ! 弟子って一体どういうことだ!?」
何とか状況は飲み込めたが、それにしたっていきなり弟子してくれなんて訳が分からない。何故そんな思考にいたったのかまずは説明して欲しい。
「強くなりたいんだ! ディアベルとの約束を果たすために……このデスゲームをクリアするためにこの三日間ずっと一人で頑張ってきたけどダメだった。
…………他の奴らが自分達で頑張ってるのに、お前の知識に頼ろうなんて卑怯だって事は分かってる。
それでも……俺は弱い。俺一人じゃ、どうしたって犬死ににしかなれない。……そんな死に方じゃあいつに顔向けできねえ!」
「いや、だからって弟子にしてくれなんて急にそんなこと言われても…………」
「十層……いや、五層までで良い。金もアイテムも渡せるもんは全部渡す。どんなキツいクエストだってやる。だから、俺を強くしてくれ!」
額を地面につけたまま必死にそう叫ぶアシュロン。
…………確かにこいつの言う通り、アスナを含めた多くの新規プレイヤーたちが手探りの状態からパーティー同士で研鑽したりアルゴの攻略本から必要な知識を得て強くなっていっている中、ビーターである俺の知識に頼って強くなろうとする考えには思うところはある。
それに、最前線のプレイヤーが二つの派閥に分裂してしまっている今、アシュロンであればそれをまた一つにまとめることができる可能性がある。その可能性はビーターの俺には無い力であり、俺と一緒にいては失われてしまう力だ。
だから、本来ならこの嘆願は断らなければならないのだが…………
(流石に放っておけないよなぁ…………)
白状しよう。俺はアシュロンのことを結構気に入っている。
このアシュロンという男は、不思議にこちらの懐に滑り込んでくるようなところがあり、しかも俺はそれが不快ではなかった。
…………そのあり方は、はじまりの街に置いてきた友達……クラインにどこか似ている。
何よりも仲間を大切にする彼のことは尊敬しているが、それでも時々考えてしまう。もし、あの時クラインが俺と一緒に行くことを選んでくれていたら、ここまでの旅はどれだけ楽しかっただろうか。
…………俺が抱き続けるこの罪悪感はどれだけ楽になっただろうかと。
その気持ちを埋めるためにアシュロンにレクチャーしようなんて単なるエゴだって分かっている。が、それでも抗い難い魅力を感じてしまうのだ。
「わかったよ。俺の知ってること、この世界での生き方全部教えてやる。金もアイテムも要らない。ただ、厳しいからその辺覚悟しとけよ」
「っ!! ありがとうございます!!」
「敬語はやめてくれ。前みたいに普通に話してくれれば良い」
しかし、弟子って言っても一体何から教えれば良いかと頭を掻いて悩んでいると、ふと丁度良いクエストがあったことを思い出す。
今後攻略を進めていく上で非常に重宝するスキルが得られるクエストであり…………この上無く鬼畜な修行だ。
あれに苦しむ姿を考えると「それじゃあ、最初の修行だ」と告げる口角が意地悪げに吊り上がるのを抑えられなかった。
────三時間後
「よし、割れたぞ」
「なんでっ!?」
こいつ、俺が三日かけてやっと割った岩をたった三時間でクリアしやがった!?
「こいつは《
「え? ああ、いや、第一層のボス戦以来、調子が上がるとなんか武器とか岩とかの壊れやすい箇所が何となく分かる様になったんだよ」
「なんだそれ……? もしかして、あのボス戦の最後に相手の刀が壊れたのも偶然じゃなかったのか?」
「…………まあ、そうだな」
その事実にもう一度「なんだそれ……?」と呟いてしまう。
フロアボスを含む多くのモンスターはどれも強力なソードスキルを放つ強敵であるだろうし、そうなれば当然何かしらの武器を装備しているはずだ。
それらはきっと替えが効かない(もしも、モンスターがメニューウインドウを開いて予備の武器を取り出していたら非常にシュールだ)かわりにその武器の硬度は非常に高いだろう。
そう、ここにあった岩のように《
もしも、その力をボス戦で決めれば、その時点で勝負は決してしまうと言っても過言ではない。即ち、この男はあのアスナ以上に攻略に欠かせない存在となりうるポテンシャルを秘めていることになる。
…………騎士ディアベル、アンタとんでもない置き土産をしてくれたな。
俺は心の中でそう呟き、ため息をついた。