SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

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18話 鍛冶屋のネズハ

 バチンッ! いう音と共に頭の中の奥底にあるスイッチが切り替わる。そして、それと同時に周囲の動きも軌跡を描きながら酷くゆっくりと進む。

 

 ゾーンに入れた事を感じるとストレージの中から剣を引っ張り出して一度大きく深呼吸をしてから目の前の大岩に向けて構える。

 

 狙うは先程からずっと殴り続けていた一点。元より壊れやすい箇所であったのに加えて、ダメージを与え続けていたために大きなヒビが入っている場所だ。

 

「はあっ!!」

 

 そこに全力の《サイクロン》を叩き込むと、鋭い音と共に剣は岩の半ばまで深々と食い込む。

 

  たったそれだけだ(・・・・・・・・)

 

「たったの一撃でその鬼畜な岩に大きな切れ目を入れてしまうなんてナ。いやはヤ、キー坊から話は聞いていたけど、とんでもないことしているネ」

 

 突然、背後から声がしたため驚いて振り返る。だが、そこには誰もいない。

 

「コッチ、コッチだヨ」

 

 再び背後から声が聞こえたため、再度振り返る───というより、元々向いていた方向に向き直ると、顔の真下に金褐色の短めな巻き毛をした頭部があった。

 

「うおっ!? アルゴ!?」

 

「ニャハハハハ! 必殺技の開発に夢中で、《 看破(リピール)》の修行が疎かだヨ。最も生半可なレベルじゃオレっちの《 隠蔽(ハイディング)》は見破れないけどネ」

 

 アルゴはそう言ってケラケラ笑う。本人が言う通り、彼女の隠蔽スキルはかなりのものではあるが、だからと言ってこうも簡単に真後ろを取られてしまうのは何だか悔しい。これを期に看破のスキルも頑張って上げてみるべきかもしれないな。

 

「こんな所で何か用でもあるのか? この辺に体術スキルのクエスト以外で情報屋が欲しがりそうなもんは何も無いと思うけど?」

 

「理由なんてもちろン、アシュ郎君の様子を見に来たに決まってるじゃないカ」

 

 アシュ郎って…………。

 

「…………キリトのやつといい、また変なニックネームを考えたもんだな」

 

「流石のオイラもオマエみたいな大きな子をキー坊みたいにお子様扱いにはできないからネ。あっ、でモ、オネーサンに存分に甘えたいってことなら考えてあげなくもないヨ」

 

「…………オレ、アシュ郎。コンゴトモヨロシク」

 

 流石にこの歳でちびっ子扱いは恥ずかしいにも程がある。しかし、そう言うアルゴは一体何歳なのだろうか? 見た目は中学生か少し身長の高い小学生くらいしにしか思えないが、それに反して頭脳はかなりのものであるし、やはり身体の小さな大人なのだろうか?

 

 疑問には思うが本人に訊いたらきっと『女の子に年齢なんて訊くもんじゃないヨ』と怒られた直後に『十万コル払えば教えるヨ』と言ってくるに違いない。

 

「それで、新技についてはどうなんだイ? 見たところ岩に切り込むこともできているみたいだシ、これなら何かしら役に立つこともあるとは思うケド?」

 

「…………いや、こんなんじゃ全然ダメだ。ボスに通用する様にならないと意味がない。それに、そもそもゾーンに入らないと壊れやすい箇所が分からないってのに、リアルにいた頃よりも入るのに随分と苦戦する様になっちまってる」

 

 そう、一番の問題は思う様にゾーンに入る事が出来なくなっている事だ。

 

 野球をやっていた頃はバッターボックスに立った瞬間にスイッチが入ってゾーンになれたのに現在では簡単にはなれなくなっている。ついさっきだって、何時間も無心で岩を殴り続けていた結果入れたのだが、そこまでしなければ使用できない技なんて実戦では到底使えたものではない。

 

「ふ〜ン…………。なア、アシュ郎は簡単にゾーンって言うけどサ、そもそモ、それってアスリートが心身共に絶好調の時にしかなれないものダロ? 体についてはともかくとしテ、心の方に関してはオレっちにはどう見たって万全そうには見えないけどナ」

 

「──ッ!?」

 

 まさに痛い所を突かれたと言うべきか、アルゴの言葉がグサリと突き刺さる。

 

「………………引きずっちまってるって事は自分でも分かってるさ。……だけど、だからってどうすりゃ良いんだよ。忘れようったって忘れられる訳がねえ! だって、アイツは俺が───」

 

 俺が殺した様なものだ。そう言いかけた口に人差し指が当てられる。すぐ真下から見上げる形で悪戯っぽく微笑むアルゴの顔が余りにも近くて、思わず心臓がドクンと大きく飛び跳ねた。

 

「辛いこと程忘れられないものサ。ケド、心の整理をすることくらいはできる筈だヨ。今のアシュ郎に必要なのは心の傷を癒す時間だと思うんダ」

 

 ………………言葉が出なかった。

 

 他の奴に言われたとしたら『人の気持ちも知らないで勝手な事を言うな』と内心で毒づきながら適当な返事をしていただろうが、何故かアルゴの言う事には無視できないものを感じられた。

 

「辛い時にはとりあえず何か美味しい物でも食べてしっかり寝ることをおすすめするヨ。幸いこの第二層はモーモー天国だからネ。美味しいステーキを出すお店が沢山…………そういえば、ブルバス・バウの討伐に参加してたっケ。あのボス、高級な肉を鬼ほどドロップするからステーキは要らないかナ?」

 

「ああ、そういえば結構な量あったけど、あれもう全部食っちまったぜ」

 

「エ?」

 

「え?」

 

「…………そ、それならスイーツなんてどうかナ? 物凄いデコレーションかつ味も最高でオマケに幸運バフまで付く特大ショートケーキから油断すると悲惨な目に合う程クリームたっぷりのお饅頭までグルメ情報は網羅してるヨ。代金は…………例の技が完成した時にそのコツを教えてくれれば良いヨ」

 

「…………分かった。その情報、喜んで買わせていただきます」

 

「ニャハハ! まいド!」

 

 結果的にアルゴに良い様に手玉に取られて情報を買わされてしまったと思わず苦笑してしまう。確信は無いけども、きっと俺は将来的にこいつの常連客になってしまうんだろうな。

 

「それにしても、アルゴってなんつうか貫禄あるな。もしかして、お前本当に俺より年上だったりするのか?」

 

「おっト、ダメだロ、アシュ郎。女の子に年齢なんて訊くもんじゃないヨ。…………まア、それはそれとしテ、知りたかったら十万コル払ってもらおうカ」

 

 

 

 

   ─────────────────

 

 

 

 

 

 アルゴの助言に従い、羽を伸ばしに街まで歩いていけば時刻はもうすぐ十九時になろうとしていた。

 

 ここからキリト達かレジェンド・ブレイブスと合流するかとも一瞬考えたが、時間としては食事はもう食べ終わっているかお腹を大体満たして後はゆっくり酒でも煽っている頃合いだろうし、今更割って入って晩御飯を食べ始めたら流石に気まずいものがあるので何処か良さげな店を探して一人で済ますとしよう。

 

 さて、そうと決まれば後は何を食おうか───

 

 カァン、カァン、カァン、カァン

 

 夕食の事を考えていると鉄を叩く小気味良い音が耳に入ってきた。

 

「ん? あれは確か最近出てきたプレイヤーの鍛冶屋…………あっ」

 

 そういえば、剣の耐久値そろそろヤバめだったな。それに考えてみればメインウェポンを岩に打ち付けてもしもの事があれば一大事だし、ここらで練習用の両手剣も買っておくべきだろう。

 

 背負っていた両手剣を外し、鍛冶屋の露店へと歩み寄る。広げたカーペットに座り込む男の傍らには立て看板があり、《Nezha,s smith shop》という店の名前と料金の一覧が書いてある。

 

 ネズハと読むのだろうか? ローマ字表記のプレイヤーネームを読むのは少し苦手だ。

 

「い、いらっしゃいませ。お買い物ですか? それともメンテですか?」

 

 お客が来た事に気が付いた鍛冶屋さんは先程まで打っていた投擲用ナイフを腰のナイフホルダーにしまうと少しぎこちない愛想笑いを浮かべる。

 

 ネズハ氏は俺とそんなに変わらない年齢らしく、どこか自信が無さそうな丸い顔にずんぐりとした小柄な体型、着ているものは地味な茶色の革エプロンと言っては何だがかなり地味なプレイヤーだった。アインクラッド初の鍛冶屋プレイヤーだという話を聞いていたので、なんとなく頑固一徹な職人のお爺さんを想像していたのでちょっと驚きだ。

 

「武器のメンテを頼む。後、一番安上がりな両手剣があればそれも欲しいな」

 

「承りました。それでは武器をお預かりします」

 

 ネズハは何故かほっとした表情を浮かべると、 鉄床(アンビル)の上に研石を置くと渡した剣を少しずつ丁寧に研いでいく。武器の研ぎ上げには特にテクニックの様なものは必要なく、一定時間砥石に当て続ければ完了するらしいのだが、ここまで丁寧に扱うのはプロとしての誇りなのだろうか?

 

「あの…………つかぬ事をお聞きしますが……あなたは攻略チームのアシュロンさん……ですよね?」

 

「え? …………あ、ああ。そうだけど……」

 

「噂は予々お聞きしています。なんでも第一層のフロアボス戦では大活躍したみたいですね」

 

「………………別に。そんな大した事はしてねえよ」

 

 思い出したくもない第一層フロアボスの話が出てきて思わず顔をしかめてしまう。色々噂になっている俺に会ったのなら当然その話をしたくなるのかもしれないし、悪気があって聞いている訳ではないだろう。それでも何だが居心地が悪くてメンテが終わるのがもどかしくなってしまう。

 

「僕は戦うことが出来ない人間なので、攻略のために戦えるだけでも尊敬してしまいます。楽しそうに剣を振るって、それでみんなの役に立てたら……きっと気持ちいいんでしょうね。

 ………………本当に羨ましい……」

 

「…………っ」

 

 思わず怒鳴り付けたく気持ちを必死に押さえ込む。フィールドは常に命懸けの場所だ。いつ死ぬかも分からないのに気楽に戦っていられる筈がないし、

 …………本当に好きな事をしていられたのなら、きっと俺は《 ソードアート・オンライン(このゲーム)》をプレイしていなかった。

 

「お待たせしました。こちらお返しします」

 

「………………ああ、ありがとう」

 

 本当は何も話したくはないが、それでも感謝の言葉を喉の奥から何とか絞り出す。後は適当な武器を買ってさっさと立ち去ってしまおう。

 

「それと後お手頃な両手剣をご所望でしたね。それでしたら───」

 

「あっ! いた!」

 

 聞き覚えのある澄んだ声と共に背後より二人のプレイヤーがこちらに走ってくる足音がする。

 

「ごめんなさい! 先にわたしの剣を───ってアシュロン君!?」

 


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