SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

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19話 涙

「アスナ? どうしたんだよ、そんな血相変えて?」

 

 剣を買ってさっさと立ち去ろうとした所で背後からアスナが駆け込んできた。その後ろにはキリトが「そんなに慌てなくてもまだ大丈夫だって」と言いながら付いてきている。

 

「ごめんアシュロン君、バフの時間があるから先に強化させて!」

 

「…………ああ、成る程。構わねえよ、それなら先やってくれ」

 

 ありがとうと一言感謝を述べると、次の瞬間アスナはネズハにむかって早口で強化内容を伝える。

 

 ボス戦後にケーキでも食べようなんて話してたが、この二人は幸運判定ボーナスが付与される《トランブル・ショートケーキ》を食べて、その効果を強化に使おうと考えた様だ。しかし、あのケーキはフィールドボス戦の稼ぎのほとんどが吹っ飛ぶくらいお高いらしいのに良く食べに行ったな。

 

「それにしても水臭いな。こっちに来てたのならメッセージで教えてくれれば良かったのに」

 

「いや、ついさっき来たばっかなんだよ。それにお二人のお邪魔をするのも気が引けたからな」

 

「なっ!? べ、別に俺とアスナはそんな関係じゃないぞ!!」

 

 キリトがムキになって否定するが、そんな事よりもこれからアスナのレイピアの強化が始まる様だ。

 

 ネズハはアスナから受け取った素材をざらざらと炉の中に焚べる。この瞬間赤く燃えていた炎が強烈な光の後に強化に合った色へと変化するのだが、今回は《 正確さ(アキュラシー)》強化の青色だ。

 

 俺も自身の剣を鍛えるために強化は何度か経験した事があるのだが、最初は変化する際の強烈な光を直視した結果、眩し過ぎて暫く悶えた事があったため、それからは咄嗟に視線を逸らす様にしている。

 

 もちろん、今回も同じ様に光を見ない様にする。だからこの時に───

 

(あれ? 今アイツ……………)

 

 ほんの小さな違和感を感じた。だが、ネズハは特に気にせずにレイピアを青い炎に当て、剣が輝くと同時に鉄床に乗せてハンマーで叩き始める。

 

「《強化試行上限数》まであと何回残し?」

 

「あと二回……+6にするには失敗出来ないわ」

 

「添加剤は上限数まであるから成功確率は九十五パー……あのお高いケーキの加護を加味すると九十七パーはあるかもな。なんにしろ、やれることは全部やったんだ。きっと大丈夫だよ」

 

「やれること…………ね」

 

 アスナはポツリと呟くと、隣にいたキリトの左手の薬指と小指をきゅっと掴んだ。

 

「ア……アスナさん? これは一体……?」

 

「あなたの幸運もちょっと貸して」

 

 …………これで良くそんな関係じゃないなんて言えたな。

 

 目の前で行われる甘いやり取りに野次の一つでも飛ばしたくなるが、色々と世話になっている二人の恋路だ。ここは温かい目で見守ってやるべきだろう。

 

 一方でネズハはというと、ラブコメみたいな雰囲気に飲まれる事なく一心不乱に青く輝く刀身を叩き続けている。強化に必要な打撃数は十回。こちらもメンテナンスと同じく技術は必要ないのだが、それでもネズハは真剣に剣を打っていた。

 

 そして、規定の回数を打ち終えて皆が強化結果に息を呑む中、アスナのレイピア《ウインドフルーレ》は───

 

 ───パリン

 

 儚い、いっそ美しいとさえ言える澄んだ金属音を放って、先から柄に至るまでが粉々に砕け散った。

 

 

 

 

 

   ─────────────────

 

 

 

 

 

 キリトが茫然自失したアスナの手を引いて宿屋へと向かう。

 

 数分前の楽しそうな雰囲気は幻であったかの様に二人とも終始無言でいて、そんな光景を後ろから見ている俺も何と声を掛けて良いのか分からないでいる。

 

 ───アスナのレイピアは強化の失敗により跡形も無く消え去ってしまった。

 

 地面に頭を打ち付ける様に何度も何度も土下座をして必死に謝罪をするネズハに対して、キリトは強化の失敗で武器が消滅するなんてあり得ない、そんなペナルティは一度も起こった事はないと自身がベータテスターである事を明かしてまで説明を要求する。

 

 そんなやり取りのすぐ隣で当の本人であるアスナは光を失った目で空気に溶けていくかの様に消えていく《ウインドフルーレ》の破片を黙って眺めていた。

 

 そうして、結果的に強化は最悪の失敗で終わったものの一生懸命に仕事をしたネズハに非はないとしてその場を後にし、明日新しい剣を見繕うために今日はゆっくり休んでもらうという流れになった。

 

「…………あのさ」

 

 繋いでいた手を放し、一人暗い部屋に入ろうとするアスナにキリトが声を掛ける。

 

「これは自惚れかもしれないけど……置いて行ったりしないからな」

 

 扉が閉められる瞬間、こちらを振り返った彼女の顔には…………

 

 

 

 

 

   ─────────────────

 

 

 

 

 

「おい、待てよキリト! 一体何処行く気だよ!?」

 

 アスナと別れた直後にキリトは首を振って付いてくる様にとジェスチャーをして目的も告げぬまま足早に宿を後にする。

 

 これから宿へ向かう人の波を掻き分けながら他のプレイヤーの目も気にせずビーターの証である《コート・オブ・ミッドナイト》を装備する姿には鬼気迫るものを感じる。まさか、こいつアスナの剣を折ったネズハに落とし前つけさせようとか考えてないよな?

 

「アシュロン、教えてくれ! ネズハ……あの鍛冶屋はあの時、お前みたいにシステム外の方法でウインドフルーレを破壊できたか!?」

 

「はあ!? 何言って──」

 

 キリトの言っている事が分からず聞き返してしまうが、すぐにその真意を理解する。

 

 正式サービスにて追加されたと思われる最悪の失敗《消滅ペナルティ》、キリトはまだそれに納得していないのだ。

 

 確かにベータでは無かった武器破壊のペナルティが何のヒントも無く追加されていて、その最悪の結果がよりにもよって最大限の好条件を用意したアスナに降りかかるなんて偶然にしては余りにも酷すぎる。

 

 だが──

 

「そりゃ無理だ。俺でさえソードスキルでやるか何時間も殴らなきゃ壊せない。そこらの生産職が全力でカンカンしたからって出来るもんじゃねえ」

 

 脆い印象を持たれがちだがレイピアは立派な武器だ。ましてやアスナが使用していたウインドフルーレは第一層でレアモンスターからしかドロップしない武器であり、耐久値を含めた全ステータスはそこらの同種の比では無い。そんな物を俺より筋力値が低いプレイヤーが簡単に折れる訳がない。

 

「確かに酷い話だとは思うけどよ、やっぱり追加のペナルティがあったって方が自然じゃねえかな」

 

「いヤ、それは無いネ」

 

「何でそう断言───って、アルゴ!?」

 

「ニハハ、良いリアクションありがとヨ」

 

 気が付かぬ間に隣を歩いていたアルゴに驚いてしまう。修行場での事と言いアルゴは隠蔽で相手を驚かすのが趣味なのか? 趣味なんだろうなぁ。

 

「アンタ程の情報屋が有り得ないって言い切れるってことは、やっぱり武器破壊なんてペナルティは存在しないんだな?」

 

「あア、それはベータ版だけじゃなくて正式サービス版でも検証済みなんダ」

 

「でもよ、俺達全員が目の前でウインドフルーレが破壊されたのをこの目で見たんだぞ。壊れたのはバグだって言うのか?」

 

「それについては順を追って説明させて貰うヨ。───ット、あれが例の鍛冶屋さんダネ。ヘエ、常習犯って割には随分と大人しそうな顔してるナ」

 

 気が付けば俺達はネズハが店を広げている広場の裏路地にいて、キリトとアルゴは物陰からこっそり奴の様子を覗き見ている。俺は二人とは違って隠蔽スキルを持っていないため同じ様に身を乗り出せずもどかしさを感じてしまう。

 

「常習犯ってことは……」

 

「…………キー坊の嗅覚は正しいヨ。この短時間に返事があった中だけでも既に七件、フロントランナーを中心にハイレベルのプレイヤーたちが主武装を失っていル。それも鍛え上げたレア装備ばかりサ」

 

「なっ!?」

 

 それはつまり、この一連の出来事は全てネズハが仕組んだ事だと言う事か。

 

 この瞬間、頭が沸騰し内臓がひっくり返ってしまいそうな程の怒りが込み上げてくる。

 

 別れる時……アスナは 泣いていた(・・・・・)

 

 アスナは強い女の子だ。どんなに酷い目に合ってもけっして弱音を吐かず常に真っ直ぐ前を向いて戦っていた。そんなアスナが俺達に涙を見せてしまう程に自身の相棒を失ったのがショックだったのだ。

 

 そんな非道を奴は事故に見せかけて行っていた。しかも、アスナだけではなく最低でも七人も同じ目に合わせている。到底許せる訳がない。

 

「いや、待てよ。攻略集団の戦力を殺いで誰が得する? 現実世界が遠ざかるだけだろ?」

 

「殺ぐ……意外に何か目的があるのかもしれないネ。…………さっきの質問の答えだけド、武器破壊がシステム的に起こる条件が一つあル。【強化対象の武器が既に強化上限回数に達していること】、つまり エンド品(・・・・)の強化を試行した場合だヨ」

 

「そんな馬鹿な!? アスナのウインドフルーレがエンド品とすり替えられてたって言うのか!? そんなこと一体どうやって………………あぁっ!!」

 

 何かに気が付いたのかキリトが数秒の間口をあんぐりと開けたままフリーズし、それが終わるや否やメニューウインドウを開いて何やら確認した。

 

「確か強化を試行したのが十九時丁度……まだ間に合う! アルゴ、俺はアスナの所に行く! 悪いがそのままネズハを見張っててくれ!」

 

「お、おい、キリト! ……たく。すまん、俺もちょっと行ってくる!」

 

「あいヨ、ここはオレっちに任せてくレ」

 

 アルゴの返事にサンキューな! と返して慌ててキリトを追いかける。だが、キリトと俺の敏捷値には大きな差があり、ぐんぐんと引き離されて遂には後ろ姿すら見えなくなってしまった。

 

 目的地は分かっているが、そこで何をするかは想像出来ない。こんな事ならもっと敏捷にステを振っておくべきだった。

 

 宿の階段をほとんど這い上がる様にして登れば、アスナの泊まっていた部屋のドアが大きく開かれたままなのが目に入る。キリトの奴はそこまで急いで一体何をする気だ?

 

「おいキリト! 説明も無しに一人で───何この状況っ!?」

 

 部屋の中にはこんもりと積まれた装備やアイテムの山───主に女性物の下着が目に入る──があり、その山を漁るキリトと後ろでワナワナ震えながらどう処そうかと思案しているらしきアスナの姿があった。

 

 ………………何故キリトはこんな手の込んだ自殺をしようとしているのだろうか? 死にたいのなら外周から飛び降りればすぐなのに。

 

「ね、ねえ……きみ…………もしかして死にたいの……? 殺されたいヒトなの……?」

 

「まさか!」

 

 そう叫びながらキリトは山の中から何かを引っ張り出してアスナの前に差し出す。

 

「………………うそ…………」

 

 アスナは限界まで目を見開き、ほとんど音にならない短い声をこぼす。

 

 まるで目の前の物が触った瞬間に消え去るのではないかと恐る恐る手を伸ばし、しっかりと触れると理解した瞬間それを強く抱き抱え──静かに涙を流した。

 

 ───手に持っているのは折れた筈のウインドフルーレだった。

 

 

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