SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

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20話 真相を探れ

 もう二度と戻ってこないと思っていたレイピアが奇跡の復活を果たして数分後、人目を気にせず泣いていたアスナもやっと落ち着きを取り戻した。

 

 この感動的な再会の立役者であるキリトにこれ以上ない程の感謝を込めてハグなどの親密な関係へと発展するやり取りがあるのではないかと予想していたが、どうやらこの状況に至るまでの経緯が悪かったらしく「怒り九十九Gに対して喜び百Gだから、差し引き一G分だけ感謝する」と何とも微妙なトータルとなった。

 

 単位がGなのは衝撃加速を表しているらしく、怒りが上回っていたらその分だけぶん殴っていたとも言っている。怖い。

 

 そんな奇跡的に生存したキリトはと言うと「アルゴを交えて今後のことを話す必要があるし、とりあえず夜食を買ってくる」と出て行った。きっとアスナ様のお怒りが静まるまでの時間を稼ぐつもりだろう。

 

 そういう訳で、現在この部屋には俺とアスナしか居ない。

 

「……色々あったけどさ。とりあえず、それ戻ってきて良かったな」

 

「ええ、本当に良かったわ。…………この子はね、第一層のボス戦の時に再会した親友がくれた物なの」

 

 アスナの親友。確か元ベータテスターの奴で攻略の途中でアスナはそいつに裏切られてしまったと以前話してくれたな。俺が塞ぎ込んでいる間にそんな事があったのかと今更ながら驚く。

 

「裏切られた時、わたしよりもレアアイテムを優先したんじゃないかってずっと思っていたけど本当はわたしの為にこの子を取ってきてくれてたって知って凄い嬉しかった。…………この子はわたしとあの子の仲直りの証。だから、壊れちゃった時この子と戦えなくなった悲しみの他にもあの子との絆が消えちゃったんじゃないかって恐怖もあったの。そんなことある筈がないのにね」

 

 最後の言葉はどこか自嘲気味に話しているが、そんな苦しみを抱えていた彼女の事を一体誰が笑うだろうか。それ程までに大切な剣がアスナの元に戻ってきた事を喜ばしく思うと同時にネズハが行った事を余計許す訳にはいかなくなった。

 

「しっかし、そんなに大切な剣だったのならキリトの奴が激怒してたのも納得だな。別れてからのアイツ凄かったんだぞ。街中でフル装備になってさ、てっきりネズハの指を詰めに行くのかと思ったぜ」

 

「ふふ、もう。SAOじゃ指が欠損したって時間経過で元に戻るでしょ。……でも、確かにわたしの為に頑張ってくれたみたいなのに、いくら怒っていたからってちょっと無愛想すぎたかしら」

 

 冗談気味に話をした甲斐があってかアスナは軽く笑ってくれた。こうしてほんの少しでも元気を取り戻せたならキリトと共に気不味い空気の部屋から脱出せず残って話をした甲斐があったというものだ。

 

「所でアスナさん。もう良い加減毛布から顔出しても良いんじゃないでしょうか?」

 

「い、嫌よ! だって……いっぱい泣いた後だから目が腫れてるかもしれないし……」

 

 いや、SAOだとそんな事にはならないから。

 

 そんなツッコミを入れたくなった所で、『コンコン』とやや遠慮気味に部屋のドアがノックされる。

 

「──っ!! ……誰?」

 

「お……俺です。キリトです。……入っても良いですか……?」

 

「…………入って」

 

 アスナ様のお許しを得てキリトが大きな紙袋を抱えながら恐る恐る入ってくる。

 

「こちらお夜食です。お話が長くなるかもだしちょっとお腹に入れておいた方が良いかと思いまして……。あ、いや、別に要らなければ無理して食べる必要もないと言うか───」

 

「いいえ、いただくわ。…………その、ありがと」

 

 湯気が立つ大ぶりな包みを受け取りながらアスナは顔を合わせる事なくぼそりと呟く。だが、それでも感謝の気持ちは伝わったのかキリトも緊張がほぐれて笑顔になった。

 

「どういたしまして。それ《 タラン(ここ)》の名物らしくてね。名前はさしずめ《タラン饅頭》ってところかな。ベータの頃には無かったものだけど、牛ステージの名物だから牛肉まんかな?」

 

「ああ、タラン饅頭か。それなら中に入ってるのは肉じゃなくてカスター──」

 

「うにゃあ!?」

 

 突然、可愛らしい奇声が聞こえ、俺達はぎょっと視線を向けた。見れば、饅頭をホールドしたまま硬直するアスナの顔から首元にまで粘度の高いクリーム色の流動体がベッタリと付着している。

 

 その妖しい光景に動けないでいる中、アスナは泣きそうな顔のまま口をモゴつかせて齧った皮とクリームを頑張って飲み込み───

 

 ───ガタンッ

 

「はわワ……」

 

 最悪のタイミングで来てしまったアルゴが入り口前に立ったまま青い顔で絶句していた。

 

 ………何かこんな事、前にもあったな。

 

 

 

 

 

   ─────────────────

 

 

 

 

 

 クリームの処理が終わり次第、野郎二人には鉄拳による制裁が加えられると覚悟していたのだが、どうやら当の本人はもう怒る気力も湧かないのか枕に顔を埋めていじけてしまった。罪悪感が凄まじくていっそ殴られた方がマシだぞこれ。

 

「そっカー、今日は災難だったネ、アーちゃん。それにしてもアシュ郎も酷いネ。タラン饅頭のことならちゃんと教え───」

 

「そんな事よりそろそろ説明してくれ。何であの時、破壊された筈の剣がアスナのストレージから出てきたんだ?」

 

 何はともあれ、ようやくアルゴも来た事だし、ずっと気になっていた一連の出来事の詳細な説明を求める。話の持っていき方が無理矢理? 何の事かな?

 

「…………まあ、掻い摘んで説明すると、二人も何となく察してるとは思うけどあの時壊れたのはアスナのウインドフルーレじゃなくて、すり替えられたエンド品だったんだ。ネズハは何らかの方法で客の武器とエンド品を入れ替えてから強化を行い、あたかも失敗ペナルティで消滅したように見せかけてレア武装を騙し取るアインクラッド初の《強化詐欺師》って訳だ」

 

 強化詐欺とは装備の強化を代行する際に預かった武器や素材を騙し取る行為の事だろう。だが、方法は何であれ、盗んだのなら剣はネズハのストレージの中にある筈だ。それが何故アスナのストレージから出てきたのかが分からない。

 

「それで、ウインドフルーレを取り戻した方法なんだけど、アイテムって実は単に所持しているだけの《所有権》の他に《装備権》っていってそのアイテムを 装備している(・・・・・・)プレイヤーの権限があるんだ。そして、その権限が生きている間にだけできる救済処置、例えばダンジョンなんかで武器を無くした時にそれを取り戻せる裏技がある。それがアスナにやってもらった《所有アイテム全オブジェクト化》だ」

 

「使用するには階層の深いところまで操作しなきゃいけないシ、アイテム全部足元にぶち撒けなきゃいけないから使い勝手の悪い最終的救済手段だけどナ」

 

 成る程、それで下着をひっくるめた全てのアイテムがアスナのストレージの中から出てきてた訳か。何だか現実的なSAOらしくない魔法みたいな方法だが、レアなアイテムを落としてしまった時なんかには重宝しそうだ。

 

 これでウインドフルーレが戻ってきた方法はよく分かったが、未だ一番の問題であるすり替えトリックを見破れていない。

 

「ネズハはあの時、俺達全員の前で強化を行なっていたんだ。すり替えようってたって、そんな事できるタイミングなんて無かった筈だぜ」

 

「いや、それがあったんだ。思い出してくれ、炉に素材を入れた瞬間、俺たち全員があの光の方に夢中になって剣の方を見ていなかった筈だ。その時にきっと入れ替えたんだと思う」

 

「炉に入れた瞬間…………ああっ!!」

 

 あの時の記憶を掘り起こした瞬間、身体に電流が走る。何故自分は忘れていたのだろうか。炉が青い光を放った時、俺はその光を直視しない様に目を逸らした。その時気が付いていたのだ。

 

「……あの時アイツ左手で(・・・)何かしてた!」

 

「なに!? 本当か!?」

 

「ああ。左手で剣を持ったまま人差し指を使ってウインドウをタップする様な仕草だった。……ただ、なんかボヤけて見えていたせいで実際には何をしていたかはさっぱりだ」

 

 野球部に所属していた頃は暇さえあれば視界を広げるトレーニングをしていたため、視界の広さには自信があったのだが、何故かこっちの世界に来てからは少しボヤけ気味だ。

 

「よく見えなかったのは仕方がないヨ。SAOは《ディティール・フォーカシング・システム》を採用しているからネ」

 

「ディディ……フォカッチャ……?」

 

「《ディティール・フォーカシング・システム》。広大なSAOの景色をいちいち精緻なオブジェクトとして出力してたらシステムリソースがいくらあっても足りないからな。プレイヤーが興味を持って視線を凝らした対象物にのみリアリティなディティールを再現しているんだ」

 

 そんな事までしてんのかよこのゲーム。SAOには驚かされてばかりだ。

 

「トリックのキモが左手にあるって分かったのはデカいな。何回タップしてたかくらいは分かるか?」

 

「ん〜、俺も本当にチラッと見えたくらいなもんだから断言できねえけど、多分ワンタッチとかそれくらいじゃねえかな?」

 

「ワンタッチ……たったそれだけで武器を……いや、武器だからこそ……そうか! 《クイックチェンジ》だ!」

 

クイックチェンジ。確かそれって武器系統のスキルのmod……強化オプションの一つだ。効果はストレージ内にある武器を瞬時に取り出せる…………。

 

「そうか! それで自分のストレージ内にある同じ種類のエンド品と入れ替えてたって訳か!」

 

「発動に必要なメニューウインドウはカーペットと売り物の間に隠せば良いシ、modのエフェクトは炉の光と音で掻き消ス。……案外単純なトリックだけどモ、こんなことを思いつくとは天才的だネ」

 

 恐ろしいとでも言う様なアルゴの評価も尤もだ。少し練習しさえすれば誰にでも出来てしまいそうな方法でありながら武器スキルmodを利用して主武装をまるまる掠め取ろうなんて発想はなかなか考えつくものではない。しかも、それをこんな序盤に戦士ではなく鍛冶屋がやるのだ、騙された大多数のプレイヤーは疑う事すらもしなかっただろう。

 

「だけど、これでもう完全に尻尾は掴んだんだ。これ以上被害が広がる前にネズハの奴をとっ捕まえちまおうぜ!」

 

「いや、ここは慎重にいこう。確かに手口は判明したけどそれはまだ俺たちの憶測でしかない。所持アイテム全オブジェクト化だってチートくさい所があるし場合によっては破壊された武器はこの方法で復元できるなんて言い逃れをされるかもしれない。そこまで追い込んだ状態で取り逃がした場合…………」

 

「ネズハは証拠の隠滅をするかもナ。そしテ、詐欺が公になった頃には盗られた武器の返済方法が無くなリ、懲罰システムも無いSAOで罪を償わせるために行われるのは……処刑(・・)……罰としてのPKダ」

 

 処刑という言葉に思わず息が詰まり、同時に未だ枕に顔を埋めているアスナの肩もビクンと震える。

 

「そうならないために俺が次のスキルmodでクイックチェンジを習得して、言い逃れができない様に現行犯で捕まえる。そして取り返しのつく形で償いをさせる」

 

「うん…………きっと、その方が良いと思う」

 

 枕から顔を上げたアスナはどこか悲しげな表情でストレージから一本の投擲用ナイフを取り出した。

 

「あの優しそうなヒトが好き好んで他のヒトの大切な物を盗むとはどうしても思えないの……。犯罪をしなければならなかった理由があるのなら、それもはっきりさせたい……」

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