SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略! 作:封魔妖スーパー・クズトレイン
「強化、頼む」
ガシャンガシャンと重金属系鎧特有の喧しい音を立てながら分厚いプレートメイルにグレートヘルムまで装備した男がぶっきらぼうな言葉と共に鍛冶屋ネズハに鞘ごと剣を突き出す。
怪しい男の注文に面食らっていたネズハだが、《そういう趣味の人》と自分を無理矢理納得させながら出されたアニールブレードを受け取り──その剣のプロパティに思わず息を飲んだ。
「アニールの+6……試行二回残し、ですか。しかも内容が……
言いながらわずかに唇を綻ばせてしまう。
片手直剣最高レベルのアニールブレードを更にこれだけ見事に強化しているのだ。間違いなくかなりの根気とかなりの幸運が必要となる。しかもこの強化過程を考えると今までシステムによるアシスト無しの本人の実力だけで戦い抜いたという事であり、この剣の持ち主は顔を隠しているために誰だか判別できないが、きっと相当名の知れたプレイヤーなのだろう。
だが、そんな感嘆はわずか一秒後には消え去り、代わりに浮かんだのはどうしようもない罪悪感。
これ程までに素晴らしい剣とそんな剣の持ち主に自分はこれから──
「………………強化の種類は、どうしますか?」
「スピードで頼む。素材は料金込みで、九十パーぶん使ってくれ」
「……解りました。確率ブースト九十パーセントだと、料金は……手数料合わせて、二千七百コルになります……」
自分が言った台詞に心の中で自嘲する。何が手数料だ。まるで
男は了承し、トレードウインドウから提示された金額と必要な強化素材を出してくる。
「…………二千七百コル、確かに頂きました」
ぼそりと答えて、携帯炉に向かい合う。ごく自然な動きで、左手に握った剣をカーペットに所狭しと並ぶ商品の数センチ上にぶら下げた。
アバターには無い筈の心臓がどっくどっくと暴れ回る。まるで主人を見捨ててこの場から逃げ出してしまいたいみたいだ。
受け取った強化素材を炉にくべると眩い緑色の光が生まれる。その瞬間、左手の人差し指をすっと伸ばし、カーペットに並ぶ剣と剣の隙間を軽くつつく。これで終わりだ。ちらりと依頼主の方を覗き見るが分厚いヘルムで顔色は伺えず反応は分からない。
グリーンの光が溜まった炉の中に握っている剣を横たえると緑色の輝きがすうっと刀身を包み込み、それを隣の鉄床に移動させ、一瞬のためらいの後、慎重に狙いを付けてハンマーを振り下ろす。
カァン、カァン、カァン
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
槌を振り下ろす度に心の中で懺悔する。騙してしまった目の前の男に……これから砕け散るであろう目の前の剣に。
……十回目。最後の槌音がカァーンとひときわ高く鳴り響き──鉄床の上の剣が儚く砕け散った。
「──す、すみません!! 本当にすみません!!」
弾かれた様に土下座をし、地面に打ち付ける様に頭を下げる。男が目の前で起こった出来事を受け入れた瞬間、一体どれ程の罵倒が──
「いや、謝る必要はないよ」
「…………は……? でも……」
呆然とするネズハをよそに男はメニューウインドウを操作する。すると着込んでいた鎧が溶ける様に収納されていき──
「あ……っ、あなたは……!?」
「悪かったな。騙すような真似して」
最後に漆黒のコートを装備した男──キリトは最大限穏やかな口調で話ながらメニューウインドウを再度操作し、武器スキルmod──《クイックチェンジ》を発動する。
しゅわっ! という控えめなサウンドと共に右手に出現したのは砕け散った物とは別の──キリトの物であるアニールブレードだ。
ネズハの顔が大きく歪む。
そんなネズハの背後にある建物の窓が開かれる音がし、キリトがそちらを向いたのに釣られて同じ方向を向けばそこには数日前にウインドフルーレを騙し取った客──アスナの姿があった。
「…………は……はは……」
全てを察して思わず乾いた笑みを浮かべる。
あのレイピアがストレージの中から消えた瞬間、いずれこうなる事は分かっていて……もしかしたら、心の何処かでそれを望んでいたのかもしれない。
「アンタの手口は全部見破った。さあ、署までご同行願おうか」
─────────────────
尋問のために取っておいた会議用の部屋には現在、容疑者のネズハの他に俺、キリト、アスナ、アルゴの計五人が居る。強化詐欺の手口の答え合わせを軽く行い、そして最も重要な盗品の行方について白状させたは良いものの……。
「……要するに騙し取った武器は全部換金して飲み食いやら宿代やらで豪遊してほとんど残っていないと、そう言うんだな?」
「…………はい……本当に申し訳ありません」
「攻略組の面々が文字通り命をかけて死に物狂いで鍛え上げた武器をお前は私利私欲で浪費したと?」
キツい言い回しとなったキリトの言葉に小さな身体を更に縮こませて怯えるネズハ。
実際彼のストレージ内を確認したが盗品らしい武器やそれらを売って手に入るであろう金額のコルは見つからなかった。だが──
「いヤ、それはないナ。ここ数日の身辺調査で君の質素な生活ぶりは確認させてもらったヨ。現在君はただ一人のプレイヤー鍛冶として市場を独占していル。それに加えての強化詐欺ダ。計算が全く合わなイ。だかラ、オイラたちは今こう疑っているんダ。君は荒稼ぎした金を誰かに貢いでいるんじゃないかってネ」
「そ、そんな! 一体誰に、何の根拠があって!?」
「《レジェンド・ブレイブス》つうチームがある。そいつらはみんなキャラネームに伝説の英雄達の名前を使っているんだ。《オルランド》に《ベオウルフ》、《クフーリン》って具合にな。何とも豪胆な連中だと思わねえか? ネズハ、いや《
「──ッ!!」
隠された本当の呼び名を呼ばれた英雄は驚きの余り大きく目を見開いた。
中国のファンタジー小説『封神演義』に登場する少年の神であり、堂々たる《伝説の勇者》である。
検索エンジンの無いこの世界でNezhaの文字をナーザと読める奴はきっとほとんど居ないだろう。あのアルゴですら自身が頼りにしているブレーンから聞かされるまで知らなかったと言うくらいだ。
だが、こうして真の名を発見した事によってキリトはネズハが最初から生産職を志していた訳ではなく、戦闘職になるつもりが、何らかの事情で鍛冶屋にならざるを得なかったのではないかと確信したらしい。
「オレっちが調べた所だト、フロントランナーたちの高価な武器が強化失敗で破壊される事件が始まった時期とブレイブスが台頭し始めた時期はピタリと一致するんダ」
「それに聖騎士様が言ってたぜ。ブレイブスは元々別のゲームで組んでいたチームだって。俺も知ってるゲームだったけど、あれは確か六人一組で遊ぶもんだった筈だ。五人揃えて残り一人を野良で済ますなんて考えられないし、そうなると必然的にあと一人メンバーがいた訳だ。それがお前なんだろ?」
「…………そこまで、分かっていたんですね」
ネズハはそう小さく呟くと力無く項垂れる。それは正に肯定の証だ。
「…………正直に話してくれ。君たちはなぜ
「ッ!? 違う、彼らはそんな……っ!! ……ぁ」
「やっぱり、違うのね」
これまでただ成り行きを見守っていたアスナが何処か納得した風に口を挟むと、懐から一本の投擲用ナイフを取り出し、ネズハに受け取る様に促す。
ほんの少し手を伸ばせば容易に取れる距離であるにも関わらず、ネズハは眉間に皺を寄せて恐る恐る手を伸ばし──ナイフから数センチ手前で空を切った。
「…………あなた、片目が……」
「……見えない訳じゃないんですよ? ただ、ナーヴギアを介すると……遠近感がわからなくなるんです」
「FNC……フルダイブ
アルゴが呟いた正式名称までは覚えていなかったが、そういう障害があるとネットで見かけた事がある。
脳とフルダイブマシンの間で接続障害が生じてしまい、五感のどれかが上手く機能しなかったりラグが生じるといったごく微少な問題から最悪フルダイブすら出来ないといった問題までも起こるらしい。
俺も小遣いはたいてナーヴギアとSAOのソフトを揃えた後にその存在を知り、自分は大丈夫かと不安になったのを良く覚えている。
「奥行きを判別できないのはSAOでは致命的だ。それでも君はログインした。ゲーマーなら
「…………おっしゃる通りです。僕は仲間の情けに縋りついて……みんなの夢を台無しにしてしまった」
SAO開始当初、先行者達が死に物狂いでリソースを奪い合っていた頃、ブレイブスはハンデを抱えたネズハのリカバーを優先して行動していた。遠近感が分からないネズハが戦える唯一の方法である《投剣》スキル。一部ではネタスキルとすら言われるそれのレベルを上げるためにチームは一丸となって修行に付き合ったものの結局使い物にはならず、気が付けば最前線との差は取り返しのつかない程にまで広がっていた。
「そんな時です。……あいつが……黒ポンチョの男が話し掛けてきたのは……」
『
そう言ってその男はネズハに武器のすり替えのやり方を伝えた。
「もちろん、それは犯罪でしたから僕もそんなことできないって拒否しました。……そしたらその男は……笑ったんです。フードの下ですごく明るく……何だか映画みたいに綺麗で楽しそうな笑い方でした。その笑い声を聴いている内に何だか、いろんなことが深刻なことじゃないように思えてきて……」
そうして、男は一言幸運を祈った後、何の見返りも要求せずにその場を去ってしまったらしい。
そしてネズハは──
「でも、勘違いしないで下さい! 全部僕が勝手にやったことなんです! だから……だからどうか、これで──」
そこまで話した瞬間、ネズハは急に立ち上がりバルコニーまで向かうと、柵の外に身を乗り出す。柵の向こうは──外周だ。
ネズハの身体が柵の向こうへと消える瞬間、アスナが敏捷値にものを言わせた速度で動きその足を掴む。だが、敏捷特化型であったためかネズハの体重を支えきれず、諸共落ちかけた所でようやく俺とキリトが間に合い太腿も捕まえる。
「なっ!? は、放して下さい! 僕はもう!!」
「おい馬鹿! 暴れんじゃねえ!!」
「考え直して! あなた本当にそれで良いの!? 憐れまれたまま見返すことなく終わって良いの!? そんなの絶対ダメ!! 死にたいなら……勇者として死になさい!!」
アスナの叫びにネズハは動きを止める。
「今だ、アシュロン!!」
「ぬぉぉぉおおおおっ!!」
キリトの合図と共に力の限り引っ張り上げる。勢い余って二人を思い切り後方に投げてしまった気がするが緊急時ゆえ仕方ない。
息を整えた後、部屋の方をみれば覚悟を決めた償いすら阻止されたネズハが肩を振るわせながら蹲っていた。
「…………ネズハ。君の投剣スキルはなかなかのものだと聞いている。例え遠近感が取れなくてもシステムアシストが効く投擲武器なら──」
「そんなことわかってます!! でもあんなもの実戦では何の役にも立ちませんよ!」
「そうだな。投擲武器が無くなれば戦えない。それならもし君でも戦える様になる武器が……投げても