SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略! 作:封魔妖スーパー・クズトレイン
現状のSAOではスキルを捨てるという行為は容易ではない。
このゲームではスキルレベルを一つ上げるだけでも他のタイトルの比では無い程の時間と労力を必要とする。生産職に至っては更に元手も必要となるため、その苦労は最近までプレイヤー鍛冶がいなかった事が何よりも証明している。
そんな非常とも言える条件を、ネズハはたった一度深呼吸しただけで受け入れた。
『この世界で、剣士に……勇者になれるのなら、他に何も要りません』
そう言い切った彼の姿には少し前まで罪の意識に押し潰され自信無く縮こまっていた面影はどこにも無かった。
そうして、覚悟を決めたネズハを連れ、俺にとっては通い慣れた道を通って体術スキルが習得できる修行場へと向う。そこでアスナが
「さて、後はネズハ自身に頑張ってもらうってことで、俺たちはそろそろ迷宮攻略に戻るとしようか」
キリトがとりあえず一件落着とばかり大きく伸びをしながら攻略の再開を持ち掛ける。
ボス部屋まで残り数階となった今、ボス戦に向けて少しでもレベルアップしておきたい所だし、今回のフロアボス《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》とその取り巻き《ナト・ザ・カーネルトーラス》はどちらも《ナミング》というトーラス族専用のスキルを使用してくるため、その攻撃に慣れるためには雑魚トーラスとの戦闘で練習しなければならないのだが……
「…………悪い。俺、今回のボス戦はやめとくわ」
俺の一言が意外だったのか二人は揃って驚きの声を漏らす。だが、驚いたのは二人だけではなく───俺自身も自分の口から出た言葉に内心驚いていた。
理由は分からない。けど、どうしてもこの場を離れる気にはなれなかったため、急いで言い訳を考える。
「……後もう少し……もう少しで完成する筈なんだ。だから……」
「で、でもボス戦に参加しないと経験値もお金も手に入らないじゃない! あなた、ただでさえその秘密の特訓をしているお陰でレベリングが疎かになっているみたいなのにこのままじゃ───」
「アーちゃん、アシュ郎の好きにさせてやろウ。そもそもボス戦に参加するかどうかは個人の自由ダ。他者がとやかく言うことじゃなイ」
「…………確かにアルゴの言う通りだな。それなら仕方ない。行こうぜ、アスナ。今の内にガンガンレベル上げて、ボス戦でもLA取って、後でたっぷり自慢してやろう」
そう言ってキリトは背を向けるとそのまま悠々とこの場を去っていき、アスナも少し名残惜しそうにこちらを見た後にキリトを追いかける。そしてアルゴも「ンジャ、たまに様子見にくるヨ。頑張ってネー」と言い残して行ってしまった。
自らキリトに弟子入りしたのに勝手ばかり言っている自分に嫌気が差すと同時に自問自答をする。何故俺はボス戦参加を拒否したのだろうか?
修行の為? いや、違う。そんなの言い訳でしかない事くらい自分どころかあの三人だって気付いているだろう。
ボス戦に参加するのが怖いから? それこそまさかだ。今だってボスに殺されるよりもディアベルとの約束を反故にする事の方が恐ろしい。
ならば一体何故───
「フォフォフォ……オヌシ、冷めとるのぉ」
「うるせえな。俺だって悪いとは思って──って、爺さん、あんた喋んのかよ!?」
豊かな髭をなでながらいつの間にか隣に移動して、さも当然とばかりにNPCの言語処理アルゴリズムを超越した会話をしてくる老師様。
こいつNPCだよな? 何で人間みたいに話してきたんだ? いや、確かにアスナにセクハラしたりと人間みたいな行動してたけど……本当にNPCだよな?
「…………ワシも昔はそうじゃったよ。武とは孤独の道。己とのみ向き合って冷徹に磨き上げるものと勘違いしておった。じゃが、真に極めるべきは陰と陽との均衡。精神は冷たく研ぎ澄ますだけでなく、日輪の如き熱も必要としておる」
「………………して、その心は?」
「
「言うと思った!! テメェ、剣と魔法と健全な青少年の夢が詰まったRPGを汚すんじゃねえよっ!!」
そうして、この日はこの不届なNPCに調子を崩されたまま修行をして終わってしまった。
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「………………もう四つも割ったんですか。凄いですね」
修行開始から二日の夕方、ネズハがようやく岩の表面に小さなひびを入れた時、俺は四つ目の岩を割り終えた。
そう、
「…………その、もしコツなんかがあれば教えてもらえませんか?」
「…………ゾーンに入って、壊れやすい所を見つけたらそこを殴りつける。何の参考にもならねえから、こうして実用化のために特訓してるんだよ」
「ソ、ソウデスカ」と気落ちするネズハはほっといて軽く手足を伸ばして準備運動をすると別の岩に向かい合う。時間が無い。集中力が途切れない内に少しでも何か掴まなければ───
「………………なんか腹減ったな」
「え? でも、ついさっき晩御飯食べたばかりじゃないですか?」
「爺さんにいくつか食われちまったせいで全然足りねえや。…………しょうがない、その辺にいる牛でも狩ってくるか」
「ええ……、確かこの辺りには《トレンブリング・オックス》しか居ない筈じゃ……」
確かにあの雄牛の肉は筋張っていて滅茶苦茶硬いが、噛み続けているとそこそこ旨みがあるしそんな怪訝な顔される物では無い筈だ。
…………もっとも、今回は別に獲るつもりは無いが。
修行場から少し離れた林の中、そこまで来た所で一つ深呼吸をしたのち声を掛ける。
「居るんだろ? 隠れたって無駄だぞ。こっちは看破スキルをそこそこ上げてんだ」
「…………やはり、付け焼き刃で取った隠蔽では見破られてしまうか」
そう言って自らスキルを解いて現れたのは《レジェンド・ブレイブス》のリーダー、オルランド。隠れるためにいつもの鎧は脱いで、真っ黒の外套を着用した英雄とは程遠い格好をしている。
「どうやってここを嗅ぎつけたかは知らねえけどさっさと帰ってお仲間の勇者様達に伝えとけ。お前らがしてたセコイ稼ぎはもう出来ないってな」
「いや、待ってくれ。俺はただネズオの様子を見に来ただけであって、連れ戻しにきたんじゃない。だからこそ、アルゴさんからこの場所のことを教えてもらえたんだ。…………詐欺を働いた一味のリーダーの言うことなんて疑わしいかもしれないが信じて欲しい」
そう言ってオルランドは深々と頭を下げる。
「………………アンタ、本当にオルランド……さん、なのか?」
「……口調が普段と違うから変に思ったか? 当然だろう、あんな仰々しい話し方をする人間がリアルに居る訳がない」
いや、口調以外にも色々違いすぎだろ。
ネズハがかなり慕っていた人物とはいえ、犯罪を犯したチームとだけあって最悪この場で決闘でも申し込まれるかと思っていたのだが、予想外の状況にかなり面食らってしまっている。
「アルゴさんから話は聞かせてもらったよ。詐欺を見破った上で裁くのではなく、こうしてあいつの力になってくれたんだってな。……ありがとう。本当に何とお礼を言えば良いのか」
「え? いや、礼ならキリトに言ってくれよ。今回の事、ほぼアイツが解決した様なもんだし」
「そうなのか? だが、アルゴさんからは何故かまだキリトさんには何も言うなと言われているのだが、どうしたものか……」
……アスナとアルゴが何か企んでるな。第一層では見事に悪役を演じてみせたキリトだが、意外と企んでいる事が表情に出やすいタイプだからそこから何かバレない様にと考えたのだろう。
敵を欺くにはまず味方からと言われているが、何も知らされていないキリトに心の中で合掌する。
「君たちには本当に感謝している。……まったく、自分が恥ずかしいよ。勇者を名乗っていながら仲間たちが悪事に手を染めていたことにすら気付けなかったなんてな」
「…………それって、つまりオルランドさんは何も知らされていなかったのか?」
「もっとも、あまりにも稼ぎが良すぎたから違和感は感じていたよ。……それでも、ようやく英雄としてスタートできると意気込む仲間たちや、それまで遠慮気味だったネズオがチームに溶け込んでいるのを見ているとどうしても指摘することができなかったんだ。だから、この装備はチームみんなの頑張りのお陰だとひたすら自分に言い聞かせていた」
成る程、だから装備について触れた時に最初に少し言い淀んでいた訳か。
「だが、それももうすぐ終わる。………………明日のボス戦が終わり次第、俺は全ての装備を売り払い賠償として前線チームに寄付した後、攻略から身を引くつもりだ。仲間たちからもなるべく出せるだけの金を出してもらって、それでも足りなければ……鍛冶屋でも初めて少しずつ返していこうかな」
「…………それで良いのか? だってアンタ勇者になるのが夢なんだろ?」
「そうだ。だが、…………いや、だからこそ、俺は
まるで自分に言い聞かせる様に呟くオルランドの瞳には悲しくなる程に強い決心が宿っていた。
オルランドはそうして最後に「どうかネズオを……ネズハを頼む」とだけ言い残してこの場を後にする。
俺は何も言えず、ただ奥歯を噛み締めその背を眺めていた。
胸の内がギシギシと強く痛む。
───何故、ボス戦の参加を蹴ってこの場に留まったのか。何故、ここに来て調子を崩してしまったのか。
その答えがようやく解った。