SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

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今回はまたキリト視点です。


24話 第二層フロアボス戦

「来るぞ!」

 

 全身が真っ青の牛男、《ナト・ザ・カーネルトーラス》が持つ巨大な両手用ハンマーが大きく振りかぶられるのを見て《ナミング・インパクト》が来るのを察知すると、大声で警戒を呼びかける。

 

 その声にエギルを初めとするタンク部隊が急いで構えを解き回避に専念する。そして、全員がその場を飛び退いた直後に放たれた強烈な一撃が敷石を叩くと同時に黄色いスパークを放射状に拡散させた。

 

 第二層のフロアボスであるトーラス族共が使うソードスキルは 麻痺する(ナミング)の名前の通り、直撃せずともその余波を食らうだけでプレイヤーを三秒間 行動不能(スタン)させ、そこから更に重ねて食らうと十分もの間動けなくなるという強力で深刻なデバフ、 麻痺(パラライズ)になってしまうのだ。

 

 フロアボスの目の前で麻痺になるのは致命的。ベータ時代ではほとんどのプレイヤーがそのままボスに殺された程だ。そのため、ボス戦開始前には、デバフの二重掛けには絶対にならないようにと(何故かキバオウに引っ張り出されてしまったために)レイド全員の前で注意を呼び掛けていた。

 

 その注意が功を奏したのか、取り巻き担当の方はデバフを受けないように上手く立ち回れていて順調な戦闘を行えているのだが───

 

「か……かっ、回避ーっ!!」

 

「アホウ! 落とした武器に構うんやない! 余裕のあるヤツは麻痺ったの引っ張ってけ! 二人掛かりでや!!」

 

 広大なボス部屋の反対側から、やや裏返り気味の絶叫が届いてきたため、戦闘の合間にちらりと視線を向けると、本隊である数十人のプレイヤーの頭越しに、ぎょっとする程の巨大な影が視認できる。

 

 ナト大佐の二倍もの体躯をした真紅の毛皮をしたトーラス族。第二層のフロアボス、《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》だ。

 

 フロアボスというだけあって、奴が使用するナミング系の上位技《ナミング・デトネーション》は効果範囲が部下のスキルの倍近くあり、その極悪な能力により早くも七、八人ものプレイヤーが二重デバフにより麻痺った状態で戦闘から離脱していた。

 

「本隊はジリ貧くさいな……」

 

「ああ、でも、もう少し戦えばタイミングにも慣れるはずだ。今んとこはベータとの違いはないし、何とか……」

 

「でも、あれ以上麻痺した人が増えると……一時撤退が難しくなるんじゃないかしら」

 

 アスナの指摘に思わず唸ってしまう。

 

 動けないプレイヤーを運ぶにはかなりの筋力値が必要となるのだが、ざっと見たところ、このレイドの七割近くがバランス型かスピード型のプレイヤーだ。それはつまり、もしもこの面子で撤退戦となった場合には麻痺したプレイヤーを一人運ぶために二人以上もの人手が必要となることを意味している。犠牲者を出さないためには、そろそろ撤退を視野に入れなければならないだろう。

 

「……こっちのことは任せて、キリト君はリンドさんに話してきて」

 

「え……だ、大丈夫かよ?」

 

「まあ、問題ないだろう。こっちにはアイツら(・・・・)も居るしな」

 

 そう言って笑うエギルの視線の先には

 

「ぬはははは!! ブレイブス、突撃〜っ!!」

 

 と、何とも喧しい掛け声を上げるオルランドと彼に続いてナト大佐に果敢に挑むブレイブスのメンバーがいた。

 

 リーダーは一見ふざけているとしか思えない言動をしてはいるがナトの動きをしっかりと見極め余裕を持ってパーティーを指揮しており、彼らが身に付けている鍛え上げられた装備はその高い防御力と阻害抵抗値(デバフレジスト)が存分に真価を発揮している。

 

 あれが強化詐欺による恩恵だというのが何とも複雑だが、こうして攻略に貢献してくれるのならと今だけは素直に感謝しておくとしよう。

 

「それなら少しの間ここを頼む! すぐ戻ってくるけど油断するなよ!」

 

 そう言って俺は自慢の敏捷値をフルに使った全速力で走り出す。向かうのは今回のボス攻略戦のリーダーであり……ビーター・キリトを最も恨んでいるであろうリンドの所だ。

 

 きっとこんな時でも露骨に嫌な顔されるんだろうな、と内心辟易しながら隣に辿り着くと、どうやらリンドもこの状況が芳しくないと分かっているのだろうか顔色が彼が身に纏っているマントもかくやと言う程の青色になっていた。

 

「リンド、ちょっと良いか!?」

 

「なっ!? あ、あんたには取り巻きの相手を頼んだはずだ。何しに──」

 

「一回仕切り直そう。これ以上麻痺する奴が出ると撤退が難しくなるぞ!」

 

「そんな!? だってもう半分なんだぞ!? ここで退くなんて……」

 

「確かに惜しくはある。でも──」

 

あと一人(・・・・)……あと一人麻痺したら退く。それまでやってみぃひんか?」

 

 背後からの声に振り向けば、薄茶色の髪をトゲトゲに尖らせたキバオウの顔があった。彼も内心ではベータテスターである俺に消えざる反感を抱いているはずだが今の表情は真剣だ。

 

 短気なキバオウの意外な一面に驚きを隠せないでいるが、どうやらそれは俺一人ではないらしい。

 

「い、良いのかキバオウさん……? 仕切り直したら次はあんたがリーダーに……」

 

「わーっとる! けどな、皆《ナミング》の範囲やタイミングは掴んだはずや。集中もできとるし、士気も高い。POTの類いもようけ使っとるし、損するのは嫌いやねん」

 

 キバオウの言葉にリンドの顔付きが変わる。乱れ切っていた呼吸を整えながら周囲の様子を見回し、数秒の思案の後大きく頷いた。

 

「わかった。それでいこう。……提案、感謝する」

 

「…………基準が明確ならそれでいいさ。ゲージには気をつけろよ! ラス一になったら警戒だ!」

 

 俺が早口にそう言うと、キバオウは「言われんでも、わーっとる!」と叫びながら自分の持ち場に戻っていき、リンドも再び矢継ぎ早の指示を再開する。

 

 歯車がガチリと噛み合ったような感覚に思わず笑みを浮かべてしまう。攻略集団が二つに分かれてしまっていたことには少なくない不安があったのだが、こうして上手く噛み合ってくれるのなら意外と悪くないのかもしれない。

 

 その本流から外れたビーターの癖にそんな柄でもないことを考えながら取り巻き担当組の所へ戻ると、すかさずアスナが駆け寄ってきた。

 

「どうなったの!?」

 

「あと一人麻痺ったら撤退するってさ! でも、今のペースなら押し切れそうだった!」

 

 アスナは一瞬浮かない顔をするが、すぐに頷く。

 

「了解。それならこの青いのをとっとと片付けて、わたしたちもあっちに合流しましょう」

 

 方針が決まった所で、丁度ナト大佐が大技を放って《行動遅延(ディレイ)》に入ったためブレイブスとスイッチして戦闘を再開する。

 

 ゲージがラスト一本となった青い牛男はそれまで使用しなかったタックル攻撃を仕掛けてくるが、その軌道は尻尾の方向で判別できるため対処は容易い。危なげなく回避をした後にそこにできた隙をついてソードスキルを浴びせまくり、ついにHPを残り半分にまで減らすことに成功する。

 

 同時に本隊の方からも歓声が上がり、様子を見ればバラン将軍のHPも残り半分となっていた。

 

 2頭の牛男はほぼ同時に鼻面を天井に向けて猛々しく吼える。死に際に突入する暴走状態(バーサーク)だ。フィールドボスの時にはかなりの苦戦を強いられたが、今回は事前に情報は出ており、攻撃スピードが上がろうが落ち着いていれば対処は充分にできるだろう。

 

「良かった。見たところバラン将軍もベータの時から何も変わってないな。流石に今度はベータからの変更はなかったみたい……だ……」

 

 …………本当に?

 

 あの狂気の天才である茅場晶彦が……心血を注いだこのアインクラッドで……最も重要であるこのフロアボス戦をベータ時代と全く同じ攻略法で済ますだなんて、そんな手抜きをするのか? ……いや、そんなことある訳がない。

 

 考えろ。きっと何か重要なことを見落としてしまっているはずだ……コボルドロードの時みたいに何か罠が……コボルド…… ロード(・・・)…………!!

 

「しまった、そういうことか!?」

 

「ど、どうしたのよ、急に!?」

 

「第一層のボスが君主(ロード)なのに、第二層で将軍(ジェネラル)に格下げなんてあり得ない! 大佐と将軍がいるなら当然その上の──」

 

 ごごぉん! という突然の轟音が、俺たちの会話を遮った。

 

 音の発信源はコロシアムの中央。牛のレリーフが施されたタイルを中心に同心円状に敷き詰められた敷石がゆっくりとせり上がっていき、やがて三段のステージとなった瞬間、その上空でゆらりと背景が歪んだ。

 

 自分たちを見下ろす影にプレイヤーたちは我を忘れてただ呆然とそれ(・・)を眺め、二頭の牛男たちは狂喜に満ちた雄叫びを上げる。

 

 現れたのはこの塔のコンセプト通り、一頭の牛男。だが、そいつは決して低くはないこのボス部屋の天井に届くのではないかと思えるほどの背丈を誇っていて、その頭部では自身の雄大さを示すが如く太く伸びた二本の角と白金と思しき円形の王冠がギラリと鋭い光を放つ。

 

 ()の第二層フロアボス《アステリオス・ザ・トーラスキング》。

 

 第三にして最大のトーラス族は絶望の表情を浮かべたプレイヤーたちを見下し、嘲笑うかの様に優雅に一声鳴いてみせた。

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