SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略! 作:封魔妖スーパー・クズトレイン
───頭を止めるな! 考えろ!
あまりの絶望的状況につい膝を折ってしまいそうになった自分に鞭を打つ。
情報が全く無いフロアボスが登場した今、取るべき行動は即時撤退からの戦術の練り直しなのだが、トーラス王がボス部屋の中央に現れてしまったために部屋の最奥部で戦っていた本隊が王と将軍の挟み撃ちに合ってしまっている。
「お、オレたちで新手の足止めを……!」
「いや、
動き始めたアステリオス王から視線を外し、至近距離のナト大佐に剣を向けながら叫ぶ。
「──全員、
リスク覚悟で大佐の弱点である角の間の額にソードスキルを喰らわせ、俺に続いてアスナ、エギルチーム、ブレイブスもなりふり構わずに総攻撃を開始し、残り半分のHPをガリガリ削っていく。
こうして始まった
「よし、次だ! 本隊が王の
そこまで言った途端、俺は息を詰まらせた。
本隊との接触までまだ余裕があるはずだった漆黒のトーラス王が、いっぱいに上体を反らせ、胸を大樽のように膨らませている。あのモーションは───
「に、逃げろ!!
思わず叫んでしまったが、戦闘に集中していた本隊は困惑の表情を浮かべるだけだった。
次の瞬間───ボス部屋の光度がバグったのではないかと思うほどの白い光が辺りを照らし、続いてピシャアァン! という乾いた衝撃音が鳴り響く。
雷属性のブレス。数多の属性の中で最も速い速度でプレイヤーを襲うブレスであり、更に恐ろしいことに───
「そんな……全員……麻痺……」
キバオウとリンドを含めた十人以上ものプレイヤーが倒れ伏し、そのHPバーの隣には雷マークのデバフアイコンが表示されていた。
最悪だ。あんな攻撃、初見の奴では対処なんてできる訳がない。そんな反則技を使用する王と荒れ狂う将軍に挟まれたままリーダー二人が戦闘不能となった現状に、ついにレイドメンバーたちの間に動揺が走る。
この混乱は第一層のフロアボスの時以上だ。こんな状態では最早まともな戦いは望めないだろう。
…………そう、だから仕方のないことなのだ。
「エギル、アンタたちは麻痺者を安全圏まで運べ! アスナとブレイブスは動ける奴と一緒にバランを討ち取ってくれ!」
「っ──!? キリト君、あなたまさか……!?」
「決まってる! …………ボスのLAを取りに行く!」
精一杯の強がりを吐き、アステリオス王の元へと走り出す。
「無茶だ! たった一人であんなバケモノ……!!」
フロアボスに挑みに行く俺を見たリンドが倒れたまま声を張り上げる。
うるさい、そんなことわかってる。
だが、予想が正しければあのタイプのモンスターはクロスレンジを保てばブレスは使ってこないはずだ。だから、今できる最適解はアスナたちがバランを倒し終えるまで王のタゲを取り続けて時間を稼ぐことだ。
「オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"!!」
唸り声を上げるトーラス王が俺を叩き潰さんと長い両腕をめちゃめちゃに振り下ろしてくる。その攻撃は大振りであるため、おおよその予測は容易にできるが巨大な体に見合った大きな掌の範囲に肝が冷えた。
比較的軽装な俺では一撃を喰らった場合、
途方もないプレッシャーにアドレナリンが大量に分泌され、高揚感に思わず笑みを浮かべてしまう。
そもそも何故俺はこんなことをしているのだろうか?
独善的なビーターであれば、仲間が何人殺されようとも振り返らず自分の安全を確保するべきだ。なのに、こうして他者のために自身の身を顧みない行動をしている。
…………いや、合理的でない行動なんて今に始まった話ではない。アスナのために強化詐欺のトリックを探ったこと。アシュロンを弟子に取ったこと。……そして、ビーターを名乗りベータテスターとそれ以外のプレイヤーの分裂を防いだこと。
遡れば遡るほど自分の利益にならないことを何度もしていることに気が付き、そして最後に思い出したのは第一層の迷宮区にて出会ったアスナに『さっきのはオーバーキルすぎるよ』なんてお節介なアドバイスをしたこと……。
「─────ははっ」
笑ってしまった。それでは……まるで俺は彼女のことが───
ペシンッ!!
急に腹部に衝撃が走り、身体が宙を舞う。アステリオス王の背後を取った瞬間、奴の尻尾によって弾かれてしまったらしい。
しまっ───
浮かび上がった俺に向けて、まるで虫でも振り払うかの様に迫り来る巨椀。咄嗟に剣でガードを図るがそれでもほぼ全身を叩かれ、その勢いで地面に叩きつけられてしまう。
────ここまでか。
俺は胸中でそう呟いた。
不幸中の幸いとも言うべきか、俺の背後には他のプレイヤーは居ない。…………死ぬのは俺一人だ。
ビーターを名乗った瞬間からこんな結末も予想していたと言えば聞こえは良いが、生憎俺とてそこまで人生を悟っていない。未練は数え切れない程ある。
一番デカイのは……両親と妹の直葉に迷惑を掛けたまま逝ってしまうことだろうか。血が繋がっていない上に碌に会話すらしなくなったこんな俺であっても、きっとあの人たちは死を悼み泣いてくれるだろう。それが少し嬉しくあると同時にやっぱり申し訳なさを感じてしまう。
それでも……俺の頑張りはきっと無駄なんかじゃない。
回復用のポーションを使用すれば麻痺が治るのに充分な時間は稼げたことだろう。そうして、レイドは無事ボス部屋を脱出し、真のボスたるトーラス王の存在と攻撃パターンの情報は次の攻略作戦にきっと活かされる。
そして、俺より遥かに大きな可能性を秘めているはずの細剣使いはこれからも攻略を続け、いつか大きなギルドで頭角を現し、光なきこのデスゲームの世界を照らす一条の流星の様にプレイヤーたちを導く存在となるはずだ。
…………できれば、そんなアスナの姿を一目見たかったなぁ。
最後に産まれたもう一つの未練を抱えたまま、せめて穏やかに終われるようにゆっくりと目を閉じ───
「だめ─────ッ!!」
絶叫と共に細い体に抱えられ、絡み合う様に横向きに倒れ込む。綺麗なブラウンの髪が視界いっぱいに広がって───次の瞬間、強烈な白い光によって塗り潰された。
全身の感覚が遠ざかる。直撃を免れたために俺のHPはギリギリ全損せずに済んではいるが、バーの横には麻痺のアイコンが無常にも点滅を繰り返して存在を主張している。そして、それは俺を庇ってくれたアスナの所にも……。
「……馬鹿野郎。……なんで来たんだ」
…………俺は、君が生き残ってくれさえすればそれで良かったのに。
「わからない」
アスナはヘイゼル色の大きな瞳を曇らせて困惑した表情でそうひと言だけ口にすると、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。
アスナの背中越しからは巨大なアステリオス王がのそりのそりと近づいているのが見える。きっとこのまま俺たち二人を叩き潰すつもりだろう。
…………ちくしょう。
この残酷な運命を受け入れたかの様に微笑むアスナの顔を見た途端、先程まではなかった悔しさが込み上げてきて思わず歯噛みする。
「放せ! 放すのだ!!」
本隊がいる方向からオルランドの叫び声が聞こえてくる。どうやらこちらに来ようとしているのを仲間に止められている様だ。
「あれはもう手遅れです! 馬鹿なことはやめてください!」
「馬鹿で何が悪い! 戦友や姫君の盾となって斃れるのは騎士の本懐……!!
「はいっ! オルランドさん!!」
薄暗いボス部屋の天井に光が
それは緩やかな弧を描きながら飛翔し、アステリオスの額にある王冠を撃つ。
「モ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"!!」
甲高い金属音が鳴り響くと同時に、アステリオスが頭を抱え体を弓形に反らして苦しみだす。
ボスを大きく怯ませた光はその勢いのまま、ぐうっと旋回し飛んでいくと一人の小柄なプレイヤーがその光を掴まえる。
「……あいつは……!?」
レイドメンバーの中から驚きの声が出る。
男は皮のエプロンの代わりにブロンズの胸当てを装着し、両腕に同色のガントレット、頭にはハチマキを巻いて、左手の二本の指で器用に自身の獲物──チャクラムを回しながらボスを睨みつける。
現れたのは"初のプレイヤー鍛冶"のネズハ……いや、堂々たる一人の戦闘職──
「来てくれたのか!
ナーザは俺とアスナ、そして絶句しているオルランドとブレイブスの順に目線を流し、一瞬だけ微笑んだ後、ボスに向き直る。
「誰かお二人を安全圏へ移動させてください。それ以外のみなさんは全力で将軍を! 《
Q:この一番かっこいい場面でどうして主人公は登場しないんですか?
A:敏捷値が足りませんでした。