SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略! 作:封魔妖スーパー・クズトレイン
「ちくしょう! ぜってぇ次からは敏捷にもステ振ってやる!」
アルゴだけでなくややAGI型であったらしいネズハにまで大きく離されてしまい、この世界におけるステータスビルドの無情さを目の当たりにしながらボス部屋に飛び込めば、第一層のコボルドロードとは比較にならない程デカイ牛男ボスとそいつの弱点を攻撃して足止めをしているネズハ、そしてボスの近くで倒れているキリトとアスナが目に入った。
状況を瞬時に把握するとすぐさま二人の救助に向かう。
「悪い! 遅くなった!」
「アシュロン! お前も来てくれたのか!」
「そ、それよりもあの人一人だけでボスの足止めなんて大丈夫なの!?」
「まあ、少しの間くらいなら心配ないだろ。あの牛魔王にとってアイツは天敵みたいなもんだかな」
修行場の岩の下は地下になっていて、そこには真のフロアボスである第三のトーラス族の存在とそいつの攻撃パターンや弱点についての壁画が描かれていた。
それによれば、アステリオス王の弱点は頭部の王冠らしく、そこをチャクラム使いが攻撃する事でブレスを封殺するのが第二層フロアボス戦の攻略法らしい。
フロアボス攻略に必須となるアイテムがフィールドボス戦で手に入るのはよく出来ているとは思うが、それでも最悪全滅すらありえるトラップを仕掛けてくる茅場の底意地の悪さには恐怖すら覚える。
とりあえず今は一刻も早く二人を避難させなければならないが、いくらネズハが引き付けているとはいえボスはもう目と鼻の先にいる。悠長に肩に担いでいる暇はないので
「悪いな! ちょっと乱暴かもだが、今は黙って運ばれてくれ!」
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
荷物の様に小脇に抱えてそのまま本隊のいる方へとダッシュする。
「やだっ!? ちょっと、どこ触ってるのよ!?」
「あ、頭っ! 頭擦れてるから!!」
何やら言っているが緊急事態なので当然無視。
そのまま走っていると、後方から大量に息を吸い込む音が聞こえ、ついそちらに顔を向けてしまう。
距離が開いてしまったためにアステリオスはブレスの体制に入っていて──
「やあっ!」
なかなか堂に入った気合いと共にネズハがチャクラムを投げ、ボスをディレイさせた。
「ナイス援護!」
「夢、みたいです。僕が……僕が、ボス戦で……こんな……」
震える声でそこまで口にしたが、後半はぐっと飲み込んで、代わりに叫ぶ。
「……僕は大丈夫です! アシュロンさんはお二人を移動させたら他の人たちと将軍を倒して下さい!」
「ああ、任せろ! 瞬殺してくっから、それまで頼んだぜ!」
すっかり頼もしくなったな、と思いながらキリトとアスナを壁際まで運びポーションを飲ませた。これで、取り敢えず二人は大丈夫だろう。
さて、約束通りさっさと将軍を片付けて……と、考えていたその瞬間、二本の腕にガシッと襟首を掴まれる。
「おい、アシュロン……お前、覚えとけよ……」
「……月夜ばかりと思わないことね……」
「ヒィッ!?」
お二人ともめちゃくちゃ怒っていらっしゃる!?
いや、確かにちょっと悪い事したとは思っていたけど、本当に危機的状況であったために仕方のないことで、心肺停止の人間にAEDを使用するみたいに人命救助にのみ意識を割いていたのであって決して悪気があってやった事じゃ───
「キー坊もアーちゃんもその様子なら問題なさそうだナ。いやァ、ヨカッタヨカッタ」
独特なイントネーションの声が響くと、近くの壁のタイル模様がぐにゃりと歪み、虚空から湧き出るが如くアルゴが姿を現す。
ありがとう、アルゴ。丁度良いタイミングで出てきてくれて。
話を逸らす口実となってくれた事に心の中で感謝しながら、現状の方針について確認する。
「ネズハの事は伝えてきてくれたんだろ? リンドさんはなんつってた?」
「あの厄介なブレスを無効にできるのならボス戦はこのまま継続するんだとヨ。これだけボロボロにされたのにまだやろうだなんテ、あの騎士もどきも以外と根性あるネ」
「そうか、それならいつまでものんびりしていられねえな」
そう言いながら戦場の方を見れば、激昂したバラン将軍がお得意のナミングを連発しており、それに対してプレイヤー側は多少は持ち直した様子だがまだ及び腰であるために攻めあぐねているみたいだ。
ソードスキルが……
剣を逆手に持ち、柄に額を当てる。そのまま一つ深呼吸をすれば、次の瞬間には無意識の内に心身を縛り付けていた重りが空気に溶ける様に
「そんじゃ、ちょっくら将軍の首級を挙げてくるから、お前らはそこで見ててくれよ。……お待ちかねの必殺技のお披露目だ!」
高揚感に身を任せ、無数のライトエフェクトが途切れる事なく炸裂する最前線へと身を投じる。
現在戦線を維持しているのはエギルチームとブレイブスがバランの攻撃を耐えているからなのだが、その双璧の片割れたるブレイブスはネズハの事が気になって仕方がないのかイマイチ集中出来ていない。
本来であればデバフに強い彼らに一仕事頼みたかったのだが、あんな様子では少し頼りないので、無理を承知でエギルに声を掛ける。
「エギルさん! 急で凄え悪いんだけど、一瞬だけでも良いからアイツの攻撃を正面から受け止めてくれないか!?」
「なっ!? 冗談だろ!? オレたちの装備でそんなことしちまったら──」
「スタンは免れないのは分かってる! けど、この牛野郎を一刻も早く倒すには必要なんだ! 頼む、信じてくれ!」
……思い返せば、エギルとは会話らしい会話はした事がない上に、最後に言葉を交わしたのはディアベルの死に暴走していた所を止めてもらった時以来だ。
お互いの事を碌に知らないのに信じろなんて無茶な話だろう。だが、エギルは数瞬悩んだ後に仕方ないと言わんばかりに笑ってみせた。
「ったく、お前と言いブラッキーと言い、何をしでかすのか全く予想できねえな。……分かったよ。一瞬で良いんだな?」
そう言って、エギルは仲間たちに指示を出すと陣を組み、攻撃に備える。
本来なら喰らってはならないソードスキルを受け止める姿勢。防御の要となっていたエギルたちの思わぬ行動に周囲から疑問の声が漂い、リーダーのリンドからは即刻やめるように命令が出された。
「ヴゥオオオオァァァァ───ッ!!」
そして、目の前の将軍もそんな格好の的をみすみす見逃す事はせずに稲妻を纏った渾身の一撃を放つ。
武器同士がぶつかり合う衝撃音とスパークが走り抜ける音が鳴り響き、オーダー通り攻撃を受け止めてくれたエギルたちは襲いかかる衝撃と痺れによる不快感に歯を食いしばっている。
俺の無茶を通してくれた彼らに素早く感謝を述べながら剣にエフェクトを纏わせ一気に走り抜ける。狙いはバラン将軍の持つ黄金ハンマーの柄の一箇所。表面上は何の変哲もない……しかし、確かにダメージが蓄積され、脆くなっている部分だ。
「はあぁっ!!」
ハンマーの柄は一抱え程度の太さしかないにも関わらず、剣からはその見た目以上に硬く重い手応えが伝わってくる。キリトが言っていた通り、ボスの武器は破壊不能一歩手前の硬度を持っているのだろう。
───だが、そのくらいの物ならば、もうとっくに斬ってきた。
果たして、耳をつんざく様な金属音を撒き散らし、バランのハンマーは大樽程もあるその頭を地面に転がした。
「リンドさんっ!!」
「───っ!! そ、総員、
呆気に取られていたリンドは声を掛けられて我に帰るとすぐさま総攻撃の指示を出す。
バランの残りのHPはゲージの三分の一のみであり、得物をなくしたためにプレイヤーたちを牽制していたソードスキルはもう使えない。大木の様な手足を使った格闘や突進で抵抗はするものの、それらの攻撃は一般のタンク役に簡単に止められてしまっていた。
そうして、プレイヤーたちを苦しめ続けていたバラン将軍はそこから二分もしない内に最後は俺の《サイクロン》によって体力を削り切られてその巨体を爆散させた。
「おっし! 将軍討ち取ったで! これで残りはクソ王一匹だけや!!」
「HPが心許ない奴はすぐに回復しろ! 準備が整うまでの間、動ける奴で王を止めるぞ!」
リンドの指示のもと、アステリオスの所にまで走り出したのは全体の半数程。その中にはレジェンド・ブレイブスのメンバーも入っている。
オルランドはネズハが戦闘職に転向したのは知っていたが、他のメンバーはその事を知っていたのだろうか。そして、慕っていた男の為とは言え、強化詐欺の要であったネズハがこうして一人の勇者としてボス戦で活躍しているのを一体どんな気持ちで見ているのだろうか。
そんな心配をよそに、攻略集団は遂に真のフロアボスたるトーラスキングに肉薄する。
メインスキルである雷のブレスはネズハが封じているものの、巨大な手足によって繰り出される攻撃は将軍の鉄槌にも匹敵する威力を誇っている。ここまでの連戦で体力もPOTも尽き掛けたプレイヤーも多い中、防御力の高いブレイブスが長時間ボスの攻撃を防ぐ事が多くなっていた。
しかし、いくらHPに余裕があろうとも思わぬ落とし穴があるのがSAOだ。
その瞬間が訪れたのはブレス攻撃を防がれた回数が二桁に届こうとした時だった。怒り狂ったアステリオスはヘイトをネズハの方に向け、鉄拳を振り下ろす。
その一撃がネズハに直撃する前に既の所でブレイブスの面々が駆けつけ彼を守るために攻撃を受け止めるのだが、そこで遂に───
「オルランドさん、盾っ!!」
「ぬ───っ!?」
オルランドの盾が大きくひび割れてしまう。
これを好機とばかりにアステリオスは再び大きく振りかぶるとオルランドに狙いを定めて追撃を───
「やらせっかよ!!」
拳が降り注ぐ前に今度はタンクもアタッカーもごちゃ混ぜになって各々の得物を構えて立ち塞がる。
「なっ!? 貴卿ら……ッ!?」
「へへっ、アンタらのガッツに当てられて、つい来ちまったぜ!」
「やるじゃんか! 手伝わせろよ!」
「───ッ!? ……ヌハハハハ! ここは……っ、勇者ばかりであるなっ!!」
そう、ここは勇者ばかりだ。…………なあ、ディアベル…………お前だって、きっと…………。
「ならば結構! 皆の者、覚悟を決めよ!!」
「「「応ッッッ!!!」」」
威勢のいい応答と共にボスとプレイヤー達はぶつかり合う。
ズダアアァァンッ! とまるで大型車両同士の衝突事故みたいな音が鳴り響く。
「よし! 全員、そのまま押し返すぞっ!!」
リンドの指示を受けて、ボスに向けて一斉にソードスキルをぶちかます。
攻略集団による一斉攻撃を受けたアステリオスのHPはみるみる削れていき───
「ヴォロロルルヴァラァァァ───ッ!!」
ボスの残りHPは後数ドット…………だから、もう大丈夫だ。
「
「後は任せて!」
「…………ああ、決めてこい。キリト! アスナ!」
再び戦場に舞い戻った勇者二人はプレイヤー達の間を颯爽と駆け抜けるとアステリオスの弱点である王冠───に守られた額に向けて飛び上がる。
バラン将軍の三倍もの背丈の王の頭部にはさしもの二人の跳躍でも届かない。だが───
「「はぁぁぁああああ───っ!!」」
その足りない距離を補うために片手剣突進技《ソニックリープ》と細剣突進技《シューティングスター》で飛翔する。
そして、アニールブレードとウインドフルーレが、巨大な王冠ごと額を深々と貫くと、そこから徐々にひび割れていき、次の瞬間には王は雷光の如き強烈な光を放ちながらその身を爆散させた。