SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略! 作:封魔妖スーパー・クズトレイン
【Congratulations!!】
上空に表示された文字はプレイヤー達の勝利を賞賛すると共にフロアボス戦の終わりを告げるもの。
「犠牲者ゼロ……みんな生きてる…………俺たちの完全勝利だ───ッ!!」
リンドが感極まって叫ぶと同時に他のレイドメンバーも一斉に歓声を上げる。それはつい先程まではここの主だったトーラスキングの咆哮にも負けないくらいの大音声で部屋の空気を震わせた。
第一層の頃の俺は傷心しきっていて歓喜する仲間達の姿をどこか別の世界の出来事の様に見ていたため、今回ようやく攻略集団の一員としてこの達成感を味わう事が出来そうだ。
そんな他とはちょっとズレた感想を抱きながらこちらに歩いてきたキリトとアスナに労いの声を掛ける。
「お疲れさん! 二人とも相変わらず見事なコンビネーションだったぜ」
「相変わらずって何よ。わたしとこの人はあくまで一時的に組んでるだけで──」
「へぇ〜、アスナさんはそんな行きずりの男のためにあんな危険な場面で助けに来てくれたのか〜」
「そ、それは! その……、流石に見捨てられないというか……」
「ハイハイ、ご馳走さま。お前らの仲睦まじさにもうお腹いっぱいですよ」
この二人のやり取りは俺としては微笑ましく感じるのだが、そう思える奴はきっとここでは少数だろう。せっかく犠牲者を出さずに二層を突破できたのにここに来て憤死者を出す訳にはいかない。
「キリトさん、アスナさん、お疲れ様です! 最後の空中ソードスキル凄かったです!」
駆け寄ってきたネズハがやや興奮気味に二人に賛辞を送る。その言葉にキリトは照れ臭そうに笑い、アスナはかぶりを振るとにっこりと笑顔を見せた。
「いいえ、本当に凄かったのはあなたよ。その武器をああも完璧に使いこなすなんて見直したわ」
「ほ、ほとんどシステムアシストのお陰なんですけどね。……それでも、やっと僕もなりたいものになれました」
そう言ってネズハはチャクラムの刃を左手の指先で愛おしむ様に撫でると、急に姿勢を正しお辞儀をする。
「キリトさん、アスナさん、アシュロンさん。……僕の背中を押してくださって……本当にありがとうございました!」
「や、やめろよ、仰々しい……」
「そうだぜ。寧ろ俺は邪魔してた方だったし、なりたい自分になれたのはお前がそれだけ真剣だったからだろ。もっと胸を張れよ」
「いえ、それでもこうしてちゃんとお礼を言いたかったんです。……これでもう……」
そこまで言ってネズハは口を閉じてしまう。
「おいおい、そこで止めんなよ。それじゃあ、まるで…………」
最後の言葉みたいじゃないか?
そこまで言い掛けた所で気がついてしまった。まさか、ネズハは強化詐欺の償いを今ここで───
「よう、お前ら。相変わらず見事な剣技だったぜ。コングラチュレーション! …………だけで、済ませたかったんだがな……」
「……エギルさん」
レイド本隊から離れてこちらに来たエギルと二名のプレイヤー。三人ともとても険しい顔をしており、エギルに至っては普段の人当たりの良い表情が無いだけで思わず後ずさってしまいそうな威圧感を感じる。
三人は別々のギルド、パーティーであるため一見繋がりは無い様に思える。だが、よく見れば第一層の時に持っていたレア物の大型斧ではなく店売りの中型の斧を装備しているエギルを含め、彼らはフロアボスに挑むにしては少し型落ち気味の武器を装備していた。
「あんた、少し前まで鍛冶屋やっていたな。それが何で戦闘職に転向したんだ? そんなレア武器まで手に入れて。……鍛冶屋ってのはそんなに儲かるのか?」
「………………」
「レア武器といえば、オレが持っていた武器はあんたに強化を頼んだら、失敗して壊れちまったな。……ああ、いや、別にいまさら恨み言を言いたい訳じゃないんだ。……ただ、ここに居る連中はどうもオレと同じ経験をしていて……そして、オレと同じ懸念を持っているみたいでな」
普段の彼らしくないキツい言い方からして、エギルは既にネズハを疑っている。武器すり替えのトリックにまで辿り着かずとも、何らかの詐欺行為があったのではと怪しんでいるのだ。
いつしか、勝利に湧いていた他のメンバーも、リンドやキバオウ、そしてブレイブスの五人も沈黙し、事の成り行きを見守っている。ほとんどのプレイヤーはただ訝しそうなだけだが、オルランド達の顔が激しく強張っている事は、遠く離れた場所からでもはっきり分かった。
「き、聞いてくれ! このチャクラムは俺が──」
「いいんです、キリトさん……」
重たい沈黙を破り、何とかネズハを庇おうとするキリトだが、それを止めたのは当の本人であるネズハだった。
そして、ネズハはチャクラムをそっと床に置くと、その場にひざまずき両手と額を地面に押し当てる。
「お察しの通りです。…………僕がみなさんの武器をエンド品とすり替えて、騙し取りました」
再びボス部屋がしんと静まり返る。
SAO初の強化詐欺。それもゲームクリアの要となる攻略集団を狙った犯行。ネズハの告白はきっとこの世界に囚われた全てのプレイヤーに対しての裏切りと取られただろう。
第一層でキリトが糾弾された時と同じ、ひりついた空気が辺りに漂う。
「…………それを……
「……はい、すべて」
「…………金での弁償は可能か?」
「…………いえ、もう出来ません。…………お金は全部、
「…………ッ!?」
馬鹿野郎が……。思わず拳を強く握りしめる。
ネズハは……詐欺の罪を全て自分一人で背負うつもりだ。大切な仲間達を守ろうとする気持ちは立派だとは思う。だが、このままではネズハに待ち受ける運命は最も悲惨なものになってしまうだろう。
「……お前ッ……オマエぇえエエエッ!!」
遂に忍耐の限界を超えたのかエギルの後ろにいたドラゴンナイツのメンバーが恐ろし形相でネズハに掴みかかった。
「解ってるのか!? オレが……オレたちが、大事に育てた剣壊されて、どれだけ苦しい思いしたか!! 剣なくなって、もう前線で戦えないかもって……そしたらよぉ、仲間がカンパしてくれて、強化素材集めも手伝ってくれて……迷惑かけまくってよぉ……!!」
無抵抗のネズハの襟首を掴んで大きく揺さぶりながら怒鳴り散らす男。その声が段々と嗚咽混じりになっていく様子はこのボス戦に挑むまでにどれ程の苦労があったかを物語っていた。
ドラゴンナイツの男は完全に裏返った声でなお叫び続ける。
「何処にも逃げ場のないこのクソゲーの中で、いつも頼りにしてた武器失ってどんだけ怖かったと思ってんだよ!! なのに……剣を売った金で、美味いもん食っただぁ!? 高い部屋に泊まっただぁ!? 挙げ句に残りの金でレア武器買って、ボス戦に割り込んでヒーロー気取りかよ!! お前は自分が一体何をしたのか……オレたちみんなからどんだけのモンを奪ったのか解ってんのかよっ!?」
「わかっています!! ……全部覚悟の上です。……恨みもしません……どんな裁きにも、従います」
……
そのたった二文字の言葉を聞いた途端、フロア内にいる全てのプレイヤーの動きが止まった。
強化詐欺のトリックを探る際にアルゴが予想していた。武器を失ったプレイヤー達が満足する様な懲罰システムはSAOには存在せず、それでも犯罪者を許せないとした場合に行き着くのは、誰もが思いつく最悪の処罰……
その惨たらしい《もしも》が今まさに現実になろうとしている。
「……じょ……じょ、じょ、上等だぁ!! ぶっ殺してやるっ!!」
逆上した男が遂に剣を抜いた。それを隣にいたエギルと解放隊の男が慌てて止めに入り、周囲は一瞬にして蜂の巣を突いたかの様な大騒ぎになる。
「クソ……っ!!」
「「────ッ!! 待て(待って)! キリト(君)!!」」
「止めるな! こんなこと黙って見ていられない!」
「わかってる! だけど、お願い! 今は信じて見守っていて!」
「きっと
現状は予想よりも遥かに深刻だ。だが、それでもあの修行場で仲間と自身の信念を何よりも大事だと語ってみせたあの男ならば、きっと……。
今すぐネズハを助けに行こうとするキリトを引き止めながら再度視線を戻すと、暴れている男は恐るべき執念でエギルともう一人の男を振り解き、手にしている剣を無防備なネズハの背中に振り下ろし───
「待たれよ!! 貴卿らが手を汚すには及ばん!」
ネズハを斬りつける直前、仰々しい制止の声によってその動きを止めた。
そんな言葉遣いをするプレイヤーはきっとこのSAOではただ一人……《レジェンド・ブレイブス》のリーダー・オルランドだけだ。
声の主であるオルランドと仲間の四人は重装の金属装備を鳴らしながらゆっくり広間を横切り、うずくまるネズハの所へと歩み寄っていく。
被っているバシネットのバイザーが半分まで降ろされているためにオルランドの顔色は伺えず、仲間の四人も顔を俯け無言でリーダーに着いてきている。その様はまるで顔を隠した処刑人を思わせ、あまりの威圧感に他のプレイヤーは何も言えずただ黙って見守る事しか出来なかった。
そして、一行はネズハのもとまで辿り着くと彼にしか聞こえない程の小さな声で何やらボソリと呟く。
そのほんの僅かな言葉を聞いた途端、今まで微動だにしなかったネズハがビクリと大きく身体を震わせたが、そんな反応をオルランドは意に返さず腰に差した剣の柄を握り、一気に引き抜いた。
しっかりと強化されたアニールブレードがギラリと鋭い輝きを放つ。そのただならぬ気配に皆が目を見開き、固唾を呑む中───
「この者は我らの……いや……」
ブレイブスは次々に手に持っていた業物と念入りに強化された防具を足元のチャクラムの横にそっと横たえ───
「
ネズハを真ん中に挟む形で横一列になり、床にひざまずいた。
テンポが非常に悪くて申し訳ございません。次で第二層を終わらせるのでもう少しだけお付き合いください。