SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

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無理矢理詰め込んだので、今回は少し長めです。


28話 勇者のために

「…………オルランドさん。あなた達が彼の仲間ということは、つまりその装備は詐欺によって稼いだ金で鍛えた物だと言う訳だな?」

 

「はい。これらの装備は詐取した武器を売った金と俺達自身で稼いだ金で鍛えています。売り払えば賠償金として十分な金額となるでしょう」

 

 オルランドの言葉で張り詰めていた空気がふっと和らいだのを感じる。

 

 いかに場がヒートアップしていたとは言え、六人ものプレイヤーをいっぺんに《処刑》する程にまで皆が血に飢えていた訳ではないし、加えてブレイブスが名乗り出た事で状況は大きく変わった。

 

 ブレイブスのメンバーの装備は時価総額幾らになるのかすぐには見当もつかない程のハイレベル強化装備だ。詐欺の被害者達はそれらを売った金が手に入った上に第三層への扉も開かれた今、次の街で売っている最高級の武器を購入し必要な強化を施せばそれまでの遅れを一気に取り返す事が出来るだろう。

 

 もちろん、賠償だけでブレイブスが犯した罪が許されるとはいかないだろうが、それについては今後のゲーム攻略での貢献という形で償える筈だ。

 

 そう、少なくとも今ここでネズハが死ななければならない理由は───

 

「そんなことで許されるわけねぇだろ!?」 

 

 気が抜けた所に突然きんきん響く喚き声が上がり、思わず飛び上がってしまいそうになる。

 

 叫んだのは解放隊のメンバーであるダガー使いの男だった。フードを被っているため顔は見えないが、痩せぎすの体格と耳障りなその声には覚えがある。一層ボスが倒された直後にキリトをベータテスターだと告発したあの男だ。

 

 そいつはブレイブスを指差しながら更に声のボリュームとノイズを上げて叫ぶ。

 

「オレぁ知ってるんだ!! そいつに武器を騙し取られたプレイヤーは、他にもたくさんいるんだ! そんで、その中の一人が店売りの安物で狩りに出て、今までは倒せてたMobに殺されちまったんだ!!」

 

 衝撃の告白にもう何度目かも忘れてしまった沈黙が訪れる。

 

 奪ってしまった武器とそれまでの時間は金でいくらか償える。騙されたショックや相手への憤りは反省し長い時間を掛けて誠意を見せればいつか許されるかもしれない。

 

 …………だが、死者は……奪われてしまった命はどれだけの金や時間を掛けても戻ってこない。

 

 死人が出てしまったのなら、その罪は詐欺だけには留まらず……即ちレジェンド・ブレイブスのメンバーは…………

 

「こいつらは人殺し(・・・)だ!!  PK(・・)なんだ!!」

 

 ダガー使いの最後の一押しによって、ギリギリで保っていた秩序は遂に崩壊した。

 

「命で償えよ、詐欺師ども!」「死んでケジメつけろよPK野郎!」「死んだ奴に、ちゃんと謝ってこい!」「殺せ! クソ詐欺野郎どもを殺せ!」

 

 つい十数分前まで肩を並べ共にフロアボスに挑んでいた仲間に向けるものとは思えない非情な言葉がまるで濁流の様にブレイブスの面々を責め立てる。

 

 そして、武器を抜いて詰め寄ってくる数人のプレイヤーの存在にブレイブスのメンバーも土下座どころではなくなり、さりとて逃げ出す事も出来ずにただ青ざめた顔で震える。

 

 このままでは彼らは本当に殺されてしまうだろうが、それだけは絶対に阻止しなければならない。

 

 この場でネズハに罪の告白をさせてしまったのは、余計な事を吹き込んだ俺の責任だ。だから、どんな代償を支払おうとも俺にはあそこにいる六人を救う義務がある。

 

 そして何より……俺はネズハやオルランド、ブレイブスの面々を死なせたくない。

 

 例え、その結果追われる身となって二度と攻略に参加出来なくなっても……ディアベルとの約束を守れなくなろうとも……もう勇者(・・)が死ぬのは見たくない。

 

 そう覚悟を決め、今にも襲い掛かろうとする集団に向けて体当たりの一つでも仕掛けようと右足に体重を乗せた瞬間───

 

「待てっ!! この事件の裁定はリーダーである俺が下す! 異論は認めんぞ!!」

 

 鋭い声を上げながらレイドリーダーであるリンドがブレイブスと攻略集団の間に割って入った。

 

 自意識過剰なリンドが見せる有無を言わさぬ形相は処刑を執行しようとしていた一団を怯ませる。

 

 リンドの突然の命令に戸惑いを隠せないプレイヤーが現リーダーに唯一文句を言える(と言うかいつも文句を言っている)人物であるキバオウを見るが、彼は「ま、ええんやないか?」と何とも拍子抜けな承諾をしていた。

 

 リンドはブレイブスを助けてくれるのか。そんな期待をしてしまうが、その考えはリンドが床に置いてあった剣を拾い上げてオルランドの前に突き立ててみせた瞬間消え去ってしまった。

 

「……オルランドさん。あなた達の罪は到底許されるものではないが、そのためにここにいる誰かに六人もの命を奪わせる訳にはいかない。よって、あなた一人の命と引き換えに残り五人の罪は不問とする。……リーダーならば、自らの刃でけじめをつけろ」

 

 言い渡された判決に全てのプレイヤーが息を呑む。

 

 仲間の為に自分の命を捧げろ。その決定に最初こそ目を見開いたオルランドだが、すぐに落ち着きを取り戻すと一礼したのち剣を手に取る。

 

 仲間思いのオルランドにとっては救いなのかもしれないが、誰よりも勇者であろうとした男の結末がこんな終わり方であって言い訳がない。

 

 すぐさま助けに入ろうと走り出すが、その行手をエギルとキバオウが塞ぐ。

 

「そこをどいてくれ!!」

 

「喧しいぞ、アシュロン。リーダーの決定や、下のもんは黙って見とけ」

 

 そう言い捨てるキバオウと一言も発せずにいるエギル。これから人が死のうとしているのに、この二人もリンドも一体何を考えているのか全く分からない。

 

「や、やめてッ! やめてください!! 僕が悪いんです! 僕だけが悪いんです(・・・・・・・・・)!! 僕が死にますから……だからッ!!」

 

 そうこうしている内にオルランドは覚悟を決めて自身に刃を突き立てようとし、それを止めようと悲痛な声で懇願するネズハ。

 

 そんなネズハに対してオルランドは己の運命を悟ったかの様に静かに微笑んだ。

 

 …………その表情はディアベルが最後に浮かべたものと酷似していた。

 

 ──そして次の瞬間、オルランドは持っていた剣で自身の胸を刺し貫く。

 

『やめろ!!』

 

 誰かがそう叫んだ。

 

 俺だったかもしれない。ネズハだったかもしれない。キリトか……もしくはここにいるプレイヤーの誰かだったかもしれない。

 

 だが、そんな叫びに意味は無く、強化詐欺によって鍛え上げられたアニールブレードは持ち主であるオルランドのHPを容赦なく削っていく。

 

 身体をよじって前を塞ぐ二人を抜けようとするが、今度は後ろ襟をがっしりと掴まれてしまって前に進めない。視界の端ではキリトも駆けつけようと他のプレイヤーを掻き分ける様にしているが、あれでは到底間に合わないだろう。

 

 そうして、オルランドのHPはレッドゾーンを下回ってもなお削れていき、ほんの僅かな命の色も遂には消えて───

 

 

 

 

 

 

 …………カラン……カラカラ……

 

 

 

 

 

 

「……十分だ。覚悟は伝わった」

 

 ゲージが空になる直前、リンドが刺さっている剣を弾き飛ばした。

 

 死の恐怖と闘っていたオルランドは荒い呼吸をしながらぐったりとしているが、それでもしっかりと生きている。その事に俺やブレイブスだけでなく処刑を望んでいたプレイヤー達からも安堵の声が漏れた。

 

「お、おい。まさかそれで済ませるつもりか? そんなんじゃ、死んだ奴が浮かばれ───」

 

「ふっ……、何を言う? 強化詐欺の首魁であったオルランドは今死んだ!」

 

 ダガー使いの非難に対してリンドはキザっぽい台詞を言うと突然、ズパッ! と聞こえてきそうな動きで右手を前へと突き出し、キメッキメのカッコいいポーズを取ってみせた。

 

「生まれ変わって一からやり直すなら、死ぬ気で追いついてこい! 待ってはやらないが、攻略隊は勇者を歓迎するだろう」

 

 そう言って最後に、フフッ……とクールに笑う。

 

 ………………うーん、台無しだ。

 

「…………ブフォッ!!」

 

 完全に滑ったリンドの行動にまず真っ先にキバオウが吹き出し、そこから徐々に広がって最終的にボス部屋は笑いの渦に包まれる。

 

 当の本人は何とも哀愁漂う雰囲気のままフリーズしていたが、良くも悪くもシリアスな空気をぶち壊してくれたリンドの功績は大きい。ここはせめて俺だけでも彼を讃えるとしよう。

 

「そ、そんな顔するなよ、リンドさん。俺的にはとってもカッコ良──ブフッ!!」

 

「…………ッ!!」

 

 ───スパーンッ!!

 

 堪えきれずに吹き出してしまい、次の瞬間には周囲に頭を思い切り叩く乾いた音がこだました。

 

 

 

 

 

   ─────────────────

 

 

 

 

 

 こうして、最後は何とも締まらない形ではあったものの第二層フロアボス戦は本当に死者ゼロで終わらせる事が出来た。

 

 ダガー使いはあの後も食い下がっていたのだが、その犠牲になったプレイヤーは何処の誰なのかと問いただされると口ごもりながら「噂で聞いた話だから分からない」と答え、「そんなんで話をややこしくするな」とキバオウに制裁を加えられていた上に、死亡者の件はアルゴが追跡調査をしてくれる運びとなると顔色を青くしていた。

 

 そして、賠償の件については現状のアインクラッドで最も沢山のコルを持ち、同時に強化装備を求めている攻略集団でオークションを開いて解決を図る事となり、自慢の情報力で装備の価値を説明するアルゴと軽快な口調でオークションを盛り上げるキバオウが中心となって開催された。

 

「そういう訳で我々は後始末があるんでね、先に行って攻略の成功を新聞屋に伝えてくれ」

 

「なんで俺がっ!?」

 

「慣れてるだろう?」

 

 リンドの言葉にぐうの音も出ないといった表情をするキリト。

 

 ビーターとして他のプレイヤーよりも先行するのは確かにキリトの十八番だ。本人もその事を認めているために何も言い返せないらしい。

 

 こんな親密とはとても言えない会話をする二人だが、その姿はビーターとして糾弾されたあの時の事を考えると驚くべき変化だ。この様子であればきっと今後もゲームクリアを目指す同士としてやっていけるだろう。

 

 それはさておき、先を急ぐのであればせめて別れる前にネズハやオルランドに挨拶をしなくてはならない。そう思い、辺りを見渡せばレジェンド・ブレイブスの一同は攻略集団から少し離れた所にある柱に寄り掛かる様にして集まっていた。

 

 処刑は免れ、賠償金も支払う事にはなったもののそれでも彼らは犯罪を犯した身だ。未だに彼らを良く思わないプレイヤーもいるだろうし、自ずと距離が出来てしまうのは仕方ない事だろう。

 

 これから暫くの間はブレイブスにとって辛く苦しい期間となる筈だ。最前線での活躍を目指す彼らは果たしてその苦難を乗り越えられるのだろうかと不安を覚えながらも声を掛ける。

 

「俺達はこれから先行して第三層に向かう。……暫くは会えないだろうけど、それでもお前達がまた前線に戻ってくるのを待ってるぜ」

 

「…………はいっ! いつかまた前線で戦います! この最高のチームで必ず!!」

 

 涙でぐしゃぐしゃの目元を拭いネズハはしっかりと向き合って力強く答えてみせる。隣に座っていたオルランドがそんな彼を見て小さく笑うと、こちらに向き直り頭を下げた。

 

「……ありがとう、アシュロンさん。約束通り、ネズオをここまで導いてくれて感謝している」

 

「……いや、その逆だよ。こいつが俺を導いてくれたんだ。誇れよオルランドさん。あんたに憧れてた男(・・・・・・・・・)はとんでもない勇者だったぜ」

 

「───ッ!? ……フハハハハ! 当然である! 何故ならば、我ら六人は真の勇者たる者達が集うギルド《伝説の勇者たち(レジェンド・ブレイブス)》なのだからな!!」

 

 オルランドはほんの一瞬だけその目に涙を滲ませるが、次の瞬間にはそれを吹き飛ばすかの様に豪快な高笑いをする。

 

 そんなオルランドを見ていると俺の心配も杞憂だと思えてきた。子供っぽくて暑苦しが不思議と憎めない奴。そんな男の元に集ったメンバーならばきっとこの先も大丈夫だろう。

 

 そう確信できたのならもうこの場所に用はない。最後に短く別れの挨拶を言ってブレイブスに背を向けると出口の前で待っているキリトとアスナのもとへと向かった。

 

 

 

 

 

   ─────────────────

 

 

 

 

 

 出口の扉を開くと、その先は迷宮区タワーの外壁沿いをぐるりと一周する螺旋階段となっていて、そこから第二層のテーブルマウンテンが乱立する景色を一望できる。

 

「おお〜、スッゲェ景色!!」

 

「本当に凄い景色。あっ! あそこタランじゃないかしら? ……あんなに小さく見えるのにあそこで大変な目に合ったなんて信じられないわね」

 

「ほんとにな。思えば第二層にはたった十日間しか居なかったのに随分と色んな事があったな。強化詐欺だったりアシュロンの弟子入りだったり……そういえばアシュロン。お前あの技とうとう完成させたんだな」

 

「ん? ああ、いや。実はあれ、まだ未完成なんだ」

 

 そう、まだ未完成だ。迷宮区を登る際に判明した事なのだが、まだソードスキルを発動した武器(・・・・・・・・・・・・・)は壊す事が出来ない。そのため、バラン戦の時にはエギル達に止めてもらわなければならなかった。

 

 コボルドロードとの戦いの際、俺は確かにソードスキル同士の打ち合いで奴の刀を折ってみせた。その領域に至って初めてこの技は完成したと言えるだろう。

 

「それでもボスの武器壊せてたし十分凄い事だよな。必殺技って言うくらいだから、やっぱり名前とか考えてるのか?」

 

「モチロン考えてるぜ! どんな武器も真っ二つにする剣技……名付けて《ザックバラン剣》、だ!」

 

「「………………ダサい」」

 

「なんとっ!?」

 

 ボス部屋に乗り込む前に頑張って考えた名前をダサいと一刀両断され、思わず膝から崩れ落ちそうになる。斬った時の感触を名前に取り入れたイカしたネーミングだと思ったのに……。

 

「こういうのはもっとシンプルな方が良いんだよ。例えば……《武器破壊(アームブラスト)》とかどうだ?」

 

「あ、良いわね。それ採用」

 

「お、おい! 俺の必殺技だぞ! 勝手に決めんなよ!?」

 

 キリトが考えた名前は確かにかっこいいが、だからと言って素直に従うのはプライドが許さない。

 

 せめてもの抵抗にと抗議の声を上げるが、二人はケラケラと笑いながら優雅な足運びで階段を上がって行ってしまう。

 

 三度思い知らされる敏捷値の暴力に、もういっそこのまま踵を返してオークションにでも参加しようかという考えが頭をよぎるが、そんな甘ったれた考えを振り払うと俺の出せる最大限のスピードで勢いよく駆け上がる。

 

 二人に遅れない様に走り続けるのはきっとかなりキツいだろうが、それでも今は立ち止まる気は微塵も起きなかった。

 

 ───何故なら、勇者のために道を切り拓くのが俺の役目なのだから。




 これにて第二層完結です。コメント欄で一層よりも短くまとめると言いながら結果的に一層よりも長くなってしまい誠に申し訳ございません。

 多くの二次創作で飛ばされがちの第二層の物語を書いた理由は三つありまして、

 一つ目は、以前の後書きで書いた通り、ブレイブスとの関わりを通じてキリトのみを特別視する主人公の考えをぶっ壊してもらう事。

 二つ目は、これから行動を共にするキリトとアスナとの関係性の構築。

 そして三つ目が、この作品の肝である武器破壊の習得と、武器破壊をプレイヤーに向けて行う事がどういう結果を招くかを主人公に知ってもらうためでした。

 SAOの中で主武装を失ったプレイヤーがどれだけ嘆き悲しんだか、個人や集団にどれだけの影響を及ぼしたのかを知る事で、作品の説明文の通り主人公に武器破壊(自身の才能)に対しての忌避感を持ってもらう狙いがありました。今回は出来ませんでしたがいつかその様子も描写出来たらと思います。

 後書きも長くなってしまいましたが、ここまでご愛読いただき誠にありがとうございました。
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