SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

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 最近忙しくて前回の投稿から随分と時間が経ってしまいました。

 これより、第三層の物語の開始です。


第三層 黒き騎士と森の戦乱
29話 森の奥へ


 ボス部屋や新しい階層への扉にはその場所の風景や出現するモンスター、そこで繰り広げられる物語を暗示しているらしい。現に第一層のボス部屋は恐ろしげなコボルドの絵、第二層への扉には牛が描かれ、二層ボス部屋には同じく牛であったがよくよく見れば王冠らしい物を被っているのが確認できた。

 

 今、俺達の前にある第三層への扉の図柄には節くれ立った古木の中で剣を交差させる二人の剣士が描かれている。右は肌が白く、左は逆に黒い。そして、何より特徴的なのは二人とも耳が長く尖っている点だ。

 

 その特徴は、最早ファンタジーではお馴染みと言うべき登場人物である──

 

「…………エルフか?」

 

「おっ! 鋭いな、アシュロン。そう、この層にはエルフがNPCとして登場するんだ。中にはMob(モンスター)として出てくる奴もいるぞ」

 

「えっ、ほんとに!? エルフに会えるなんて、まるで本当にファンタジーの世界に入ったみたい!」

 

「おっと、油断は禁物だぞ。エルフたちは総じてソードスキルを高度に使いこなす強敵だ。今までの亜人型のモンスターみたいに隙を見てソードスキルを叩き込めば勝てるなんて甘い連中じゃない。つまり……」

 

 キリトはそこで勿体ぶった様に言葉を切ると、扉のすぐ手前まで駆け上がってから振り返り、俺達二人を見下ろす。

 

「いよいよ第三層(ここ)からがSAOの本番だ。茅場晶彦が、SAOを特集した雑誌のインタビューで言ってたよ。『《ソードアート》とは、ソードスキルとソードスキルが織りなす光と音、生と死の協奏曲(コンチェルト)』だってな!」

 

「…………へぇ……」

 

「…………ふぅん……」

 

「……アスナはともかくアシュロンまで反応薄いとは思わなかった」

 

 思った反応が返ってこなかった事が余程ショックなのか、キリトがガックリと肩を落とした。

 

 三層まで来られた達成感やこれからより多彩になっていくこの世界への興奮をキリトなりに伝えたかったのだろうが、生憎と今はデスゲームの真っ最中であり、そのフレーズを言っていたのが俺達をこの世界に閉じ込めている張本人である茅場だと聞くと、興奮したら負けの様な気がしてならない。

 

「……生と死の……コンチェルト。それって、ほんとに……いえ、考えすぎね。それより早く行きましょう。あんまりのんびりしていると、他のプレイヤーに追いつかれちゃうかもしれないわ」

 

「…………そうだな。この層でやりたい事が沢山あるし、さっさと進むとしようか」

 

 そう言ってキリトは慣れた様子で扉を押し開く。

 

 ごごん、と重い音を響かせながら巨大な扉がゆっくりと開かれると、その向こう側から柔らかな緑色が視界いっぱいに飛び込んできた。

 

 第三層のデザインテーマは《森》なのだろう。

 

 神社とかにある御神木と同じくらい大きな木が見渡す限り連なり、幾重にも折り重なる枝葉の隙間から金色の光の筋が降り注ぐ光景は正にRPGで出てくる妖精の森そのものだ。

 

「わあ……!」

 

 アスナが小さな歓声を上げながら駆け出し、細い陽光の下で被っていたフードを取り払うと、まるではしゃぎ回る童女の様にその場でくるくると回る。

 

「凄い……! この眺めだけでも、ここまで上がってきた甲斐があったわね……!」

 

「……ほんとに、甲斐があったな」

 

 そんなアスナを眩しそうに見ながらキリトは小さく呟く。

 

 思い返せば、アスナがこうして楽しそうにしている姿を見せたのは強化詐欺に遭うより前だっただろうか。となれば、確かに二人の言う通り強力なボスを倒してまでここまで来た甲斐があったと言える。

 

 と、新層に来た感動に浸っていたが、流石にそろそろリンドに頼まれた依頼を済ませなければならないだろう。

 

 ボス戦勝利と新層開通のアナウンスは以前はアルゴがやってくれたのだが、現在彼女はオークションの真っ最中だ。そのため、代わりに一層の頃にフレンド登録をした新聞屋の知り合いにメッセージを送る。

 

「よし! これで下層の方にも攻略が成功した事が伝わる筈だ。楽しみにしている連中を待たせるのも悪いし、さっさと転移門を有効化(アクティベート)しに行こうぜ」

 

「いや、その役目はすぐに追いついてくるリンド隊かキバオウ隊に任せて、俺たちは一足先にこの層の目玉クエストを受けにいこう」

 

「目玉クエストって……もしかして……!」

 

 目を輝かせて反応するアスナにキリトはニヤリと笑いながら答える。

 

「そう! この層から出現するエルフのNPCと協力して進めていくクエストだ! しかも、これまでみたいな単発ものじゃない。なんと終わるのに第九層まで掛かる、SAO初の層をまたぐ大型キャンペーンクエストだぞ!」

 

「なっ!? きゅ、九層!?」

 

 思わず驚きの声が漏れてしまった。

 

 まだ戦闘に慣れていない期間があったとは言え、この第三層にまで到達するのに1ヶ月以上もの時間が掛かったのだ。それなのにここから六層も先まで掛かる大型クエストなんて想像もつかない。

 

「かなり力の入ったキャンペーンだけあって、こなさなきゃならないタスクもかなりあってさ。二層の時みたいに十日くらいでフロアボス戦が始まるとしたら、今から効率良く回っておきたいんだ」

 

「なら急ぎましょ! アシュロン君もそれで構わないかしら?」

 

「ああ、大丈夫だ。今回こそはフロアボス攻略にしっかり参加したいし、さっさとそのクエスト終わらせちまおうぜ」

 

 大型キャンペーンクエストとなれば、貰える経験値や報酬はかなりのものだろう。第二層では碌にレベリングをしていなかったので、この機会に遅れを取り戻していきたい。

 

「決まりだな。それじゃ、出発だ。……と、ところで質問なんだけど、二人は耳に自信あったりするか?」

 

「え? やだ……キリト君て……耳フェチ?」

 

「……流石に俺のにまで興奮するのはヤバいと思うぞ」

 

「ち、ちがわい! スタートNPCの居場所を見つけるためにはな───」

 

 

 

 

 

   ─────────────────

 

 

 

 

 

 キリトの先導のもと、主街区への道から外れて踏み込んだエリアは《迷い霧の森》という名前らしく、鬱蒼とした森の中で時々すごく濃い霧が出てプレイヤーを迷わせる上に頼りのマップも表示が霧がかかった様に薄くなってしまう。

 

 こんな森では特定のNPCを目視で探し出すのはほぼ不可能であるが、幸いな事にキリト曰くNPCの近くまで来れば金属音……剣戟の音が聞こえてくるらしい。

 

 そのため、森の中の様々な環境雑音の中から目的の音を聞き逃さない様に三人で注意深く耳をすませ、時折聞こえてくるキンッという微かな音の発信源を辿っていけば、やや広めの空き地にて激しく戦う二つのシルエットを発見した。

 

「すごい……っ。ねえ、あの耳! ほんとに長い!」

 

「確かに凄えな……。あんだけ耳が長えのに全く違和感がない。本当にエルフみてぇだ……」

 

 戦っていたのは二人のエルフだった。

 

 一方は煌びやかな金色と緑色の鎧に身を固め、プラチナブロンドの髪を後頭部で結えたハリウッド俳優ばりのハンサムな男。ハイレベル品のロングソードやバックラーを使った堅実な戦い方からは相当なやり手だと伺える。

 

 そして、その男と鎬を削っているのは黒と紫の鎧を身にまとい、褐色の肌をしたこれまた端正な顔立ちの女剣士だ。こちらは短く切ったスモークパープルの髪をなびかせながら素早く動き回り、ゆるく弧を描くサーベルにて鋭い連撃を放つ。

 

 両者の力は拮抗しており、こうして覗き見ている間にも息を呑む様な剣戟が展開されている。そんな剣士達の頭上には揃って金色の【!】マークが表示されている。あれこそ、クエスト開始NPCである証だ。

 

「男の方が《(フォレスト)エルフ》で女の方は《(ダーク)エルフ》。今戦っている二人のどちらかに加勢すれば、そこから延々と続くエルフクエの開始だ」

 

「どちらかに加勢ってことは……もう片方とは……」

 

「もちろん戦うことになる。選んだ時点で対立ルートへの変更はできないけど、どちらも同じようなクエストになるらしいし、そう深く考えずに選んでいいよ」

 

 「深く考えずにって言われても……」とアスナは悩ましげに呟く。

 

 無理もないだろう。必死に戦っている両者の表情はとても生々しく、とてもシステムによって操縦される魂なきアバターとは思えない。

 

 亜人系モンスターとは違う、まるで人間の様な相手との命のやり取り。……これこそが、茅場の言う《ソードアート》なのかもしれない。

 

ダーク(・・・)って付くくらいだし、あのねーちゃんの方が悪い奴だったりするのか?」

 

「いや、どちらの言い分にも理解できるところがあるし、どっちが悪いとかは特にないな」

 

「そう……。なら、決めた。黒エルフのお姉さん。あの人に協力するわ」

 

「まあ、キリトがやった事がある方が安心だしな」

 

「OK……って、俺がベータでどっちを選んだか言ったっけ?」

 

「「わからないとでも?」」

 

「うぐっ……。で、でもお姉さんだからじゃないよ、黒いからだよ」

 

 何だよ黒いからって……。いや、まあ、そっちの方がかっこいいって考えも分からないでもないけど。

 

「あっ、待った! あと一つ大事なこと!」

 

「何よ?」

 

「あのな……あのNPCは二人とも本来七層まで行かないと現れない、しかもエリートクラスのMobなんだ。いくら安全マージンを取ってるといっても、三層に来たばっかりの俺たちに勝てる相手じゃない」

 

「七層のエリートって……いくら何でも理不尽すぎるだろ。なんかしらの解決法があるのか?」

 

「ああ。こっちのHPが半分減ったところで、加勢した方が奥の手を使ってくれるはずだ。だから俺たちは攻撃には参加せずガードに専念すればいい」

 

 それなら問題ないな、と思った俺とは反対にアスナは怪訝な顔をする。

 

「奥の手……てことは、できれば使いたくない理由があるのよね?」

 

「…………う、うん。加勢された方は圧倒される俺たちを助けるために禁断の技……自爆技を使って相打ちになるんだ。それで、二人のエルフは死んで、俺たちは二つの種族の戦争に巻き込まれて、そこから長い長い物語が始まるって流れだよ」

 

「…………そんなの……イヤだわ」

 

「気持ちはわかるよ、俺も最初はそうだった。でも、これから先NPCの死(おなじこと)は何度も目にすることになるから、今の内に割り切った方がいい。……所詮これはVRMMO……人の作ったゲームなんだ」

 

「…………っ!?」

 

 人が……茅場晶彦が作ったVRMMO……その中で死ぬ運命から逃れられない奴がいる。

 

 その言葉が頭の中に入ってきた瞬間、自分でも説明できない熱が全身に駆け巡った。

 

「…………エリートMobっつってもよお、流石に剣がなきゃ戦えねえよな」

 

「え? そりゃそうに決まって……アシュロン、お前まさか……」

 

「あの森エルフには《武器破壊(アームブラスト)》の練習台になってもらう。それでもって良い機会だし、七層のエリート倒して経験値とかガッポリ貰って、ついでにあのねーちゃん助けてやろうぜ」

 

 俺の強気の台詞にキリトは「え? こいつマジで言ってんの?」と言いたげな顔をし、アスナは少しポカンとした後、面白そうにクスクスと笑う。

 

「そうね。わたしたちが強ければ片方は助けられるのよね。それなら、あのDV男を倒しちゃって、黒エルフのお姉さんを助けるついでに経験値ガッポリ貰っちゃいましょう」

 

 そうと決まれば、さっそく行動だ。昂る気持ちに従って、背中の剣を勢いよく抜き───

 

「……ちょっと待っててくれ。今ゾーンに入るためにルーティーンするから」

 

「…………もう、早くしてよね」

 

 出鼻を挫かれたアスナが冷ややかな声をもらす。

 

 柄に額を当てながら深呼吸をするが、目を閉じていても感じられるアスナの冷たい視線が突き刺さる。

 

 これでは集中できずにゾーンに入れないかも───と、思ったが意外とすんなり入る事ができた。

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