SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

31 / 39
ちょっとオリジナル要素が入ります。


31話 強襲の鷹使い

 ───赤く、紅く、赫く染まる。

 

 森エルフの奇襲によって上がった炎が黒エルフの女騎士───キズメルが抱え起こしている男の苦悶の表情を明々と照らしている。

 

 男は腹部をほぼ両断されていて、体の輪郭はすでにおぼろげに薄れ、各所で弾ける光の粒が火の粉の様に零れては夜闇に消えてゆく。

 

 この黒エルフの若者の存在はあと寸刻もしない内に完全に消え去ってしまうだろう。男の傍に転がっている指輪の持ち主……伴侶の契りとして贈られたその指輪を肌身離さず着けていたキズメルの妹の様に。

 

「…………誰にやられた?」

 

 だからこそ、キズメルは感情を押し殺して死ぬ間際の男に問い掛ける。二人を殺した者に報いを受けさせる事だけが、もはや妹夫婦にしてやれる唯一の手向けだと自身に言い聞かせながら。

 

「…………鷹使い。……巨大な鷹を使う男です」

 

 そんなキズメルの心情を察してくれたのか、息も絶え絶えになりながらも男は言葉を発した。

 

「……そうか。安心しろ。おまえたちの仇は必ずこの手で仕留めてみせる。だから───」

 

「ごめんなさい、義姉(ねえ)さん」

 

 男の頬を一筋の涙がつたう。

 

「…………間に合わなかった。……ティルネルを……守れなかった……」

 

 それが、最後の言葉となった。

 

 散っていく光を眺めながらキズメルは自身の中の何かが変わってしまった事を悟った。だが、そんな事はどうでも良いとすら感じてしまう。

 

「…………大丈夫だ。おまえはよく頑張った。だから、ティルネルと共に待っていてくれ。……私もすぐにそちらに向かおう」

 

 その日よりキズメルの戦いの日々(物語)は始まった。

 

 ───どこだ? どこにいる?

 

 狼使いだった男の(しもべ)を引き連れて戦場をさまよい、会敵した森エルフを鏖殺(おうさつ)していく。

 

 ───姿を現せ。

 

 その有り様を同族は(けもの)の様だと忌避するが、そんな事すらキズメルにはどうでも良かった。

 

 ───さすれば、この手で

 

 いや、自分自身も薄々は気付いていたのかもしれない。表面上は騎士として振る舞い、任務を忠実にこなしているものの

 

 ───討ち取ってくれようぞ。

 

 その中身は以前の彼女とは全くの別物と成り果てていると。それでも構わなかった。全ては、

 

 ───最愛なる者の仇《鷹使い》!!!

 

 ただ仇敵を殺すためだけに。

 

 

 

 

 

 

   ─────────────────

 

 

 

 

 

「そうか……貴様か! 《鷹使い》!!」

 

「「「────っ!?」」」

 

 女剣士が放つプレッシャーに背筋が凍る。

 

 今まで感じた事がない悪寒……だが、本能で理解した。殺気(・・)だ。目の前にいる女剣士…… NPC(・・・)が殺気を放っている。

 

「はて? どこかでお会いしましたかね? 敵方(黒エルフ)とはいえ、こんな美人忘れるはずないんですが……」

 

 それに対して鷹使いの方はまるで世間話でもするかの様な軽い口調のまま腰に差した剣を抜き、それと同時に背後より剣と盾を装備した森エルフが姿を現す。その数五人。いずれも先程まで戦っていた騎士よりもレベルは低いがプレイヤーと同等の腕を持つ敵に数で負けているというのはかなり不味い状況だ。

 

「ただまぁ、しいて言えば───」

 

 鷹使いは口の端をよりいっそう歪ませる。

 

「《秘鍵(コレ)》を奪った時に殺した薬師(・・・・・)が、そんな顔をしていたかも知れませんねぇ」

 

「─────ッ!!」

 

 その一言が開戦の合図となった。

 

 女剣士は鷹使い目掛けて《リーバー》による突進を仕掛ける。曲刀の基本スキルでありながら優秀な技であるそれは、あふれんばかりの憎しみと殺意が乗せられているためか、プレイヤーが使用するものとは一線を画す一撃となり───

 

「すみませんね。あの時(・・・)もそうでしたが、まずは一番弱いのからと決めているんです♪」

 

 虚しく空を切った。

 

「来るぞッ!」

 

 鷹使いは素早い身のこなしであっさりと女剣士の横をすり抜けると俺達の方へと向かってくる。

 

 幸い相手はこちらの出方を伺うつもりなのかソードスキルではなく通常の斬撃を繰り出そうとしている。それなら、《武器破壊(アームブラスト)》を狙う絶好のチャンスだ。

 

 そう判断し、両手剣にライトエフェクトをまとわせ一閃を──

 

「《サイクロン》ですか。なかなかの威力みたいですが……単調ですね」

 

「ガッ!?」

 

 俺の水平斬りを跳んで回避した鷹使いはそこから身体を回転させて顔面に鋭い蹴りを入れてきた。

 

「そして、あなたの《リニアー》も素晴らしい速度ですが狙いが純粋すぎる」

 

「───っ!?」

 

 続いてアスナが放った《リニアー》はいとも簡単に受け止められ、鍔迫り合いになった所を横から鷹が急襲する。

 

「きゃあああっ!?」

 

 速度が乗った攻撃によって引きずられる様にして転倒したアスナは、そこから肉を啄もうとする鷹の鋭利な嘴を咄嗟に防ぐ。だが、鷹の筋力値は相当のものなのかジリジリと押されていた。

 

「待ってろ、今助ける!」

 

 一刻も早く助けなければと急いで起き上がり、すぐさま距離を詰められる《アバランシュ》を使おうと構えを取って───それが致命的な失敗だと気付いた時には手遅れだった。

 

「いけませんねぇ。そんな隙だらけだと殺してくださいって言っているようなものですよぉ」

 

 自身の胸から突き出た金属の輝きに思考が止まる。

 

 全身から汗がどっと吹き出す。体の感覚が薄れていく中で唯一動かせる眼球を視界の端に向ければ、レッドゾーンまで減少したHPが今もなお徐々に減っていくのが酷くゆっくりと見えた。

 

「アスナ! アシュロン! ──くそっ……!」

 

 攻撃を受けた俺達を見てキリトは心配そうに叫ぶが、そんなキリトには二人、女剣士には三人の森エルフが張り付いていて応援は期待できそうにない。

 

 ああ、終わったな……。これから死ぬにしては何とも軽い諦観が胸の内を支配した矢先、突然背中を思い切り蹴り飛ばされ地面に倒れ込んだ。

 

「かはっ!? ……ぁっ……ぐっ……」

 

「無様ですねぇ。下手に他種族の争いに首を突っ込むから、こんな目に遭うんですよ。……どうです? ここはひとつ命乞いでもしてみませんか? 心に響くようなことが言えたら、あなただけでなくお仲間も見逃して差し上げますよぉ?」

 

 首筋に刃を当てられ、ネットリとした声が鼓膜に絡みつく。

 

 相手の気まぐれで訪れた最低で最後のチャンス。この機を逃せば俺は間違いなく殺されてしまうだろう。

 

 ……俺達の最終的な目標はSAOのクリアだ。このクエストを受けたのは報酬が他より美味しいからという理由であり、ここで失敗したからといって攻略には大した影響はない筈だ。ならば、どうすれば良いかなど考えるまでもない。

 

 ディアベルが死んだあの日に誓っただろ、アシュロン。俺は最後まで戦い続けると。戦って……

 

 戦って、死ぬと。

 

「……へっ、冗談言うなよ糸目野郎。キバオウさんから関西弁習って出直してこい」

 

 キリトに、アスナに、アルゴに……仲間に恵まれたお陰で多少は前向きになれはしたが、やはり俺は根っこの部分では自分を許せてなどいないらしい。

 

 だから、今ここで殺されるのとこの先ボス戦で殺されるのとは大した違いは感じない。ゲーム攻略のためにこの命を使い潰す。それだけの話だ。

 

「ハァ……そうですか。では、死になさい」

 

 軽々しく下された死の宣告。それが口先だけではない事はこの短い間にあった言動から伺える。きっとコイツは他者を殺す事へのためらいを忘れるくらいに命のやり取りをしてきたのだろう。

 

 だから、せめて最後まで戦う意思だけは手放さない様にと剣の柄を強く握りしめ……

 

 ───ウオオォォォ〜〜〜ンッ!!

 

 覚悟を決めたその時、突然辺りに遠吠えがこだました。

 

「フッ……。ようやく来たか。よかろう、存分に喰らいつけ」

 

 離れた場所で戦っている筈の女剣士がそう呟いたのを聞いた気がする。

 

 そして女剣士の言葉によって解き放たれたかの様に灰色の影が濃霧を切り裂きながら高速で接近し、その勢いのまま跳躍をすると鷹使いのほとんど真上から踊り掛かった。

 

「───チッ!」

 

 鷹使いが咄嗟にその場を飛び退けば、次の瞬間にはガチンッ! と恐ろしい音を立てて鋭い牙が生えた顎が閉じた。回避が間に合っていなければ間違いなく奴の頭は噛み砕かれていただろう。

 

 現れたのは灰色の毛をした一匹の狼。第一層に出てきた《ダイアウルフ》の倍近い体躯をしたそいつは鷹使いに対して牙を剥き、低い唸り声を上げている。

 

 狼のカーソルは女剣士と同じ黄色。つまりは味方なのだろうが、この狼は鷹使いが使役している巨大な鷹と同じ扱いなのだろうか? その場合、こいつを使役している黒エルフはいないのか?

 

「オオオッ!!」

 

 急な展開に戸惑っている間に、女剣士は体を独楽の様に回転させて三連続の横薙ぎを行うソードスキルを使用し、包囲していた三人の森エルフを大きく吹き飛ばす。これも上位のソードスキルなのか凄まじい威力であり、ガードが間に合わなかった二人が青いポリゴンとなって爆散した。

 

 仲間が一瞬にしてやられた事には流石のNPCも動揺するらしい。恐怖のあまり座り込んだまま動けずにいる最後の一人には目もくれず、女剣士は鷹使いに向かって駆けていき、狼も彼女に続く様に地面を蹴った。

 

 対して、鷹使いの方も口笛をひとつ吹いてアスナを襲っていた鷹を呼び戻し狼の相手をさせると、振り下ろされた女剣士の剣をさばきつつ鋭い突き技でカウンターを行う。

 

 両者共に高い敏捷力を存分に活かして相手の隙を伺うスタイルなのか戦場を縦横無尽に駆け回り、至る所で切り結んでは轟音と火花を生み出していく。

 

 一瞬の油断も許さない激しい剣戟。その中で相手の剣筋を予測し、自分の持ち得る手札を吟味して、それを決めるための道筋を探す。

 

 そんな光景に思わず目を奪われてしまった。

 

 第三層からが本番。ここからが本当の《ソードアート・オンライン》。今この瞬間こそキリトが言っていた通り、これまでみたいな単調な戦い方では通用しない真の剣士達の世界───

 

「アシュロン君、口開けてっ!!」

 

「あ? 急に何───んブッ!? ……んぐっ……ガボォッ……!」

 

 突然、低級ポーション特有のケミカルな甘みと酸味、煮出しすぎた麦茶みたいな苦味のハーモニーが口腔内を支配した。

 

「…………ぷはっ! テメェ、殺す気かっ!?」

 

「馬鹿野郎! そういうお前は死にたいのか!? まだ戦闘中なんだぞ! そんなギリギリのHPでなに呑気に観戦してんだ!」

 

「え? …………あ、そうだな。悪い……」

 

 言われてようやく自分が小石をぶつけられても死ぬ様な体力であったのを思い出す。一層の時にキバオウにも怒られたが、もっと自分のHPを見る癖をつけるべきなのかもしれないな。

 

「…………とにかく今は残った雑魚を片付けて退路を確保するぞ! アスナ、合わせてくれ!」

 

「ええ! わかったわ!」

 

「ちょっと待てよ、パリィなら俺が───」

 

「「お前(あなた)は引っ込んでろ(引っ込んでて)!!」」

 

「………………はい」

 

 二人が凄い怖い。そんなに剣幕にならなくても良いじゃないか? と内心で不満を漏らすが確かに邪魔にしかならないだろうと考え直して、しぶしぶ回復を待つ事にした。




自分の文章力では狼使いの活躍を十分に書けそうにないため、出番をカット。その分、鷹使いが凶悪になりました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。