SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

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32話 霧の中の攻防

 その後、女剣士と戦っていた生き残りはキリト達が相手ならと標的を変えたものの、残り少ないHPをアスナによって瞬時に削られて敢えなく消滅。それによって戦いの流れはこちらに向いてきている。

 

 だが───

 

「まずいな……。二人とも気をつけろよ。霧が濃くなってきた」

 

 迷い霧の森という名前だけあって、戦闘の途中から周囲に霧が掛かり始めていた。幸い相手の姿が見えなくなる程ではないが、視界が悪くなればそれだけ敵の太刀筋を見極めるのが難しくなってくる。

 

 これ以上状況が悪くなる前に方を付けたいとは思うが、俺のHPはようやく半分程にまで回復した所であり、あの鷹使いの攻撃がいつ来るか分からない戦場に復帰するには心許ない量だ。そのため、非常に歯痒いが二人の戦いを後ろから見守る事しか出来ない。

 

「悪い。もうちょっとしたら戦える様になるから、それまで耐えてくれ」

 

「大丈夫よ。むしろ、ここで変に出しゃばられた方がかえって迷惑───ひいっ!?」

 

 ───ガキンッ!!

 

 霧に紛れていつの間にか接近していた鷹使いがアスナに向けてソードスキルを仕掛けるが、横から滑り込む様にして現れた女剣士がギリギリで剣を弾く。

 

「おや、残念。上手く不意をつけたと思ったのですが……」

 

「図に乗るな、鷹使い! 貴様の相手は私だッ!」

 

 最初に攻撃を避けられた事から冷静さを取り戻したのか、女剣士は無理な攻め方はせず、むしろ俺やアスナを鷹使いの凶刃から守るかの様に立ち回ってくれている。

 

「ピュイッ!」

 

「ガルルルルルッ!」

 

 そして、守ってくれているといえば、先程乱入してきたこの狼もそうだ。

 

 上空から攻撃を仕掛けてくる大鷹はとても厄介な相手であり、今も動揺していたアスナの不意をつこうと襲いかかってきたが、その間に割り込んで激しく威嚇している。

 

 その様子はまるで主人を守護する忠犬の様にも見えるが……まあ、流石に会ったばかりの、それも野獣系のモンスターがそんな反応を示す訳がない。きっとあの狼は鷹をタゲっているだけで───

 

「……あ、あなたもわたしを護ってくれるの? ……なんちゃって……」

 

「………………ワフッ!」

 

 あの(イヌ)、急に尻尾振りだしたぞ!?

 

 登場した時には俺の事なんか眼中にもないみたいな反応だったのにこの扱いの差は何なんだろう? やっぱりアスナが可愛いからか? 人間の醜美は狼にも影響があるのだろうか?

 

 と、世の不平等さを呪っている一方で相手の方はというと残り二人のモブエルフのHPがどちらも半分を切った上に大鷹は狼にタゲられている為に動く事が出来ない。流石にこの状況は不味いと思ったのだろう。鷹使いは小さく舌打ちをした後にわざとらしくうんざりとした口調で声を上げた。

 

「あーもう、やめやめ! (イヌ)臭くて、興が削がれるったらないですよ! また今度にしませんか?」

 

「…………貴様を生きて帰すと思っているのか?」

 

「いやいや、そちらはその気なのかもしれませんが、もう《秘鍵(モノ)》は頂戴していますし……ねえ?」

 

 そう言ってポケットから取り出したのは葉っぱで出来た小さな巾着袋……両陣営が仕切りに手に入れたがっている物だ。

 

「……ねえ、キリト君。さっきから話題になっているあれ(・・)、なんなの?」

 

「ああ、あれは《秘鍵(ひけん)》っていって、このキャンペーンクエスト全体にかかわる文字通りキーアイテムだ。黒エルフが聖堂とやら守るためにどうしても奪われるわけにはいかないんだとさ」

 

「あれがキーアイテムとなると、持ち逃げされたら最悪クエスト失敗なんて事もあり得るわけか。そうなると何が何でも取り返さなきゃならねえな」

 

 キリトが言っていた通常のルートでは両者が共倒れしたお陰でその心配がなかったのだろうが、俺達が片方を倒してしまった為にクエストの難易度が高くなってしまっている可能性もある。

 

 あと一歩で死ぬ所だった身としては、このまま何も手に入らずに終わるなんて事は絶対に避けたい。そう思った所で、アスナも同じ気持ちなのか真剣な顔つきになった。

 

「…………要するに、元々は黒エルフさんたちの物(・・・・・・・・・・・・・)ってことね?」

 

「ん? そう……だね?」

 

 …………いや、どうやら俺とは違った理由で火が付いてしまったらしい。

 

 死にかけた時に出たものとは違う種類の冷や汗が流れる。まだそれ程長い付き合いではないのだが、こういう時の彼女は俺やキリトが思いもしなかった行動に出る事があるのだ。

 

「さて、そこで質問です。貴方の大事なコレを……こうしたら?」

 

 口元を邪悪に歪ませた鷹使いは手に持った小袋を頭上に放り投げる。すると、すぐさま大鷹が現れて袋をキャッチ。そのまま悠々と飛び去ろうとする。

 

「さあ、どうします? このままでは我々の野営地(手の届かない所)までひとっ飛びですよ? お選びを。任務と私怨……どちらを優先なさいます?」

 

「貴様……ッ」

 

「させるもんですかッ!!」

 

 そう叫び、アスナは全速力で鷹を追いかける。しかし、空を飛ぶ鷹からどうやって秘鍵を取り返すのかと疑問に思った瞬間、アスナは太い木の幹に足をつけると、なんとそのまま忍者の如く駆け上がっていった。

 

 文字通り予想の斜め上を行くアスナの行動に思わず「うっそだろ……」と呟いた横で、キリトが慌てた様に声を張り上げた。

 

「やめろ、アスナ! 無茶するな!」

 

 しかし、その制止の言葉は届く事なく、アスナは木を登りきると、そこから幹を強く蹴り付けて宙を舞い、追いついた鷹に向かって二連突きのソードスキル《パラレル・スティング》を放つ。

 

「ピュィイッ!?」

 

 アスナの空中ソードスキルは見事に両翼を刺し貫く。そして、突然の攻撃によって怯んだ拍子に秘鍵は鷹の鉤爪を離れ、アスナの左手の中へと吸い込まれる様に落下していった。

 

「よし! …………って、あれ!?」

 

 と、ここまで完璧な奪還劇を繰り広げたアスナだったが、相手取った大鷹はそこらの雑魚モンスターとは違ってかなりタフだったらしく、羽根を傷つけられてもなお空を飛び回り、巨大な鉤爪でアスナの細い胴体をガッチリ掴むと、そこらか螺旋を描く様に回転しながら地面へと一直線に急降下していく。

 

 ───不味い。地面に叩きつける気だ。

 

「アスナッ!!」

 

 キリトがすぐさま助けに向かうが、それを森エルフ達が妨害する。

 

「くそっ! そこを───」

 

「そこをどけっ!!」

 

 鬼気迫る勢いで邪魔者を吹き飛ばす女剣士はNPCらしかぬ気迫に驚くキリトをよそに真っ直ぐにアスナの救助へと向かう。敏捷重視のエリートMobだけあって、その速度はかなりのものだ。あれならばきっと大丈夫───

 

 …………待て、鷹使いは何をしている?

 

 慌てて周囲を見渡すが、先程より濃くなった霧の中にあの男のシルエットは見当たらない。

 

 逃げられた? 一瞬浮かんだ楽観的とも言える考えは、ズキリと疼いた胸の痛みによって掻き消される。

 

 いや、あの狡猾な男がそんな簡単に引き下がる訳がない。

 

 もしも、奴がエルフ達が血眼になって取り合っている秘鍵を囮に使ってまでこの状況を作り出したのだとすれば、きっとそれに見合うだけの影響……女剣士の抹殺を狙う筈だ。予想というよりは勘だけど、もう探し回る時間も余計な事をあれこれ考える時間も無い。

 

 幸い戦闘に参加していなかった俺はノーマークだったらしく、キリトの様に妨害は受けずに走り抜ければ、前方では女剣士が丁度アスナの元へと駆け付ける所だった。

 

 極限状態によって気が引き締められた集中力が目の前の光景をスローモーションで映し出す。

 

 狼が跳び上がり、大鷹に喰らいつく。それによってアスナは自由になるものの落下速度は止められない。そこへ女剣士が咄嗟に真下へと滑り込み、両腕を広げてアスナを受け止める。───ここだっ!!

 

 女剣士の背後に向けて《アバランシュ》のブーストを乗せた一撃を振り下ろせば、まるで自ら斬られに来るかの様に走る影が視界の端に入ってきた。

 

 ───ビンゴ! やはり鷹使いは隙だらけとなった女剣士の背後を狙っていたみたいだ。

 

「────ッ!?」

 

 俺の存在に気が付いた鷹使いがギリギリで剣を構えてガードを図る。そう、この瞬間を待っていた。

 

 霧が掛かった森に剣の断末魔が響き渡る。

 

 武器を破壊した勢いのまま胴体を斬りつければ、その斬撃によって鷹使いは吹っ飛び───いや、衝撃を利用して後方へと下がり、不安定な体勢から地面を蹴って枝の上へと飛び上がった。

 

 かなり良い一撃が入ったと思ったのだが、それでもエリートクラスだけあってHPは未だ半分以上残っている。だが、剣が無い以上はもう奴も戦えないだろう。

 

「アスナ、大丈夫か!?」

 

「……え、ええ」

 

 ここでキリトも雑魚を片付けて合流し、アスナの無事を確かめると胸を撫で下ろした。

 

「…………うちの一個分隊が全滅……おまけに大事な剣まで折られてしまいましたか。敵ながらやりますねぇ。それにひきかえ…………あぁぁぁもうっ!! どうしてこう森エルフ(うちのヤツら)はへなちょこの役立たずばかりなんですかねぇっ!!??

 

 突然、声を荒げる鷹使いの奇行に思わず固まってしまう俺達。だが、そんな俺達をよそに鷹使いはため息をひとつすると、急にケロリとした表情をする。

 

「まあ、仕方ありません。今回は素直に退くとしましょう」

 

「っ!? まて! これで終わらせてなるものか!」

 

 そう叫びながら立ち上がる女剣士であったが、一歩を踏み出そうとした瞬間にガクリと膝をついてしまう。先程の騎士との闘いに加えてこれ程の連戦だ。疲労もピークに達したのだろう。

 

「やめとけ! もう限界だろ!?」

 

「どいてくれ……。妹の仇……この手で必ず……」

 

 青い顔をしながらもなお鋭い殺気を放つ女剣士。だが、そんな姿を鷹使いは鼻で笑うと大鷹の足に捕まり空を飛ぶ。

 

「そう焦らずとも、いずれ必ず愛しの妹御とやらのところへ送って差し上げますよ。……そして、人族の剣士共。これ以上黒エルフたちに協力するのなら、あなたたちも皆殺しです」

 

 呪いの言葉を吐き捨ててこの場を去っていく鷹使いと悔しさのあまり発せられた声にならない絶叫。

 

 どちらも深い霧に飲み込まれ、森の奥へと消えていった。




 捨て台詞から察せられる通り、鷹使いの設定にもオリジナル要素が入っています。
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