SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略! 作:封魔妖スーパー・クズトレイン
「……《秘鍵》を……その包みを渡してもらえるだろうか……?」
「あ……っ、は、はい!」
ショックから立ち直れないのか女剣士は俯いたまま黒い革手袋に包まれた右手を力無く伸ばし、アスナがその手に秘鍵を乗せるとそれを大事そうに胸に抱いて長々とため息を吐いた。
「…………これでひとまず聖堂は守られる」
安堵と悔しさがないまぜになった声色。先程までの戦いの中でも散々思ったが、やはりNPCではなく本物の人間みたいに感情を表現している。
人工知能というものにはまるで門外漢な俺でも流石にここまで人間らしく自己表現できるAIが異常だという事くらいは分かる。最初に戦った森エルフの騎士やあの鷹使い、二層の体術クエの爺さんとSAOはAIに本当の命を吹き込む事が出来るのだろうか?
「…………礼を言わねばなるまいな」
柄にもなくそんな小難しい事を考えていると女剣士は鎧をがしゃりと鳴らしながら立ち上がり、俺達を真っ直ぐに見る。
「人族の剣士たち。そなたらの尽力、改めて感謝する。我らが司令からも褒章があろう。野営地まで同行願えるだろうか?」
そう言うと彼女の頭上にクエストの進展を知らせる【?】マークが点灯する。かなり波乱に満ちたスタートではあったが、無事クエストは進行してくれたみたいだ。
「それじゃ、お言葉に甘えます」
「ア、アスナ。こういうときはイエスかノーをはっきりと……」
「結構。野営地は森を南に抜けた先だ。──と、考えてみれば、まだ名乗っていなかったな」
またもやNPCらしかぬ会話能力を披露した女剣士は咳払いをひとつすると表情を引き締めて漫画でしか見た事がない様なキッチリとした姿勢で敬礼する。
「私はキズメル。リュースラ王国近衛騎士団がひとつ《エンジュ騎士団》の末席に名を連ねる者だ。以後よろしく頼む」
「え、ええと……俺の名前はキリト」
「アスナです」
「アシュロンって言います」
「ふむ…………キリト、アスナ、アシュロゥ、でいいか?」
「うーん、ちょっとイントネーションが違うかしら」
「俺のはだいぶ違ってるな」
もう一度繰り返して発音を微調整してもらう。
「キリト、アスナ、アシュロン……人族の名は発音が難しいな」
女剣士───キズメルはどこか照れた様な笑顔を浮かべる。ずっと厳しい顔しかしていなかったから、てっきり怖い人なのかと思っていたが、こうして笑っているのを見ると結構気さくな性格なのかもしれない。
と、お互いの自己紹介も無事に済んだ所で、クエストの方も進行していき、キズメルの頭上にあった【?】マークが消えて、代わりに視界左側にあるキリトとアスナのバーの下に新たに《Kizmel》の文字とHPバーが表示された。
「では、改めて野営地まで案内しよう。着いてきてくれ」
「あ! ちょっと待って! まだ、その子の名前を聞いてない!」
……その子というのはキズメルの足元に伏せている狼の事なのだろうが、あの見るからに人ひとりをペロリと平らげてしまいそうな
とは言え、アイツにその気があったかはさて置き、俺にとって命の恩人……いや、恩オオカミだ。確かにここはお名前をお伺いして、後程助けてもらったお礼にベーコンの一枚でも贈呈するべきだろう。
だが、問われたキズメルは何故か急に目線を逸らし、暫く黙った後にポツリと呟いた。
「こやつの名は…………
「流石に酷すぎねぇっ!?」
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犬派か猫派かと問われれば迷いなく犬派と答えられる俺としては愛情の欠片も無い名前にはひと言申したい(ネーミングセンスについては人の事は言えないと自覚している)所だが、今は一旦話は切り上げ、キズメルの案内のもとダークエルフの野営地を目指す。
未だ圏外であるため当然の如くモンスターとエンカウントするが、灰色の毛をした守護獣様がそのことごとくを噛み殺してくれたために俺達は剣を抜く事すらせずに済んでいた。
激戦を乗り切った身としてはこのエスコートは非常にありがたい。これ程の働きをしてくれた彼にはベーコンなどではなく二層でドロップした秘蔵のC級レア牛肉をプレゼントするべきかもしれないな。
そんなこんなで出発から十五分後、深い霧の先で何本もの黒い旗が翻っているのが目に入ってきた。
「見えたぞ。あれが我らの野営地だ」
「けっこうあっさり着いちゃったわね」
「確かに距離としてはそれ程でもなかったが、あそこには全体に《森沈みのまじない》が掛けてあるゆえ、そなたらだけではこうも容易く見つけられはしなかっただろう」
「へえ……おまじないって魔法のこと? でもこの世界に魔法はないんじゃないの?」
この道中で随分と仲良くなったアスナがキズメルにタメ口で質問をする。考えてみれば現在の最前線に出てくる女性プレイヤーといったらアルゴくらいだろうし、アスナにしてみれば強くて頼りがいのある歳上の同性というのは非常に貴重なのだろう。キズメルもそんなアスナを好ましく思っているのか柔らかな表情をしている。
「まじないは言わば、古の偉大なる魔法のかすかな残り香……とうてい魔法とは呼べぬものだ。大地から切り離されたその時より、リュースラの民もカレス・オーの民もあらゆる魔法を失ってしまったのだ」
大地から切り離されたとか、魔法を失うとか急に出てきたとんでもないワードに思わず感嘆の声を上げそうになる。
日々の攻略でつい忘れていたが《
──パァンッ!!
「……? アシュロン君どうかした?」
「……いや、流石に疲れが溜まったのかフラッとしちまってな。自分に喝を入れてた」
「まあ、フロアボス戦に加えてあれだけの連戦だったもんな。あまり無理はするなよ」
「ああ、悪いな」
咄嗟に顔に貼り付けた苦笑で何とか誤魔化す。
しっかりしろアシュロン。そうやってこの世界を楽しもうとした結果がどうなったのか忘れたのか?
俺の命だけなら良い。そんな物いくらでもくれてやる。だが、万が一キリトやアスナが死ぬ様な事になったらどうするつもりだ?
攻略は……ここでの戦いは遊びではないのだ。そう自分に強く言い聞かせる度に、まるで鉄の塊を飲み込んだかの様に腹の中がズシンと重くなる。だが、これで良い。こうすれば、少なくとも地に足がつく。
…………もう、ディアベルを失った時の喪失感を味わうのはこりごりだ。
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ダークエルフの野営地に近づいた途端に霧が嘘の様に晴れ、急激に視界がクリアになる。
どうやら、もう森の南端にほど近いらしく、切り立った山肌が左右に続いていて、その一箇所に開いた谷間を利用した天然の要塞となっている。
キズメルに連れられて、これまた整った顔立ちをした衛兵達の横を通り過ぎれば、目の前に黒紫色の天幕が大小合わせて二十近くも張られ、優雅な外見のダークエルフ達が忙しなく行き来している光景が広がっていた。
「へえ……ベータの時よりだいぶデカいなぁ……」
「前と場所が違ってるの?」
「ああ。でも、それは異常なことじゃなくて、こういうキャンペーン・クエスト関連のスポットはたいてい
インスタンス・マップ……MMO RPGなんかで混雑対策の為にパーティーごとに生成される小さなエリアの事だっただろうか。
確かにストーリーの進行中に他のプレイヤーが後ろに並んでいたりしたら萎えるなんてものじゃないだろうが、その対策とはいえ、この現実世界と見紛う程のSAOでいつの間にか自分達だけ別の世界に飛ばされてるなんて考えると少し不安になってくる。
そんな心配もこの世界の一部とも言えるNPC達には特に関係のない話なのか、そのまま一番大きな天幕にまで通され、そこで先遣部隊司令官という立派な髭を生やしたダークエルフの男に大いに感謝された後、結構な額のクエスト報酬と共に複数の装備アイテムの中からひとつ選んで貰える事になった。
キリトは筋力が+1される指輪、アスナは敏捷力+1のイヤリングを選び、俺の方はと言うとこの機会にかねてからの問題だった敏捷値を伸ばす為にアスナと同じ物を貰おうかと悩んだが、キリトに「+1程度じゃ焼石に水だ」と言われて泣く泣く看破スキルにブーストが掛かる虫眼鏡みたいな形のお守りを選択する。
あぁ、どこかに敏捷値が+20くらいされるアイテムがないだろうか……?
最後に司令官から、キャンペーンの第二幕となる新たなクエストを受けて天幕を後にすると、空代わりの次層の底はいつの間にか夕暮れ色に染まっていた。
「それでは次の作戦もよろしく頼むぞ。出発する時刻はそなたらに任せよう。いちど人族の街まで戻りたいのなら近くまでまじないで送り届けるが、この野営地の天幕で休んでもかまわんぞ」
キズメルの言葉にキリトが何か言いたげにソワソワしだす。きっと野営地に泊まった方がお得だからお言葉に甘えたい等と考えているのだろう。
アスナもキリトの思考をきっちり看破した様で、やれやれ、とばかりに軽く肩を上下させてから、キズメルに答える。
「それじゃ、お言葉に甘えて天幕をお借りします。お気遣いありがとう」
「なに、礼には及ばぬ。なぜならば……」
キズメルがそこまで口にした時、何故かふと嫌な予感がする。
頼む、気のせいであってくれ! と心の中で念じるが願い虚しく、続くひと言によって予感は的中した。
「予備がないゆえ、私の天幕で寝てもらわねばならんからな。四人では少々手狭だが我慢してくれ」
「いえ、ありがたく使わせていただき…………四人?」