SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

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36話 プレイヤー()NPC(AI)

 何度も襲いかかってくる毒蜘蛛や至る所に張り巡らされた蜘蛛の巣に精神が限界を迎えそうになった頃、ようやく奥の小部屋で小さく瞬くささやかな光を発見した。

 

 無数に伸びた蜘蛛の糸を払いながらアスナが拾い上げたそれは根元の所にオパールの様な白い宝石が付いている木の葉を象った銀細工だった。

 

「……エンジュ騎士団の徽章だ。この洞窟を調べていた偵察兵のものだろう。持ち主は、もう生きてはいるまい……」

 

 沈んだ声を出すキズメルにアスナは徽章を差し出すが、騎士は小さくかぶりを振る。

 

「これはそなたから司令に手渡してくれないだろうか? ……おそらく、これは司令の肉親なのだ」

 

「……わかったわ」

 

 アスナが大切そうに徽章をポーチにしまうと、視界左側にクエストの進行を告げるメッセージが流れる。この蜘蛛地獄からおさらば出来るのは嬉しいが、仲間の死を悼むキズメルを見ていると、素直に喜ぶ気分にはなれない。

 

 所詮はVRMMO、人の作ったゲーム、そんな考えはキズメルと共にいるこの十数時間で既に無くなっていた。それはきっとアスナも……そしてキリトも同じなのだろう。

 

「…………すまない。だが、これでこの洞窟の毒蜘蛛どもが危険であることの物証が手に入った。今度は兵を引き連れて───ッ!?」

 

 突然、何かに気が付いたのか、キズメルはダンジョンの奥の方に耳をそばだてる。

 

 また、蜘蛛が襲ってきたのかと警戒した矢先、聞こえてきたのは節足動物がカサカサ走る音ではなく、男達の叫び声だった。

 

「やべえ……あいつ階段上がってくるぞ!!」

 

「走れ走れ! 入り口まで逃げろ!!」

 

「あ……あんなクソデカいクモおるなんて聞いてへんぞ! どうなっとるんや!」

 

 狼狽に彩られたキバオウの声にガシャガシャと鎧が鳴らす金属音と乱れた足音。───そして、枯れ木が軋る様な、大型Mobの咆哮。

 

 ……これは間違いなく───

 

「やばい! アイツらこのダンジョンのボスに追われてるのか!?」

 

 予期せぬ状況に思わず舌打ちをしてしまう。

 

 地下二階から階段を登ってきたのなら当然ボスはダンジョンを出るまで諦める事はないだろう。ダンジョンのあちこちに雑魚Mobがいる中で、もしも連中が挟み撃ちにでもなったら最悪全滅すらあり得る。

 

 ならば、キバオウ一行に加勢して一緒にボスを倒すかと言われれば、それも躊躇われる。

 

 六人フルパーティーに加えて攻略集団最強にしてボスの情報に詳しいキリトに俺とアスナ、そして何より圧倒的な強さを持ったエリートMobであるキズメルがいるのだ。こんなダンジョンのボスなどきっと楽勝だろう。だが、その後にビーターであるキリトがチートみたいなNPCを連れているのを見たキバオウ及び解放隊は一体何を思うだろうか? 

 

 キバオウ達を見捨てるなんて選択肢は取れないが、その為にキリトやキズメルに要らない負担を掛けてしまうのは気が引けてしまう。

 

 そうして、助けに入るべきか否か迷っていると、同じく何かを思案していたキリトがおもむろに口を開いた。

 

「……パーティーが通り過ぎたら、後から来るクモをこっちに引きつけて戦おう」

 

「──ッ!? ……成る程、了解だ」

 

 たった四人でのボス撃破。きっとかなり苦労するだろうが、それでもこのメンバーであれば十分可能ではあるだろうし、その分プレイヤー同士での面倒事を避ける事が出来る。

 

「俺がこの部屋まで誘き寄せるから、みんなはここで待機していてくれ」

 

「解ったわ。気をつけてね」

 

 アスナの言葉にキリトは小さく頷くと、足音が聞こえる方向に走り出す。そして、それから一分もしない内に怒りに満ちた雄叫びが鳴り響き、そこから更に十秒後にキリトが部屋の中に転がり込むと同時にその背後から巨大な影が勢いよく入ってきた。

 

 固有名【 Nephila Regina(ネフィラ女王)】。鈍い紫色に光る外殻の周囲はモジャモジャとした毛に覆われており、真っ赤に燃える幾つもの単眼の下では忌々しい侵入者を穿ちたいと大剣の様な毒牙が忙しなく動いている。

 

 …………キバオウ達《アインクラッド攻略隊》はこのゲームを攻略する上で欠かせない戦略だ。見捨てるなんて選択は出来ない。

 

 だが、それでも今この瞬間、助けに入った事を心の底から後悔した。

 

 端的に言って気持ち悪い。見ているだけで背筋が凍る。戦うなんてとんでもない。

 

ケツ(・・)から出す粘着網に気をつけろ! 身体のどこかに触れても動きが阻害されるぞ!」

 

「なかなか心得ているなキリト。承知した」

 

「いいけど、もっときれいな言葉使えないの!?」

 

「ケツにきれいも汚いもあるかッ! いくぞ!」

 

 近づきたくなんてないのに、キリトの号令に合わせてつい体が動いてしまう。

 

 両手剣の切先が細かな毛にキモチワルイ覆われた外骨格キモチワルイを切り裂くと、卵の殻を砕いた様な音キモチワルイと女王蜘蛛が発する錆びた鉄骨が軋むような耳障りな悲鳴キモチワルイが空気を震わし、飛び散った緑色の体液キモチワルイが刀身や腕を濡らすキモチワルイ。

 

 キモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 も う ど う に で も な 〜 れ

 

 

 

 

 

 

   ─────────────────

 

 

 

 

 

「ふう……。お疲れ、アシュロン。蜘蛛が苦手って割にはなかなか頑張ってたな」

 

「────ハッ!? ……お、終わったのか……?」

 

 気が付けばあの醜悪な女王様の姿は消え去っていて、視界端に映し出されたウインドウには結構な量の経験値やコルが表示されていた。

 

 悪い夢から覚めたかの様に辺りを見回している俺にキリトは苦笑いを浮かべながら右手を上げ、それにつられて反射的に持ち上げた右手から軽やかな音が鳴り響く。

 

「キリト、その仕草はどういう意味なのだ?」

 

「お互いの健闘を称える、人族の挨拶よ」

 

 首を傾げるキズメルにアスナはにこっと笑いながら右手を上げてキズメルの右手に打ち付ける。パン、と良い音が響くと、キズメルは手を下ろしてしばし掌に見入っていたが、やがて感触を保存するかの様に軽く握った。

 

「なるほど。我らエルフはあまり他者と触れ合わぬが……悪くない挨拶だな」

 

 どうやら黒エルフの騎士様はハイタッチを気に入ってくれたらしい。どんなものであれ、こちらの文化を肯定してもらえるのは何だか嬉しくなってしまう。

 

「それはそうと、もうそろそろキバオウたちが戻ってくるぞ。たぶん、連中はギルドクエストを進めるためにもういちど地下二階に行くだろうから、その隙に洞窟から出よう」

 

「そうね。…………さっきのボス蜘蛛、わたしたちが倒したからキバオウさんたちは安全に二階を探索できるのよね。なんだか、彼らの知らないところで手助けしちゃったみたいでシャクだわ」

 

「『善き行いは森が、悪しき行いは虫が見てる』と言うではないか。そなたらにはきっと聖大樹の恵みがあろう」

 

「だってさ、アシュロン。またネフィラ女王に襲われたくなかったら悪いことはするなよ」

 

「はあ!? お前、俺みたいなスポーツマンシップ溢れる善良少年捕まえて何言ってんの!?」

 

 こちとら、少し前まで野球部指定の丸刈りで部活動には皆勤だったし、学業だって馬鹿なりに真面目にこなしてきた方だ。…………いや、まあSAOの発売日には学校サボって徹夜で列に並んだりはしてたけど。

 

「ふふ、そうよね。ちなみに人族の国では、そういうのを『情けは人の為ならず』って言うのよ」

 

「ふむ、『巡り巡って己が身に還ってくる』というわけか。悪くない、覚えておこう」

 

 マジかよ。キズメルは今ので意味が分かったのか。俺なんか中学まで『他人には容赦するな』って意味だと思ってたのに。

 

 確かに見た目から理知的だとは思っていたが、キズメルって実は凄く頭が良いのだろうか? …………いや、そもそもキズメルはNPCだからSAOのコンピューターから思考しているのか。

 

 こんなリアルの世界みたいなゲームを創るコンピューターだ。きっとスパコン並みに凄いのだろう。

 

「まあ、とりあえず用も済んだし野営地に戻ろうぜ。デカい蜘蛛にはいい加減こりごりだ」

 

「賛成。これも早く家族のところに返してあげたいし」

 

 そう言ってアスナは柔らかな仕草で自身のポーチに触れる。その姿にキズメルは少しだけ目を丸くすると、ふっと笑ってアスナの頭を撫でた。

 

「ありがとう。…………では、帰るか。我が家に」

 

「うん!」

 

 仲良く並ぶ彼女達は顔立ちはまるで似てないし、そもそもキズメルは肌が浅黒く耳が長いダークエルフ族───という以前にNPCなのだが、それでも不思議と姉妹めいた印象を受けてしまう。

 

 人間みたいな思考をするAIはもしかしたら本当に人間とそんなに変わらないのかもしれない。それならば、近い将来データで造られたAIと人間が家族になるなんて事もあり得るのではないだろうか。

 

 アスナとキズメルが笑い合う様子を見ていると、また柄にもなく難しい事を考えてしまった。

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