SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略!   作:封魔妖スーパー・クズトレイン

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 新しく買ったゲームが楽しくて、気が付けばまた間が開いてしまいました。


37話 騎士の細剣と未完の月

 ダークエルフ先遣隊司令官はアスナが木の葉を象った徽章を手渡しても大きく表情を動かす事はなかったが、キズメルと長い時間を共にした後だと、その変わらない態度の奥に深い悲しみを押し隠している様に感じてしまう。

 

 そうして、偵察隊の遺品を届けた事でクエストが進行し、今度はボス蜘蛛の討伐を依頼されるが、そこへキリトが恐る恐る【女王蜘蛛の毒牙】なるアイテムを渡すとクリア条件が満たされ、再びあの地獄に赴く事なく《毒蜘蛛討伐》を完了する事が出来た。

 

「……それで、どうする? もう、いつでもキズメルをパーティーに誘えるけど……」

 

「ん…………」

 

 頼まれていた報告はもう済んだので、天幕にいるであろうキズメルに一声掛ければ再び行動を共に出来るであろうが、アスナは葛藤するかの様に少しだけ俯いてから、軽くかぶりを振る。

 

「もう少し、あとにしよ。……なんだか、変なこと言うようだけど……しばらく、一人にしておいてあげたい気がするの」

 

「……そうだな。キズメルには随分と助けて貰ったし、今はゆっくり休んでほしいよな」

 

 NPCが人間みたいに休息を必要とするかは分からないが、だからと言って無神経に接してしまうのは間違いな気がする。キズメルの事を本当に仲間だと思っているのなら、アスナの言う通り今は一人でゆっくりさせてあげるべきだろう。

 

 そんなやり取りをしている間に、少し離れた食堂天幕から何やら良い匂いが漂い始める。時間としては少し早めの朝食時だ。肌寒いこの時期の朝には野菜たっぷりの温かいスープが欲しくなってしまう。

 

 堪え難い食欲にふらりと食堂へ足を踏み出そうとする俺の袖を、アスナがくいっと引っ張ってきた。

 

「ご飯の前に、ちょっと付き合ってよ」

 

「へ? 何だよ、朝風呂か?」

 

「違うわよ!! 《武器作成(・・・・)》! 鍛冶屋さんでわたしの剣を新調したいの!」

 

 

 

 

 

   ─────────────────

 

 

 

 

 

「………………フン」

 

「……ね、ねえ、キリト君……本当に大丈夫? この鍛冶屋さん、なんかわたしたちに恨みがありそうな顔(・・・・・・・・・・・・・・・)してるんですけど……」

 

 俺達の来訪に振り下ろしていた金槌の手を止め、さも不愉快そうに鼻を鳴らす鍛冶師。その顔は昨日俺達がキズメルと一緒に袋叩きにしたあの森エルフの騎士にそっくり……と言うより、色と服装を変えただけの同グラだ。

 

「だ……大丈夫……武器作成に失敗ペナルティは無いはずだから」

 

 システムでそう決まっているのなら問題ないのだろうが、流石のキリトも若干気まずそうな声を漏らす。そんなキリトにアスナは一瞬けげんそうな表情をするが、深呼吸をひとつすると表示されたメニューから《鋳潰し⇒武器作成》のボタンをタップする。

 

 ……今回の武器作成で、アスナは自身の愛剣である《ウインド・フルーレ》を元に新たな剣を作成するつもりだ。

 

 仲直りした親友から受け取り、数々の死線を共に乗り越えたそのレイピアに彼女がどれだけの愛情を注いでいたかは第二層での強化詐欺の一件で分かっている。それでもウインド・フルーレではこの先の攻略は難しい。だから、アスナはその剣をここで生まれ変わらせる事を選んだのだった。

 

 しばしの別れを惜しむかの様にアスナはシンプルだが美しい武器を両手で強く抱きしめ、俺達には聞こえない声で小さく囁いてから、それをエルフ鍛冶師に差し出す。

 

「…………こ、この剣を……使ってください!」

 

「………………」

 

 鍛冶師は少しの間アスナの事をジッと見つめると、先程までの失礼な態度とは打って変わって差し出されたウインド・フルーレを丁寧な仕草で受け取り、そのしっとりと深い艶をまとう刀身を炉にそっと乗せる。

 

 熱せられた細剣は眩い輝きを放つとその形を一つの美しい金属地金(インゴット)に変え、鍛冶師はその地金を鉄床の上に置きハンマーを振り上げた。

 

「……キリト君。……バフ、頂戴」

 

「………………うん」

 

 槌音が響き渡る中、不安気に伸ばされたアスナの左手がキリトの右手の薬指と小指を探り当てしっかりと包み込む。

 

 ネズハに強化を依頼した時と同じ、キリトとアスナの甘いやり取りを見ていると思わず口角が上がってしまう。ほんと、これで良くそんな関係じゃないなんて言えたよな。

 

 と、後ろで笑っていた俺の方にアスナは顔を向けると、おもむろに右手を伸ばしてきた。

 

「…………あなたも、バフ貸してくれる?」

 

「っ!? …………あ、ああ、構わねえよ。好きなだけ持ってってくれ」

 

 予想外の出来事に戸惑いつつも左手を伸ばすと、アスナはキリトのと同様に薬指と小指をきゅっと摘む。その細く華奢な指の感触に何だかむず痒さを覚えると同時に何故かほんの少しだけ安心感の様なものを感じてしまう。

 

 こうして、三人で手を繋いで見守る中、エルフ鍛治師がハンマーを振るう度にかぁん、かぁん、と澄んだ槌音が鳴り響き、明るい火花が盛大に飛び散る。槌はそのまま二十回……三十回……と打ち込まれ、四十回を超えた所でやっと止まった。

 

 純白に輝くインゴットがゆっくりと変形し始める。どこまでも細く、長く、鋭く、美しく。最後にもう一度強い閃光を放ち、それが収まるとアンビルの上には全体が白銀に煌めく一振りの細剣(レイピア)が横たわっていた。

 

「……いい剣だ」

 

 差し込む朝日を白く反射させる刀身を眺めて鍛治師はそう一言呟くと、再びフンと鼻を鳴らしながら細剣をアスナに手渡す。

 

「ぅ……わああああ!! すごい綺麗! キズメルの剣みたい!!」

 

「へえ、《シルバリック(・・・・・・)・レイピア》か。随分と凄そうな剣が出来たな!」

 

シバルリック(・・・・・・)な。どれどれ、強化の上限試行回数は……15……? ……ジュウゴッ!?!?

 

 プロパティを確認した途端、キリトが素っ頓狂な声を上げる。

 

「えっ? ちょっと、どうしたっていうのよ!?」

 

「だ、ダメだ! ダメだよ、アスナ!! 強いなんてもんじゃない! そんな剣、反則だッ!!」

 

「おいおい、確かに多いけどよ、いくら何でも反則は言い過ぎなんじゃねえのか?」

 

「よく考えてくれ! アニール・ブレードは上限が八だから、つまりこの剣は単純に考えてアニールの倍は強い! 層で言うなら五、六層クラスの代物だぞ!」

 

 ………………やべぇじゃん。

 

 確かにアニール・ブレードは一層で手に入る剣であるため、それより強力な武器はこの三層には幾つかあるだろう。だが、それらの武器との違いなんて精々ATKが2〜30くらい上がっている程度であり、倍以上も強い武器などバランス崩壊も甚だしい。

 

「俺やった事ねえから知らないんだけどよ、武器作成ってのは運次第でこんなヤバい剣が出来あがっちまうもんなのか?」

 

「う、うーん……確かに今回は作成者のスキル熟練度も高いし素材も上限の物を使ってるけど、ここまでの上振れはベータじゃ聴いたこともなかったな」

 

 そうなると、通常の武器作成手順には無かった要因によるものだと推測できる。すぐに思い当たる理由としては、アスナのリアルラックが化け物である可能性か、もしくは…………

 

「使い込んだ武器を素材にするってところかしら? それなら検証してみましょ」

 

「えっ? ……あー、確かにそろそろアニールじゃ厳しくなってきたし、もしこれで強い剣が作れるのなら儲け物だけど……うーん……」

 

 と、なんとも煮え切らない返事をしながら、こりこりと頭を掻くキリト。

 

 元ベータテスターとして、この先の攻略をしていく上で武器を更新していかなければならないと理解していながらも、キリトは時折アニール・ブレードを丁寧に磨き上げていたりと、きっと今の武器への愛着はアスナにも負けていないのだろう。

 

 そんなに大切にしている剣と急にお別れしなければならないのは流石に酷な話であるし、何となくだが未練を引きずったまま作成しても良い物が出来るとは思えない。

 

「なら、俺がいっちょやってみるか!」

 

「……良いのか、アシュロン?」

 

「おう! 俺だってそろそろ武器変えとこうと思ってたし、良い機会だ」

 

 そう言って、鍛治師の前に出て鋳潰しからの武器作成を依頼する。もちろん、機嫌を損ねてしまわない様に頼む際には直角九十度を意識して頭を下げるのを忘れない。

 

 そして、ストレージから両手剣を引っ張り出して渡す───前にお別れの挨拶とばかりにルーティーンの時と同じく剣の柄に額を当てる。

 

 そういえば、この剣を入手する為に一層の辺鄙な場所にある洞窟まで行ったっけな。しかも、そこそこ硬いゴーレムのドロップ品だったから、こいつが出るまでディアベルに長い事付き合って貰ったっけか。

 

 その後は戦闘だけでなく武器破壊の練習と言った無茶な使い方までしていたのに、それでも今日までずっと俺を支えてくれていた。

 

「……ありがとな

 

 感謝の念は自然と言葉になった。

 

 今更になってアスナ達の様に愛剣の存在感を感じてしまったが、それでも……いや、だからこそ、こうして新しい姿に生まれ変わらせる事にためらいは無い。

 

 お別れを済ませて剣を鍛治師に渡すと、そこからはアスナの時と同じ流れで両手剣はインゴットへ、インゴットは新たな剣へと生まれ変わろうとする。

 

「……ねえ、バフ、いるかしら?」

 

「ん? …………いや、大丈夫だ。それに、幸運バフなら多分さっきのでもう使い果たしてるだろうしな」

 

 幸運バフに使い切るなんて事があるのか……そもそも本当に効果があるのか定かではないが、もう一度三人で手を繋ぐのはちょっと気恥ずかしい。

 

 だが、もしもそのせいで低スペックの剣が出来上がってしまったのならば、アルゴの攻略本に『武器作成時には運の良いプレイヤーと手を繋いで挑むべし』と書いて貰うとしよう。

 

 そんなくだらない事を考えている内に鍛錬が終わり、光に包まれた剣がその全容を表す。

 

 それは不思議な剣だった。幅の広い諸刃の刀身はその一部が僅かに欠けていて、光の角度で白銀から暗い青にも変化する。その怪しい輝きに魅了される様にゆっくりと触れるとプロパティ窓が表示された。

 

 攻撃力や攻撃速度はシバルリック・レイピア程ではないが十分過ぎる程の強化、強化上限回数は十回と少々少なめだ。だが、それを補って有り余る程の追加効果が……

 

「ソードスキル使用時に《速さ(クイックネス)》+15のマジック効果か……破格だな……」

 

 もはや、驚くのも疲れたといった風にキリトが呟く。

 

 疑いようもないオーバースペックの武器。手に持った瞬間にズシリと襲ってくる重さに心臓が跳ね上がり、まるで熱に浮かさる様に再度ウインドウに目を走らせる。

 

【ザンバー・オブ・ギバウス】。それが、この剣の名前だ。




 才能がありながらも未だ完成していない、もしくは未だ欠けたままのアシュロンになぞらえて、新しい剣の名前を十三夜(ギバウス)にしました。
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