SEVERANCE PRODIGY〜武器破壊を極めてゲーム攻略! 作:封魔妖スーパー・クズトレイン
SAOの攻略を決心してからレベリングやクエストに明け暮れ、気が付けば仮想世界に囚われてから十日の朝を迎えていた。
朝練の素振りを終えて始まりの街では結構良い値段のする宿の食堂に行くとディアベルが本を読みながら朝食を取っているのが目に入る。泊まっている客が余り居ない事と早朝である事で他のプレイヤーの姿は無い。
「ウッス! おはようさん」
「やあ、おはよう…………相変わらず君は良く食べるな」
俺が持ってきたお盆を見てディアベルは苦笑する。今日のメニューは黒パン4つにベーコンエッグ3つ、山盛りのサラダにコーヒーが一杯。ご機嫌な朝食だ。
「今日はコボルド村襲撃の日だからな。腹拵えはしっかりしとかないといけねえよ」
現在の俺達の目標は第一層の中央を南北に分断する地層《ダルハリ地塁》の突破、それも三つあるルートの中で一番難易度が高いとされる平原と渓谷を越える中央突破コースの攻略だ。
「それにしてもパーティーも十人──いや、そういえば昨日一人参加希望の奴が入ったかで十一人か。随分と大所帯になったもんだよな」
「そうだな。それに攻防のバランスが取れた良いチームになったよ。このまま三層まで順調に進めればギルドとして組んでも良いかもしれない」
渓谷に待ち構えているフィールドボスはパーティーを組まなければまず勝ち目は無いとの事で、あちこちで強そうなプレイヤーに声を掛けていた。しかし、SAOは死んだら終わりのデスゲーム。この早い段階でゲームクリアを目指した命知らず達であっても最難関のルートを通ろうとする奴は最初の内は中々現れなかった。
それでも徐々に人数が集まってきたのはひとえにディアベルのカリスマによるものだ。
何故ネットゲームなんてやっているのかと思う程のイケメンであるディアベルはその性格もイケメンであり、ベータテスターとして裏打ちされた知識と技術は一緒にいればどんなモンスターにも負けないと思わせる安心感がある。そして、パーティーでの戦闘時でも指揮官としてチームをコントロールするなどリーダーとして隙が無い。
狩りやクエストでその能力を遺憾なく発揮したお陰でその後も行動を共にしたいと言うプレイヤーは増えていき、前線での顔見知りもかなりの人数になった。
「…………アシュロン、分かっているとは思うがオレがベータテスターだって事は────」
ディアベルの言葉にちゃんと分かってますよ、とベーコンエッグを乗せたパンにかぶり付きながら片手でそれらしいジェスチャーをする。
そう、目下の所の不安要素はディアベルがベータテスターだとバレないかどうか。
…………この十日間で既に千人以上のプレイヤーが死んだ。自殺などの様々な理由はあるが、やはり一番多いのは冒険中に危険なモンスターやトラップによって殺されてしまう事だろう。
いくら注意したとしても予想外の出来事で死亡するのは仕方がない所があるし、それについては痛ましい事だとは思うが問題は一部のプレイヤーは『ベータテスターが何もかも独占したから初心者が大量に死んだ』と言っている点だ。
その話を聞いた時には余りにも横暴だと思ったし、何より恩人であるディアベルを含めたベータテスターの事を擁護したかった。だが当の本人は『どうしたってリソースの奪い合いになるから、初心者にそう思われても当然かな』と諦めた表情で笑うだけだった。
そうしてパーティーが出来上がった時からディアベルがベータテスターであると勘付かれる様な話をしない事に細心の注意を払っている。その結果ベータ時代にあった様々な面白珍事件を聞けなくなってしまったのが少し寂しかったりもするが。
「…………君にも色々と迷惑掛けているし、それは本当に悪いと思っている。それでもこのゲームのクリアのために今は少しでも多くのプレイヤーからの信頼が必要になってくるんだ」
そう言ってディアベルは申し訳なさそうな表情でこちらを見る。
『気にすんなよ、俺達相棒だろ?』
喉から出てきそうになったその一言を口の中のそしゃく物と一緒に飲み込む。俺はまだ相棒と呼ぶには余りにも非力で、ディアベルからのレクチャー無しではレベリングもままならないだろう。
もっと強くなりたい。そうでなければ
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「作戦会議の前に新メンバーの紹介をしよう。キバオウさん、前に出てきてくれ」
主街区の広場の一画にてディアベルの呼び掛けにキバオウと呼ばれた男がドタドタと大きな足音を立てながら出てくる。
まず目を引くのがその特徴的過ぎる髪型。茶髪をあちこちに尖らせた頭は家のリビングにあった某クイズ番組のナントカボールにそっくりだ。
キバオウはこちらに振り返ると咳払いを一つして大きな濁声を上げる。
「わいはキバオウってもんや! 先に言うとくが、わいはベータ上がりどもと仲良ぉする気はあらへん! もし、こん中にアホテスターがおるんやったら覚悟しとけっ!!」
こいつ第一声で爆弾ぶち込んで来やがった!?
周囲がざわつく中でバレない様にディアベルを見ると、こちらはなんとも言えない表情をしていた。
しょうがない、ベータテスターの非難に対して何か言ってやりたい所だが、これから会議をするのに空気が悪くなるのも嫌だし、適当に話題を振っておこう。
「キバオウさん、質問! 貴方の好きな食べ物は何ですか?」
「アホウ! 男やったら黙って串カツ…………ん、んん〜〜?」
キバオウは急に黙り込んだかと思うと、こちらの顔をジロジロと見てくる。一体何なのだろか。もしかして顔に朝食の食べかすでもついてるのか?
「…………もしかして、ジブン
ああ、
急にリアルネームを出された驚きではなく、冷めた納得が胸の内に広がってくる。リアルの姿になった時点でもしかしたらこういう事もあるかと予想はしていた。
そんな俺の気持ちも知らずにキバオウは嬉しそうに肩をバンバン叩いてきた。
「おお! やっぱりそうや! 天才スラッガー、芦屋龍生君やないか! まさかSAOで会えるとは思わんかったな! 甲子園での活躍観とったで。いつもは関西の学校しか応援せんが、あんさんは面白いくらいガンガンホームラン打っとったから結構好きなんや!」
ここまで明確に個人情報を晒されたら流石に他の連中も反応を示しだし、「芦屋? 誰それ?」「あ、俺知ってる。確か一年なのに強豪校のレギュラーになって、かなり活躍したとか」「そういや、新聞で結構大きく出てたな。そうか、そんな奴までこのゲームにいるのか」と早速情報交換がなされている。
「キ、キバオウさん! ここでリアルの事を話すのは流石に不味いよ!」
「───っ!! す、スマン! つい嬉しくなってしもうて…………」
「いや、良いっすよ。有名税ってやつだと思ってますし。それよりも、もうそろそろ作戦会議やっときませんか?」
これ以上現実世界での事を思い出したくないため、元の目的に軌道を戻してもらおう。
「…………よし! ちょっと脱線したけど、これから今回の作戦について説明する。これから向かう場所ではコボルド村の名前の通りコボルド系のモンスターとの戦闘になる。敵の情報や地形については多分みんなも
そう言って取り出したのは今朝ディアベルが読んでいた鼠のマークが付いた簡易な本。それはとある情報屋が無料で配っているSAOの攻略ガイドブックである。
この本にはモンスターの情報や稼ぎの良いクエスト、ステ振りのイロハまでキッチリ書いてありながら分かりやすくまとめてある。読んでいて子供の頃に買ってもらったテレビゲームの説明書を何度も眺めていた時と同じ気持ちになるので俺も愛読している。
「この本にはオレもかなり助けてもらっているよ。作者の方には一言お礼を言いたいくらいだ。だけど、これから向かう場所ではこの本に載っていない事態が起こる確率が高い。現につい最近攻略されたホルンカ近くの洞窟ルートでは情報に無いフィールドボスに襲われたという話だ」
その情報に何人かのプレイヤーが息を呑む。
明らかにベータテスターを狙った罠がある。そう判断したディアベルと一緒にこの二日間NPCから情報を集めて回ったが、結果的に以前から判明していた『コボルド達が子イノシシを調教して騎獣にしている』という事しか分からなかった。
「何が起こるか分からない。きっとみんな不安な気持ちだと思う。それでも挑もうとしてくれてオレ、凄い嬉しいよ! この村と次の渓谷を越えるルートは一番困難なルートだとされている。だからこそ、一緒に乗り越えてどんな罠を仕掛けてもオレたちは負けないって事を証明しよう!」
「ああ! 茅場が何企んでるか知らないが、真正面からぶち抜いてやろうぜ!」
演説が終わり、パーティー全員が盛大な雄叫びを上げる。いや、それだけではない。気が付けば周囲には始まりの街に閉じこもっているプレイヤーも集まり、ディアベルに向けて大きな拍手をしていた。
俺にとってもディアベルにとっても大きな一歩となる闘いが始まる。絶対に成功させてやる。背負っていた剣の柄を強く握りしめて心の中でそう誓った。