【カオ転三次】地方神ガチ勢と化した俺たちの話   作:一般俺たち

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第十話

 

 

 『今、地方がアツい!

 衝撃の新体験! 想像を超える世界が君を待っている! 』

 『田舎で感じる、あたたかいおもてなしの心……。あなたも癒されてみませんか?』

 『勝ちまくりモテまくり! 俺は地方でこんなに成功した! 年収〇000万の男が語る成功の秘訣とは!?』

 

 …………以上、依頼掲示板に貼られたクエストから一部抜粋したものである。

 なんだこれ。いつからガイア連合って胡散臭い詐欺広告の温床になったんだ?

 

 掲示板の前で首をひねっていると、後ろから事務員の人が声をかけて来る。

 眼鏡をかけた、サラリーマン風の男性だ。俺が異界に潜る時によく担当してくれる。結構仲が良く、時々差し入れをしたり、かわりに少しお得な情報を教えてもらったりする仲である。

 

「ふふふ……驚いているようですね、通常では考えられない依頼の数に……」

「え? いえ、どちらかと言うとこの広告に」

「依頼の数はそのままその組織の規模を表します……より大きい組織ほど、より多く、より実のある依頼を紹介する事が出来るのですから。我々【ガイア連合】は最近【根願寺】からの信頼も厚い、新進気鋭の霊能組織。他の組織とは紹介できる依頼の数も質も違うのです」

「いや、あの」

 

 駄目だ、聞いちゃいない。

 どちらかと言うと、このカスみたいな広告について気になってるんですが。

 

「そう、木っ端同然の地方霊能組織とは訳が違うんですよ! 他の組織では解決できない難事でも、我々【ガイア連合】なら即座に解決できるのですから! 【根願寺】が帝都の守護にかかり切りである以上、地方依頼は我々の独占市場なのです!」

「うわあ、急にテンションが高い」

 

 そう語る事務員さんは、しかし言葉とは裏腹に全く嬉しそうではない。むしろ日々の仕事で疲れ切った、死んだ魚の眼をしている。これ躁鬱入ってないか?

 

「異界探索! 攻略! 被害者の治療! どれもガイア連合なら全部できますからね! 逆に言うと地方組織は全部出来てなかったんですけどね! そんな時に我々が出て来ちゃったもんだから、もう仕事が全部こっちに来ちゃってるんですけどね! ははは! 面白いですね! ははは!」

「あー……と、事務員さん、今何徹です?」

「4徹目ですねぇ! ふふふ、しかもこういう依頼って依頼主も必死ですから、こっちに何度も何度も頼みに来るんですねぇ! 今地方探索に行ってくれる人なんて少ないのに! それを断るのも心苦しいし、何より相手もしつこいんですよね! それだけならまだいいですけど、最悪の場合依頼内容に嘘をつく奴も出て来るんですよ! 簡単な依頼って言ってみたり! 被害を大袈裟に言ってみたり! そういうのを全部精査してたらもう時間がいくらあっても足りないんですよねぇ! お仕事楽しいですねぇ!」

 

 事務員さんがハイライトの無い目で大笑いする。ヤバい、激務で壊れきっている……。事務員も補充されてはいるらしいが、依頼の増加ペースに全く追いついていないらしい。残業代が適正に支払われる事だけが唯一の救いである。

 

「……ふう、落ち着きました。なので現在、地方依頼をこなす人手が足りていないんですよ」

「あー、なるほど。少しでも地方に行ってくれる人を増やすためにあんな広告を出していると」

「ええ。あれを見て真に受ける人なんていないでしょうが、しかし少なくともこちらの必死さは伝わるでしょう?」

「危険性だけが伝わってると思います」

 

 捨て身すぎるだろうと思ったが、実際あれを貼ってから依頼受注者が増加したらしい。マジ? やっぱガイア連合員って頭おかしいわ……。

 

「ということで灰谷さん、依頼受けていきません? 地方異界は敵のパターンが乏しいですから、自分の属性に合った異界に行けば稼ぎもいいですよ」

「……まあ、そこまで困っているのに何もしないのもアレですし。折角だから依頼受けますよ。何かあります?」

「そう言ってくれると信じてました。灰谷さんは炎熱系の異能者でしたよね。レベルは幾つになりました?」

「つい昨日19まで上がりました」

「えー…はい、測定器でも確かにLv19になってますね。おお、あと10ちょっと上げれば幹部ライン到達じゃないですか。流石ですね」

「いえいえ、ここからが辛いですから」

 

 幹部ラインとは、俺たちが勝手に言っている『幹部に最低限必要なLv』の事である。現在はLv30が幹部ラインだが、今後幹部の人たちが強くなるにつれてこのラインも上がっていくだろう。【ハムネキ】とは以前手合わせしてもらったが、マジで同じ人間とは思えない強さだった。ハムネキはタルタロス探索の仲間が出来ない事を嘆いていたが、彼女についていける者はそうそういないだろう。俺もペルソナ使いの適性なかったし。

 

「そうですねぇ……火炎弱点の敵が多い異界……北海道の【雪窟大迷宮】は最近幹部の【スライムニキ】氏が出動したので、今なら楽に稼げると思いますよ」

「【スライムニキ】? あの人ってペルソナ系異界の担当ですよね?」

「地方組織との橋渡しと、地脈活性化のデータを取りにしばらく出張してくれてるんです。あの人は折衝や書類作成にかけては一流ですから」

 

なるほどね。スライムニキ、戦闘はからきしだけど後方支援は天才的だしな。性格も良いし、まさに頼れる大人って感じだ。

 ただなぁ……北海道、北海道か……。ちょっと遠いか? 日帰りできる依頼ではない気がするな……。

 

「灰谷さんは何か希望はありますか?」

「あー……宮城も悪くないんですけど、できれば日帰りできる距離が良いですね。ほら、あんまり離れると……」

「ああ、祭神関係ですか。んー……ここから日帰りで、なおかつ中堅異能者に適した異界……。うーん……」

「すみません、ちょっと難しいですかね……」

「いえ、さっきも言ったとおり依頼なら腐るほどあるんですが……【星霊神社】の【修業用異界】を上回る稼ぎがある奴となると結構絞られるんですよね……。灰谷さんにはお世話になってますから、あんまり地雷案件は渡したくないですし」

「事務員さん……」

 

 友情を感じる。ペルソナ系能力者だったら確実にコミュが発生していた。【月:無愛想な男事務員】みたいな感じで。

 

「まあ、また後で来てください。いい感じのを見繕っておきますから」

 

 コミュによって特別依頼が解放されるタイプの奴じゃん。ちょっとレアな報酬が貰えるやつ。

 

 その後ひとまず事務員さんにお礼を言って、その場は解散となった。

 それにしても、地方からの依頼がそこまで大量に来てるのか。ガイア連合は現在も順調に拡大を続けているらしい。そろそろ転生者以外の人間もガイア連合に入れるようになるか? 人手が全く足りてないしな……。

 

 

 

 

 

 

「むう……」

 

 家に帰り、お狐様にさっきあった事を報告したのち。

 お狐様は家計簿をつけながら苦い顔をしていた。話題は当然、【地方異界】についてである。

 

「地方依頼で人手が足りん、か……。そもそも雑魚を助ける必要はあるのか? 全員殺して技術を吸い上げたほうが早いじゃろう」

「物騒なこと言いますねぇ。いえいえ、そしたら地方を守る人間が足りなくなりますって」

「生き残った奴らを奴隷にすればよいじゃろ。どうせ今生き残ってるやつなんて雑魚ばかりなんじゃ。女は子供を産む機械にして、男は子供が生まれるまで、時間稼ぎで使い捨てじゃ」

 

 うーん、悪魔的倫理感だなぁ。弱肉強食の理に生きる【混沌-悪】の価値観だ。俺は【混沌-善】らしいから、お狐様の言うことも理解できるような出来ないようなって感じだ。

 

 微妙な顔をしていると、お狐様は苦い顔をしてこう続けた。

 

「分かっておる分かっておる、ほんの冗談じゃ。そのような事をしてお前が喜ぶはずも無い」

「……まあ、その方が効率が良いってのは分かってますけどね」

 

 【ガイア連合】は最適解を選ぶための組織じゃない。本質的には、転生者同士がゆるっと助け合うお助けサークル程度だ。あんまり無茶をしても人がついてこない。

 

 マジで俺たちが護国の為に生きるなら、ショタオジが洗脳とか魅了とか使って、俺たちを心無きキリングマシーンにするのが一番だもんな。そんな【メシア教】と同類の組織に誰が入るかって話だが。

 

「父上、お茶が入りましたよ。……出張の話ですか? 」

 

 台所から狐巫女がお盆を持って戻って来た。最近お狐様から台所仕事を教わっているらしい。

 お礼を言って湯呑みを受け取り、熱いお茶を飲んで一息つく。美味しい……前世で飲んだことがない高級茶の気配がする。

 

「ああ、そうそう。地方依頼がかなり溜まってるらしくてさ。事務員の人も困ってるらしくて」

「ふーん。縋るだけのゴミなんて無視していいと思いますけどねぇ。報酬はどうなんですか?」

「うん、相性が良い異界ならココより稼げるっぽいんだよね。今はマッカがいくらあっても足りないし、割とアリかなとは思ってる」

 

 俺の装備、シキガミの強化、お狐様の権能取得……。俺たちの本拠地である【稲荷神社】も終末に備えて強化しておきたいし、マッカの使い道は無限大なのだ。

 悩んでいると、お狐様が不思議そうにこう言った。

 

「何を悩む事がある。 お前の目的は【ガイア連合】で強くなる事じゃろう? 報酬も良い、ガイア連合に恩も売れるとくれば、もはや迷う事などないじゃろう。明日からは地方遠征で決定じゃ」

「うーん、たしかにその通りですね……」

 

 だけどなぁ……お狐様と一週間も会えないとなると……。依頼解決が早いか、俺の精神崩壊が早いかのチキンレースが始まるかもしれん。

 唸っていると、狐巫女が湯呑みを置いて声をかけてきた。

 

「ちなみに父上、悩んでいた理由は何だったのですか?」

「いやー……、全部拘束期間が長いものばかりなんですよね……最低でもお狐様と一週間以上離れる事になってしまって。それが辛いというか」

 

 お狐様はそれを聞くと、いたって真面目な顔をしてこう言った。

 

「何を悩む事がある。 お前はわらわの事が大好きなのじゃろう? わらわから離れる依頼など何故受ける必要がある。ガイア連合からの支援も届きにくい、地方組織と厄介な縁も出来るとくれば、もはや迷う事などないじゃろう。明日からも修行用異界で決定じゃ」

「うーん、たしかにその通りですね……」 

 

 視界の端で狐巫女が信じがたい物を見たような目で頭痛をこらえているのが見える。どうしたのだろうか。お狐様の意志は全てに優先される。みんな知ってるよね。

 

「はあ……父上、母上に引っ張られてあなたまでボケボケになってはいけませんよ。あなたはガイア連合の【幹部】を目指しているのでしょう? 実績を積む絶好の機会では無いですか」

「まあねぇ。でも俺が幹部になりたいのはお狐様のためだし、そのせいでお狐様を悲しませるのは本末転倒じゃない?」

 

 幹部になってお狐様を天照にも負けない神にする。それが現在の俺の目標である。しかしそのために彼女を蔑ろにする事はしたくない。彼女と仕事、どっちを取るの!? ってやつだ。人それぞれだとは思うが、俺は彼女派である。

 

「母上、 父上はもう話になりません。 母上がちゃんと手綱を握ってください」

「むう……だがのう……こいつがわらわの元を一週間も離れるとなると……。ほら、加護の更新とかもあるし……なんかわらわの第六感が縁起悪いって囁いてる気がするし……」

「夫婦そろって色ボケですね、本当に……!」

「ふふふ、これこれ。夫婦などと戯言を抜かすでない。こいつが調子に乗ってしまうじゃろう。ふふふ」

 

 照れるなぁ。いつもの事ながら、本当に狐巫女はいい子である。

 

「……はあ。何で生後一ヵ月の私が一番マトモなんでしょうか。……だったら、母上もついてきたら如何です? 畑仕事や呪符作成は、少し多めに分霊を作っておけば大丈夫でしょう。神社に縛られていた昔と違って、今はもう存在を確立しているんですから。もう自由に出歩けるでしょう?」

 

 狐巫女がため息をつきながらそう言う。あー……確かに? お狐様、もう随分霊格も上がったもんな。Lvも俺と同じくらいあるし。低級霊だった頃と違って、もう土地に縛られるレベルでは無くなってるのか。

 

 そうだ! そう言えばもう【星霊神社】の周りとか自由に散策してたわ! 俺がアホだった!

 でも超嬉しい!

 

「お狐様! 是非一緒に地方遠征行きましょう!! 東北とか、北海道とか火炎弱点の異界多いらしいので! 俺、お狐様と一緒に旅行に行きたいです!」

 

 お狐様と一緒に旅行に行きてぇ~~~~!! 旅館に泊まって浴衣姿のお狐様が見たい……! 温泉上がりに卓球とかしたい……! ちょっと濡れた髪の湯上り姿にドキッとしたい……!!

 

「父上、私は?」

「当然巫女も! 一緒に美味しいものいっぱい食べような~~~! 俺カニが大好物なんだけど、巫女はなんか好き嫌いある?」

「私に好き嫌いはありません。ですが、甘い物は好みです。一緒に甘味めぐりをしましょうね、父上」

「もちろん! 何でも買ってあげるからな!」

 

 可愛い~~~~。ずっと無表情だけど、甘い物を食べるとちょっと表情が柔らかくなるんだよな。めちゃくちゃ可愛くて甘やかしてあげたくなる。

 

「む。わらわを差し置いて外出の約束とは見過ごせんのう」

「もちろんお狐様も一緒に行きましょう! 俺、ちゃんとお狐様が気にいる店探しますから!お狐様はアンコと生クリームの組み合わせが最近好きですよね!」

「……当然のように好みを把握してるのですね」

「もちろん。愛する人なら当たり前の事だよな」

「ふふふ。本当にお前は、わらわの事が好きじゃのう」

「……ちなみに、私の好みは分かりますか?」

「? うん、もちろん。果物が乗った生菓子が好きだよね? それ食べる時は特別嬉しそうにしてるもん」

 

 その後も遠征するならどんなところが良いかを言い合う会話は続き、結局事務員さんとの会話に出ていた北海道の【雪窟大迷宮】へ向かう事になったのだった。

 

 報告した時、事務員さんが本当に嬉しそうな顔をしていた。ふっ、コミュレベルが上がっちまったな……。

 

 

 

 

 

 

 

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