【カオ転三次】地方神ガチ勢と化した俺たちの話   作:一般俺たち

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【スライムニキ】については、本家のスレッド【ざこそな!】も含めてご確認ください。
一部BL的表現が含まれます。



第十一話

 

 【覚醒】した人間は生物としての格が変わる。ただの人間ではなく、超人や魔人の領域へ足を一歩踏み入れるのだ。身体機能は全て一段階アップグレードされ、概念的な強度を持つようになる。只人が撃つ銃火器では傷つかなくなるのだ。

 そう、生物として格が変わるはずなのだ。耐寒性能や新陳代謝においてもそれは例外ではないはずであり、まさか北海道程度の気温で震えが止まらないなんてそんな馬鹿なこと……

 

「寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い」

「父上! 正面から敵が来てます、早く【アギラオ】で応戦を!」

「阿呆! もうこいつは使い物にならぬ! 撤退、撤退じゃー!」

 

 あまりの極寒に身動きが取れなくなった俺は、お狐様と狐巫女に抱え上げられるようにして撤退した。

 え、おかしくないか? いくらなんでも寒すぎるだろ。なにここ、気温はせいぜい-1℃程度のはずだったよな? 魂まで凍るかと思ったんだが。

 

 その後。異界へのアタックを一時休止した俺たちはそれぞれ自由行動(お狐様に何か用があるらしい)を取り、俺はここのまとめ役である【スライムニキ】へ相談に向かっていた。

 

「あー、このダンジョンは【雪害】や【大自然】への恐れから出来た物だから……ここの【寒気】はもう一種の状態異常になってるんだおね」

 

 強制的に【暗闇】を付与してくる【ダークゾーン】が修行用異界にあったのと同じだお、とガイア連合【幹部】であるスライムニキがお茶をすすりながら語る。いつ聞いても独特な語尾だぜ。

 

「マジですか……しまったな、【氷結耐性】装備ってあったかな……」

「大丈夫、ガイア連合もその辺は織り込み済みだお。【寒気】耐性装備の貸与は無料でやってるから、次からは普通に戦えるはずだお」

 

 ガイア連合の支援あったけぇ……!

 というか、俺が事前調査をしていなさ過ぎたな。今まで特に苦戦してこなかったから、そこら辺が雑になっていたかもしれない。高レベル帯になると嵌め殺しを多用してくる悪魔も出て来るらしいし、今のうちに意識を変えておかないとな。

 

「おっおっお、そんなに悩む事も無いお。異界の入り口付近で潜ってたから、負傷も損失も全くないんだお? なのにそこまで反省できるなら、灰谷くんは大丈夫だお。たぶんもう同じ失敗をすることは無いお」

 

 スライムニキ……! マジで聖人なんだよな、この人。人間力が段違いというか、『この人が言うなら』と信頼させる力があるというか……。Lv30を超えていないのに【幹部】になっているのも頷けるわ。

 ……というか、俺が異界に行こうとしたときに何か【干渉】を感じたような気がするんだよな*1。損失が全くなかったのって、ひょっとしてそれのお陰じゃないか? もしスライムニキの影響だとしたら、この人が【幸運の置物】とか【絶対に前線に出ないで欲しい人員】って言われてる理由が分かる気がするわ。

 

「マジで、マジで前線に出るのやめてくださいね……。貴方が死んだだけで、なんか何人か追加で死ぬ気がするので。あと色々上手く行かなくなりそうな気配が」

「えっ、でも皆が戦っているのに自分だけ後方にいるなんて」

「マジでやめてくださいね」

 

 あとはこの悪癖さえ何とかなれば100点満点なんですけどね! でもこの性格があってこその人徳な気がするしなぁ。人間はなかなか難しいものである。

 

 

 その後、スライムニキと色々雑談して過ごした。話してて楽しい人だし、接すれば接するほど人格者だという事が分かる。……嫉妬心という事に自覚はあるが、出来るだけお狐様に近づけたくないな。それくらい良い人である。

 

「えー!? スライムニキ彼女いないんですか!? 何で!? そんなにモテそうなのに!」

「灰谷くん、言葉の刃には気を付けることだおね……自分は別に顔も普通だし強くも無いし、モテる要素が無いお」

「いやいやいや、ご冗談を!」

 

 スライムニキ、何ならガイア連合内にもファンが居るレベルの人気だぞ。彼に命を救われたガイア連合員や現地民は数えきれないのだ。マメで気遣い上手だし、絶対彼女持ちだと思ってた。

 なんなら、普通にファンの中にガチ恋勢もいたぞ。後方彼女面してた。

 うーん、しまったな……。恋愛の話を振ったのは失敗だったか。いやでも、あんなにガイア連合内外から人気で、美女ぞろいのパーティーに男一人で入ってるんだぞ? 絶対恋愛上手だと勘違いしてしまったんだよ。

 

「じゃ、じゃああのPTメンバーとも恋仲ではない……?」

「もちろん、皆大切な仲間だお」

 

 そうか……じゃああのパーティーメンバーとは別に恋仲じゃないのか……。全員美女ぞろいだから、あの中の誰か、もしくは全員と付き合ってるものとばかり。

 

「すみません、失礼な事を言ってしまって……」

「まったくだお。()()()()P()T()()()()()()()、前世含めても女性との関わりなんてほとんど無いお」

「……………ん?」

 

 全員男? 今パーティーメンバー全員男って言った? 

 眼つきの鋭い少女と、制服を着た可愛らしい少女、そして銀髪の美女。あれ全員男? マジで? え、じゃあ全員女装してるって事? なんで?

 

 いやいやいや。いやいやいやいやいや。

 だってあの人たち、全員スライムニキに熱い視線を向けてて……手が触れただけで嬉しそうにしてて……正直、だからこそ『あっこのPTメンバー全員恋人なのね』って勘違いしてしまったところもあるというか……。

 特にあの眼つきの鋭い少女なんて、なんならもう何かのきっかけさえあれば押し倒しそうなくらい……。

 

「え、でも、……えっと、あー……そうですか……」

 

 あー……。じゃあ、あの人たち全員このスライムニキの事が好きで……でもスライムニキはまったく気づいてないとか、そういう感じか……?

 もう何も言えねぇ。俺の想像を超えてこの人がモテるという事がよく分かった。まさか男性女性関わらず惹きつけるとはね……。この人の前世、伝説のインキュバスとかではない?

 

「えーと……人間って難しいっすね……」

 

 ここで『いやあの人たち貴方の事好きっすよ』とか言っても碌な事にならないと直感で分かる。失礼だし、何よりこんな地雷原に突っ込んでいきたくねぇよ俺。

 

「……? まあ、そうだおね? 何の話だお?」

 

 ……鈍感系ハーレム主人公って、現実で見るとこんなに恐ろしいんだな……。俺はお狐様一筋で本当に良かった。

 スライムニキ……長所、【聖人】【折衝・後方支援の天才】。短所、【前線に出たがる】【鈍感】(New!)。彼のステータスがそんな感じに更新される様子を妄想してしまう。

 

「そう言う灰谷くんは……まあ聞くまでもないおね。地元の祭神と良い関係を築けてるみたいだお」

「へへへ、照れますねどうも。最近はお狐様の雰囲気も柔らかくなってきて、それが嬉しいんですよね」

「おっおっお、それは灰谷くんが信頼関係を築けている証拠だお」

「えー? 仲良くなれてるってことですか?」

「うーん、それもあるけど……元々神霊っていうのは凄く不安定で、人間の認識に左右されやすいんだおね。だから彼女が優しくなったと思ったなら、それは君が彼女を『優しい神さま』と信頼している影響もあるんだお」

 

 そう言ってスライムニキは柔らかく笑った。性格の良さが出てるな。

 

「【認知存在】ゆえのあやふやさって事ですか? うーん、でも俺がお狐様の性格を歪めてるって思うと……」

「いやいや、そういう訳じゃないお。本質が変わる訳じゃなく、灰谷くんに対して他人より優しくなる程度だお」

「あー、なるほど。じゃあ大丈夫ですかね……?」

「人間でも『この人相手には優しい』『この人には厳しい』とか、当たり前にあるお? 神霊は特にその傾向が強いだけだお」

 

 はー、なるほどなあ。流石【幹部】、持っている情報の量と説得力が段違いだ。

 

「特に灰谷くんの【稲荷神】は……あれ、【妲己】とかの因子も持ってるんだお? 正直、よくマトモな関係を築けてると思うお。【妲己】と言えば、伝承によっては【人喰い】や【拷問】の伝承もある悪女だお。 一歩間違えば灰谷くんが頭から喰われててもおかしく無かったお」

「ひえー、マジですか。流石に頭はなあ……」

 

 指くらいなら別に(後で生やすから)いいけど、頭はさすがに死ぬからなぁ……。まあ【人喰い】という行為が悪神としての側面を活性化させるかもしれないし、止めといたほうが良いか。もしそうなったらガイア連合も黙ってないだろうし。

 

「なんか【認知】とか【伝承】に関わる話って面白いですね。幹部だとやっぱそういうの詳しくなったりするんですか?」

「おっおっお、まあ【ペルソナ】使いはそういうのの専門家だからだお。【メメントス】担当の【承太郎ニキ】の話なんてもっと面白いお? 灰谷くんは幹部志望みたいだし、今度紹介するお」

「本当ですか! 是非お願いします!」

「いやいや、幹部志望の俺たちって結構貴重なんだお。これくらい全然……そう言えば、灰谷くんはペルソナ系の能力はどうなんだお?」

「それが全然ダメだったんですよねー。ちょっと自我が強すぎるというか、集合無意識への接続に才能が全くないらしくて」

「あー、それは残念だったお。【ハムネキ】が気に入りそうな性格だと思ったんだけど……」

「あはは、それ本人にも言われましたよ。なんであんな良い人なのに仲間が増えないんでしょうね?」

「絶対ダンジョンアタックが苛烈すぎるからだお……」

 

 

「…………いつまで話してるんですか」

 

 その後もスライムニキの意外な失敗談や、【ペルソナ】系能力者のスペックなどについて盛り上がっていると、背後から鋭い目つきの少女がジトッとした目でこちらを睨みつけてきた。

 

「もうそろそろ会議が始まりますよ。数少ない友人が貴重なのは分かりますけど、ちゃんと仕事はしてください」

「数少なくはないお!? 灰谷くん含めて【コミュ】発生してる人が何人もいるお!」

 

 あ、俺って【コミュ】発生してるんだ。アルカナなんだろう、【太陽】とかかな。

 

「はいはい、そういうのいいですから。どうせいくらコミュで強化してもクソザコのくせに」

「おっ、不知火! 言っちゃいけない事を言ったお!? この、この……!」

「あっ、ちょっと、頭ぐりぐりするの止めてくださいよ、人がいる前で……もう、どうせならもっと優しくしてください。………ん、それでいいんです」

 

「………………」

 

 ……やっぱり俺悪くなかったよな。こんなん誰でも恋人同士だと勘違いするって。あの不知火って人、マジで男なの? 頭撫でられてうっとりしてるけど? 

 

「どうせ今から地方組織の女たちがワンチャン狙ってくるんですから、しっかり偽装工作(マーキング)しておかないと……ほら、私の香水つけて……。匂い、気に入りました? な、なら普段使いしてくれても……」

 

 ……帰るか。

 やっぱり人前でイチャつくのは良くないよな。俺とお狐様に限ってそんな事は無いと思うけど、ちゃんと気をつけておかないと。

 

 

 

 

 

 その後。

 

「おおー、全然寒くない……体が思うように動く……! 【マハラギ】【アギラオ】っと」

「安心しました。……ふむ、やはり通常通り動けるならばこの異界は楽ですね。Lvが高い敵でも問題なく倒せます」

「やはり肉の身体というのは不便が多いのう。【ムド】【エイハ】……この調子じゃと、うっかりボスまで倒してしまいそうじゃな。浅層で雑魚だけ狩るとするか」

 

 【ガイア連合】製の耐性装備の威力はすさまじく、俺たちは順調に異界を攻略する事が出来たのだった。ほとんどの敵が火炎弱点だし、それ以外の敵にはお狐様の呪殺が刺さる。このダンジョンと俺たちは最高の相性であった。

 

「いやー、今回の依頼は大成功だったな。経験値も勿論だけど、なによりマッカの稼ぎが凄い! 修行用異界と比べて一日あたり2~3倍手に入ってるんじゃないか?」

 

 やっぱり地方依頼の稼ぎはかなり良いな……とは思うが、実際今回の大成功は【スライムニキ】が地方との折衝をしてくれた影響が大きいだろう。毎度毎度こんなに稼げると思ったら痛い目見そうだ。

 

「あと、地方で無双ばっかりしてると【悪魔の群れ】とか初見殺しへの対応力が無くなりそうだしな」

「結局【修行用異界】と【地方依頼】を周回するのが最適解でしょうね。地方は美味しいものがいっぱいで楽しいですし、私は好きですよ」

 

 確かに。前世でもあんまり旅行は出来なかったし、今世ではご当地グルメとか色々食べたいな。

 

「わらわは今後【京都】か【大阪】にいきたいのう……。【京都】で古い知り合いにマウントを取り尽くしたいし、あと大阪の『ゆにば』が気になるのじゃ」

「いいですねぇ。旅行を兼ねて、これからも月一回くらいやりましょうか」

 

 マッカが沢山稼げてお狐様も嬉しそうにしている。可愛い。

 

「そう言えば父上、幹部の【スライム】様に挨拶しなくていいのですか?」

「あー……まあ、伝言だけ残しておけば大丈夫でしょ。連絡先は交換してるし」

 

 あの地雷なのか地雷じゃないのか見極め辛い、真綿で首を絞められるような空間にはしばらく行きたくない。

 スライムニキに丁寧な文章で感謝のメールを送り、俺たちは北海道を後にしたのだった。

 

 なお後で知ったのだが、彼らは北海道の温泉旅館に泊まり、全員一緒に風呂に入っていたらしい。これって普通の事なのかと相談されたが、まあ良いんじゃないっすかねとだけ返答しておいた。早く彼らの責任を取って地雷を解除してくれ。あと前線に出るな。

 

 

 

 

*1
スキル:【運命の支配者】(無意識オートで、味方の行為判定を一日一度だけ変えられる)

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