【カオ転三次】地方神ガチ勢と化した俺たちの話   作:一般俺たち

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第十三話

 

 地方異界と【修行用異界】を往復する毎日を過ごしてしばらく経ったころ。

 俺は【カマドガミ】一族との面談のために、故郷の中学校を訪れていた。たまたま中学の卒業式があったのでちょうど良かった。

 

『卒業生の皆さん、ご起立ください。校歌斉唱です』

「「はい!」」

 

 陽の光が差し込む中、まあまあ親しかった級友たちが涙をうかべて校歌を歌っている。

 あー、この体育館も懐かしいわ。卒業式ってなんか問答無用で泣かせに来る雰囲気あるよな。

 

『火の神見守るこの大地〜♪ かまどの心のあたたかさ〜♪』

 

「……ちょっと母上、暴れないでください。【隠行】がバレます。せっかくの父上の晴れ舞台ですよ?」

「これが落ち着いていられるか! なんじゃあの歌、ほぼ全て【カマドガミ】を讃える歌詞ではないか! 狡いやり方で信仰を稼ぎよって……! 」

「大丈夫です、父上もそれを察してか口パクしてますから。 それより静かにしてください、父上の無邪気な笑顔は貴重なんですよ……」

 

 ……?

 ……お狐様たちの気配を一瞬感じたが、しかしどこにも見つけられない。気のせいだったか?

 視線を切り、級友たちの顔を横目で眺める。懐かしい顔ぶれだ。これでも、そこそこ友人は多い方だったのだ。【ガイア連合】と接触したあたりでガクッと減ってしまったが。

 

「灰谷さま……ゴホン、灰谷 蓮!」

「はい!」

 

 あぶな。あの先生、確かこっちの事情を知っている人だったか? 一瞬いつものノリで灰谷様って言おうとしてたな。周りも一瞬ざわッとしたけど、まあこれくらいなら言い間違いの範疇だ。

 前に出て、卒業証書を受け取る。うちの学校では担任の先生が卒業証書を渡してくれるのだ。

 ……近くで見て初めて気づいたけど、この人覚醒してるな。見た目も整ってるし、ひょっとしたらワンチャン狙ったハニトラ要因だったりしたのだろうか。だとしたら全く学校に行かなくてごめんなさい。

 

『卒業生、退場』

 

 感傷に浸ったりきょろきょろしている間に、卒業式は終わってしまった。全員一列になって体育館から出ていく。

 あー、楽しかった。面倒だったけど、やっぱり卒業式は出て良かったな。ノスタルジーに浸るのも時々なら乙なものだ。

 

 体育館から退場した後は、教室でしばらく待機だ。みんなワイワイ騒いでいる。

 級友たちもみんな元気そうだ。以前ほかのガイア連合員から、ひさびさに地元に戻ってきたら元同級生が悪魔のせいで全滅しててマジ鬱展開だったって話聞いたことあるんだよな。こまめに異界を掃除している甲斐があったのか、彼らにはそう言ったことがなさそうで何よりである。

 

「うぇーい! 灰谷、お前マジ久しぶりじゃん!」

「灰谷ー、なんでお前不登校なってんだよー」

「高校はどうすんの? 何か先生もフンワリしたこと言ってて妙だしさー」

 

「あー、まあ……就職? しようかなと思ってるかな。高校は、まあ行けたら行くって感じで……」

 

 友人たちがウェイウェイ絡んでくるのを適当に受け流す。普段は俺と同じで大人しい方なのに、やはり行事の特別感でテンションが上がっているのだろうか。

 

「あ、灰谷くんだー。めずらしー」

「なんで卒業式出て修学旅行来なかったんだよ〜、あーしなら普通逆だけどー」

「なんか、しばらく見ない間に雰囲気変わった?……ねえねえ、うちらこの後カラオケ行くんだけどさー、灰谷くんも行かない?」

「あ、それ思ったー。灰谷、なんかイケメンになった? 身体もゴツくなってるしー」

 

 卒業式用に髪を巻いたり、少し着飾ったりしている女子たちが話しかけてきた。普段あまり関わり合いにならなかったギャルや陽キャ女子たちだ。

 

 お誘いは有難いが、もしここで俺が彼女たちと遊びに行った場合、間違いなくお狐様は良い気がしないだろう。まず真っ先に彼女らが呪われ、その後で俺も折檻される。

 

「あー、どうもどうも。緋花さんも誘ってくれてありがとね。でもゴメン、彼女(嘘)が待ってるから(大嘘)。嫉妬深い性格でさ(本当)」

  

 覚醒してレベルが上がった分、魅力とかそういうステータスも上がっているのだろうか。

 口からでまかせを吐きつつ、アルバムに寄せ書きだの打ち上げだのでワイワイしている学校から抜け出す。たしかに卒業式は意外と楽しかったが、その為だけにわざわざ来たわけではない。あくまでも仕事のついでだ。

 

 【ガイア連合】の現地民受け入れ決定、その一大事について話し合いをしなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という訳で、もう大量の依頼と事務作業には我々も辟易していまして。昨今の拡大路線もあわさって、外部の人間を雇い入れるように方針を転換したわけです」

 

 初めての会合からちょくちょく利用していた料亭で、カマドガミの人たちと向き合って話す。向こうは一族代表の竈門さん、そして一族の中で重要なポジションにいるらしい者たちが何人か座っている。

 

「【カマドガミ】一族の方々はガイア連合設立初期からお付き合いのある方々ですし、非常にいい取引をさせていただいています。他の方々と違って依頼内容を偽ることもなく、大変理性的なその姿勢は上からも評判でして」

 

 あー、緊張する。県議員とか警察幹部とかがひしめくこの魔境で、なぜ中学生がプレゼンとかしなきゃいけないんだろうか。

 

「……つきましては今回の方針転換を機に、我々は【カマドガミ】様たちともっと親密な関係を築きたいと思いまして。こちらとの技術提携、人材交流、そしてガイアグループの支社、通称【ジュネス】の設立についてぜひご相談させていただければと……」

 

 詳しくはこちらの資料に、とカバンから分厚い冊子を取り出す。事務員さんとお狐様に協力してもらって仕上げた書類だ。技術の交換についてや、外部から人を雇うにあたっての雇用条件などが事細かに書いてある。

 

「願ってもない話じゃろう? 我々は寛大じゃ、頭を垂れる者にはそれなりの扱いをする。セコセコと貢ぎ物をした甲斐があったのう?」

 

 交渉についてくれたお狐様がとんでもない暴言を吐く。さすがお狐様、奔放かつ尊大である。

 セーラー服を身に纏う彼女は、彼らと同じ席に座りたくないのかずっと宙に浮いたままだ。あからさまな人外らしさに、他の人達も何も言えない様子だ。

 

「申しわけありません、私の仲間が失礼なことを……」

 

 謝るが、竈門さんは気にしていないとばかりに手を横に振る。

 

「彼女の仰るとおりです。ずっとこの展開を望んでおりました。貴方たちに出会え、一生の幸運を使い果たした思いです。このような【ガイア連合】からのお慈悲を頂き、感謝の言葉もございません」

 

 そう言って竈門さんは深々と頭を下げる。気を悪くするどころか、やっと望みが叶って嬉しくて仕方がないと言わんばかりだ。

 

「ふん、貴様はそう言うじゃろうな。雑魚は雑魚なりに上手くやったものじゃ。安心せい、この地方ではお前らが最初じゃ」

「なんと、まさかそこまで評価していただけるとは。いたらぬ知恵を振り絞った甲斐がありました」

「言っておくが、やりすぎるなよ。わらわたちは貴様らの諍いにまで責任を持たぬ。今後は更に励むように」

「ありがとうございます。その際はぜひ、お力添え頂ければと」

「くく、思い上がるな。貴様にやるのは名前だけじゃ」

 

 他の人たちが言葉を差し挟む隙もないまま、彼女たち二人で会話がポンポン進んでいく。なんだなんだ、何かよく分からんが展開が早いぞ。

 

「この人材交流についてですが、貴方様からの【サポート】は頂けるのでしょうか?」

「うーむ……まあ、何回かは【手引き】してやっても良いぞ。ああ、当然じゃが」

「自己責任ですね。分かっております」

 

 ああ、とうとう隠語まで使い出した。お狐様と竈門さんの頭が良いのはわかってたけども、二人とも話が早すぎる。

 

「それと、わらわの氏子が通うあの中学校。あそこの校歌は不快じゃったのう」

「すぐに作曲家に渡りをつけます。来月にはご満足いただけるかと。もちろん今後通われる高校でも」

「あの担任も。貴様の小賢しさは気に入っておるが、くれぐれ身分を弁えよ。次は殺すぞ」

「……言葉もございません」

「よい。さっきも言ったが【サポート】はしてやる。お前にとってもそちらの方がありがたいじゃろう?」

 

 ああ、よく知らん間に俺の母校の校歌が変わりそう。あと担任も何故か異動になりそう。権力の闇と、それを上回るお狐様の圧倒的パワーを感じるぜ。

 

「ああ、あとあれについてじゃが」

「【こちら】にされますか? それとも【よそ】に?」

「ふふ、そう怯えるな。わらわは義理堅い、よそにしてやる」

「っ……! 誠にありがとうございます。我ら【カマドガミ】一族、必ずこの御恩はお返しいたします」

「ククク……じゃが後悔せぬようにな? ガイアはともかく、我々は【人材交流】に積極的じゃぞ?」

 

 あー、お狐様が悪い表情してる。まあこういうのって悪魔の好物っぽいもんな。【狐系】の悪魔は特にこういう交渉事が大好きだって、以前【スライムニキ】から聞いたことがあるわ。

 

「よい、言いたいことは終わった。あとは貴様たちで好きに詰めろ。今後とも励むのであれば、人材の選定も任せてやる。……ああ、そうそう。ジュネスには【異界】の発生を抑制し、更に周囲へ悪魔が寄り付かなくする力がある。貴様の小賢しさはそれなりのものじゃ。後で土地の候補を【複数】あげてわらわたちに伝えるように」

「かしこまりました。周りのものとよく()()させていただきます」

 

 そう言うとお狐様は書類を投げ渡すと、「あとはお前が好きにせよ」と言い残して颯爽と外に出て行ってしまった。出来るOLの風格を感じる。

 

 そして俺と竈門さんと、よく理解できてなさそうな他の方々だけが部屋に残された。気まずっ。

 

「あー……何となく理解はできてるんですが、竈門さんには不満とかないですか? いつもお世話になってますし、お狐様に言い難い事とかあったらぜひ聞かせてください」

 

 推測になるが……今まで俺たちを支援してくれた見返りとして、ここら一帯の霊能組織に対して強く出れるようにしてあげたんだろう。【ガイア連合】のお墨付きがある有力組織として、地方の顔役になれるように。

 そしてガイア連合との繋がりが欲しい他組織は、これからどんどん【カマドガミ】に対して貢ぐようになるわけだ。

 【ジュネス】の誘致権とか、ガイア連合員との顔繋ぎとか、貢ぐ対価になるものは山ほどありそうだしな。いわば中間管理職の役職を得たわけだ。恨みも死ぬほど買いそうだが、頭がキレる竈門さんなら上手いことやるだろう。

 

 【サポート】とか【こちら】【よそ】とかはいまいち分からなかった。まだお狐様を完全理解する領域には程遠いな。もっと精進しないと。

 

「まさか、不満などあろうはずがございません。……ちなみにこれは一切関係のない雑談ですが。この地方には、他の霊能組織が大小合わせて沢山あるのですよ。彼らとは利権やダークサマナーの扱いなどで時に不幸な行き違いが何度も何度も何度も何度もありました。……しかしこれからは心を入れ替えて、ぜひ【仲良く】やっていきたいですね」

 

 ヒエッ、【秩序−悪】……。

 でも本人が関係ないって言ってるんだから関係ないんだろうなぁ。この先カマドガミさんと仲の悪い組織からの依頼が通りにくくなっても、それは不幸な偶然だよな。ガイア連合も忙しいわけだし。

 

 ガイア連合からの支援はカマドガミ一族を通して分配することになるだろうけど、それはここら辺の顔役が彼らだからってだけだし仕方ないよね。もちろん竈門さんは私情を挟まず、公正公平に分配するはずだからなんの問題もないんだ。

 

 ……………………。

 

 俺も帰るか。地方のドロドロした政治事情は、ちょっと俺には早かったかもしれない。

 

 竈門さんに「程々でお願いしますね?」と言ったらいい笑顔で「はい、もちろんですよ!」と返されたから、もう何も言うまい。お狐様も釘を刺してたし、まあそこまで悪いことにはならないだろう。

 

 料亭を出てしばらくすると、強化された聴力で彼らの雄叫びや復讐じゃという声、あと他組織への怨嗟の声が聞こえてきた。

 

「人間の恨みって怖いですねぇ」

「何を当然のことを。わらわはそういうのが専門じゃった時期もあるぞ」

 

 要請していたトラポートで家に帰り、不思議そうな顔をした狐巫女をなでなでして寝た。

 俺は品行方正な人間でいようと思った一日であった。

 

 





竈門さん「ジュネスの候補地に推薦して欲しい? でしたら、まあこれくらいは頂かないと困りますねぇ……。え? 選ばれる保証? そんなのある訳ないじゃないですか」
地方組織「(こんな足元を見られた交渉……!屈辱……っ! だが、霊地の質や交通の便ではこちらが有利 (なお五十歩百歩)……っ! 後で吠え面をかくのはお前だ……っ!蛇め……っ!)」
地方組織「ぐっ……! ぐっ……!」ポロポロ


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