【カオ転三次】地方神ガチ勢と化した俺たちの話   作:一般俺たち

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第十四話

 

 

 【ガイア連合】と言えば、今現在最も有力な退魔組織。クールで有能な異能者たちを多数抱えた、日本トップクラスに強力なグループ。それが一般的な霊能関係者たちの認識である。

 

 しかし、一般人がガイアと聞けば別のものを思い浮かべるであろう。

 何がしたいのか分からない闇鍋企業、数年で異様な成長を遂げた暗黒メガコーポ。就活生が必死になって就職を目指すも、選考基準が意味不明で何もできないという超ホワイト企業。

 

 今や日本トップクラスの複合企業、【ガイアグループス】である。

 

『エーブリディ ヤングライフ ジュ・ネ・ス♪』

『あなたの♪ テレビに♪ 時価ネットたなかぁ~~~~~♪ み、ん、な、の、欲の友♪』

 

 軽快な音楽と共に2頭身の中年男性が踊り狂っているTVを消して、大きく伸びをする。

 

「もう全国ネットでCMが出るようになったのか……。ニチアサのヒーロー番組にもガイアの名前が載るようになったし、ほんとに色々手を出してるんだな」

 

 地方のドンとして根を張っていた多数の霊能組織から金と人員がジャブジャブ注ぎ込まれた結果、ガイア連合はいまや全国に根を張る暗黒メガコーポへと成長した。そのカバー範囲たるやまさにゆりかごから墓場までを体現したもので、今の日本でガイアという文字を眼にせず生活する事は困難を極めるだろう。

 

「ショタオジは滅茶苦茶後悔してそうだけどな」

 

 なぜ地方の豪族たちがこぞって出資を求めてきたかと言えば、俺たちが建てるジュネスや支社は最高級の霊的防衛所となるからで。

 

 ジュネス支店や派出所に置く拠点防衛型シキガミの作成に忙殺されていた様子を思い返す限り、この状況はショタオジにとっては完全に想定外だろう。超越者特有のズレというべきか、まさかここまで地方組織が縋りついてくるとは思わなかっただろう。

 

 ショタオジには人の心が分からないのだ。弱者の気持ちになるですよ。

 

「……地方の人たちが、ちゃんと役に立ってくれれば良いんだけどな。仲間が増えるなら嬉しいけど、抱え込むお荷物が増えるだけってのは最悪だわ」

 

 現地民へのガイア連合員の対応は様々で、霊能が雑魚過ぎて何の役にも立たないという人もいれば、怪異を倒そうとするモチベーションの高さを見込んでいる人もいる。これが今後どちらに転ぶかは、俺たちが【終末】へ上手く対処できるかを大きく左右するだろう。

 

「…………」

 

 いずれ来る世界の破滅、【終末】。世界が霧に飲み込まれるのか、東京が死んで修羅が生まれるのか、南極に文明を滅ぼす闇が生まれるのか、死の化身が月から現れるのか、無貌の神が暗躍するのか、核が撃ち込まれるのかそれとも全く未知の原因が存在するのか。

 

 原因は分からないまま、しかし結果だけは俺たちの間で共有されている。いずれ既存の秩序は崩壊し、世界は一度完膚なきまでに滅び去ると。その終末に対抗する為の互助組織が【ガイア連合】だが、しかし一体どう対処すれば良いのか。

 

「やめやめ。こんなん考えても憂鬱になるだけだ。味方が増えたって楽観的に考えよう」

 

 まあいいか。ダルい事考えてもダルくなるだけだ。

 今はとにかくレベル上げの時間。女神転生の世界は強くなければ人権が無いのだ。修羅の世界である。

 

「実際のところ、今のままでも生き残るだけなら何とかなるしな」

 

 そう。たとえ今終末が訪れて、億分の一を引いてショタオジが死んで、なんやかんやあってガイア連合が完膚なきまでに滅んでも。

 今の俺の霊格であれば、お狐様にまつろう木っ端眷属として魔界へ逃げのびる程度の事は可能だ。肉の器を捨てて悪魔になる事になるが、ちゃんと自我を残したまま生きていける。

 だからまあ、そんなにシリアスになる必要はないのだ。何があっても死にはしない、そう考えると人生随分と気が楽である。

 

 まあ出来れば今後とも日本に住んでたいから、やっぱり終末対策は必須なんだけどな。

 異界に逃げるにしても、移住先のインフラを考えるとマッカがいくらあっても足りないし。あとインターネットとかゲームもちゃんと持ち込みたい。

 

「よし、今日も異界攻略頑張るか」

 

 脳筋的考えだが、この世界では何をするにしてもレベルが無いと話にならない。

 財力も権力も素晴らしい力だが、やはり末法の世で最後にものを言うのは腕力である。やはり暴力……暴力は全てを解決する……!

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺はモンスタートラップに引っ掛かってボコボコにされた。

 

「ぐえー死んだンゴw」

 

 ギリギリ死ななかったけどね。死んだら流石にこんな余裕こいていられない。俺もシキガミもレベルが上がってきて、もう蘇生費用の高騰が止まらないのだ。

 

 狐巫女の回復と素材の換金待ちで、ロビーでダラダラさせてもらうか。

 

「お、狐憑きじゃん。今日はもう上がりか?」

「騎士さん」

 

 ロビーに併設されているカフェでくつろいでいると、全身をプレートメイルに身を包んだ巨漢が話しかけてきた。筋骨隆々の変態、ケツとタッパがデカい女が鎧の中で蒸れている姿でしか興奮できない男。【騎士】ニキである。性癖を除けば快活な良い人だ。

 

「どうもー。ちょっと素材が溢れてきたんで、今は換金待ちの休憩中です」

 

 悪魔は情報生命体であり、死ねば体はMAGとなって霧散する。しかしその悪魔を象徴するような、強い想いが染みついた物は死後も残る事がある。いわゆるドロップアイテムという奴だ。武器やアイテムの素材になるため、採取依頼が恒常的に張り出されている。

 

「あー。格納鞄の容量にも限界あるしな。高位素材はちっさくても霊的に場所とるし」

「あるあるですよね。まあMPも消耗してたんで、ちょうど良かったですよ」

 

 チャクラクッキーをポリポリと齧りながらそう答える。疲れた脳に糖分が染みわたっていく感覚。このロビーは魔法陣のようなものが敷かれているため、回復アイテムの効果が高まるのもありがたいポイントだ。

 

「騎士さんは一人ですか? シキガミの人といつも一緒にいるイメージですけど」

「あー……いや、ちょっと色々あってな。今は一人で異界攻略してんだ」

 

 騎士ニキは気まずそうな表情をしている。しまったな、地雷を踏んだか?

 彼のシキガミは彼の性癖が詰め込まれた巨乳の女騎士で、彼自身が前衛タイプなのにも関わらずシキガミもガチガチの前衛だ。偏った編成だが、【貫通】や【物理プレロマ】を搭載してゴリ押すスタイルは中々強力でもある。

 

 騎士ニキはシキガミを溺愛していたはずだし、そしてそれ以上にシキガミの方も彼を溺愛していたはずだ。基本シキガミの愛情は深く、そして重くなりやすい。何か不和が起きるとは考えにくいが。

 

「なんかあったんですか? いや、無理に聞き出したいわけじゃないんですけど」

 

 隣の席に座るよう誘導して、ちょっと長話をする体勢に入る。

 あれほど仲の良かった二人が喧嘩するとは、中々想像しがたい。時々合同パーティーを組んで異界攻略へ挑むなど、お世話になっている人だ。彼のシキガミと仲が良いお狐様のためにもぜひ力になりたい。

 

「ああ、まあ大したことじゃ……いや……うーむ、やっぱりちょっと相談に乗ってくれるか。ちょっと困っててな、俺だけじゃどうにもならなそうなんだ」

 

 騎士ニキは空いている椅子に座り込むと、ガイアカツカレーとナポリタン、グラタンドリアを注文した。通っている大学では柔道部に入っているらしい彼は、かなりの大食漢である。

 

「どこから説明するかな……まず狐憑き、お前ってレベルいくつになった?」

「レベル? 28レベルですけど」

「俺は29だ。このレベル帯になると、まあ色々しんどい事が増えるだろ? 状態異常だったり敵の奇襲だったり、運が悪けりゃすぐ死ぬレベルの事がポンポン起きる」

「あー、30付近は死への恐怖を乗り越えられるかが壁って言いますよね。修羅勢への階段というか」

「俺は性癖でそういうのを克服したんだが、それはそれとして物理二人じゃ最近厳しくてな。いつも他の奴とパーティー組めるわけじゃないし、流石に一人後衛が欲しいなと思ったんだよ」

「おお、良いじゃないですか!」

 

 まあよく聞く話だ。俺たちも俺と狐巫女の二人だと限界があるので、最近お狐様がパーティーに加入したしな。俺(炎魔法、回復)、狐巫女(前衛、索敵)、お狐様(呪怨魔法、支援)とそれなりにバランスの取れたパーティーだ。次は属性魔法の種類を増やすか、もう一人タンク系の前衛が欲しい所である。

 

「一人回復か魔法アタッカーが加われば、グッと安定すると思いますよ。今は金策中ですか?」

「いやいや、話はここからなんだよ。戦力つったって、じゃあ何処から調達してくるのって話だ。お前みたいに悪魔と契約する気はしないし、アガシオンはレベルが低すぎる。そこをどうするかってなってさ」

「ほうほう、確かに。どう解決したんです?」

「結局、俺たちの成長速度についてこれるのはシキガミだけだろ? だから二体目のシキガミを作ろうって結論になったのよ。そしたらシキガミの機嫌がメチャクチャ悪くなって……」

「あー……」

 

 これもまたよくある問題、通称『シキガミ嫉妬問題』である。

 

 単純な話、2体目を作ろうとするとシキガミが嫉妬するのだ。

 ショタオジの秘術(意味不明なほど高性能)によって作られたシキガミは、俺たちに匹敵するほど強く、美しく、そして人間と変わらない程感情豊かだ。

 人権とかいう話になるとややこしいので割愛するが、きちんと一個の生命としての意識があるのである。

 

 そしてシキガミを作る転生者たちは、傾向の違いこそあれ大抵自分の性癖を詰め込んで作る。シキガミからすれば、敬愛する自分の主人・パートナーが、自分をさしおいて他の浮気相手に熱を上げているようなものである。当然いい気分になるはずもない。有形無形の違いこそあれど、何とかして妨害してくるという問題は以前から沢山発生していた。

 

 時々『主人にハーレムを築いて欲しい!』みたいな思想持ちもいるが、こういうのは少数派だ。逆ハーでウハウハいわせてる女性転生者も存在するんだけどな。

 

 ちなみにこの問題に付随する、『先に俺のシキガミ作ってくれよ問題』については割愛する。金を積めばどんな行列にも横いり出来る。資本主義の悪い側面である。

 

「『アガシオンで良いだろう』とか『北欧系悪魔ならコネで安く雇えるぞ』とか、『せめて無機物系シキガミにしろ』とか、色々言われてさ……。『俺がもっと強くなれば問題無い』とか言って一人で探索行くし。俺が諦めるべきなんかなぁ。でもやっぱり二体目のシキガミは欲しいし……」

「うーん。まあ将来性を考えたらシキガミが一番でしょうけど。武器型シキガミにするとかはどうなんです?」

「いや、装備との兼ね合いや自律性を考えればやはりヒト型が良い。俺の我欲じゃなくて、冷静な判断だ」

 

 おお、そこはマトモに考えてるのか。

 鋭い目つきで戦力計算について語る彼は、その鎧姿も相まって歴戦の傭兵を連想させた。騎士ニキ、ずっとこんな風に真面目にしてたらカッコいいのになぁ。

 

「……気を悪くしないで欲しいんですけど、理屈だけで考えたら正しいのは騎士ニキだと思いますよ。アガシオンを育てるってのは今後を見据えればワンチャンありだとも思いますけど」

 

 アガシオン、最初はLv5くらいなんだよな。俺たちと比べれば成長速度も遅いし、一端の戦力となるのは時間がかかるだろう。そういう意味ではレベル限界も高く知性もあるシキガミを増やすってのは良い手だ。

 

 理屈だけで考えれば、彼のシキガミは只々感情的な理由で戦力の増強を阻害していると言える。悪魔との契約にしたって、サマナーの素養が無い奴が悪魔を雇うなんて自殺行為だ。

 

「まあ、理屈だけで考えるのがどんだけ難しいかって話ですよね」

「それな」

 

 それそれ。地方組織とか、過去の怨敵ってだけでメシア教の手助けをずっと拒否してたんだぞ。そのせいで滅んだ家もいくつかあるらしい。赤の他人が見ればバカらしく思うだろうが、それでも自分の親や子供を殺した相手と笑顔で握手ってのは中々キツいだろう。

 

「まあなー、向こうの気持ちも分かる訳よ。俺だって彼女が他の男と話すと嫉妬しちゃうしな。それが面白くないって思うのは当然だわ」

「騎士ニキのシキガミ、独占欲強いタイプですしね」

 

 マジな話、主人の愛が他所に向かうというのはシキガミ達にとってかなり耐え難いものらしい。【美波ネキ】という人が俺たち転生者向けの悪魔娼館を運営してるんだが、シキガミ達には死ぬほど評判悪いからな。寝取られ漫画の竿役より恨まれてる(逆に言えば、転生者たちの間には根強いファンもいるのだが)。

 

「俺は」

 

 いつの間にか運ばれてきたビールを一気に飲み干し、騎士ニキは魂を絞り出すかのように言った。

 

「俺はさ、ハーレムを作りたいんだよ……」

 

 情けなっ。かつてこんな最低な告解をした人間がいるだろうか。

 しかし騎士ニキの表情は真剣そのもので、この世全ての罪を背負ったような苦々しい表情をしている。

 

「ケツとタッパが大きい巨乳美女ハーレムが欲しい、その一心で覚醒修行も異界探索も乗り越えてきたんだ。内臓が零れても剣を振るってきたのは、その先にムチムチの美女がいると思ってたからだ」

「は、はあ……」

「なのに、まさかこんな所で躓くなんてよ……」

 

 なんだこれ。言ってる事は最低なのに、なんか謎の風格がある。生き残ったのに故郷が滅んでいた傭兵みたいだ。言ってる事は普通に変態の戯言なのに。

 

「クソ……この料理、ちょっと塩がキツすぎるんじゃねえか……?」

「嘘だろ……今のご時世こんなベタなこと言う人いるんだ……」

 

 騎士ニキは号泣しながら運ばれてきた料理を頬張っている。やめろやめろ、なんで家族を失った歴戦の戦士みたいな雰囲気が出せるんだ。この人の顔が濃すぎるせいでなんかおかしな空気になってる。

 

「うう……ガサツな俺っ娘女騎士……陰気な引きこもり魔法使い……実は一番ドスケベ薄目シスター……こんなに、こんなに欲っしているのに……夢見ているのに……っ」

「…………」

 

 俺はこれをどんな顔して聞いていればいいんだろうか。

 助けを求めて周囲を見まわしてみると、いつの間にか他の人も『分かるよ……』みたいな慈愛顔してこっちを見てきている。駄目だ、ここに正気の人間はいない。

 

「……とりあえず、ここの支払いは俺が持ちますから。今日は潰れるまで酒飲んで飯食って暴飲暴食してください。シキガミともちゃんと話し合えばきっと大丈夫ですよ」

 

 なんならシキガミにもこの性癖大博覧会を聞かせてやってくれ。ワンチャン受け入れられるかもしれんから。

 

「うう……ありがとよ、狐憑き……お前はいいやつだなあ……」

「騎士ニキ、お前の気持ち俺はよく分かるぜ……」

「俺もシスター好きだからよ、俺たち仲間だな……」

 

 優しい顔をした周囲の転生者たちが騎士ニキを慰めだした。スタンド使いのように、変態は変態に引き寄せられるのだろうか。嫌な杜王町もあったものである。

 

「父上ー、素材の交換が終わりましたよ……? この方たちはどうしたんです?」

「…………行こう」

 

 不思議そうな顔をしてむさくるしい集団を眺める狐巫女を、俺は沈痛な顔をして黙って連れ出した。

 騎士ニキ……見た目だけなら渋い戦士なのに、なぜか三枚目感が抜けない男である。

 

 

 

 

 

 

 

 

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