【カオ転三次】地方神ガチ勢と化した俺たちの話   作:一般俺たち

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第十六話

 

 マズローの欲求五段階仮説、というものがある。

 世界でそこそこ知られているこの説によると、人間において最も高次な欲求は「自己実現欲求」という物らしい。「自分らしく生きたい、自分にしか出来ない事を成し遂げたい」という欲求で、成長欲求と呼ばれることもある。

 そしてマズロー氏は後年、この五段階説に加えてもう一段階、さらに高次の欲求があると説を付け加えている。それは『自己超越』の欲求だ。自分のエゴを超えて、社会や愛する人など、とにかく他者へ貢献したいという欲求。

 

 それはとりもなおさず、『愛』とシンプルに呼ぶことも出来るだろう。

 人を愛し、愛する人を幸せにすることは、結局まわりまわって自分自身を一番幸せにしてくれるのだ。

 

「父上、そういう本に意外と詳しいですよね。哲学とか社会学とか。意外ですけど」

「意外って2回も言うな。見た目からしてインテリだろ? 最近眼鏡もかけ始めたし」

「キャラに合ってないと思います」

「ちょっと」

「ああ、ごめんなさい。確かに、母上も『時々鋭い』と仰っていました。普段の様子からは中々納得できませんが、父上は案外頭が回るのですよね」

「褒めてはいるんだろうけど、すんなり飲み込みづらいな……」

 

 毎月恒例の地方遠征ということで、本日は某県にある自衛隊駐屯地へお邪魔している。

 自衛隊? と最初に依頼書を見たときは思ったが、そういえば最近ウチは自衛隊とも提携し始めたのだった。軍事力と結びつく宗教法人とかヤバすぎて笑える。

 

「〜〜〜〜と言うわけで、ずる賢い悪魔はだいたいこのように相手を騙してくる。魔術を使うまでもない、悪魔は口先三寸で人を殺せる。皆はくれぐれも野良の悪魔と交渉を試みないように」

 

 未知なるオカルトに触れ、今急速に神秘を取り込もうとしている自衛隊員たち。彼らの演習に付き合うのが今回の依頼内容だ。

 

「死んだ悪魔だけがいい悪魔だ! 繰り返すぞ、死んだ悪魔だけがいい悪魔!」

 

 中央に立ち、激を飛ばすのはゴトウ1等陸佐。高いカリスマと統率力を誇る好人物だ。

 

「そうじゃそうじゃー! 悪魔など皆殺しじゃー!」

 

 そして講師役として招かれ、今はニヤニヤしながら適当に叫んでいるのがお狐様だ。今日はタイトスカートにスーツ、さらに伊達眼鏡をかけた女教師スタイルだ。

 いつもと違うお狐様も最高にかわいいね……♡

 

「笑えますねぇ、誰一人母上が悪魔だと見破れていないんですから。彼らが見破れる程度に隠形のレベルを落としているのに、気構えが全然出来てないじゃないですか」

「まあまあ。誰だって初めから完璧にこなせる人なんていないよ」

 

 最初はみんな初心者だ、初心者煽りはマナーが悪いぞ。

 ちなみにこの後は、ガイア連合員(俺一人)V.S五島部隊(何百人)で摸擬戦の予定。なお、お狐様と狐巫女の隠形を見破れなかったペナルティーとして、彼らは戦闘中にバックアタックを食らう未来が確定している。

 メシア教とかが普通にやってくる手口(人質を助けようとしたら人間爆弾だったなど)なので、この経験を是非彼らの将来に役立てて欲しい。

 

(……今の、コウメ太夫のネタみたいだったな。『人質を助けようと~思ったら~~人間爆弾でした~~……チクショー!!(鏖殺)』……これ言ったらウケるだろうか……)

「……何考えてるかなんとなくわかるので言いますけど。父上、たぶんそういう所ですよ」

 

 

 

 

「うむ! 非常にいい経験をさせていただいた! 灰谷どのには改めて感謝を!」

「いえいえ、こちらこそ有難うございました」

 

 報酬はタップリもらってるしな。【俺たち】はこういう組織間政治に関わる依頼は避ける傾向にあるので、その分報酬が上乗せされているのだ。今回は【勝利の息吹】*1という超有能スキルのスキルカードが目玉だった。

 

「五島部隊、噂以上に精強で素晴らしい部隊でした。正直、かなり驚かされましたよ」

 

 一糸乱れぬ連携に、ゴトウ一佐を中心として練り上げられた戦術。そして何より銃器による制圧射撃にはかなり苦戦させられた。非覚醒者ならともかく、覚醒者数百人による一斉射撃はワンチャン死ぬレベルで痛かった。俺たち異能者は肉の器に縛られているので、銃で撃たれると痛いという単純な物理法則に逆らえないのだ。

 

「はっはっは! そう言ってもらえるとありがたい! 部下たちも励みになるだろう!」

 

 そう言ってゴトウさんは嬉しそうに笑う。うーん偉丈夫。豪快な快男児といった感じだ。

 

「しかし、君が連れてきたあの悪魔二体には手も足も出なかったがな!」

「ははは……」

 

 苦笑する。

 

 異能者(俺)相手だとそこそこ戦えていた彼ら五島部隊は、お狐様と狐巫女に対してはコテンパンにやられていた。背後から襲われたという事もあるだろうが、それ以上に相性によるものが大きいだろう。俺と違って悪魔であるお狐様には銃のような物質兵器が効きづらいし、シキガミである狐巫女に至っては【物理無効】だ。これでどうやって戦えばいいんだ状態である。

 

「やはり【属性弾】の普及は急務だな! 現状では【物理耐性】持ちの悪魔がどうにもならん! その他にも戦術の欠点や連携の不備など、我々としては得るものが大きい演習だった!」

「そう言っていただけると、こちらとしても嬉しい限りです」

 

 前向きな人だな。人間としての器のデカさを感じる。自分の部隊をあれだけ滅茶苦茶にされてこう言えるのはかなり凄い事だと思う。

 

「灰谷どのは未だ学生の身! その若さでこの練り上げられた霊能、驚嘆に値する! もし君が国防の一翼を担いたいと思うのであれば、是非私に連絡してくれ! ありとあらゆるコネを駆使する事を約束する!」

「ははは、まあ、もし機会があれば……」

 

 無いと思うけど。

 将来はお狐様の神社を更に大きく建て直して、そこの神主となる予定だ。俺の未来予想図はバラ色である。

 

 あと仮にも国家公務員が汚職宣言ってどうよ。

 

「父上ー、早く帰りますよー。今日はちょっと遠出した先に美味しいハンバーガー屋さんがあるみたいなので、早くいかないと行列になっちゃいます」

「のじゃのじゃ」

「母上も暇で仕方なくて『のじゃ』しか言わなくなっちゃいましたー! 早く行きましょうー!」

「のじゃのじゃ……の邪の邪邪、蛇の邪」

「なんかバグってません?」

 

 もう既に帰り支度を済ませた二人が遠くで手を振っている。お狐様はぐでーっとスーツケースに持たれかかって、ブツブツ呟いている。慣れないスーツと手加減で疲れたのだろう。

 

「了解ー。ではゴトウ一佐、失礼いたします。本日は誠にありがとうございました」

「うむ、こちらこそ! 何か困った事があればいつでも連絡してくれたまえ!」

 

 社会人らしくお互いの名刺を交換して、本日の依頼は終了。平均したらLv.1にも満たないはずなのに、数の暴力と銃器にかなり苦戦させられた。手数が多いというのはそれだけで偉大な事である。友好勢力が強いと嬉しいね。

 

「邪邪邪……」

「お狐様、呪詛が【ムド】手前まで行ってますよ。お待たせしてすみませんでした」

「のじゃ。もうわらわは疲れたのじゃ。雑魚の相手は面倒じゃのう」

「私もです。父上は肉の殻があるので苦戦してましたけど、正直殺さないように加減するのが大変でした」

「うーん、相性差って残酷だな……」

 

 強大な悪魔である二人には、いまいち数の暴力が効きづらかったらしい。ここら辺は良し悪しだな。

 

「銃ものう、あれ意味あるか? 豆粒がペチペチ当たってくるだけだったんじゃが。豆粒の方がまだ退魔の逸話が乗ってる分効果があるのじゃ」

「効くのもあるらしいですよ? ガイア連合製の弾丸とか、触っただけで低級霊がはじけ飛ぶレベルだとか」

「効き過ぎじゃろ。お前たちはオーパーツを作るのが本当に好きじゃのう……」

「父上、母上、そんな事はどうでも良いんです! 今はハンバーガーが優先です! 並んでたら【マリンカリン】を使ってもいいですか!?」

「駄目」

 

 

 

 そんなこんなで、地方遠征と異界攻略を繰り返して数か月。

 ある日突然、俺は神主に呼び出された。内容は以下の通り。

 

 今から一か月後、日本神が封印されている【異界】群の攻略が開始される。幹部候補生である【狐憑き】は、これに参加して、戦闘および解放後の交渉を担当すべし。なお、必ず【稲荷神】を同行させること。

 

 なお、この作戦の完遂を持って【狐憑き】灰谷 蓮を、【日本神話渉外幹部】として任ずる。

 

「と、いう訳さ。君にとっては飛躍の一戦だ。受けてくれるよね?」

「……ええ、もちろん。願ってもない事です」

 

 お狐様から聞かされていた。俺の立ち位置は日本神との交渉に最適なポジションだと。ずっと準備はしてきたが、まさかこんなに早くチャンスが来るとは思わなかった。

 

「任せてください。必ず、上手くやって見せますから」

 

 

 

 

 

*1
バトル勝利後にHP、SPが8%回復





★異能者<灰谷 蓮> 称号:『狐憑き』『幹部候補生』 Lv35

魔・速型  火・氷耐性 地無効 破魔無効 
スキル 【アギラオ】【マハラギオン】【メディア】【ディアラマ】【デカジャ】【狐の加護】

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