【カオ転三次】地方神ガチ勢と化した俺たちの話   作:一般俺たち

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第十七話

 

 ガイア連合本部、星霊神社の一室。

 能力者たちの最高峰が一堂に会するこの場では、ガイア連合の幹部を集めた会議が行われていた。

 

「日本神かー。ぶっちゃけどう思う? 今は良くても、将来的にパイを食い合う可能性がありありと見えるんだけど」

 

 ガイア連合員たちは、基本的にすこぶる仲が良い。同じ【転生者】という同胞意識が強く働いているためだ。この幹部会議もその例に漏れず、他所の霊能名家が聞けば悔し涙を流すほどに和気あいあいと進んでいる。

 

「それな。でもまあ、解放しない訳にはいかんでしょ。霊地活性化を抑えられるし、対メシアの戦力になってくれるし。将来を心配しすぎて今滅んだら意味ないじゃん?」

「まあねー。エジプト神話が盛大にやらかしたせいで、多神連合はほぼ壊滅状態。今も海外からどんどん難民が流れ込んでるし。結局、終末の原因ってメシア教だったのかな?」

「さあな。取り合えず、この先【俺たち】と【メシア教】は敵対するって分かってりゃあ俺は十分だぜ」

 

 幹部たちが和やかな雰囲気で雑談する。内容こそ将来の危機を感じさせるものであるが、彼ら彼女らは皆一流の異能者たちである。何度も死線を超えてきた彼らは、緊張と楽観を程よいバランスで保つすべを当然身につけている。

 

「……やる夫は、やる夫は何でこんな所にいるんだお」

「はいはい、今や押しも押されぬ幹部様なんだから。ドシっと構えといてよね」

 

 ……一人、他とは違う理由で緊張に支配されている人間もいるが。 

 

「話がズレてるよー。今は【狐憑き】くんを幹部に入れて良いかどうか相談する場でしょ?」

 

 パンパンと手を叩いて、参加者の一人が話の流れを元に戻す。

 【狐憑き】。本名、灰谷蓮。中学二年生でガイア連合に加入した彼は、戦闘力も意欲も共に問題ない、ガイア連合からすると将来有望な若手であった。今回、新たに追加される【幹部】の候補となっている人物でもある。

 

「私はさんせーい。【タルタロス】攻略には来てくれなかったけど、何回か他の依頼でいっしょしたことあるんだよね。普通にいい子だったよ?」

「やる夫も同意見だお。同行してる【稲荷神】も友好的だったし、真面目で才能もある人だお」

 

 年若い女学生と、穏やかな顔をした青年が賛成意見を述べる。

 灰谷蓮は加入当初から幹部への意欲を口にしており、現【幹部】たちは以前から注目していた存在であった。他の幹部たちも、何人か続いて賛同を示していく。

 

「うんうん、良かった良かった。……真面目な話、『日本神と既に繋がりがあって』『Lv.30を超えてて』『そこそこ真面目で』『なおかつ幹部になりたい人』ってなるともう彼くらいしかいなかったからねー。僕としても一安心だよ」

「最後の条件が一番難題なあたり、【俺たち】の業の深さを強く感じるお……」

 

 この会議を仕切る神主らしき少年が満足気にうなずき、青年が人間の止めどない怠惰さに嘆くポーズを取ってみせる。

 話が終わろうとしたとき、ここで一人の男が手を上げる。体重は優に100キロを超えるであろう偉丈夫だ。反社会系団体(ヤ○ザ)の組長にしか見えない彼は、しかしその眼には確かな思慮深さを宿している。

 

「……俺ぁ、ちっと気になる所があるがね」

「お、【霊視】ニキは反対派? たしか【狐憑き】くんとは知り合いだよね?」

 

 神主が面白そうに嘯く。ここで反対意見が出る事は織り込み済みだと言わんばかりの態度だ。

 

「ああ、一緒に飯にも行く仲だ。確かに、真面目な良い奴だろうよ。だがな、アイツにとって優先順位の一番上にいるのは稲荷神だぜ。()()()()()()()()()()()()

 

 偉丈夫の懸念は、彼に取り憑く悪魔についてだ(この世界では神も悪魔の一種として扱う)。

 【狐憑き】に憑く悪魔を、以前偉丈夫は見たことがあった。異能を宿す彼の眼の見立てによれば、あの悪魔は生粋の【混沌・悪】だ。自らの利益を何よりも優先し、他人を蹴落とす事に一切の躊躇を覚えない死の商人。そして【狐憑き】は、その悪魔に随分と心酔している様子だった。

 

「【狐憑き】本人に文句はねぇさ。だが奴を幹部にするってのは、つまり外様の神を幹部にするってのと同義だ。そこんところのリスクはどうなる? その辺がちっと不安でな……」

 

 【狐憑き】に不満は無い。彼のアライメントは【混沌・善】だ。独自の論理で動くが、決して人道を外れる事は無い。だが背後にいる悪魔、そして【狐憑き】がその悪魔と親密であるというのが問題なのだ。

 ガイア連合の【幹部】に与えられる権限は様々だ。アイテムやシェルターの販売権、異界の管理。ガイア連合からの支援も大きく増える。もし悪用しようとすれば、その可能性には限りが無い。彼の懸念は彼自身だけではなく、【転生者】以外に権限を与えるのは不安だとする者たちの全員の懸念でもあった。

 

「あー、確かになー……。あれは相当入れ込んでるよな。俺もアイツの惚気話聞いたことあるわ」

「えー、でも幹部にしようって言いだしたのってショタオジでしょ? そこら辺考えてないとは思えないけど?」

 

 でも俺たちもシキガミとガイア連合だったらシキガミちゃん選ばない? シキガミとガイアが対立する状況って何よ。外様うんぬん言い出したら恐山とか自衛隊とかどうなのさー。いや、だからこそこれ以上転生者以外に権力を握らせるのは駄目じゃねって話だろ? ショタオジが大丈夫っつってんなら大丈夫なんじゃね? いや、ショタオジの大丈夫は一番信用ならんだろ。

 

 喧々諤々と議論が交わされる中、白いスーツに身を包んだ偉丈夫は神主を静かに見据えていた。誰よりもガイア連合を想う彼が、軽率な人事を行うとは思えない。だからこそ、その真意を聞いておきたかった。

 ガイア連合の盟主である少年は(皆が真剣に考えてくれて嬉しいなあ)と思いながら、にっこり笑って懐から書類を取り出す。

 

「大丈夫大丈夫、心配いらないって。灰谷くんはそこら辺、きっちり筋を通してるさ」

 

 そう笑って取り出した分厚い書類は、細かな文言がびっしりと書かれた契約書らしき紙。しかし一流の霊能力者である彼らには、その紙に込められた芸術的なまでの術式が感じ取れた。

 

「ほら、こういうのも用意してるから。君たちが心配してるようなことは起きないと思うよ」

 

 そう言って、全員に見えるようにテーブルへ書類を置いてみせる。

 

「……なにこれ、契約書?」

「そうそう、シキガミ製契約書。しかも僕特製のね。色々複雑にしてるから、力押しは無理。灰谷くんが僕の10倍くらい強くならない限りは破れないんじゃない?」

「えーと、どれどれ……。うわ、これ内容酷すぎない? 奴隷契約って言われた方がまだ納得できるんだけど」

 

 その内容を見たペルソナ使いの少女が、驚いたように声を上げる。

 裏切りや権利の悪用をありとあらゆる文言で縛りあげたこの文書は、まさにお伽噺で悪魔が持ちかける契約のようだった。これを用意したのが人間というのがジョークポイントである。

 

「ははは、僕のネコマタにも同じ事言われた。それでも最初と比べれば優しめにした方だよ? もしもの時*1困らないように、後々変更できるようにしてるし」

 

 そう言ってにこやかに笑う神主に、周りは苦い表情を浮かべる。時々自己犠牲を厭わないのがこの神主の欠点である。

 

「なるほどな。狐憑きの奴がこれに同意したら幹部にするって事か?」

「えー、これサインする人いないでしょ。特にショタオジ相手に。特にショタオジ相手に」

 

 契約書の重すぎる中身に、女学生が苦々しい表情を浮かべる。彼女自身、幹部に任命される時にこれを持ちだされたら断っていたかもしれないと思ったほど重々しい。悪用といったら、そもそもこの契約書自体にいくらでも悪用の可能性があり得るだろう。

 

「何で2回言ったの? ……あと、そもそもこれはとっくの昔に契約済みだよ。ほら、ここに署名もあるでしょ」

 

 神主がパラパラと分厚い紙束をめくって、最後の紙の末尾を指し示す。そこには確かに『灰谷蓮』の文字が刻まれ、隣には血判も押されていた。

 

「え? うわ、ホントだ! なるほどねー、だからショタオジも信用してたんだ。普通こういうの、ショタオジが一番心配するじゃん? ちょっと不思議だったんだよねー」

 

 幹部の一人が納得してそう言うと、周りの何人かも頷いて同意を示す。なんだかんだ言って、【ガイア連合】を一番愛しているのは彼だ。だからこそ周りは彼を信頼し、ついていっているのだから。この契約書を用意していたからこそ、神主は【狐憑き】の幹部入りを発案したのだろう。

 

 しかし神主は、「面白いのはここからさ」と言わんばかりに笑顔を浮かべてこう言った。

 

「いや? 僕がそれだけで【幹部】を任せる訳ないじゃん。僕が彼を信頼したのはね、この契約書を持ってきたのが()()()だったからさ」

 

 ちなみに彼が最初に持ってきた内容がこれね? と笑って、先ほどよりも更に分厚い書類をテーブルに乗せる。

 

「うわ、何これ! 『甲が思考した内容は、日付変更時に全て乙へ書式として送信されるものとする』……ってこれ、普段何考えてるかまで覗かれるって事!?」

 

 中身を見た幹部たちは、みな一様に顔を顰めた。先程よりも更に悪辣に縛られた契約内容もさることながら、何よりも『今後全ての思考は術者に開示される』という内容がことさら嫌悪感を煽った。脳内という、究極のパーソナルスペースを侵される事への不快感。ペルソナという心の鎧を用いる一部の人間にとっては、余計におぞましく思えただろう。

 

「彼が幹部を目指しだして直ぐだから、大体ガイア連合に入って一ヵ月くらいだったかな? 彼がこれを持ってきてね。『幹部の道が険しい事は分かっている』『彼女()の紐付きである自分はなおさらだ』『だから、この誓約書で最低限の信用を得たい』『あとは自分の行動で示していく』って言われてさー。その後も真面目に仕事をこなしてくれたし。まあ、チョロ甘の僕が絆されるには十分な時間が経ったってわけさ」

 

 そう言って笑う神主に対し、周りは沈黙しか返すことが出来なかった。神主が言っていた『最初よりは優しい』の『最初』とは、狐憑き本人が作った契約書の事だったのだ。もう一度、今度は彼が契約する事となった書類へ目を通す。確かに最初よりは優しくなってるだろうが、それでもやはり悪辣は悪辣だ。どう考えても、こんな契約をするよりその悪魔と縁を切った方が早いし賢い。

 

「うわー、これを自分から……。やっぱ【狐憑き】*2って言われてるだけあるな……」

「……なるほどな。【狐憑き】……いや、灰谷の野郎。きっちり筋通してるじゃねぇか」

 

 しかし、彼はそうしなかったのだ。愚かさを踏み越える彼の覚悟を前にして、これ以上何か言う事も躊躇われた。白スーツの偉丈夫もソファに身を沈め、もう反対意見が無い事を態度で示す。

 

「じゃあ、【狐憑き】灰谷蓮くんの幹部入りに賛成の人は拍手ー!」

 

 神主が笑ってそう言うと、全員がどこか安心したように手を叩く。なんだかんだ言ってもガイア連合員は仲が良いのだ。手段はともかく、友人を無暗に疑わなくて済むのは喜ばしい事だった。手段はともかく。

 

「あと、最後の決め手は【稲荷神】の方も問題なさそうってやる夫さんが言ってたからかなー。やる夫さんの目利きなら間違いないでしょって事で」

「え!? や、やる夫はただ、今の【稲荷神】さんなら灰谷くんが嫌がる事はしないだろうと言っただけで……傍目に見ても、本当に彼の事を大事にしてるように見えたから……」

「そうビビんなって。アンタの眼力をみんな認めてるって話だ」

「そうそう、やる夫さんの目利きなら信頼できるよね!」

「(信頼が重すぎるお!!!!!!) 」

 

 その裏である一人の幹部が胃を痛めていたが、まあこれはいつもの事なので良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が【封印異界解放】の任務を受けた数日後。

 

「はい、こちら統括本部。ああ、ゴトウの【五島歩兵師団】なら明日到着する。物資の引き渡しもその時に……。ああ、ああ。任せたぞ」

「ああ!? てめえ、地方霊家がそんな舐めた事言ってんのに何で一発ぶん殴ってやらなかった! いい、その交渉は俺が引き継ぐ! 今回協力しなかった組織は今後どう扱われるか、懇切丁寧に説明してやるよ!」

「はい、こちらの書類にサインをお願いします……はい、では次はこちらの書類に。その次はこちらです。……中身? 貴方が知る必要がありますか?」

 

 え!? ヤ〇ザの事務所!?

 ……ああ違った、【霊視】ニキが率いる異界攻略統括本部だった。

 

 【霊視ニキ】とは、筋骨隆々の肉体に傷痕のついた顔が威圧感を放つ、規格外の巨漢である。ガイア連合最古参の【幹部】であり、もはや【大幹部】という言い方が相応しい。レベルも確かLv.70を超えていたはずだ。

 彼と、彼のシキガミ(前世のキャラをモデルにした【モードレッド】)と、【恐山】から派遣されてきた彼の婚約者の三人が今回の【封印異界攻略部隊】の総責任者である。

 

 ……見た目の威圧感が凄すぎて、完全に組の事務所にしか見えないんだけどね。若頭(霊視ニキ)、武闘派(モードレッド)、極妻(恐山のイタコ)みたいな感じで。

 

「おい、おい! 呆けてる場合ではないのじゃ! 処理すべき書類がこんなに残ってるのじゃぞ!」

「すみません、今やります!」

 

 あと、殺人的に忙しい。事務員や地方の有力者がひっきりなしに書類を運んでくるせいで、いくらやっても仕事が無くならない。

 ヤギ……そう、俺は一匹のヤギなのだ。運ばれてくるご飯を食べるだけのヤギ……。

 

「おい」

 

 無心になって作業していると、【霊視】ニキがこちらに声をかけてきた。

 何気ない一声にも、ただの人間とは比べ物にならない力が込められている。流石ガイア連合の【大幹部】だぜ……。

 

「滋賀の異界がそろそろ片付くらしい。今から【トラポート】持ちに運ばせるから、すぐ合流してボスまで倒してこい」

「了解です! あ、でもそうするとこの書類は……」

「いい、それくらいこっちで処理しとく。……あと、向こうの倉庫に俺たちが前使ってた装備が入ってる。もう使わねぇから、お前らで好きに持っていけ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 マジで? いくらお古の装備とはいえ、今俺たちが使ってる物より何段階も上等な物ばかりのはずだ。売るかオークションに出せばそれだけで纏まった金になるだろうに、まさかそのまま貰えるとは。

 

「ボスを倒せたら、すぐに日本神を解放して異界を安定化させる。いい機会だ、その後の交渉までやってみろ」

「交渉も!? ……りょ、了解です!」

 

 おいおい、めちゃくちゃ仕事任せてくれるじゃん。太っ腹だし仕事の割り振りは早いし、怖いのは見た目だけで理想の上司じゃんねこの人。

 

「灰谷。……おめぇ、幹部になりてぇならここ踏ん張りどころだぞ。気張れよ」

 

 そう言って、【霊視】ニキは軽く俺の胸を叩いてみせた。

 …………か、カッケェ~~~~~~~~~!! まさに『漢』って感じの人だ。何でここまで俺に期待してくれてるのかは正直よく分からんが、とにかくメチャクチャいい人だ!

 

「押忍!」

 

 思わず返事も任侠になっちゃうわ。いや、これ任侠か? 分からんけど。

 

「……おい。わらわ、普通に男相手でも嫉妬するタイプじゃからな」

「可愛い~~~~~~!! もちろんお狐様が一番ですよ! 世界で一番美しいです!」

「父上、私は?」

「もちろん世界で一番可愛い!!!!」

 

「さっさと行け」

「……花山様、私はいかがでしょうか……?」

「……知らん」

 

 

 

*1
ガイア連合が乗っ取られた場合や神主が不慮の死を迎えた場合

*2
狂人の意。

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