【カオ転三次】地方神ガチ勢と化した俺たちの話   作:一般俺たち

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連続更新の二話目です。
一話目をお読みになっていない方は、一つ前の話からお読みください。


第十九話

 

『まずのう、お前に商売というものを教えねばならん』

 

 昔を思い出している。ガイア連合の幹部入りが内示された後、お狐様と話した時の事である。

 

『例えば、このペン。何の変哲もないボールペンじゃが、お前だったら何円で買う?』

 

 そう言ってお狐様は今まで持っていたペンをゆらゆらと揺らす。

 

『……100円くらいですかね』

『妥当な値段じゃな。だがこれを「わらわが愛用しているペン」と言われたらどうじゃ?』

『100万円でも買います』

『うむ、相変わらずお前はわらわの事が大好きじゃのう。まあそれはよい。肝心なのは、このペン自体は何も変わっておらぬという事じゃ。なのにほんの少し売り方を変えただけで、このペンの価値は99万9900円上がった』

『……なるほど』

『商売人の間ではな、取引は「三方良し」が理想とよく言われておる。自分よし、相手よし、世間よしの三つじゃ。だがの、誰かが得をすれば誰かが損をするのがこの世界じゃ。どうすればそんな事が成り立つのか気にならんか?』

『確かに』

『それはの、わらわ達が新しい価値を発掘しているからじゃ。このペンと同じじゃ。わらわ達商人はな、見方を変える事でモノの価値を何倍にも高めることができる。新たに生まれた価値を分け合う事で、みなが得するようになる。わらわはそれが商売の意義じゃと思っておる』

 

 稲荷神は商売繁盛の神。優し気に微笑むお狐様の顔は慈愛に満ちていて、やっぱりこの人を好きになってよかったと俺は惚れ直したものだった。

 

『今回も同じよ。ただガイア連合と日本神の橋渡しをするだけでは商売にならん。日本神の新しい価値、ガイア連合の新しい価値をわらわ達で生み出すのじゃ』

『……できますかね、そんな事』

 

 俺の問いに、お狐様はフフンと楽しそうに笑ったのだった。過去回想終わり。

 

 

 

 

 

「ぷ、プロデュース?」

「そう、プロデュース! わらわがお主を大人気アイドルに仕立ててやるのじゃ!」

 

 そう言ってお狐様は不敵に笑う。正直何が何だか全然分からんが、取り合えずお狐様が言うなら黙ってみておこう。

 

「まずキクりんよ」

「き、キクりん!?」

「黙って従うのじゃ。キクりん、お主はかなり古き神じゃよな? 祭神としての振る舞い方や、氏子への接し方について一家言あるじゃろう」

「そ、それはもちろん! 我が1000年続く神社のノウハウが……」

「それな、全部捨てよ。ぜーんぶ無駄じゃ。ガイア連合員に対しては何の役にも立たん」

「なんてこと言うんですか!!」

 

 叫ぶキクリヒメ様をよそに、お狐様はどこからかホワイトボードを取り出してきて書き込み始める。なんだなんだ、なんか東〇の授業みたいになってきたな。

 

「わらわは3年間、ガイア連合の中で過ごしてきた。彼らの中には良い人間もおれば悪い人間もおった。様々な人間たちと触れ合ってきたつもりじゃ。それで分かった事があるのじゃが……」

 

 そう言ってお狐様はホワイトボードに、

 『ガイア連合員=才能だけは超一流の、趣味に生きる享楽的かつ刹那主義のろくでなしたち』

 と大きく書いた。

 ひ、酷すぎる。何が酷いって、あんまり否定できないのが余計に哀愁を誘う。

 

「これじゃ! はっきり言うとな、奴らを強大な霊能組織の一員として考えると絶対失敗するぞ! 奴らは筋金入りの個人主義で、協調性が無く、自らの力に対しての意識も低い! ゆるいインカレサークルと考えろ!」

 

 そう叫ぶお狐様に、思わず笑ってしまう。もうこれアンチじゃんね。

 キクリヒメ様は信じられないという表情をしていたが、俺が後ろで静かに頷くのを見て驚愕していた。

 

「そ、そんな……! 大和を救ってくれる救世主ではないのですか!?」

「……まあ、中には一人くらいおるのではないか? わらわは責任取らんけど。というかそもそも、ただの一般人に霊能名家ばりの義務を負わせるほうがどうかしてるのじゃ」

「じゃ、じゃあ私はどうすれば……!」

「そこじゃ! そこにこそ新たな価値を生む余地があるとわらわは判断した!」

 

 そう言うとお狐様は眼鏡(伊達メガネ)をくいっと上げ、これからが本番とばかりにホワイトボードをバンバンと叩いてみせる。

 

「わらわは下っ端なりに稲荷神として長く生きてきたゆえ、それぞれの神の性格についてよく知っておる。例えばキクりんよ。お主は堅物かつまじめな性格で、その面倒見の良さゆえに割と損しがちなタイプじゃ」

「ほ、本当によく見てますね……」

「さらに、この美女でありながらくたびれたOLのような外見。思わず守ってあげたくなる、放っておけば割と人生踏み外しそうな雰囲気。あと意外とポンコツやらかす事もある……」

「馬鹿にしてるんだったら帰りますけど」

「何を言っておる、完璧じゃ! お主はオタク受けする要素だけ煮詰めたような最高のキャラじゃ! バズが服を着て歩いておる!」

 

 草。

 

「こういう可愛げを前面に押し出していくのがプロデュースのコツじゃな。ガイア連合員は基本格式ばったやり取りとか上下関係が苦手じゃから、お主のようなややポン(ややポンコツの略)はまさにうってつけじゃ」

「ほ、褒めてるのか貶してるのか分かりません……!」

「ううむ、よくよく見ても完璧じゃなあ。太ももも太いし。今のトレンドは太ももが太い女とくたびれたOLじゃからの。ここからもうちょっと髪をぼさぼさにして目の隈を濃くしても良いし、スーツとかパリッとした服装にしてギャップを狙っても良いし……。性癖のイーブイみたいな女じゃなお主」

「お狐様、現代の文化に染まりすぎてません?」

 

 価値の創造ってそういう事で良いの? あれ結構良い話だと思ったのに、結局言ってる事はソシャゲのキャラ開発部じゃない?

 

「キクりん、異論があるなら今のうちに言っとくのじゃぞ。ポンコツ要素は一度使うとそれ以上を求められ続けるから辛いとかいう話か?」

「いや全然違うんですけど、おかしいな、貴女ってこんな愉快な性格してましたっけ?」

「氏子に出会ってからのわらわは大体こんな感じじゃな」

「男に染められてる……」

 

 …………。

 なるほど。かなり咀嚼しにくい話だったが、一度理解してしまえば確かにもっともな話だ。【俺たち】はノリで生きている生き物だし、一生を神に捧げるとかの心構えも出来ていない。だからガイア連合員の性癖と【日本神】の性格の両方に詳しいお狐様が神たちの親しみやすさとかをアピールする事で、両者の距離を縮めようという訳だ。

 

「まずはYoutubeから撮るぞ。初期投資ほぼ0でできるYoutubeは宣伝の手始めにうってつけじゃ。SNSアカウントも後で開設しておくからの。宣伝は氏子の知り合いの事務員を通してバッチリやっておくから任せておくとよい。インプレッション1000万は固いのじゃ」

「え、え、え? あの、私は何をすれば……?」

「よいよい、取り合えずこのカメラに向かって自己紹介をするのじゃ。編集はわらわがやっておいてやろう、初回無料じゃが次からは金を取るからな」

 

 …………それはそれとして、お狐様の知識はどこから来てるんだろうか。敏腕プロデューサー感を押し出したいのか、いつの間にか眼鏡がサングラスに変わっている。この衣装へのこだわりもどこから来るんだろう。

 

「お主の真面目さ、不憫さ、そしてたまに出るポンコツさ。それに加えてこの27歳都心OLのような見た目があればもう鬼に金棒よ。ゲーム実況も映えそうじゃのう。今はソロ配信が主になるじゃろうが、いずれ多くの日本神が解放されれば箱を作って箱推しを呼び込むのじゃ」

「楽しそうですねえ、お狐様。可愛いです」

「ふふふ、日本神話はカップリングと異常性癖の宝庫よ。イザナギイザナミのカップルチャンネルに、キクりんとコノハナサクヤの百合営業。ツクヨミの奴は地味な苦労人にすれば社会人ファンも取り込めそうじゃのう」

「【俺たち】が沢山スパチャしそうですねえ。そういう広い間口で人を集めて、熱心な人を信者に勧誘するって流れですか?」

「そうそう、その通り。お前も分かって来たのう。それに、これはガイア連合にとっても得のある話じゃぞ? MAGを取り込んで強化された日本神がガイア連合に協力するのは勿論、これが軌道に乗ればアイドルとなった彼らに会いたくて【覚醒】修行に打ち込む奴も出て来るじゃろう。趣味人の集まりにモチベーションを供給してやれるのじゃ」

 

 普通の配信者と違って、神へのスパチャは【MAG】が基本だ。そう考えれば、もっと推しにスパチャしたいという理由でより修行に励む俺たちも出てくるかもしれない。ここら辺は捕らぬ狸の皮算用って感じだけど。

 

「えっと、私は主に縁結びの神として知られていて、でも水の神とか山の神とかも言われてるから、私を信仰してくれたら良縁が捕まえやすくなるし、あと山登りに行ったら絶対川が見つかります、見つかるわ! すっごく美味しいお水です! ですわ!」

 

 キクリヒメ様は慣れないカメラに向かって、自分を信仰するメリットや加護の内容とかについて一生懸命話している。敬語がごちゃごちゃになってるな。明らかに慌てて目を回している様子は、確かに【俺たち】の間でもファンが増えそうだった。

 

「……これ、お狐様もやるんですか?」

「んー? そうじゃのう、箱運営が順調に行ったらわらわも出ようかのう、腹黒キャラとして人気を集めるのじゃ」

「…………」

 

 お狐様は可愛いし面白いので、きっと配信を始めたらかなりの人気になるだろう。沢山のファンが増えるだろうし、スパチャもガンガン稼げるだろう。大人気配信者になって、ファンに囲まれて……。

 …………それは、少し嫌だな。

 

「お狐様」

「!?!?!?!?」

 

 ニヤニヤほくそ笑んでいたお狐様を背後から抱きしめる。普段ならこんな事畏れ多くてできないが、今はそれ以上に怖い事があったので気にならなかった。

 

「な、なに、」

「お狐様は配信なんてしないでください。ずっと俺だけのお狐様でいて欲しいです」

「~~~~~~~~っ!! は、はい……」

 

 お狐様はか細い声で返事したかと思うと、そのまま黙り込んでしまった。

 ……大丈夫だろうか。いきなり抱きしめたのはやはりやりすぎだったか?

 

「お狐様? 」

「な、なんじゃ? 確かに、裏方であるわらわが表に出たら反感を買うかもしれんからのう! うむ! お前もプロデューサーとして中々分かって来たではないか! なあ! うむうむ! そうじゃそうじゃ! 炎上はな、あのー、やはり怖いからのう!」

「……お狐様、愛してますよ」

「きゅう」

 

 やばい、いたずら心が湧いて耳元で囁いたら動かなくなってしまった。だってワタワタしてるお狐様が可愛すぎたから……!

 

「えーと、加護! 加護はあの、前に氏子に渡したら重すぎて全身麻痺になっちゃって! でもちゃんと強い加護なので、大丈夫だと思います! たぶん!」

 

 俺とお狐様がわちゃわちゃやってる間も真面目に話続けていたキクリヒメ様の動画は、入念な宣伝の甲斐あってまあまあバズった。

 その後キクリヒメ様は配信者としてのロードを歩み出すのだがが、まあこれは別の話である。

 

 

 

 

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