【カオ転三次】地方神ガチ勢と化した俺たちの話   作:一般俺たち

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第二十一話

 

 「……掛けまくも畏き日ノ本の神々に伏してお頼み申す、ここは(かみ)在座(ます)鳥居に伊禮(いれ)ば、此身より先の日月の宮と安らげくす。この身は【稲荷神】の加護あれば、この地にます神の御力を賜り、我に一時の帳を与えたまへ……!」

 

 教えられた祝詞を、全力でMAGを込めて唱える。言葉を連ねるにつれ、周囲の空間が歪み、地面からは雷が迸りはじめ……、そして、結局何一つ形を成すことなく霧散した。

 

「……っああ! また失敗かー!」

「いやいや、前よりは随分空間干渉の精度が上がって来てるよ? 今もちょっとだけ異界が出来かけてたし」

 

 今、俺は【異界】の中にいる。目の前にはショタオジがニコニコしながら浮かんでおり、少し離れた所でお狐様と狐巫女が結界作製の練習をしている。

 

「あー、先が長い……」

「まあまあ。僕は嬉しいよ? 幹部で僕の修行を受けてくれる人は少ないからねぇ。時間はいじってるからまだまだ余裕があるし、どんどん練習していこう」

「はーい……」

 

 幹部になって改めて分かった事だが、このガイア連合という組織は思っていた数倍ショタオジに依存している。

 【シキガミ】に【デモニカ】、そして最近研究が活発になった【電脳異界】。ガイア連合の中軸ともいえるこれらの技術は、全てショタオジが造り出した物だ。【俺たち】内部の技術者たちによって改良・ブラッシュアップされているものの、根幹技術を握っているのは彼ただ一人。

 これじゃマズいよねって事で、俺は今【結界術】や【個人異界作製技能】とか、直接戦闘には関わらない分野の勉強をしているのだ。【幹部】特権の中には月に一回(変動アリ)『ショタオジの個人指導コース(現実世界で120分)*1』を受ける権利があったので、俺とお狐様、狐巫女の三人で参加している。……今のところ、俺だけ全然実を結んでないけど。 

 

「ちくしょう、とにかく敵を焼けば良かった頃が懐かしいぜ……」

「まったく情けないのう。ほれほれ、この程度の事なぞお前なら出来て当然じゃろう」

 

 そう言ってお狐様が器用にも結界で編んだ折り鶴を飛ばして見せる。すご。結界師で見たやつじゃん。

 

「父上、そう落ち込まないでください。確かに技術なら母上のほうが上ですが、純粋な異能出力なら父上が上ですから」

「そうそう。そもそも、幼少期からの積み重ね抜きでいきなり覚醒した【俺たち】は基礎がおろそかになりやすいから。【結界術】だけじゃなく、色々基礎を学んでいくと良いと思うよ僕は」

「了解です……」

 

 俺が覚醒していきなり【アギ】を使えたように、転生者たちは魂に基づいた異能というのをそれぞれ持っている。生まれつき得意不得意がはっきりしているのだ。

 だがそういう風に生まれついた異能をブッパしているよりも、少し遠回りをしてでもきちんと基礎を固めた方が結果的には強くなる……らしい。そうショタオジが言っていた。「何百年生きる想定の話をしてるんですか?」とか「その修行ってショタオジ(バグ)基準の話だったりしません?」とか、色々言いたい事はある。 あるが、俺たちガイア連合は皆ショタオジの仲間なのだ。ショタオジの言う事は信じておかなければ。

 

「あ、今了解って言ったね? じゃあ今から僕のスペシャル修行を受けてもらおうか。大丈夫大丈夫、きっと最後には基礎も身について、【結界術】も【異界作製】も習得できるはずだから。まずは【神道系】の術式との親和性を高めるために色んな【臨死体験】から始めようか。大丈夫大丈夫、最初は生きたまま焼かれるとかそういう軽いので行くから」

「は?」

「さっき「基礎を学ぶと良い」って言ったら「了解」って返したよね? これから海千山千の日本神たちを相手にしていくんだから、そういう軽はずみな発言は慎まなきゃ。今回はそれを学べて、更にスペシャルな拷問……じゃなくて修行も受けられる! 僕もサービスがいいねえ。色々高価な術具も使うけど、費用は【幹部】就任のお祝いだから気にしないでいいよ!」

「は?」

 

 ……俺、ショタオジに何か恨まれるような事をしてしまったんだろうな。

 そうじゃなきゃこんな仕打ち受ける理由がないもん。いや、むしろそうであってほしい。これが純粋な善意からの物だったらもうどうすれば良いか分からない。さんざん大丈夫大丈夫言いやがってよ、パワプロの博士じゃねぇんだぞ。

 カチャカチャと何か悍ましい器具を笑顔で準備するショタオジを、今から屠殺される家畜のような気持ちで眺める。

 

「……あの、その鉤付きの金属棒は何に使うんです?」

「これ? これはね、君の頭蓋から突っ込んで内臓をグチャグチャにするのに使うんだよ。これ使うとみんな体がビクビク痙攣するから面白いよね」

 

 ほら、もう言ってることが猟奇殺人鬼と変わんないもん。

 

「あ、そこの悪魔はどうする? これは術への親和性自体を高める修行だから、君がやっても効果はあると思うけど」

 

 いくら拭っても消えない血の匂いがついてそうな拷問器具を取り出しながら、ショタオジがお狐様に向きなおる。……前から思ってたけど、ショタオジってけっこうな悪魔嫌いだよな。お狐様の事を徹頭徹尾「悪魔」としか呼ばない。個体名を認識しない。【俺たち】には優しい分、時々そのギャップに戸惑ってしまう。神とか天使とか関係なく、そもそも人外の存在が嫌いって感じだ。過去に何かあったのか? 出所不明の技術といい、謎が多い男である。

 

「き、狐巫女には聞かないのかのう?」

「まあ、そこの【シキガミ】は僕が作った人造悪魔だからね。この修行やっても特に意味はないかな。【スキルカード】で何とかなるってのもあるし」

 

 ショタオジの後ろで必死に首を振る。今から起こるのは悪魔による人道に背いた徹底的凌辱だ。そんな外道の行いにお狐様を巻き込むなどもっての外である。

 しかしお狐様はしばらく苦しそうな表情をした後、意を決したように

 

「……う、氏子の苦難を見て見ぬふりするわらわでは無い! わらわもその修行を受けるぞ!」

 

 と言った。お、お狐様……!

 

「うん、りょうかーい。じゃあまずはこの毒を飲んでー、はいここに座ってー。今から火をつけるから、とにかく目を閉じて自分の身体の内側に意識を向けてねー。極限状態で内的宇宙を感じる練習だから、【ディア】系の呪文は使っちゃだめだよ? それは後で過剰再生による崩壊のレッスンでたっぷりやるから」

「わらわ早まったかのう」

「お狐様、俺は最期まで一緒ですからね……!」

「私、今一番自分がシキガミの身体な事に感謝してるかもしれません」

 

 ……結局、【アギ】や【ディア】の威力は上がったし、【結界術】や【異界作製】の技術も身に付いた。なんならおまけで【契約】や【召喚】などの技能も身に付いた。

 ショタオジってほんとに優しいよな。

 

 

 

 

 

 

 

「わらわ達も自分の土地が欲しいのう」

 

 地獄の修行を終えてから数日たち、今日は休日だ。

 いつも通り山梨支部の家でくつろいでいると、お狐様がソファに寝ころんだままそう言った。

 

「土地ですか?」

「うむ。なんかそろそろ良いかもなーと思っての。わらわ達()ってほら、土地もってないと舐められるところあるし」

「マイホーム買ってやっと一人前みたいなの、神様の間でもあるんですね」

 

 まああるか。昭和の日本より更に価値観が古風なのが日本神だし。

 

「っていうか土地って、お狐様の神社があるじゃないですか。あれじゃ駄目なんですか?」

「いや、あそこあそこ。あそこで良いんじゃけど、ぶっちゃけ今あの神社ってほとんど使ってないじゃろ? わらわ、もうこっちが本霊になっちゃっておるし。向こうにいるの分身だけじゃし」

 

 確かに。ガイア連合に入ってから数年間経ったが、中学の卒業式以来まったく故郷を訪れていない。せっかく入った高校も、一度も登校しないまま二年生になってしまった。これで内申書は満点になってるんだから詐欺だよな。

 

「まあ……正直、この家が優秀過ぎたってのはありますよね。ガイア連合製だからちょっと休んだだけで全回復するし、山梨支部内にあるから色々近くて便利だし……」

「そうそう。あと、今までは何だかんだ【ガイア連合】内での地位を確立するのに忙しかったってのもあるしな。じゃが、我らはその甲斐あってとうとう【幹部】まで登りつめる事ができた。そろそろわらわ達、次のステージに行っていいんじゃないかの?」

 

 ゲームで言うと新機能解放じゃ、と言ってお狐様がニヤリと笑う。お狐様、最近加速度的に俗になってるなあ。人間の生活に慣れてくれたみたいですごく嬉しい。

 

「そう、言うなれば【拠点】機能解放じゃ! どうせそろそろ終末が近いんじゃ、今のうちにちゃんとした拠点を作っておけば色々儲けられるぞ」

「おおー。確かに最近、ガイア連合の中でもシェルターがどうとか聞きますね」

「じゃろ? せっかくわらわ達は幹部特権で色々支援が受けやすい立場にいるのじゃ。ガイア連合員の為にひと肌脱いでやろうではないか。ノブレスオブリージュじゃ」

「あー……。まあ、それは良いと思うんですけど……」

 

 曖昧な返事を返して、もう一度周囲を見まわす。

 パソコンを通して日本神への演技指導を行うお狐様、呪符の作成に取り組むお狐様、書類を処理しているお狐様。台所ではお狐様が昼食の準備をし、外ではお狐様が畑に水を撒いている。遥か遠くでは、お狐様が【禁足地】*2で悪魔を焼いている。

 

「ぶっちゃけ、そんな余裕あるんですか? 今でさえこんなに分身使ってるのに、これ以上仕事抱え込んだらパンクしません?」

 

 呪符や霊能素材などのアイテム作製、日本神への対応、異界管理、そして家事。

 今抱え込んでいる多数の仕事に加え、お狐様は俺の異界探索にも同行してくれている。最近【マハムドオン】を覚えたお狐様は、ウチのパーティーの頼もしい後衛アタッカーである。交渉技能や拠点作製などの直接戦闘にスキルも多数取っているため、もはや俺たちパーティーには無くてはならない存在なのだ。

 

「元々『霊格の高さは七難隠すのじゃ』って言って異界攻略に同行してくれるだけでも有難いのに……。これに加えてシェルター運営とか、お狐様のお身体が心配です」

「なんじゃお前、心配性じゃのう。この分身どもはわらわの意識を入れてない、いわば高度なAIみたいなもんじゃから何も疲れんぞ?」

「うーん、そう言われましても……」

 

 すぐ近くに、ショタオジという過労死の見本みたいな人がいるからな。

 お狐様はこれらの仕事を楽しんでやっているのだが、ショタオジを見てると普通に心配になる。本当ならお狐様には、ただ神社の奥で信者(俺)に貢がれるままの生活をして頂きたいのである。生活の全てをお世話したい。

 

「まったく、過保護な氏子を持つと苦労するのう……」

「母上、顔が緩んでますよ。心配されて嬉しいのが丸わかりです」

「【アギ】。……ともかく、本当に心配いらぬ。わらわも霊格が上がって、出せる分身の数も上がって来たからの。むしろ、それがあるからこその新事業なのじゃ。このままだと分身の方が余りそうじゃからの。新しい仕事が欲しいのじゃ」

「なんか凄い本末転倒な気がしますけど、お狐様がそう言うなら……」

 

 リソースが余ってるのが勿体ない的な話か? 節約家のお狐様らしいというか、なんとも商人的な考えである。

 

「そうか! んっふふふ、楽しみじゃなあ。わらわの城、わらわの神殿じゃ♡」

「あっ、結構楽しみにしてたんですね」

「これはもう神の本能みたいなものじゃのう。自分の神社はゴテゴテに飾りたくなるのじゃ」

「可愛いですお狐様。本殿ももっと大きくしましょうね」

 

 ガイア連合には宮大工系のスキルツリーを伸ばしてる人もいるから、マッカを払えば豪勢な神社に出来るだろう。元々の神社は残して、その周囲を囲むように新しく建ててもいいな。

 

「……となると、久しぶりの里帰りですか? 父上と母上の故郷に行くの、楽しみですね」

「いえーい。まあ親族とか一人もいないから特に感慨も無いけど」

「急に闇を噴き出すのはやめるのじゃ」

 

 ということで、山梨支部の家は貸家に出して、かなり久しぶりの里帰りとなった。

 ……ここにポータル引いてるから、一瞬で行き来できるんだけどね。今後も【修行用異界】の攻略は続けていきたいものである。

 

 

 

*1
なお時間を加速できる電脳異界の存在

*2
かつて【カマドガミ】一族が管理していた異界

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