【カオ転三次】地方神ガチ勢と化した俺たちの話   作:一般俺たち

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第三話

 

 「掛けまくも畏き【カマドガミ】様に、祓へ給ひ清め給へと白すことを聞こし召せと~~~~」

 

 地獄にいる。

 祭壇では僅かばかりの霊能を持つ男が必死に祝詞を唱え、一族全員が必死に祈りを捧げている。一族の長であるはずの私はふと何もかもに嫌気がさし、中庭へ続く廊下を歩いていた。

 

 メシア教という宗教勢力が存在する。

 アメリカを本拠地とし唯一神【YHVH】を崇めるその勢力は、戦後の混乱に乗じて日本の霊能組織をことごとく蹂躙しつくした。祭神は封じられ、霊能の才があった者は皆殺しにされた。残された我々はかろうじて焚書をまぬがれた書物から知識を得て、屑切れほどの霊能を寄り集めて必死に生き延びた。

 最悪の異界【禁足地】。【カマドガミ】様が鎮めてくださっていたその異界をどうにかしなくては、この地方全てが亡者の群れに飲み込まれていると理解していた故に。

 

 私は最善を尽くした、と周りは言ってくれる。離散した一族が再び集まり、曲がりなりにもこの地が崩壊していないのはお前の手腕によるものだと。

 薄汚い手段を使って金を手に入れた。マスコミを用いて異変を揉み消した。人面獣心のダークサマナーに媚びへつらい、異界から這い出た【ガキ】を何とか送還した。

 

 僅かでも霊能を持つ者はたとえ何人死のうが異界へ行かせた。どうにもならない異変があれば赤子であろうと人柱に捧げた。そんな私を周囲は鉄の心の持ち主だと称賛してくれる。

 私もそう思う。他に手段は無かった。誰かが手を汚す必要があって、それを愛する一族にはさせたくなかった。必死にこの地を維持して来たのだと、いずれ落ちる地獄でも誇って言えるだろう。

 

 だが、少々疲れた。

 異界から這い出る亡者たちは段々とその数を増やしている。我々は最後の一人になるまで人柱を捧げるだろうが、たかが未覚醒者数十人を捧げた所でどうにもならない。いずれ亡者どもは溢れてこの地を飲み込むだろう。何年先になるかは分からぬが、それが我らの結末だ。そう思うと最早何もかもどうでも良くなる。

 

 

 

 風向きが変わったのは、ほんの数か月前だ。

 【ガキ】が出てこない。【モウリョウ】も【タタリモッケ】も出ない。地獄の釜のごとく化け物を吐き出していた異界【禁足地】は、いっそ不気味なほどに沈黙していた。

 【メシアン】どもが何か仕掛けてきたのではない。奴らの醜悪なほど【Law】に偏ったMAGの気配はしない。ならば祭神様が復活されたかと思ったが、こちらも違う。

 何が起きているのか分からないまま、今度はこの地から生まれる悪霊どもまで出なくなった。悪魔の形すら取れない低級霊、しかし我々を祟り殺すには十分な彼らが完全に姿を消した。

 

 何処かで【霊地】が復活したのだと誰かが言った。どこかの霊脈に御尊き【神】がお出でになり、その影響でこの地方一帯のMAGが鎮まっているのだと。しかし我々にそれを探すノウハウがあるはずも無く、途方に暮れていたところに【イナリノカミ】の氏子を名乗る男から接触があった。

 

 彼の話はまるで出来の悪い三文小説を聞いている様だった。【ガキ】とはそのように簡単に倒せる存在ではない。捧げ物を用意して何か月も祈祷して、どうにかして異界に帰ってもらうものだ。たかが数秒で焼き殺せるものなら、我らは何も苦労しなかった。

 しかしよく観察すればわかる、その身に秘めた桁外れの力。まだ中学生の身でありながら炎を操る異能を持ち、【ノギツネ】を【イナリノカミ】まで押し上げる強大な【MAG】を生み出す常識外の霊能。彼が我々の一族に生まれてくれれば、せめて【イナリノカミ】の氏子となる前に接触する事が出来れば。思わずそう夢想してしまう。

 

 「我々【カマドガミ】を崇める一族は、【イナリノカミ】様と友好的な関係を結びたいと思っております」

 

 必死に考える。突如現れた【イナリノカミ】とその氏子に対し、どう振舞うのが正解か? 敵対など考える余地も無い、だが服従する事も避けたい。それは神々の上下関係を我々が勝手に決める事に等しいからだ。【カマドガミ】様を崇める者として、そのような不敬な真似は出来ない。敵対も服従も最後の手段だ。

 

 互いに利益のある、上下の無い友好関係。ここまで持ち込めれば最善と言えるだろう。

 

 「まずは我らに代わり【禁足地】を鎮めていただいたお礼として、こちらをお受け取り下さい」

 

 取り合えず500万。数か月もの間【ガキ】どもを滅してくれていたとしたらこの数倍でも足りないが、残念ながら今はこれしか持ち合わせがない。

 

 「こちらの亀山は教育長を勤めておりますので、中学生である灰谷さまに様々な便宜を図る事が出来るかと。進学や就職につきましても、県内であればどんなご要望にもお応えできます」

 

 何をしても内申書は絶賛の嵐になるし、県内であれば好きな高校や大学に進学できる。このレベルの異能者が地方に留まってくれるならば当然の事だ。

 

 「またこちらのものは香山と言いまして、灰谷さまのお気に召すかと連れてきたのですが……申し訳ありません、まだ年若い灰谷さまに対して配慮が欠けておりました。もし()()()があればこちらとしても微力を尽くさせていただきます」

 

 接待役として連れてきた彼女を一瞥する。【禁足地】を鎮めるほどの異能者だ、どんなに若く見積もっても50代だと思っていた。一族の中で適齢期かつ霊能持ちの女を連れてきたが、中学生となればもう少し若いものを用意するべきだったかもしれない。当然彼なら何人でも使い潰してくれてよいし、その中で一人でも孕めば万々歳である。現代倫理とは反するが、霊能の世界において才能の無い女性というのは子を産むことが存在意義だ。

 

 「……………………」

 

 伏せたままちらりと顔を上げるが、相手の反応は無い。差し出された貢ぎ物が自分の天秤に釣り合うか勘定しているのだろう。この場で「手を組む余地も無い」と思われることが最も不味い。相手の望みをまずは聞くべきだろうか。

 

 「こちらはあくまで最低限のものでございます。灰谷さまに何かご要望があればお聞かせください」

 

 

 

 

 

 

 

 「こちらはあくまで最低限のものでございます。灰谷さまに何かご要望があればお聞かせください」

 

 なんだこいつ、地獄の商人か??

 初手土下座で既にだいぶキャパオーバーだったのに、そこから金だの進路だの怒涛の贈り物攻勢で言葉も出ない。竈門さんがとんでもない権力の持ち主だという事だけは分かった。この人この地方でほとんど王様なんじゃないか?

 

 「えー、と……あー……」

 

 目の前にある現金500万が現実感を失わせている。トランクケースに札束入れる文化って現実であったんだね。

 

 「あの……多分お互いに誤解があると思いまして、話を聞く限り俺はそちらの異界に勝手に侵入し、【ガキ】とか【モウリョウ】とかを倒してしまっていたんですよね? 何でこっちがこんなに色々頂いてるんですか……?」

 

 お狐様の神社から一番近かったから通ってたあの異界は、どうも【カマドガミ】一族が代々管理していた異界らしい。知らなかったよそんなの。つまり俺の行動って他人の山に侵入して鹿とか熊を狩っていたようなものなんじゃないだろうか。ほぼ密猟者じゃん。

 あと一番分からないのが隅で土下座してるあの女性の事ね! なんか「使いつぶしていい」とか物騒な事言ってなかった?

 

 「恥ずかしながら我々は霊能の才に乏しく、あの異界【禁足地】を管理できておりませんでした。もし今後とも灰谷さまがあの異界を攻略して下さるのであれば、我々にとってはまさに望外の喜び。それに対し適切な報酬をお支払いするのは当然の事です」

 

 ええ……? 【ガキ】とか全部燃やし尽くした後、リポップ待ちでお狐様と念話使って雑談とかしてたんだぞ。あの程度でここまで感謝されるのか? お狐様は俺に才能があると言ってくれてたが……。

 

 「ええと……では、このお金は有難く頂戴いたします。学校に関して便宜を図ってくれるという話も、異界に通いやすくなるのでありがたいです」

 

 まあ、そういう事なら有難く受け取っておこう。絶対断れそうにないし。俺は図太い性格だと、よくお狐様に褒められる男なのだ。その長所を生かすときが来たのかもしれない。

 

 「今後も異界に潜って良いんですよね? 正直それが一番ありがたいです。ここ周辺であそこが一番悪魔が強かったので」

 「勿論です。月においくらほどお支払いすればよろしいでしょうか? また女にお好みはありますか?」

 「いえ、両方大丈夫です……」

 

 でも貰いすぎると怖い。500万でもういっぱいいっぱいだって。あと執拗に女性をあてがおうとするのは何?

 

 この世界の霊能組織は、意外と悪魔に対して弱い。でも多分一般人に対しては死ぬほど強い。

 そういうパワーバランスを何となく感じながら、俺は出されてきた汁物をすするのだった。

 緊張で味がしねぇわこれ。

 

 

 

 

 

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