【カオ転三次】地方神ガチ勢と化した俺たちの話 作:一般俺たち
お狐様の見た目はぬらりひょんの孫に登場する羽衣狐をイメージしています。
読者の皆様の想像にそぐわなかったら無視してください。
少しだけ自分語りをすると、俺は生まれた時からの孤児である。赤ちゃんポストという制度をご存じだろうか? 経済的・風聞的な事情によって育てる事が出来ない子供を親が匿名で預ける施設で、物心ついた時から俺はそこにいた。前世だと熊本と北海道にしかなかったが、ここだと全県に最低一つはあるらしい。福祉が整っていて本当に命拾いした。
ちなみにこの運動を推し進めたのは【メシア教】である。恵まれない子供たちに救いの手を、と唱える彼らは自らの私財を大量に投げ捨ててまで孤児院を建て、命を落とす捨て子が出ないように奔走したらしい。【カマドガミ】一族は胎児に至るまで皆殺しにしたらしいのに、よく分からん組織だと思う。
ともかく、そんな訳で今世の俺は孤児院育ちである。親からの愛は前世で浴びるほど受け取っていたので、特に思う所は無い。もし今世に親がいたら絶対ギクシャクしていたと思うので逆に良かったと思うほどだ。
そして孤児という事は、暮らしにおける選択肢が常人のそれを遥かに凌駕するという事である。一人暮らしをしても心配する親はいない。
口うるさく注意する親族もいない。
前置きが長くなったがどういうことかというと、
「なんじゃお前、もう起きたのか。今朝餉を用意するゆえちょっと待っておれ」
俺は今お狐様と同棲しているのである!!
最高!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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権力ガチ勢である【カマドガミ】一族の手腕により、俺は孤児院を出て神社で暮らす事が出来るようになった。普通子供が孤児院を出で独り暮らしするなんてあり得ない話で、親族の支援とか孤児院側の許可とか諸々が必要になる。しかしそこら辺を竈門さんがふわっと(隠喩)してくれたのだ。ありがとう竈門さん……【ガキ】なんざ何匹でも焼いてやるからな……。こっそり養子縁組しようとして来なければもっと良かったけど……。
「まったく、お前は朝餉のたびに泣いておるのう」
お狐様が用意してくれた朝食を泣きながらほおばる。
白米、味噌汁、焼き鮭、豆腐や漬物の小鉢。それらが丁寧に盛り付けされており、たとえ旅館の朝食でもここまででは無いだろうと思うほど美味しい。お狐様は料理上手なのだ。結婚して欲しい。本当にありがとうございます。
「ふふふ……。よいよい、お前はわらわに尽くしてくれているからの。ほれ、おかわりは?」
「お願いします!!」
ご飯が美味すぎる。特に食に対してこだわりは無かったはずなのだが、ここに住み始めてからすっかり純和食党へと変えられてしまった。
朝食を食べ終えて少し休憩すると、今度は異界探索の時間だ。異界(【禁足地】というらしい。知らなかった)の【ガキ】を焼くいつもの仕事である。また今日も異界でガキを焼く仕事が始まるお……。
ちなみにもう中学校には通っていない。元々休みがちだったのだが、これもまた竈門さんがふわっと(隠喩)してくれたらしい。何日休もうが教師は何も言ってこないし、何故か書類上の俺は無遅刻無欠席の素晴らしい優等生になっている。不思議な事もあったものだ。
夜中に街中をうろつこうが警察に補導されることも無い。ここまで来ると権力が行きわたり過ぎていて恐ろしくすらある。気づかなかっただけで、俺の前世にもこういう地方の王みたいな人はいたのだろうか。
何につけても頼りになる【カマドガミ】一族だが、万が一彼らの祭神が復活した時に信仰の奪い合いになるかもと思うと全面的に依存するのも良くない。ほどほどの友好関係を築くのがベストだろう。
「【ガキ】もなー、最近レベルが上がりにくくなってきたような……」
異能者の【霊格】(レベルとも呼ぶ)は試練によって磨かれる。悪魔を倒した、神の祝福を受けた、歴史に残る傑作を創り出した……そういった霊的・神話的体験によって俺たちの体験は磨かれるのだ。しかし俺にとって【ガキ】の討伐はもはや試練では無くなりつつあるのかもしれない。
更に強い異界を探して……いや、でも【カマドガミ】一族によればこの【禁足地】が最強最悪の異界らしいんだよな。他の地域に出張するか? しかしあまり無茶をすると本気で死にかねない。リスクリターンのバランスはいつも悩みどころである。
「【アギ】【アギ】【アギ】……」
しょうがないので少しでも上手く【アギ】を撃つことを目標に練習を重ねていく。お狐様いわく、異能にも習熟度が存在するらしい。自らの異能を深く理解する事で術はより洗練され、威力や消費MAGの効率が上昇するようだ。微々たるものかもしれないが、何もしないよりはマシだろう。
しかし自分の異能を理解すると言っても、中々難しい。今俺が分かっている事と言えば、炎が出て欲しいなと思ったら出ますくらいの事だ。よく考えたらこの炎って何を燃料にしてるの……? 何を燃やしてて温度は何度なの……? 質量保存の法則はどうなっているんだ、考えれば考えるほどよく分からなくなる。柳田理科〇先生が空想的な化学読本で考察してくれないだろうか。
「ん、いったん打ち止めか」
異界に潜って数時間立つともう【ガキ】が湧いてこなくなった。こうなると何をやっても出てこない。昔はMAGを放出したり血を垂らして見たりして色々【ガキ】が復活しないか試していたんだが、結局こいつらは時間経過でしか復活しない。【地脈】からMAGを吸い上げてるのか?
ちょうどお昼ご飯の時間になったので、少し休憩を取る事にする。
「よっと」
近くの樹にお札をペタッと貼り付けて祝詞を唱える。このお札はお狐様が作ってくれたもので、俺がMAGを込めて祝詞を唱える事で周囲に結界を張る事が出来る。俺がまだ異能に目覚めたての頃、【ガキ】に囲まれすぎた時なんかにはよくお世話になったものだ。
周囲に清浄な空気が漂い始めたのを確認し、座り込んで弁当を取り出す。これもお狐様が作ってくれたものだ。葉っぱにくるまれた大きなおにぎりが二つと、水筒にはお味噌汁が入っている。お狐様が握ったおにぎり……これほど神々しい物がこの世に存在するだろうか? 間違いなく世界一のおにぎりである。お狐様には何度御礼を言っても言い足りない。
朝は彼女に見送られて仕事に行き、職場(異界)で彼女の作ったお弁当を食べる。ついでに言うと同棲もしている。これもう100%結婚してるだろ。お狐様は「似合うであろう?」と言ってセーラー服を着ているのだが、最近ご飯を作る時にはエプロンをつけているのだ。ちょっといくら何でも可愛すぎる。流石に可愛すぎて不味い。国が条例で規制するレベルだ。
「『奥様は稲荷神』……いや、『奥様はお狐様!』か? 『俺の嫁が可愛すぎる稲荷神な件』、『異世界転生したら霊能チートで狐耳美人と結婚した~俺を捨てた両親が謝ってきたが、前世の親とお狐様に死ぬほど愛されているのでもう遅い~』でもいいな…… 」
お狐様がノベライズ化した時のタイトルを考えていると、いつの間にかおにぎりを食べ終わってしまっていた。失敗したな、もっと味わって食べればよかった。あまりの幸せさにトリップしてしまっていたようだ。言い訳をしておくと、異能を使った直後の霊能者はテンションがおかしくなる。俺は普段もう少し理性的である。知らんけど。
お味噌汁を一口すすり、ほっと息を吐く。この結界はお狐様の領域となっているらしい。呪力を込めた札と氏子である俺のMAGを組み合わせる事で、一時的に『ここは稲荷神の領域である』と主張しているのだとか。実際この結界内はあの神社と同じ清涼な空気が周囲を満たしていて、休んでいると物凄く落ち着く。
「よーし、午後も頑張って化物を焼き尽くすぞ」
【ガキ】や【モウリョウ】も少しは復活したようだ。時間経過で必ず復活する点がこいつらの唯一褒められるべき点だな。【ガキ】くんはマッカのドロップ率が高い所もポイント高いぞ。
俺は気合を入れてぐるりと腕を回すと、ぽつぽつと現れだした化物たちに立ち向かっていくのだった。
異界【禁足地】
禁足地とは、宗教的な理由・地域の伝承により内部に入ることを禁じられた区域。
神隠しにあう山、人が死ぬ廃ビル、心を病む不気味な森……。もはや正しい名前もその理由も忘れられた【入ってはならない土地】の一つ。封じる方法は既に失伝している。
土地からMAGを吸い上げており、中の【ガキ】や【モウリョウ】は倒されても無限に復活する。いくら化物を封じても水泡に帰す、人々の努力をあざ笑う最低最悪の異界……のはずだった。