【カオ転三次】地方神ガチ勢と化した俺たちの話   作:一般俺たち

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第五話

 

 いつも通りに【ガキ】を焼いて、お狐様の尻尾をモフモフさせていただいた後。

 神社に用意された自室で、俺はネットサーフィンにいそしんでいた。

 

 「『異界被害が増え続けてる件について』『限界霊能組織の俺を助けるスレ』『人柱にされそうだけど何か質問ある?』……最近はどこも景気が悪い話ばかりだな」

 

 俺が閲覧しているのはただのサイトではない。【カマドガミ】一族に教えてもらった、デビルバスターたちが利用する専用のアングラな掲示板……いわゆる『闇サイト』だ。霊能者同士の情報交換に使われたり、依頼が貼られていたりする。……時折【殺人】の依頼が平然と入っていて辟易する事もある。大抵はBANされているのだが。

 

「ほとんどは業界への不満や愚痴だけど、たまに役に立つ情報もあるんだよな」

 

 死にかけたサマナーの体験談とか、報酬を値切って来た依頼主への対応とか……。俺はまだ中学生で、オカルト業界への知識などゼロに等しい。こういった掲示板で業界のルールや暗黙の了解を知っておく事はこの先必ず役に立つだろう。

 差しあたって今は異界の情報が欲しい。具体的に言うと【禁足地】より強い異界が。

 

「異界異界……ガキよりも強い悪魔が出て、出来れば後衛一人でなんとかなるやつ……」

 

 まあそんなもん探すのなんて砂漠で針見つけるより難しいんですがね。

 今日もそうやって掲示板を漁っていたのだが、その時ふと気になるものを見つけた。

 

「ん、なんだこれ?【転生者掲示板】……?」

 

★転生者雑談スレ その30

 

345:名無しの転生者

はー、ショタオジの覚醒修行やってられんわ

 

346:名無しの転生者

 死! 蘇生! 死! 蘇生!

 こんなん頭おかしくなりますよ

 

347:名無しの転生者

 ショタオジの顔が真っ直ぐ見れなくなった(恐怖で)

 善意100%と分かっていてもあの修行を受けるとどうにもね……

 

348:名無しの転生者

 でもシキガミの為には我慢が必要やねんな……

 

349:名無しの転生者

 霊能自慢に聞こえるから止めろ

 覚醒修行の話は覚醒者スレでやれ

 

350:名無しの転生者

 (おっ、嫉妬か?)

 

351:名無しの転生者

 現状考えろよ

 この状況で俺たちにとって覚醒以上に重要な事があるか? お前も覚醒修行すりゃいいだろ

 

352:名無しの転生者

 俺も覚醒できるならしたいよ でも母親の介護で手が離せないんだよ

 片親でもちゃんと育ててくれた大事な母親なんだ

 

353:名無しの転生者

 ごめんな (ほろり)

 https://or~~~~~~~~~~~~~~ ←ここに連絡すればちゃんとサポートしてくれるぞ

 【ガイア連合】はそこら辺手厚いからな

 

354:名無しの転生者

 おっレスバか? → 両方いいやつだった……

 真の畜生だったワイ、感涙にむせぶ

 

355:名無しの転生者

 何度見ても【ガイア連合】とかいうアホの考えた名前草

 

 

「…………なんだこれ」

 

 こんな掲示板今まであったか?

 ノリが軽いというか……なに、この……何? ここだけ完全に世界観が違う。基本的に絶望と怨嗟しか無かった掲示板の中で、こいつらだけ異質にもほどがある。

 

 【転生者掲示板】はどうやら俺と同じ転生者が作った転生者専用の掲示板らしい。余りにも胡散臭いが、調べてみると前世にしか無かった事件やゲームの情報がどんどん出てくる。

 【カマドガミ】製のウイルスバスター……はともかくとして、俺の【霊感】も彼らが自分の同胞だと教えてくれる。この掲示板に入るためのパスワードが前世の有名アニメキャラだったことから半ば確信していたが、どうもこの世界の転生者は俺だけでは無かったらしい。

 

「マジか……! そうか、俺だけじゃなかったのか……!」

 

 嬉しい。すごく嬉しい。前世の思い出を共有できるやつなんて一人もいないと思ってた。前世の話なんて一生できないと思っていた。もし俺と同じ転生者がいたなら、話したいことが沢山あったんだ。あのアニメってドラゴンボールのパクりだよなとか、前世のあのゲーム面白かったよなとか……!

 

「……ただ、なんかコイツらはコイツらで言ってる事がおかしいんだよな」

 

 他のスレでも出てきたが、【ショタオジ】だとか【ガイア連合】だとか……。

 俺の知らないゲームの話ってわけでもなさそうだし、少し調べてみるか。

 

 その結果。

 

「…………やっばいなこれ。もっと早く知っておきたかった」

 

 まず、この世界は【女神転生】という前世のゲームに近いらしい。かなりダークな世界観で、基本的に世界が滅んでから話が始まるようなゲームだ。最悪。

 俺たち転生者は基本的に霊能の才に溢れているが、その中でも抜きんでた才能を持つ【ショタオジ】という人物が転生者を集め、【ガイア連合】なる組織を設立した。ガイア連合の目的は、いずれ必ず来る【大破壊】【終末】を乗り越える事。

 ガイア連合はまだ設立したばかりで、構成員を募集中。【シキガミ】や【覚醒修行】はその一環で、転生者なら誰でもサポートが受けられる……。

 これ、知らないと死ぬレベルの重要情報だろ。孤児院にネット環境は無かったが、図書館のパソコンでも何でも使ってもっと早く調べておくべきだった。

 

「しかし、このショタオジって人は凄いな」

 

 自律思考するシキガミとか、俺がどれだけ強くなろうと一生作れる気がしない。きちんと修行して霊能をおさめた、かなり才のある人物なのだろう。修行はかなり厳しいらしいが、わざわざ霊能に覚醒していない【転生者】たちを集めて修行をつけているあたり、人格的にも立派な人物だ。実際にあった事は無いが、きっと実力と人柄に優れた仁君なのだろうな……。*1

 

「俺もガイア連合入るか~。今は良くても、将来的には『ガイア連合かそれ以外か』レベルで格差が出そうだ」

 

 転生者の才能が異常だという事は身に染みてわかっている。そんな転生者が大量に集まっている【ガイア連合】は、今後必ず日本霊能界の台風の目になるだろう。

 地元霊能組織はどこも死に体で、【根願寺】なる国家直属組織は首都の防衛にかかり切り。この国は何よりも強い霊能組織を求めている。まず間違いなく、今後【ガイア連合】は拡大していくだろう。募集が締め切られない内に、さっさと所属しておきたい。出来ればお狐様の為にもいいポジションにつければ最高だ。

 

 ええと?ガイア連合の本拠地は【星霊神社】か。ちょっと遠いが、新幹線に乗ればそう時間もかからないな。早速お狐様に相談しに行くぞー。

 

 

 

 で、相談しに行ったんですが。

 

「……つまり、お前はわらわから離れてどこぞの【神社】に行きたいと?」

 

 お狐様の機嫌が死ぬほど悪い。尻尾の毛が逆立っているし、見間違いで無ければ爪が伸びてきている。

 

「お狐様、恐らくお互いに誤解があると思うのですが」

「何がじゃ、この浮気者が。【星霊神社】だと? わらわの知らぬポッと出の()にうつつを抜かしおって!」

「え、他の神社に行く事って浮気になるんですか!?」

「当たり前じゃ!」

 

 神々の貞操観念難しすぎるって。氏子NTRとかもあったりするの?

 いやしかし、俺が浮気する事にこんなに怒ってくれるって、つまりそれだけ俺の事が好きって事じゃないか!? そんな場合じゃない事は分かっているけど嬉しい! お狐様がよその女に嫉妬してくれている!

 

「お狐様! 俺、お狐様に嫉妬してもらえて正直嬉しいです! 愛されてる感じがします!」

「黙れ! お前、前から思っておったがちょっと異常者な所があるぞ! だいたいわらわは嫉妬などしておらぬ!」

「じゃあ何で怒ってるんですか!」

「お前が妙な事を言うからじゃ! お前はわらわの事が大好きなのじゃから、他の所に行く必要などないであろう!」

「俺は確かにお狐様を愛してますけど、だからこそ【ガイア連合】で力をつけたいんです!」

「なんじゃその組織は!」

 

 お互い混乱のまま言い合いを続けて、結局お狐様に事情を理解してもらうには数十分かかった。

 

「ふん……。お前は説明が下手じゃ。『しばらく星霊神社って所に行きたいんですけど』だけで分かる訳がなかろう」

「すみません……」

 

 そこからまだ説明するつもりだったのだが、言った瞬間にお狐様が不機嫌になったのだ。しかしお狐様の慌てぶりを思えば、完全に俺に非があったのだろう。

 お狐様は落ち着いた様子で、俺に向かって不満げに吐息を吐く。

 

「よい。わらわの為に力を磨こうとするその姿勢は見事なものよ。【ガイア】への出向を許す」

 

 お主がおらぬ間の異界はわらわが面倒を見ておこう、と目を細めてお狐様は言う。可愛い。妖艶な表情もよくお似合いです。

 

「ありがとうございます!」

「よい。だが、お前に一つだけ忠告しておく」

 

 お狐様は祭壇を降り、こちらに近寄ってくる。正座している俺の顔を覗き込むとこう言った。

 

「くれぐれも他の神には気をつけよ。お前は霊能の才に溢れておるし、狂人に見えて意外と頭も回る。しかしどこか粗忽なところがあるゆえ、うっかりどこかの神と契約を結ばされるやもしれぬ」

「いやいや、大丈夫ですって。多分星霊神社の祭神ってほとんどガイア連合の盟主(ショタオジ)だと思いますし」

「今回の事だけではない。今後お前が関わる神々全てに対して気を緩めるなと言っておる」

 

 お狐様は俺の頬をつうっとなぞり、首筋を指でくすぐる様に撫でてくる。背筋がぞくぞくする。

 

「お前の神はわらわだけじゃ。良いか? お前がわらわを愛し、敬い、氏子として振舞うのであれば。わらわもまたお前を愛し、護り、神として守護しよう。だがお前がわらわを忘れ、信仰を失った時は……」

 

 ひやりとした感触。お狐様が鋭く伸びた爪を俺の首筋にあてているのだ。いつの間にか彼女の瞳孔は獣のそれに変わり、俺を睨みつけている。

 

「……絶対にお前を殺す。魂を奪い、わらわの玩具として永遠に弄んでやる。昔とは違う、今のわらわならそれが出来る」

はい!!!!!!!!!!!!!!!!

「声おっき。ふふ……まさか微塵も怯えんとは。お前は本当にわらわの事が好きじゃなあ」

もちろんです!!!!!!!!!!!!

 

 お狐様と永遠に一緒とか爆アドだろ。ちょっと病んだ雰囲気のお狐様も最高にかわいい……。

 

「よいよい。ふふふ、ガイアでも何でも行って参れ。きちんと弁当もつくってやるからの」

「わーい!」

 

 世に数多ある妖怪話を鑑みると意外でも何でもないが、お狐様はかなり嫉妬深い。俺はその事を胸に深く刻み付け、ガイア連合へ行く日取りを検討するのだった。弁当は鮭が良いです。

 

 

 

 

 

 

 

*1
そうかな……そうかも……


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