【カオ転三次】地方神ガチ勢と化した俺たちの話 作:一般俺たち
「ぐえぇええええええええ!!!!」
全身を【オニ】に食いつくされて死亡。
「ぎゃぁああああああああ!!!!」
【フロスト】たちに纏わりつかれ、【アギ】で応戦するも最終的に氷漬けになって死亡。
「助けてぇえええええええ!!!!」
ショタオジに捕まり、邪法(覚醒者向け修行)の餌食になって死亡。
……これだけなんか違くないか?
俺とお狐様が【ガイア連合】に拠点を移してから数週間。俺は【修行用異界】で永遠に死に続けていた。
「ぐえー、全身がだるいなー……」
「お疲れ様ですー。蘇生料はドロップアイテムから差し引いておきますねー」
「あ、ありがとうございまーす」
まあ生き返るんですがね。ガイア連合の前では、生も死も全てペテンである。
蘇生明けはいつも全身が気怠くなる。白衣のナース(誰かのシキガミだろう)がベッドからパタパタと足音を出して去っていくのを横目に、大きく伸びをした。
今日はなかなか調子が良かったが、途中で魔力が尽きたので【オバリヨン】の群れに身投げしてきたのだ。あー、全身が痛い。オバリヨンめ……四六時中「どしたん? 話聞こか?」って言ってそうな見た目しやがってよ……。*1
「今日の儲けは……700マッカくらいか?」
枕元に置いてあった袋を確かめながらそう呟く。今日はまあまあ儲けられた方だな。
異界に潜る!→悪魔を倒す!→MAGが尽きたら悪魔に殺されてデスルーラ! の流れを繰り返してもう何度目になるだろうか。いやー、ガイア連合にいると命の価値が安くなって困る困る。
「何もかも蘇生費用がバグレベルで安いのが悪い。あと【トラエスト】を覚えられない俺も悪い」
【星霊神社】の修行用異界は、修行用と銘打っているだけあってサポートがとても手厚い。
低層をほとんどショタオジが掌握している事もあり、低層で死亡しても安価で蘇生してもらえる。どの位安いかというと、死亡時に生まれるMAGで自爆して悪魔数匹を倒せば余裕でペイできる程度に安い。
だからきちんと安全マージンを取って撤退するより、MAGが尽きるまで突き進んで、どうしようも無くなったら死んで帰るのが一番効率が良いんだよな……。人間性を捧げている気もするが、しかしマッカの前では人間性など霞んで消えてしまうのである。
「ふぅ……帰るか。ありがとうございました」
もう一度異界に行こうかと思ったが、既に魔力が尽きてしまった。回復には夜までかかるので、今日はもうこれで切り上げてしまうべきだろう。魔力を使い切るまで探索できることはそうそう無いので、今回は運が良かったな。
【マッスルドリンコ】を飲み干し、出入り口の受付さんに軽く会釈をして異界を後にする。修羅勢の人たちは一度死んでからが本番とばかりに何度でも突入していくが、魔力が無い俺が異界に行っても悪魔の皆さんに美味しいお肉を提供するだけである。やっぱ修羅勢は凄いよなー。いつか俺もああなりたいぜ。
「あ、【狐憑き】ニキじゃん。お疲れー」
「お疲れ様でーす」
途中すれ違った【俺たち】の一人に挨拶する。【騎士】ニキだ。横には豪奢なプレートメイルを着た美女のシキガミが付き従っていた。彼は高身長で爆乳の女性がゴツい鎧を着ている姿に何よりの興奮を覚え、鎧の中で汗に蒸れたむちむちの身体こそ至高と語るド変態である。彼も彼のシキガミも前衛タイプである事から、時々後衛としてパーティーを組ませてもらっていた。
ちなみに【狐憑き】とは俺のあだ名だ。俺がお狐様を愛してやまない事からそう名付けられた。【狐憑き】は古い言葉で狂人を意味する事もあるので、普通に悪口じゃないかとも思う。
「いやー、こっちに来てから知り合いも増えたな」
異界探索も順調だし、いざという時は頼れる仲間も出来た。
ガイア連合に入ってから数週間。俺の生活は意外と安定していた。
「ただいま帰りました!!!!!!」
「相変わらず声がでかいのう……」
星霊神社から少し離れた、山梨県の一軒家。【アギストーン】を売っぱらった金で買った、俺とお狐様の拠点である。ありがとう【カマドガミ】一族! あまりに高く買い取られそうになって逆にこっちが値引きし始めるとかいう意味不明な交渉は正直二度としたくないぞ!
玄関をくぐりお狐様に声を掛けると、台所の奥から彼女が迎えに来てくれた。こんなのもう新妻じゃんね。
「ほれ、もう風呂は沸いておるからさっさと入ってこい。最近は電化製品? とやらが自動で沸かしてくれるから便利じゃのう」
こんなのもう新妻じゃんね!!!!!!! 神社に住んでいた時もお狐様に家事をしてもらっていたが、一軒家の中だと生活感が増してお狐様の新妻味が格別に上がる。
お狐様は最近ファッションに興味を持ち始めたのか、時々いつものセーラー服以外を着るようになった。今日のお狐様はニットにスカートとシンプルながらオシャレな服である。こんなのもう新妻じゃんって!!!!
「ふう……」
風呂に入ってほっと一息。ここの水はガイア連合が失敗作の【霊水】とかを勝手に混ぜているので、浸かっているだけでじわじわと疲れが溶けだしていくのを感じる。
「ああ~~~~~」
温かいお湯によって、全身がとろけるようにリラックスする。風呂ってやっぱ最高だな。
そして風呂からあがると、既にお狐様が夕食を用意してくれていた。食卓の上には大きな鍋が中央にデデンと置かれており、その周りに炊いた白米や付け合わせが並んでいる。まさに至れり尽くせりである。
「今日は良い白菜があったからのう、鶏肉と合わせて鍋にしてみた。どうじゃ、旨いか?」
「最高に美味しいです!!!」
「ふふ、そうであろう。一口一口わらわに感謝して食うように」
「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!」
「声に出さんでいい」
旨すぎる……。こう、あの、鳥の旨味とかがじゅわっと染みでてて……なんか凄く美味しいです。食レポが下手で申し訳ないが、とにかく心安らぐ優しい味である。最高に美味い。
「しかし、ここは本当に常識外れであるのう。この鳥など、MAGにあてられて殆ど【霊鳥】化しかけておる。世が世なら神への捧げものとして扱われてもおかしくないものじゃ」
お陰でわらわも食べれるがの、と鶏肉を頬張りながらお狐様が言う。
そう、ガイア連合産の食料ならお狐様と一緒に食事が出来るのだ。普段面倒な儀式を経て【供物】処理しないと物を食べられなかった(しかも供物化できる食材は限られている) お狐様は、自由に食事が出来る事をとても喜んでいた。俺もお狐様と一緒に食卓を囲めて嬉しい。
今日あった事を色々話しているうちに、鍋の中身はすっかり片付いていた。最後には卵と米を入れておじやにして、もう完全に満腹だ。
「ふう……ご馳走様でした。今日も本当に美味しかったです。じゃあ、洗い物は俺やりますね」
「よいよい、お前も異界攻略で疲れたじゃろう。わらわに任せておけ」
いそいそと立ち上がると、お狐様に遮られて強引にソファへ座らされる。
「いやいや、せめて一緒にやりましょうよ。ちょっとはお手伝いさせてください」
「よいと言っているじゃろう。家事は女の仕事じゃ、男はどっしり構えてくつろいでおれ」
「ぐう……」
やはりお狐様、考え方が古風だぜ。
そして実際、俺が強引に手伝おうとすると結構機嫌が悪くなるのである。以前俺が自分で朝食を作った時など、わらわの仕事に不満があるのか? とお狐様に睨まれてしまった。怖かったです。
大人しく座ってテレビをつける。丁度【ガイアTV】でバラエティがやっている所だ。よく知らん芸人がクイズに答えている姿をぼーっと眺める。
「…………」
でもお狐様が働いてるときに俺がダラダラしてるってなんか落ち着かないな。
腕立てでもするか。
「ふっ、ふっ、ふっ……!」
覚醒してレベルを上げれば、自然と【力】のパラメータは上がる。しかし同程度の【力】の持ち主でも、元々鍛えているマッチョと普通の青年では明らかに前者の方が強い。素の身体能力は意外と重要なのだ。体を鍛えているに越したことは無いのである。
「98、99、100、101、102……!」
「また鍛えておる。まったく、お前は普通に休むという事が出来んのか?」
腕立てを終えてヒンズースクワットに移行していると、台所からお狐様が戻って来た。呆れた口調でソファに座ると、ポンポンと隣を叩く。『隣に座れ』の合図だ。大人しく隣に座る。汗臭くないだろうか。
「ちょっと眼を離すとすぐに勝手な事をしおって。明日も異界にいくのだろう? しっかり休まんと疲れが抜けんぞ」
「いえいえ、お狐様が働いている時に俺一人が休むなんてとてもとても」
家事を全てやってもらっているし、空いた時間では内職として【呪符】を自分の権能で作ってガイア連合に売ってもらっている。俺が稼いだマッカの管理もしてくれているし、本当に頭が上がらないのだ。
「だからわらわの為にもっと強くならなければ、と? まったく、仕方のないやつよ」
お狐様の手が俺の頭に触れたかと思うと、強く引っ張られて頭を倒される。横に座っていた位置関係上、俺はお狐様の太ももに頭をのせる形になった。
ワ゛ッ!!!!!!!!!!
「ほれ、わらわの膝を貸してやる。嬉しいじゃろう? お前はこうするとすぐに動かなくなるからのう」
「ウ゛」
お狐様に膝枕をされている。嘘だろ? こんな幸せがあっても良いのか?
お狐様の太ももは柔らかく、彼女の良い匂いが漂ってくる。もう一ミリも動けん、俺の全細胞がこの幸せを享受しようと叫んでいる。
「言っておくが、この様な事滅多にしてやらぬからな。わらわの膝はそう安く無いぞ?」
そう言いながら、お狐様は俺の髪をさらさらと撫でる。くすぐる様な手つきが心地よく、つい目を細めてしまう。
「ありがとうございます……ありがとうございます……!」
「よいよい。お前は良く働いてくれるゆえ、たまにはこうして褒美をやらねばの」
最高……。一生こうしているだけの仕事とかどこかに無いだろうか。
体勢を変え、お狐様の顔を見上げる。彼女の妖しくも美しい顔が、今は優しい笑みで俺を見下ろしていた。
「ふふ、間抜け面をしおって。わらわの膝枕がそんなに心地いいか? んん?」
「はい…………」
最高に気持ちいいです。お狐様の遠縁には【妲己】や【玉藻の前】がいると聞くが、その名残だろうか? 彼女の膝枕は驚くほど心地よく、一生ここに居たいと本気で思わせる魔力がある。男を虜にするすさまじい引力を感じるのだ。
そのまま蕩けていると、お狐様に頬をつままれて、むにむにとこねくり回される。
「ほれほれ。ふふふ、【悪魔】を倒せる覚醒した異能者、死をも踏破する益荒男もこうなっては形無しじゃのう?」
お狐様が楽しそうに俺の顔をむにゅむにゅとして遊ぶ。
「頬をつまんで……引っ張って……ふふ、お前も全く抵抗せんのう? よいよい、もっと弄ってやる」
俺がされるがままになっていると、よりエスカレートして頬をつまんだり潰したりと好き勝手している。あぶぶぶぶ。
「次は凄いぞ? この指をお前の首へ……っと。いかんいかん。目的を忘れるところじゃった。わらわのような【女神】たちは、強い男を虜にしてもてあそぶのが何よりも好きでのう。狐の妖怪は特にそうじゃ。思わず夢中になっておったが、お前を休ませるのが目的であった」
そう言うと、お狐様は俺の眼を優しく閉じる。
くそ、もっとしてほしかったぜ。俺の首はどうなる予定だったんだ?
「わらわの膝は極上であろう? その蕩ける様な心地のまま、ゆっくりと眠るがいい。わらわが見ていてやるからな……」
「いや、でも少しだけグゥ……」
俺は一瞬で寝た。少しでも長くこの幸せを堪能しようと抵抗したが、お狐様の膝枕の前では儚い抵抗だった。
その後、俺はもう一度膝枕をしてもらうために不眠不休で異界に潜り続け、お狐様に『魂胆が丸見えじゃ』と頭をはたかれたのであった。人生そう上手くはいかないものである。