世界の背表紙で、君と踊ろう   作:厳冬蜜柑

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千束回顧録、これで終わりです。


Apdx.02-03 [EOF]

 あの時。真っ先にたきなが来てくれたんだって? 山岸先生んとこ。

 ……ありがと。たきなのそういうとこ、真っ直ぐなとこ。私好きだよ、大好き。

 

 でもまあ、あの時の私の寿命がああなっちゃったのは、どうしようもなかった。

 

 そう。ずっと言ってることだけど、あの()の心臓。どの道もともとあそこからだと、一年と少しの寿命だった。

 それがさ、まあ二ヶ月になっても、「ま、そんなもんだよね」って。そりゃ、一年ぐらい短くなっちゃったから困るは困るけど。出来ること少なくなっちゃうし。

 でも、そこまでショックってほどでもなかった。ああ、そうなんだって。それぐらい。

 ミズキとか先生も、それは分かってたんだ。だから、あんなもんだったんだよ。

 

 知らなかったのは、たきなと、隼矢さんと、あとクルミ。

 でも今から考えれば、結局その三人のおかげで今の私があるわけでさ? ……つくづく思うよ。諦めって、罪だなって。まあ、そん時はそんなこと考えもしなかったんだけど。

 

 

 

 うん。いや、知ってる。でもなぁ、あそこまでクルミが動いてくれるとは、この私の目を以てしても分からんかったわ。いやマジで。

 だってほら、私とクルミって、まあボドゲやったりする仲ではあるけど、でもクルミにとっての私って、そんなんだったっけ? ってさ。

 

 そーでしょ? まあ大体あの子って、ミズキをからかってるか、隼矢さんとなんか難しい話してるか、どっちかって感じで。

 

 や、どーなんだろ。まあ、でも一応リコリコの仲間だし。仲間が死ぬのは、嫌だ。そんなぐらいの理由なのかもしれないけど。

 いやまあ、そう思ってくれてたんなら、それはすごく嬉しいよ? クルミも、あの店の一人、仲間になってくれてたって。私のことを、死んでほしくない人だって、思ってくれてたわけじゃん? そりゃ嬉しくないわけないでしょ。

 でもさ。でも、あんなにクルミが一生懸命だったのは。

 ……やっぱ隼矢さんのため、なのかなって。

 

 ね。あの二人、なんか分かり合ってる感じするよね。「自分のことが分かってるのは、お前だけだ」って。そう思い合ってる感じがさ。

 

 いや、べーつにぃ? そういうんじゃないですけどぉ?

 ……あー。でも、やっぱそういうことなのかも。

 

 うーん、なんかそんなの、ヤだな。私っぽくない。カッコ悪いよね、こういうの。

 

 ま、でもいいや、それは。別にこの話とはあんま関係ないし。

 

 とまあ、それで。今考えれば、たきなにも、隼矢さんにも悪いことしたなって思うけど。でも、あんまこう、「やばい、どうしよう」みたいな感じじゃなかったんだよね。

 で? その次の日だったかな。楠木さんとこ呼ばれて。そう、DAに。で、「真島の居場所が割れたから、討伐作戦に参加しろ」、だってさ。

 

 いやまあ、これでもリコリスですから? そりゃ分かってるけど。でも……そう! あっちだって私のこと分かってるはずなのにさ? なんも言わず「参加しろ」だけって、そりゃ腹の一つも立つでしょ!?

 そ。だからたきなのDA復帰を条件にしたの。ま、それでも行ってやる気はなかったけど、あんま。

 

 あ、え? そうなの? その日のうちに? 早くない?

 じゃ、私のこと関係なしに、たきなは呼び戻そうとしてたのかな。まあ、総力戦だったもんね、あの時。

 

 で、それだけじゃなくて。カメラ、返してもらった。

 

 そう。私が子どもの時に使ってた、デジタル一眼の。多分私がもう長くないからって、それを知って返してくれたんだと思う。まあ、楠木さんもそういうとこはあるよね。

 でさ、まあそれで。その中に、やっぱ映ってたんだ、ヨシさん。

 

 そ。私が七歳の時に撮ったやつ。前の心臓を移してもらう直前にさ。

 でも、ほんと今更で。あの時の私からしたらね。

 

 ……うん。ありがとたきな。でも今はもう、別に。だからそんな顔しないで?

 

 え? 隼矢さんと、クルミが? 先生に?

 ……そうなんだ、そんなことが。でも、聞いても別に面白い話じゃないでしょ、それ。なんで……え?

 

 ――ふーん。なるほどねぇ。そこからヨシさんが心臓を持ってる話につながるのか。

 やっぱあの二人、頭いいよね。そんなとこから思いつくんだ。はー……。

 

 で、そう! それでたきなにお出かけ誘ってもらったの! あれ嬉しかったよやっぱ。

 たきなが、そう、()()()()誘ってくれたんだってことが、まず何よりも。そういうこと考えられる子になってくれたって。

 私がそれまでたきなにしてきたことは、無駄なんかじゃなかったんだなって、思った。私がいなくなっても、私はきっと、たきなの中に生きてるんだって。

 

 だったら、たきながDAに戻るのも、それがたきなの選んだことなら。胸張って送り出せるな、って思った。

 ……ごめん。気づかなかったんだ、その時は。たきなが何でDAに戻ろうとしたのか。

 今の話聞いたらそりゃ分かるし、まあそもそもあとで隼矢さんに教えられたんだけど。

 でも、ごめん。そんなの全く分からなくて、だから笑って送り出せれば、それでいいって思った。あの時のお出かけ、楽しかったって言って。いや、それはほんとだよ?

 

 でも今の話聞いたら、私はたきなのこと、分かってなかったんだなぁって。

 

 ……ありがとたきな。

 えへへ。ちょっとそっち行っていい? うん。

 ……なんだよ、逃げんなよぉ。ほら、ぎゅー。

 

 うーん。やっぱたきなやわこいねぇ。ほらぁ、愛いやつ愛いやつぅ! うりうりぃ!

 ――あ、ちょ、ちょちょちょ、ごめんて! もうちょっと、もうちょっとだけくっつかせて!

 

 

 

 あははは。いやぁでも、ほんとあの時はこんな風に今生きてられるなんて思わなかったよ。

 だからね、たきながDAに戻ったとき。

 うん。あ、そか。あのあとたきな見たんだもんね、あの貼り紙。

 そう、一回ここ閉めることにしたんだ。

 

 だって、ミズキとかクルミとかがさ? 私のことをどうにかしようって、そのためだけにいろいろ調べ始めてて。

 もう店のことよりも、私のことだったんだもん。せっかくの楽しい場所だったのに。私のせいで、それがもうどうでもよくなっちゃたみたいでさ。

 

 だったら、そんな店これ以上やっている意味ないよなって。そう思って。

 

 いや、まあでもそれってさ。今から考えたら私相当空気読めてなかったって言うか、最後の最後で全部投げ出すみたいなことなんだけど。

 だからね、多分。甘えてたんだ。先生にも、ミズキにも。クルミとか隼矢さんも、そういうことなら、まあ納得してくれるでしょ、って、勝手に思ってて。

 

 んー。でもそう考えると、私もあの時結構、ストレスだったのかもしれないなって。

 うん、そうなんだ。先生にも言ったんだけどね。やっぱ、寂しいは、寂しかった。

 

 それで。そう、その時。

 

 

 

 そっか。たきなは知らないのか。あの時、店にいたのは、先生と、隼矢さんだけ。

 先生は、まあ最後まで私といてくれるから。隼矢さんは、お仕事のため。

 

 あ、それは聞いてたんだ。

 ……うん。まああの人はそういう人だよね。アイツが、真島がどう動くかまで、しっかり考えてたみたい。だからあそこにいたんだって。

 

 あ、それも知ってるんだ。聞いたんだ、その話も。へぇ、やっぱマメだね、隼矢さん。

 

 ま、そういうことで、最後にあの店には三人残ったんだけど。

 

 でも、でもね。

 うん。あの時なんだ、私が、本当に自分で、あの人のこと、「離したくない」って思ったのは。

 

 

 

 たきな、覚えてる? 私がついこないだ、月曜にさ、着た服。

 

 そう、あの振袖。

 あ、たきなも来年着るんだぞぉ?

 そうそう。なんかね、先生と隼矢さんが張り切ってたよ? 私のぐらいのを仕立てようって。

 

 え? そりゃもう。私もたきなの振袖みたーい。

 あ、でも振袖だけならたきな初詣での時に着てたか。でもあれ、ただの貸衣装じゃん。だからもっと、たきなのために、たきなに似合う奴をって。

 

 はえ? いやいやいや、あの服も可愛かったよ? いいカンジだった。髪もバッチリ結ってたしね。

 でもまあ、もっといいものをって二人がね。

 だから楽しみにしてるといいよ。というか、一回ぐらいは合わせのために呼ばれるかも。いや、わかんないけど。

 

 

 

 ……ん? あ、ごめーん。そだね、話戻さないと。

 

 でまあそういうわけで、あれはあの日のためのものだったんだけど。

 でもさ、私。あの時に「残り二ヶ月」だと、もう着れなかったわけじゃん?

 それであの時ね。先生が、あの振袖着せようとしてくれて。多分、思い出にしようって思ってくれたんだと思うけど。

 

 でも、それで隼矢さんが怒って。いやもう、すんごいのよ。完全にマジギレしてたもん。先生にこう、がばーって掴みかかって。

 なんで、()()()()()って。どうして待てないんだって。もうね、ぶんぶん揺するんだ。

 

 でしょ? 想像つかないでしょ、あの人が怒るところ。私もあの時まで、分かんなかった。ってか怒るんだ、とか思ってたかも。

 

 まあ、それで。それ見てさ、私言っちゃったんだよね。

 もういいよって。

 だって私のせいで先生と隼矢さんがそんな風になるの、嫌だったんだもん、絶対。

 あと、ちょっとだけイラっともしてたかも。だってもう時間がないのはしょうがなくて。今更どうこうなるもんじゃないのにさ。そんなことにあんな一生懸命にされても、困るって思って。

 

 

 

 それで、さ。その。

 

 うん、「ケンカ」したの。あの人と、隼矢さんと。

 

 

 

 まあ、ね。ずっとさ、今までの話。私の「寿命」ってのは決まってて。私は当然、それは知ってた。だから最初から、そういうもんだって思ってたんだよ。それが私にとっての普通。それについて何か考えることも、多分なかった。

 

 ――いやたきな、そんな顔しないでよぉ。あの時の話なんだから。今じゃない。

 

 まあそれで、そうやって最初から終わりが分かってて、()()()()()時間だったから、私はそれをみんなのために使うべきだ、って、思ってたわけで。

 殺したくないってのも、まあ根っこはおんなじ。私の時間は、与えるもの。奪うものじゃない。そういうことでさ。

 

 だからね、私にとっては。あの時の、私にとっては。誰かの時間が私のためだけに使われるのも。つまり私の心臓を、どうにかしようとすることもだよ。それも、同じくらいイヤなことだった。誰かを殺しちゃうのと、同じぐらい。

 

 だから、止めてもらおうって思ったんだけど。

 

 ……うん、そう。今から考えれば、そうやってずーっと、思い込んでたんだ。私の時間は、長くないんだって。そういうものなんだって。

 

 

 

 たきなさ、なんて言ったと思う? あの時、隼矢さん、私に。

 

 ――ああ、うん。そうも言われた。

 

 へぇ。それ、たきなも言われたんだ。なるほどねぇ。まあ、私たちみんな、どこか諦めてるように見えたんだろうね。隼矢さんからすれば。そりゃ言いたくもなるか。

 

 でもね、それだけじゃない。というか、私には、もっとキツいこと言ったんだよ。

 

 

 

 ――逃げるのか、って。そうやって、周りのみんなの気持ちから。自分の理屈に、引きこもるのかって。

 図星まで指されちゃった。あの時の私の周り、誰も笑ってないだろって。

 それは、君のせいだろって。そう言ったんだ、あの人。

 

 

 

 すっごいよね! あれもう完全に私を怒らせようとしてたんだよ。そうだとしか思えない。

 たぶん、怒らせて。それで本音を聞きたかったんだ。

 

 で、私はまんまと乗せられた。もう、あの時ほんと頭に血が上った。私が何でこの店やってるのか、何でこういうことしてるのか、知ってるのに、なんでそんなこと言うんだって。

 手ぇ出そうになったもん。まあ仲間だし、抑えたけどさ。

 それで、いろいろ言ったんだ。もうあんま覚えてない。だってそりゃ、怒ってる時のこととかあんま覚えてるわけないじゃん。

 

 でも、そうやって言い合ってた最後にね。

 

 言われたんだよ。「君は、死にたいのか」、って。「生きていたい」んじゃないのか、って。生きられるのなら。

 

 

 

 ……考えたこともなかった。いやだって、私はもう死んでるはずの人間だったわけでさ。それが時間をもらってる。ヨシさんからね。

 それだけでもう出来すぎなのに、それでそれ以上「生きたい」かどうかなんて、考えようとも思わないじゃん。

 

 でもそれが、その質問が、すっと私の中に入ってきたんだ。

 で、考えて。

 それで、気づいた。

 

 

 

 ああ、私、生きられるなら、生きたいんだなって。

 そりゃそうだよね、人間なんだから。よっぽどのことがなけりゃ、ほんとに死にたいなんて、思うわけない。

 

 私だってそう。楽しいことも、嬉しいことも、たくさんあって。やりたいことだってまだまだあった。

 やれないと初めから思ってたから、考えることもなかったけど。でも一度それを考えちゃったら、そりゃ生きたいって思うよ。

 

 でも、それとおんなじぐらい。やっぱり私はそれを望むべきじゃないんだっていう気持ちもあった。

 だって私の時間は、ヨシさんが特別にくれたもの。それ以上を望んじゃ、いけないでしょって。

 それ以上を望まないと生きられないんなら、それは望んじゃいけないことだよなって。

 そうまでして、生きていたいとは、思いたくないなって。

 

 

 

 隼矢さんに言われて、それに気づいちゃったからさ。もうほんとどうしようもなくなった。

 生きたいのに、生きたいと望むことはやっちゃいけないと思う自分がいる。もう、その二つはおんなじぐらい強い気持ちで、だから自分じゃどうすればいいかもわかんない。

 

 おかげで、泣かされたんだよ私。もうボロボロですよ、ボロボロ。

 だってもう、自分が何をしたいかすらわかんなくなっちゃったんだもん。

 ずっと見ないことにしてきた、ツケだったのかもしれないけど。

 

 

 

 でもね。その時に、言われたんだ。

 

 ――「だったら、僕のために生きてくれ」って。生きてほしいと望む、僕がいるから。そのために、生きていてほしいって。

 生きて。生きることを、諦めないで。生きたいと望むことを、その気持ちを、諦めないで、って。

 

 ほんと、それだけ。

 すごいシンプルでしょ。でも、私にはものすごく大きかった。

 

 ああ、私に「それ以上」を望んでほしい誰かが、今目の前にいる。

 しかもそれは、私とおんなじ望みを持っている人。同じ志を持っている人。私を、分かってくれている人。

 諦めないで、そうやって。私を怒らせてまで、嫌われてもいいからって。

 それでも、私には生きていてほしいんだ、この人はって。

 

 それに気が付いて。

 そうだね。それで初めて。私はきっと、「それ以上」を望んだんだ。私が私に決めつけていた限界よりも、先を。初めて、自分から欲しがった。

 望んじゃいけないんじゃないかって思ってた気持ちを、「生きたい」っていう気持ちが、超えたんだ。あの人の、おかげで。

 

 だから。それを許してくれた、それを望んでくれた、あの人を、隼矢さんを。私はもう、離したくないと思った。一生。私が生きている限り。

 

 まあ? 今日たきなに色々聞かれて気づいたけど? 実際のところ、自覚するより前から、ちょっぴりそう思ってたんだけど。

 でもあの時の私は、自分からそう思った。というか、決めた。あの人を、もう絶対に私の隣からは離さないって。だって、あの人が私の生きる理由になったんだから。

 

 

 

 つまりね、たきな。その気持ちっていうのは、今だって変わってない。

 だからきっかけは、まあ今まで話したみたいにいろいろあったけど。でも最後、今の私の気持ちは、つまりはその時のもの。

 

 ……うん、知ってる。それもあの人が言ってた。……いや、そういうことじゃないか。

 

 だからたきな、私は君のためにだって生きる。たきなが私に、生きることを望んでるのだって、知ってるから。

 それだって、私が決めたこと。誰が言ったとか、関係ない。

 

 

 

 だけどね、私は、それとは別に。ああやって真っ直ぐ、私に「諦めるな」って言ってくれた隼矢さんのことはさ。どうしても、掴んで、離したくない。

 だって、あの人がそうやって私に言ったんだもん。その責任は、あの人に取ってもらわなきゃ。

 

 まあ、そういう話。

 

 うーん。だから、「恋バナ」とはちょっと違うのかな? 私もまだ、あの人と()()なりたいのかは、ちょっと分かってない。

 

 え? なんだたきな。たきなはそう思うんだ。それが、「好き」ってことだって。ふーん……?

 そりゃ、隼矢さんのことは好きだよ? でもそれは、今のたきなが言うような「好き」、なのかなぁ。

 

 まあ、私もよくわかんない。だって私がそういう風に「好き」なのって、()()()()んだもん。

 

 え? そりゃあ……えっとぉ、先生と、たきなと、隼矢さん。

 

 ほえ? え、当たり前じゃん。たきなだって好きだよ私は。じゃなかったらこうやってくっついたりしないっての。

 

 ……うん。まあほんでさ。その「好き」って気持ち。確かにみんな、私は好きだけど。

 だけど、それはひとりひとり、ちょびっとだけ違う「好き」ではあって。

 

 でもそれが何なのかは……うーん。ちょっと分かんないや。

 

 

 

 うん。だからたきなが聞きたかったことは、多分ここまでだと思う。

 これでいい?

 

 え? だめ? なんで……ああ、そっか。そのあとのことがあったね。

 

 

 

 まあ、電波塔のことは、いいとして。ああ、真島のヤローとのあれ。

 

 あ、そだ。たきな持ってたあのKSG(ショットガン)、あれ私が置いてったやつだったでしょ。

 

 ああ、それ拾って、あれであの穴ぶち開けたのか。シャッターの。

 なるほどねぇ。あ、あと真島を後ろから撃ったやつもか。

 そりゃあの距離からあの規格の非殺傷弾全弾ぶっぱしたらアイツでもああなるわな。いや、あれはほんと助かった。ナイスだったよほんと。

 

 ああ、そーだね。作戦立ててくれたのは、確かにあの人だけど。でも、助けに来てくれたことも、実際にあそこで真島に弾ぶち当ててくれたのも、たきなじゃん? だからそれは、私はたきなにお礼を言いたいよ。だからありがと。

 

 ――うん。まあ、ああいう形の決着ってのは、ちょっともやもやするけど。でも、もとはと言やぁアイツが自分に得意な場所で勝負仕掛けてきたんだし、おあいこって思っとくしかないかぁ。

 

 ……あ、そうそうそうそう! KSGのこと、あれ隼矢さん最後まで「ライフル」って言ってたよね!

 まあ言われてみりゃ、スラグ弾規格の非殺傷弾とドアブリーチャーしか撃ってないからパッと見ライフルに見えるのかも、あれ。

 

 そだね。銃器オタクか実際にああいう武器を取りまわしてる人間じゃないと、あのあたりのことはわかんないよね、確かに。

 ま、あの人だって何でも知ってるわけじゃないってことで。

 

 

 

 まあ、ほんでさ。終わったあと、ヨシさんとこ行って。

 でもあれは結局、先生と一緒にあのバーで会ったときの続きの話だったし。

 まあ最後、予備の心臓はあそこにあって。それでいろいろあったけど、最後はしっかりお別れも言えた。

 私からすれば、けじめはつけられたって、思う。

 

 ま、結構キツいことも言われたけどね。「死にかけの人形」とか。

 でもあれのおかげで、吹っ切れた気がする。ヨシさんとは、もう考えが合うことはないんだろうなって。だから、あそこでお別れを言わなくちゃいけないんだってね。

 で、実際お別れできた。たきながヨシさんの肩撃った時はちょっと「何してくれてんだ」って思ったけど。でも結果的にあれで心臓のケースを持ってこれたのは、まあ私にとってはよかったこと、なんだよね。ちょっと、申し訳なかったけど。

 

 だからまあ、あのあたりのことは、もう心残りはないよ。

 私の中で、ヨシさんは、なんというか、過去の人というか、思い出になった。それでいいって思ってる。あのペンダントも返したしね。

 当然、一生忘れないけど。だって、私の「救世主」さんだったことは、確かなんだから。

 

 

 

 まあ、そこまではね、いいんですよ。そこまでは。

 

 ――そうそう、最後。

 あれほんと後悔した。延空木の。

 悪い意味で、あれは忘れられない。今だって。いや、一生かも。

 

 あ、たきなも? そうだよね。今でも思う。抑えつけてでも止めるべきだったって。

 だから次ああいうことがあったら、私最悪隼矢さんに非殺傷弾ぶち込むかも。そうでなきゃあのワイヤーでぐるぐる巻きにする。

 だってもうヤだよあんなことになるの、絶対。

 

 

 

 そうだよ。今でも、夢に見るんだ。

 

 あそこ。延空木の上。展望台の、あの場所で。

 あんな、真っ赤な血の中で、倒れてるんだ、隼矢さんが。

 

 だから最初ね。本当に一瞬だけ、思っちゃったんだ。ああ、助からないかも、これは、って。

 そう思っちゃった自分が許せなくて。でも、どんどんあの人の息が、浅くなっていって。引きずった身体は、重くて。

 処置しても、処置しても。血が、止まらないんだ。圧迫止血でどうにかしても、三十分に一回は緩めないといけない。そのたびに、「命」が流れてく。

 

 ああ、そうだね。覚えてるよね、たきなも。

 

 「死ねない」って。「生きて帰る」って。そう、ずっと、ずっと、言ってて。諦められないって、もう何も見えてないみたいだったのに。聞こえてもいなさそうだったのにさ。

 そうやって言いながら、どんどん動かなくなっていって、最後……っ。

 

 ――ああ、だめ。完全に思い出しちゃった。

 

 こんなのって、ないよ、って、もう。

 せっかく、私は生きることを決めたのに。心臓も手に入って、生きられるようになったのに。

 あとは私が手術して、まあちょっと痛いの我慢すれば、それでもうみんな幸せ。全部片付くんだって。あの直前まで、そう思ってたのに。

 

 それを私に望んでくれたあの人が。一番頑張ってくれて、私に決心をくれた、あの人が。

 私が初めて、失くしたくないって、いなくなってほしくないって、思った人だったのに。

 それが、こんなところで、こんな風に、終わるなんて。私の、目の前で。

 

 ……私がそれを望んだのが、間違いだったのかな、って。思ったりもした。だから、隼矢さんあんなことになっちゃったのかなって。

 でも、それでも。

 

 嫌だ。絶対嫌だ。行かないで。私を、おいて行かないでって。もう、そればっかりよ。

 でもそう思っても、いくら私が嫌だって言っても、助からないときは、助からない。

 だから私、もうどうすればいいか分からなくなっちゃったんだ。何やってたのかも、あんま覚えてない。

 

 ……ううん、いいんだ。聞きたくもない。

 だけどクルミがあの時頑張ってくれたのは、あとで隼矢さんから聞いたよ。一緒の病院に入れてくれたのも、あの子がやってくれたんだって。

 

 ――あーあ。だめ、今日寝れないかも。寝る前電話すっかなぁ、隼矢さんに。

 

 え? いや、いいよ謝らなくて、別に。

 あ、でももっかい、ぎゅーってさせて。……ありがと。

 

 

 えへへ。

 

 まあ、ね。そんなんだから、そのあと。どうにか隼矢さん、助かったわけじゃん。それであの人の目が醒めたあの時からは、もう私だめだった。

 目を離せなかった。私の目の届かないところで、あの人が、また()()なるかもしれないって、怖くて怖くて。だからずっと私の前にいてくれなきゃ、耐えられなかった。

 

 今考えれば、ちょっと必死過ぎたような気もするけど。でもあれあの人のせいだし。だって、あんな……。

 

 ……うん。ありがと。

 

 

 

 まあでも、隼矢さんは帰ってきてくれた。私との約束を、みんなとの約束を、守ってくれた。それで、みんなでクリスマスやれて。

 

 あれも楽しかったなぁ。あんな風にパーティーするの、初めてでさ。まあ先生とミズキと三人の時は色々やってたけど。でもあんな六人でなんてことは今までなかったから。

 たきな、ありがとね。あれもめっちゃ楽しかった。

 

 

 

 そのあとのことは……ごめんね、秘密。あれは、私と隼矢さんだけの秘密にしたい。

 

 

 

 ま、それで、今に至るってわけ。これで全部。どう? 分かった?

 

 え? いやそれ、さっき言ったじゃん。

 

 

 

 私にとって隼矢さんは、大切な人。離したくない人。ずっと、一緒にいたい人。

 私が生きるための、理由になってくれてる人。

 今の私には、それだけで十分。それ以上は、まだ。

 

 あっちは、どう思ってるんだろうね。でも、あんまり()()()の方の何かは、感じないかな。だから多分、同じようなことを考えてるんじゃないかって、思うんだけど。

 

 

 

 ……なんだよ、その顔。なに、悪い?

 ……じゃ、いいじゃん。こんなん急いだって答え出るもんじゃないし。

 

 

 

 さっ。もういいでしょ? 私も言いたいこと言えて満足。

 いやぁ、喋った喋った! 一時間ぐらいずっとしゃべってたんじゃないか私。ここまで喋ること、なかなかないよぉ。

 

 さぁて、と。じゃ、そろそろ帰ろーぜ、たきな。

 明日は、隼矢さんお店来るって言ってたし。

 

 ……うん! そーだね、また、明日。

 先生も、また明日。

 

 

 

 明日も、いい日になりますように、ってね!




 電波塔突入時に千束が持ってたKSGのことを普通にライフルだと間違えたのは作者です。あそこに込められてた非殺傷弾がスラグ弾かライフル弾か見分けられなかったんですよ、映像から。後で調べて「まずい」と思いました。
 ただ、まあ主人公の視点からしたら散弾撃ってないあの形の銃は小銃に見えてもおかしくないよなと思って、当該の話は直さないことにしました。つまり主人公はずっとあれを小銃だと勘違いしています。
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