眠り揺蕩   作:エミル・シェーベ

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EndoftheBeggining

Master! Master! Did you make the zip back ?

神様!神様!これは背中にチャックのついた人形劇じゃないんですかい?

 

 

これは正史ではない物語。

巨悪が正義に真っ直ぐな癖毛の少年に討ち滅ぼされ、暗く淀んだ悪が終焉を迎える物語の前日談。

 

歴史に刻まれることもなく悪と善の血戦が起こる前の物語。

 

 

 

『勧善懲悪』

 

誰もが1度は聴いたことがあるだろう言葉。意味は人間には2つの側面が存在する。それは人間に暗い欲求を過らせ倫理的に問題のある行為をさせ暗黒への道に誘わせる『悪』の部分。純白に輝き希望という妄想で眼球を曇らせ正義という泡沫の概念こそが正しいと錯覚させる『善』。

人間には両方の概念によって形成される生物であると考えられている。善は正しく人間は善であると世間は、社会は信仰している。

 

では、なぜだ?

 

なぜ政治家の腐敗は根絶されない。虐待は、強者が弱者をいたぶり心を、精神を壊す虐めがなくならい?

エログロは、企業の汚職はなぜ消えずマスメディアは口を固く閉ざしている?

 

善などという概念は妄想であり御伽噺であるといつ気付くのだ。

 

我ら人類が息を吸い糞をし無為に生活をするこの世界が糞尿の上に浮かぶ塵であるといつ気付くのだ。

 

我らは地獄の底で踠き苦しみ大地を這いずり回りながら天国に行きたいとただ願うことでしか救われぬ生物なのだ。

 

 

『正義の象徴』

 

 

人という概念が気が遠くなるほど昔に崩壊し、どのような存在がいても可笑しくはない現代社会でも類を見ないほどの逸脱をした存在。正義を体現した存在として社会から尊敬の念を抱かれた存在。

 

誰もが憧れ、幼少時その輝かしい活躍に目を奪われ正義を渇望するきっかけとなる存在。

 

くだらない。

 

正義など所詮持てる者達の妄言にすぎない。

最初から悪に堕ちるしか、肥溜めの中でしか生きれなかった自分達はどうなる?

 

ただただ悪に堕ちその手を汚すことでしか生きれなかった自分はどうなる?

 

「考えていることが顔に出てしまっているよ。」

 

落ち着いた声だけ聞けば安心と好感を抱く声が思考の渦から自分を戻させる。

 

『AFO』

 

人間という規格が崩壊し人類が超常的な進化を遂げた現代社会で裏社会で暗躍し、日夜害意を抱く荒くれ者達が畏敬とも信奉とも恐怖とも捉えられる感情を向ける存在。

嘗て悪意という悪意を操作し全てをその掌に収めようとした巨悪と断言して良い存在が自分に意識を向けている。

 

謝罪の意を込めて小さく頭を下げ謝罪の言葉を言うと『AFO』は肩を小さく揺らす。長い時を一緒に過ごすことでその動作の意味が笑っているということに気付く。

 

「謝る必要はない。僕と君の中じゃないか。咎めることなど断じてないよ」

 

先の正義の象徴との戦闘により深くダメージを負った後遺症により黒い異様な形状をした生命維持装置を装着しなければ生命活動でさえままならなくなってしまったがその悪意は留まることを知らない。

 

自分が盲目的なまでに使えている主人であるAFOに召集をされたのは他でもない。

 

先生の悲願であり妄執とも言えるべき計画が始まるからだろう。

 

「察しの良い君のことだ、僕が君を呼んだのは他でもない。僕の、『僕達の』悲願である計画の第一段階が遂に始まるんだよ」

 

先生の声はこれまで、正義の象徴に敗北し闇の奥底で暗黒に身を隠し、裏から悪意を張り巡らし数々の人間の人生を台無しにしてきた潜伏期の中で最も上機嫌だ。

 

「僕が、悪が中立となる時代がもうじき到来する」

 

ヒーローという存在が世の中の基本となり世界が正義という白を倫理観の大前提とした世界。それを先生は粉々に破壊しようとしている。

あぁ、素晴らしいではないか。倫理観も道徳も形骸化し、世の中を渦巻くのが悪意というドス黒い暗黒が支配する世界。日陰者である我々敵が闇から光の中へ進出する誠に素晴らしいではないか。

 

「僕のことを忘却の彼方へ押しやった人間たちにもう一度理解させようじゃないか。底なしの『悪意』がどれだけ怖いのか。枕を高くして寝ているヒーロー達の目を覚まさしてあげようじゃないか。どこまでも不条理な悪意を、逃げ場のない悪意の暴威を見せてあげようじゃないか」

 

全身の血が沸騰したかのような錯覚を覚える。血が滾り、脳髄が暴力的なまでのアドレナリンを分泌している。これから夥しいほどの屍の山が、阿鼻叫喚の悲劇が馬鹿馬鹿しくなるほどに築かれる。

全ての始まりが終わり、やがて終わりが始まる。善という子供の積み木遊びで築き上げられたかのような不安で唾棄すべき概念が廃絶され悪意が支配する時代がやがて到来するのだ。

 

「やっとだ。やっと僕が魔王になるんだ。」

 

そして

 

そしてやっとだ。

 

やっと、全てが始まるのだ

 

「おっと、すまない。君の『願い』もやっと始まるね。〇〇」

 

喜色を滲ました声が降りかかる。

 

「僕のために、僕たちのために死んでくれ。〇〇」

 

願いが、妄執にも近い願望が成就するのはもうすぐだ。

 

全てが台無しになるのはもうすぐだ

 

 

「浮かない顔をしているね」

 

女にしては低く男にしてはハスキーな悪くいえば高い、良くいえば聞き取りやすいと評することの出来る声が投げ掛けられる。

声を投げ掛けられたやや細すぎる長身痩躯の金髪の男はそれまでこなしていた書類仕事の手を止め声のした方に顔を向ける。

 

場所は整理整頓の行き届いたお偉いさんの事務所という表現が適切だろう。現に『正義の象徴』と世間では持て囃され悪に対する抑止力として絶大な力を発揮している男、オールマイトは声の主を見る。

 

「いやぁ、嫌な胸騒ぎがしていましてね」

 

超常社会と呼ばれている昨今でも中々珍しい分類に入るだろう。白い鼠のような生物が笑顔を向けている。

 

「なぜだい?君という存在のおかげで社会は安定をしているというのに」

 

疑問のこもった声でオールマイトのことを見る鼠は天下のヒーロー学校である雄英高校の理事長であり、オールマイトが隠している真実を知る数少ない人物である。

 

「えぇ、たしかに。社会は一見すれば平和です。ですが、なにか胸騒ぎがするのです。まるで何かが暗闇の中で蠢いているかのような」

 

それまで浮かべていた笑みを搔き消し鼠はオールマイトの言葉に真剣に耳を傾ける。

 

目の前にいる男が臓器を失くしその肉体にヒーロー活動に支障をきたすような重い後遺症を残しながらも打ち倒した巨悪のことを指していることは察せられた。

巨悪はたしかに打倒された筈だ。だが、肝心なその打倒された者の亡骸は発見されておらず逮捕もされていない。

 

「たしかに、君の言う通りだ。あの巨悪がこのまま表舞台から永遠に消え去るとは考えずらい」

 

戦争の前の静けさと言ってもいい。社会を裏から恐怖で支配しようと謀略を張り巡らし際限なき悪意を撒き散らしていた巨悪がプッツリと姿を消したことに形容しがたい不気味さを感じるのは自分達だけではないだろう。AFOの恐ろしさを、悪意を知っている人間からすればこの平和が恒久的に続くとは考えないだろう。

現にオールマイトの『後継者候補』が選ばれ鍛えられている最中なのだから。

 

「先生、ぼくは思うのです。奴は闇の底で蠢いていると」

 

その言葉に根津は言葉を詰まらし、沈黙で同意を示す、考えすぎということはないのだから。超常社会に混沌とドス黒い悪意を撒き散らし正義の象徴に深手を負わせた悪の根元がこれで終わりなどとはありえない。

 

深手を負った敵が最も危険なのだから。

 

 

死屍累々

 

その空間を形容するならば最も適切な言葉だろう。狭い空間に躯がバラバラに少なく数えても5人以上放置され吐き気を催す程の暴力と濃い血の臭いが漂い異様な雰囲気がその場を支配している。

 

「お、おれらがなにしたっていうんだよ」

 

地面に縫い付けられているかのようにへたりこみ小刻みに揺れ、恐怖が滲み出た男の震え声。

 

男の恐怖に滲んだ声を無感情に聞き、恐怖がはっきりと浮かんだ顔をボーッと見つめる。

 

数秒前にこの場で行われたことは『虐殺』と断言して良いだろう。嵐のように歯止めの効かぬ、枷の外れたように暴力が荒れ狂い恐喝や強盗などで生計を立てていたチンピラ達を纏めて1人を残して殺したのだから。

暴力の限りを尽くした男をチンピラは恐怖に満ちた眼で見る。まるで、突然空間から湧き出たかのように現れると仲間を次々と殺し応戦する間もなく自分以外の仲間達を殺した男に違和感を抱く。

全くと言ってもいい程に男から感情が感じられないのだ。

フードを被った血塗れの男は能面のように顔には表情がなく、死んでいるかのような錯覚を覚える。それがチンピラには堪らなく不気味であり異質さを醸し出していた。

 

「誰なんだよてめえは。てめえは」

 

生きているのか?

 

そう続けようとしてチンピラの意識はテレビの電源がプツリと切れるように突如として途切れる。死んだことさえ理解できずチンピラは永遠の眠りにつく。

 

ゴロン

 

チンピラの頭部が無機質に地面に落ちる。頭部と離れた肉体は頭部が地面に無機質に転がった数秒後に糸が切れた人形のように地面に頭部同様転がる。

 

フードを被った男は今しがた自分が殺したチンピラの見開いた光のない目をジーッと見る。

見続けて数秒男は満足したのかその場を離れようと

 

生きているさ、ただ死んでいるかのように。

 

定期的に行われる『個性』の実験を兼ねたデモンストレーションを終了させ男は独り言を吐くと自らが生み出した凄惨な殺戮現場に背を向け歩き始める。

男は自分が興奮していることを知覚する。

 

何年ぶりだろうか。

 

もう何年も興奮とは程遠い場所にいた自分が胸を高鳴らせ、これから始まることに憧憬に似た感情を抱くのは。これから己が歩む道が待ち望む結果を待ち望み歩き続けてきた。それが、やっと叶うのだ。

 

男は口角を吊り上げ歩く。血と暴力、そしてドス黒い悪意が渦巻く暗黒に体を、魂を埋めるのだ。全てが台無しになるだろう。偽善者共が積み上げてきた脆弱な価値観も砂の城のように幼稚で脆き社会も全て台無しになる。

 

我々の時代がもうすぐ、ほんのもう少しで到来する。

 

最後に笑うのは我々だ。




Revive the Fear
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