眠り揺蕩   作:エミル・シェーベ

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ごきげんよう、さようなら


EndoftheBeggining Pt2

日本のとあるどこか

 

「それでドクター、彼の状態はどうだい?」

 

悪意の極致点、恐怖を操作し明確な害意をもって人々の将来を打ち止め、生活に混沌を運ぶ巨悪AFOはずんぐりとした達磨に似た白衣を着た医者、『氏子』と世間一般では尊ばれ、呼ばれる老人に話し掛ける。

ドクターと呼ばれた老人は暗闇で表情こそ判別し難いが、明らかに興奮していることが分かる。

 

「良好。いや、奇跡が起きておるよ」

 

老人は屈折した信奉を向け、己の全てを捧げた存在にその厚ぼったい丸眼鏡を怪しく光らせながら答える。

 

現在、AFOと氏子がいるのは日本のとある場所、日夜ありとあらゆる悪意を産み、組織の拠点であり暗闇の底の底。

 

つまりは悪の聖域であった。

 

そこでAFO、そして氏子はとある『計画』の核となる部下の容態について、そして現在進行中の『計画』を踏み台に発動させる『号』否『業』について会議をしていた。

 

「奇跡?めずらしいね、ドクターがそんな言葉をつかうなんて」

 

上機嫌にもとれる声色でAFOは氏子の言葉に反応する。自分に全てを捧げた老人は少なくともそのような非科学的なことを悪戯に発言するタイプではない筈だ。だが、発言したということは何かが、それも我々にとって僥倖なことが起きているという証拠だ。

 

「先生、やつはまさに奇跡のような存在じゃよ。いや、正確にいえば冗談のような存在といってもいい」

 

フードを常に被り、感情を欠片も表に出さない最初期からAFOに仕え、忠誠を誓ったあの男は正に魔王の夢を夢想から現実にするキーマンである。

AFOは先のオールマイトとの死闘の末敗れ重症を負い全盛期の頃には遠く及ぼぬ程に弱体化した。このままでは敗北は濃厚となり、悪が淘汰されるのは時間の問題だろう。

だからこそ敗北を予期した魔王は次なる最悪を打った。

 

『後継者』。正確に言うならば次の『自分』を誕生させようとしていた。それは受け継がれてはならないドス黒く濁った邪悪な焔。だが、その妄執は全くと言っても良いほどに上手くいかず氏子とAFOは手をこまねいていた。

なぜなら実験としてAFOの細胞を、その暗い深淵を他者に投与した瞬間に拒否反応が生じ死亡するのが毎度の結果だからだ。失敗の数は山を築き、処分に困ったのはまた別の話である。

 

「先生、やつは実験に耐え抜いた所か適合をし生きておる。それが天文学的確率でしか起き得ぬことじゃ。これを『奇跡』と呼ばずなんと呼ぶ」

 

 

部下であるあの男はAFOの細胞に適合し、その個性を十全とはいかずとも使い『実験』と表しゴロツキ共を血祭りにあげている。

 

AFOは異様な形状をした生命維持装置の下で口を半月状に歪める。

 

表舞台に戻る準備は滞りなく着実に進んでいる。あの忌まわしき正義の象徴に敗北したことで、地下に潜まなければならない現状が歯がゆいことは変わりない。

 

だが、とAFOはドクターから手渡しされた書類に目を通す。細かく数字が記載された報告書を見れば現在組織が最も注力している計画の実験体である部下が能力を行使した時の肉体の負荷などが事細かく記されている。

 

この計画が成功したならば、現在平行して進めている計画も高い確率で成功するだろう。

 

「素晴らしいじゃないか、全くもって僕の予想を超えてくれる」

 

個性が十全に認知されずまるで腫れ物のように、化物のように扱われていた黎明期、己が世界の裁定者に、魔王への階段を着々と突き進んでいた時にあの男に出会った。

一切の感情が抜け落ちたかのような無色透明な水を、燃え尽きた灰を想起させる男は自ら己の組織に加入してきた。

数多の部下が忌々しい正義の象徴に打倒されていく中であの男は生き残り数少ない忠実なる部下として残存している。

 

無意識にオールマイトに潰され原型を留めていないのっぺらぼうを思わせる顔に笑みが溢れる。

 

敗北を予期し、『後継者』を、そして魔王に従う『僕』達をもうすぐ獲得する。

準備は着々と進められ来るべき日のために全てが進んでいる。

これを喜ばず何を喜ぶのか。

愛憎入り交じるAFOさえもうすぐもどってくるだろう。

 

「もうすぐじゃろう、あやつが『業』を放つのは、時は近くまで来ておる」

 

老人は手元に持つタブレットを操作しながら近い将来到来するであろう全てが台無しになる未来を夢想する。

その言葉に巨悪は嗤う。

 

「『業』?またドクターは洒落た表現を使う。僕達にとって彼は希望だよ。彼がいなければ何も始まらなかった、いや、全てが終わっていたと表現しても過言ではないよ」

 

まるで童が夢を語るように、夢を見続ける誰かが朗々と夢物語を語るように言葉を紡ぐ。

 

「さぁ、歩き続けようじゃないか暗闇で、ヒーローのいない底の底で」

 

極悪は嗤い、光の奥底で蠢く。夢と現実の狭間を揺蕩い、ありとあらゆることが台無しになるその時がくるまで。

 

これは歴史に刻まれぬ物語。全てが運命の下、夢と現実の狭間で苦しむ者達の物語。

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