鮮血のエンブリヲン   作:Mk.Z

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第十三話 Hysteria/シュタイナーの亡霊

 □■<サンフォーリング革新戦線>三番ドック

 

 鈍い金属音が響いていた。

 <プレアデス>の三人は、黒っぽい扉を引きずって開けると、その向こうへと踏み込んだ。扉はがたがたと鳴ったが、その向こうから聞こえてくる騒音に比べれば静かなものだった。

 扉の向こう側では、眼鏡の痩せぎすの男が図面を拡げながら落ち着きなく歩き回っていた。色の薄い髪はボサボサで、櫛なんか知らない、といったふうだ。大きな眼鏡は鼻からずり落ちかかっていたが、男がそれを気にしている雰囲気はなかった。その目がチラリとこちらを向いた。

 白衣を翻して振り向くと、男は静かに言った。

「機体の状況を聞くかい?」

「たのむ」

「あっは、酷いよぅ?」

 何が面白いのか、その男はエルディンにむかってニヤニヤ笑った。その目がゾルを向く。

「まずねぇ、四番機(アルシオーネ)はもうダメだね。各部ユニットごと総取っ替え。修理と言うより新規建造のほうが近いかなぁ~?ま、長くかかるよぉ、覚悟してて?」

 不満そうなゾルに、その【高位設計士(ハイ・アーキテクト)】は告げた。白衣の裾がばさばさ鳴った。

「素体の<エンブリオ>が傷ついてなくて良かったねぇ~!そこはさすがに僕じゃあ直せないから!」

「他の二機は?」

 コロリョフは鋭く遮った。男はふくろうのように首だけ回して応えた。

「かなりましだよ。破損箇所のパーツを取り換えるだけで済むんだから。君たちさぁ、もすこし機体を労って運転してよねぇ~?」

 へらへらと回転する男は図面を投げ捨てると、ガラス越しに修理中の<調装機(ベルドレス)>を見下ろした。後ろ向きで、男は続けた。

「【JX-002】【003】はあと一時間足らずで復帰できる。あ、【004】は期待しないでよぉ、半日かかっても直らないかもしれないから。なんせさぁ、【FLA08XB】の反発翼がへし折れてて、メインフレームはガタガタ、なんと中枢の複層式エナジーケーブルは断線してるし、おまけにN2ガスが漏れなく漏出してて再封入が……あれ?」

 三人はいなくなっていた。男は肩をすくめると、図面を拾い上げて製図机の上に投げた。

 ノックの音がして、後ろのドアが開いた。

 つかつかと軍靴を鳴らして踏み込んできた兵士は、厳めしい顔で男に礼をした。

「シュタイナー技術顧問どの!」

「一応言っとくと、僕は君らの技術顧問じゃあないよ、それで?」

 シュタイナーと呼ばれた男は言った。

「なにさ?」

「御忙しいところ失礼します、うちの技師たちが【マーシャルⅡ】の改善案について是非ともご意見を頂きたいと」

 その伝達役はきびきびと言った。

「我らが軍の保有する【マーシャルⅡ】は三機のみ、パーツの足りないなかを現地改修型で運用している状況でして、改修設計にかのドライフご出身だという、シュタイナー設計士のご指摘を頂ければ恐悦至極です。お手すきであれば」

「【マーシャルⅡ】?」

 シュタイナーはぎらりと眼を光らせた。その細い指が眼鏡を押し上げる。

「いいかい、その技師チームによ~く言っておけよ。僕はあの!あの、<叡知の三角>のブリキ人形を触る気なんてないねぇ、指が汚れる!」

 突然の激怒、そして、不自然な嘲弄。

「僕の完璧に調和した設計精神が濁るんだよ、分かったら帰ってくれる?」

「……し、失礼しました」

 恐縮して下がる兵士を睨み付けると、アルベルト・シュタイナーは静かにため息をついた。その白衣の内側には、番号付きの鉄の小箱が無数にぶら下がっていた。

「【マーシャルⅡ】、【マーシャルⅡ】……どいつもこいつも【マーシャルⅡ】!そんなに好きかい、あのブリキ人形が」

 気にくわなかった。シュタイナーは軋むボロ椅子に腰掛けると、箱のひとつを掌で玩んだ。

 認められるはずもない。

「<調装機(ベルドレス)>は面白い思い付きだったけど、整備性に難があるねぇ……JXシリーズが強いのだって、<エンブリオ>を芯にしてるからだし」

 その口許がふと、歪んだ。

「戦争はどこにだってある……テストはどれくらい出来るかな?僕の作品たちを」

 その指が止まった。掌の中の箱には、【CZ-101】と刻まれていた。シュタイナーはその文字を指でなぞった。

「まったく、戦争屋さまさまだよ。因果な商売だ」

 シュタイナーはそう言うと、その小箱を白衣の内側にし舞い込んだ。今しがた兵士がそそくさと出ていったドアを開けると、シュタイナーはドックへと降りていった。

 金属を打ち合わせるような音が、途端に大きくなった。そのうるささにも慣れたもので、眉ひとつ動かすことなく、シュタイナーは整備場の床を踏んだ。

 三機の<調装機>は、傷だらけだった。落下と衝突の衝撃で大破した【アルシオーネ】だけではなく、残りの二機も損傷が激しい。通常の<マジンギア>を凌駕するはずの三機が、だ。

「……」

 シュタイナーは黙って、それを見つめた。視線の先では、乳白色の整備ドロイドたちが不器用な仕草でおたおたとパーツを取り外していた。シュタイナーが手ずから作り上げた下僕たちだ。

「あの、シュタイナーさん」

 後ろからの声に、シュタイナーは首だけで振り向いた。

 そこにいたのは、褐色の肌をした青年だった。珍しい、とシュタイナーは思った。この老人ばかりの町では、若者はそう多くない。

 青年は真面目そうに、躊躇いながら言った。

「僕、ラウルバーブラマドといいます、ここで技師をやってるんですが……その、あなたをお手伝いしろと言われまして」

「さっきの奴らの差し金かい?」

 シュタイナーは呆れたように眼を細めた。不健康な顔が歪んだ。

「いらないよぉ、何されたって僕はやりたくないことはやらないんだ♪解るだろ?お手伝い?別に要らないねえ」

 珍しく猫背を伸ばして、シュタイナーは長い手足を振り回した。その様子はまるで、蜘蛛みたいだった。

「手が足りないってこともないし、資源もまぁ十分。もともとワンマンでやってたからさ……」

 そこまで言って、シュタイナーはちらりと視線を泳がせた。ドックの向こう側で、技師や兵士たちが何やらこちらを見ながら話し合っているのが見えた。

 シュタイナーは目配せをした。青年は悲しげに頷いた。

「まぁ、そういうことです」

「君も大変だね」

 シュタイナーはため息をつくと、ラウルバーブラマドと名乗った青年の顔を見つめ、またため息をついた。

「……ま、いいよ。じゃあ、略してラウル君。手始めに……珈琲でも淹れてくれる?」

 

 ◇◆

 

「……申し訳ありません」

 その部下はいつになく声を小さくして頭を下げた。将軍は鷹揚に言った。

「いいとも。彼がそう言った心情も分かる。どのみち外様の戦力だ、要請としては僭越すぎたかな」

 その手元には、幾らかのファイルが握られていた。細かい文字の真ん中では、【高位設計士】アルベルト・シュタイナーの顔写真がニヤニヤと笑っていた。

「……あれは、何者なのです?」

 部下は好奇心を抑えられないというふうで尋ねた。将軍は静かにファイルを繰った。

「君は……サンフォーリングの出だったな。ならば知らないだろう、ドライフでもさして有名な話ではないはずだ」

 まるで自分がドライフの軍人であったかのように、将軍は話し始めた。

「現在の<革新戦線>にはドライフ出身者も多い。彼らからの情報だが、あれはアルベルト・シュタイナーという設計士だ。腕利きのね」

 将軍はファイルを仕舞うと、部下を見つめた。

「<叡知の三角>を知っているかね?」

「……名前は存じております」

「サンフォーリング外のものと会話をし、信頼を深めておくのも重要なことだが」

「はっ!精進いたします!」

 その若い部下の生真面目な態度に、将軍は優しげに頷いた。

「<叡知の三角>は、西のドライフ皇国にて<マスター>たちが設立した技術組織だ。現在では国家レベルでの活動を行い、国ぐるみの支援を受けている。……あの史上初の人型機動兵器、【マーシャルⅡ】を開発した組織だよ」

 将軍は静かに続けた。

「彼らの台頭によって、幾つかの軍事企業が零落した。一部は<叡知の三角>へと吸収され、そして一部は四散した。<シュタイナー社>もそのひとつだ。あの男は元シュタイナーの技術者。つまり、<叡知の三角>に敗北した敗残兵、とでも言えばいいかね」

 部下は真面目な顔で首肯した。

「理解しました、閣下。それで【マーシャルⅡ】を?」

「嫌うのも無理はあるまい。もともとシュタイナーはさして大きな企業ではなかったようだ。大企業はそのラインを活かしたOEM供給で生存もできたが、技術力と品質、アイディア力で細かく需要を獲得していたシュタイナーは……完膚なきまでに敗北した。彼ら自身の土俵で」

 どこか共感を滲ませる口調で、将軍は説明した。

「シュタイナーは末期、飛行機体技術の開発に拘っていたようだ。公開で行われた【マーシャルⅡ】とシュタイナーの最新試作機のコンペティションは、しかし【マーシャルⅡ】の圧勝に終わった。シュタイナー倒産後、技術者の多くは競合他社へと引き抜かれたが、肝心のアルベルト・シュタイナーは行方を眩ました。幾つかの技術開発データと共に。その成果が、あの機体(ベルドレス)だろうな」

 シュタイナーの独自技術は彼によって掌握されていたのだから、と将軍は締め括った。

「そういうわけだ。協力を依頼するにしても【ガイスト】ベースにしておけ……今はな」

 将軍は小さく付け足すと、話を変えた。

「それで、作戦目標は?」

「はっ!」

 部下は勢い良く敬礼した。

「目下、キール少佐と【マーシャルⅡ】二号機が地下大坑道を捜索中であります!」

「よし。発見次第そのまま拘束しろ、敵の情報は多ければ多いほどいい。座標判明後、<プレアデス>の面々にも出撃を依頼したまえ」

 将軍は一旦切り、付け加えた。

「それと、ゾル・ゾンタークに連絡を」

 部下は退出した。かつかつと鋭い足音が遠ざかっていくのを聞きながら、ブラウラウ将軍は立ち上がった。

 その手が億劫そうに伸びる。将軍は鍵付き棚のファイルたちをずんぐりした指でなぞり、ふとそのうちのひとつを取り出した。

 赤い文字で、『第一級秘匿』と記されている。将軍は親指の指紋を押し当て、ファイルをゆっくりと開いた。

「……敵の能力さえ掴めれば、殺しうる手だてはある」

 大きな力への陶酔に、その瞳が濡れていた。将軍は呟いた。

「もうすぐだ。もうすぐに……我等の陽は昇る」

 

 ◆◆◆

 

 ■サンフォーリング地下大坑道

 

『どうした!』

 キール少佐と名乗った声は言った。

『機体に乗りたまえよ、小僧』

 そう言われてなお、シリルは躊躇いがちに、目の前の異形が構える槍を見ていた。

 “ゾーレンクラーケ”は槍を構えたまま静止していた。それが何よりシリルにとって不気味だったようだ。開戦を告げながら、動かないことが。ステラは思わず歯噛みした。

『……ふざけているのか?』

 そして、敵機の操縦士(ドライバー)にとってもむしろ、シリルの振る舞いが癪にさわったらしかった。

『敵前で!生身を晒して呆けるとは!小僧、貴様、戦場を侮辱しているらしいな!その手の若造には……』

 サーチライトがギラリと光った。

『……やはり死んでもらう!』

「シャングリラ!」

 シリルは思わず叫び、そして虹の光が地下の隧道を埋め尽くした。一瞬遅れて、金属のぶつかり合うような高い音が響いた。

「……死ぬかと、思った」

 ステラは呟き、辺りを見回した。

 景色は一変していた。さっきまでの広々としすぎていた地下道ではなく、手狭な操縦席の後ろにステラはいた。周りの壁は卵のように丸く、滑らかで、暗いはずの周囲を幾ばくか明るく映し出していた。視線を前方に向ければ、依然として、あの八本足の【マーシャルⅡ】が二人を睨んでいた。

 すぐ前では、荒い息を吐きながらシリルが操縦桿を握っていた。ステラは叫んだ。

「死ぬかと、思った!」

「ちょっと、黙ってて!」

『【KK66Bクラッシャー】、起動!』

 そして、世界が回った。

 シャングリラが宙返りをしたのだ、と気づくのにしばらくかかった。八本足はいまや鋏のように割れた槍を、シャングリラに向けていた。

『はは!良い反応だ、白いの!』

 キール少佐は心底愉快そうに笑うと、槍をぐるりと回し、

『だがこれはどうかな?』

加速した。

 単に突撃したのではなかった。壁面を滑るように機体を動かし、宙へと飛び上がったのだ。シリルが慌てて操縦桿を押し込み、シャングリラがスラスターを吹かす。空中で機体を捻り、仰向けに体勢を変えて、

『甘いぞ!』

天井を走ってきた八本足の槍を胸部装甲で食らった。

「……ッ!」

 操縦席の背面に鼻をぶつけたステラは、涙ぐんだ眼で八本足を見つめた。シリルが怯えたように呟いていた。

「なんだよ、あれ!」

「三次元なのよ」

 ステラは操縦席に掴まりながら囁いた。

「敵の動きをよく見て!安定性の高いあの八本足で、坑道の壁を走ってるの!機体は上下左右、自在に動ける」

 “ゾーレンクラーケ”が再び走り出す。火花が散り、そして機体が見えなくなった。ステラが叫んだ。

「上!」

 一瞬遅かった。シャングリラの直上から突き下ろされた【KK66B】は、その先端にシャングリラの肩部を捉えていた。

『閉じろ』

 即座に、鋏は万力のような力で閉じた。装甲がひしゃげる音が響き、シャングリラが揺らぐ。機体音声が悲鳴を上げた。

『右肩部装甲、損傷』

 シャングリラが虹を撒き散らす。

 八本足の武装を振り切って、シャングリラは飛んだ。虹に混じって装甲の破片が飛び散っていた。

『はは!次はコクピットを狙うぞ』

 言うが早いか、ゾーレンクラーケはみたび吶喊した。シャングリラが後退する。

「どうしたら……」

 シリルが呟いた。

「どうしたら……!」

「ばか!足を狙うの!」

 ステラの言葉に、シリルは我に返ったように操縦桿を倒した。シャングリラが急制動し、前進する。八本足が躱す間もなく、双方の相対速度のぶんだけ二機は急接近した。シリルが小さく言った。

「出ろ……」

 察した八本足が機体を右へずらした。

「……【LRW08ミサイルコンテナ】!」

 そして、シャングリラの右腕に出現したコンテナが、六発のミサイルを吐き出した。煙と熱が尾を引いて、ゾーレンクラーケの足元へ向かう。

『ぬッ!<マジンギア>の武装を使えるのか!』

 だが、キール少佐は驚愕に叫びながらも、そのミサイルをほぼ全て躱しきっていた。爆裂するミサイルの合間を潜り抜け、疾駆する補脚が金切り声を上げる。

 そして、その間隙をシャングリラが衝いた。

「やぁぁぁぁ!」

 虹を収束させた掌を、シャングリラが翳す。その光はひとつ脈打つと手刀へと変じ、八本足のうち一基を破壊した。破片が舞い散り、キール少佐は叫び声を上げた。

「なんと!自在走破駆動脚(ランダー)を!」

 シャングリラは止まらなかった。背後でバーニアが歌い、虹を纏う掌が【マーシャルⅡ】の胸部装甲へと迫った。

 しかし、それは悪手だ。

『……調子に乗ったな、小僧!』

 至近で機体を回した八本足は、すれ違いざまにシリンダを唸らせ、巨大槍を叩きつけた。それをぎりぎり躱したシャングリラは、火花を散らして壁面へと衝突した。

 ゾーレンクラーケは油断なく槍を構え、シャングリラも砂埃をあげて機体を起こした。追撃はなく、坑道はしばし静かになった。

(計っている)

 ステラは唾を飲んだ。

 脚を破壊されて、(ケン)に回っているのだ。闘いのなかではたまにこういうことがある。決着を急ぐあまり、お互いに膠着することが。

「シリル、どうするの?」

 ステラは急かすように言った。今、勝敗を決めるのはシリルだ。ステラは操縦席で縮こまっていることしか出来ない。

「……ここは、あいつに有利すぎる」

 シリルは静かに答えた。その琥珀色の瞳は、緊張を湛えてゾーレンクラーケを見つめていた。

 ステラもこくりと頷いた。この円筒形の地下道は、あの八本足の<マジンギア>にとっては加速器のようなものだ。限定的にだが、高められた機動性にシャングリラでは追い付けない。拳銃の銃身に忍び込んだ羽虫のように、粉々に砕かれるだけだ。

 戦意は張り詰めていた。ステラは唇をなめた。機動兵器越しでも、知っている気配だ。

「……来る!」

「……ッ!」

『ぬん!』

 膠着状態は弾けて消えた。ゾーレンクラーケが走る。そして、サーチライトがひときわ強く光り、消えた。

「消え……!」

「違う!前!」

 ステラの言葉に、シャングリラは前進した。その脇を、加速しきった槍が駆け抜けていった。散る火花が、足元から赤く機体を照らしていた。

(シリルの動作の癖を読んできてる、まずい!)

「シリル、聞いて。長引くと勝てない、早く決着をつけて!」

「出来ないよ!」

 シリルは喚いた。

「今だって精一杯やってるんだ、どうしろって言うんだ!」

「知らないわよ!……後ろ!」

 次の瞬間、シャングリラに衝撃が走った。背後に槍を食らったのだ。フレームが軋み、操縦席は地震みたいに揺れた。シャングリラがつんのめった。

「シリル!」

「あぁ、もう!」

 かき混ぜられたスープの具みたいに、ステラはあちこちに身体をぶつけた。

『こいつで……』

 キールの声が響いた。槍の切っ先が閉じ、コクピットブロックの少し下へと狙いを定める。

『……終わりだ!』

「【LRW06バスターキャノン】!」

 突然シリルは叫ぶと、光の逆噴射で機体を弾き飛ばした。大口径の滑腔砲が火を吹き、ゾーレンクラーケの【KK66B】を焼き焦がし、そしてトンネルの頂点へと砲弾がぶつかった。

「シリル、何を!」

 シリルは答えなかった。代わりに、装甲の破片を撒き散らしながら宙へと跳び上がる。虹色の光が装甲の縁で踊っていた。

「落ちろ、天井!」

 そして、地下大坑道は崩落した。

 

 ◇

 

 ステラは恐る恐る目を開いた。

 身体を押し潰す岩塊も、地下の高圧もなかった。ベージュ色の操縦席(シート)は革のように鈍く、固い感触でステラの手を押し返していた。あたりを囲む卵のような表面には、外の光景が映っていた。

 地上だ。背の高い遺構がそびえ、視界を遮ってはいたが、それでも外だった。眼前には崩落の痕跡が土煙を上げていた。

「たす、かったの?」

 生き埋めになると思っていた。シリルがついに錯乱したかと思った。ステラは深く、深く息をついた。

 見回せば、廃墟の隙間を縫って町の気配が見えた。貧民街、リェコだ。暗い中に、町の火がちらちらと揺れている。

「でも、どうやってあの天井を」

 少しだけ我に返ったステラは、操縦席の背面から身を乗り出した。崩落を抜ける隙間など、なかったはずだ。穴は一瞬より短い時間で崩土の塊へと変わってしまった。

 ステラはシリルの横顔を覗き込んだ。白金の髪が乱れていた。琥珀色の瞳は、戦くように空を見上げていた。ステラもつられて、上を見た。

 シャングリラが首を上げる。視線の先には、橙と群青の飛行機体がゆっくりと旋回していた。まるで、獲物を狙うハゲタカのように。

 

 To be continued

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