■二重都市サンフォーリング旧都市塔・特級秘匿ブロック
ブラウラウ将軍がラジエルの力を借りて暴いた場所は、既に空っぽになっていた。
そこは、黒い石で造られた玄室だった。滅びる都市のものたちが、技術と力の中枢を封じた部屋だ。彼らの“文明”は、そこで事切れ、冷たくなっていた。
遺されたデータは将軍によって軒並み持ち出され、解析され、衛星兵器へのアクセスに使われていた。それを咎める筈の管理者たちは、壁際で屍蝋に成り果てて沈黙していた。
冷えきった黒い部屋の、銃撃も跳ね返す硬質な壁には、沢山の文字があった。今では読めるもののいない、先々期文明の古語だ。ブラウラウの兵士たちには汚れと変わらないものだった。
乱雑な文字は、さまざまな筆跡で書き付けられていた。密封されていたので、風化から守られていたのだった。ほとんどの言葉は短いもので、それぞれの余白を埋めるように、必死さすら感じさせる密度で書き付けられていた。そして、その中央には一際大きく、諦めと絶望を滲ませる殴り書きで、深紅の文字が記されていた。
もし、知識と教養のあるものがそれを見れば、苦労の末にこう訳すかもしれない。
『おしまい』と。
◇◆◇
□■サンフォーリング
『衝撃波、来ます。光学センサー、五秒後にロスト。復旧までは凡そ……』
「成功だな」
アルハール・ブラウラウ将軍は満面の笑みでそう言った。コツコツと、革靴の爪先が鳴っていた。
「成功だ!なんと素晴らしい、みろ、あれこそが我らの太陽だ!」
十メテル四方はありそうなばかでかい画面には、凄まじい遠景が映っていた。
砂漠は熔解し、ガラスのようになって大きなクレーターを作っていた。遺跡は赤熱して砕け散り、捻れたガラスの波と一体化して煙を上げていた。大気は渦を巻き、爆風となって散り、光学観測が次々ダウンしていく。
その中心では、<エンブリオ>を束ねた浮遊戦艦が依然、鎮座していた。
「……けりはつかなかったようで」
「あぁ。敵艦もかなり高度な防御を持ち合わせているな」
「そういう話じゃあありませんよ」
シュタイナーはぼんやりと言った。普段の人を食ったような態度は鳴りを潜めていた。
「敵艦の周囲に空間歪曲場の反応が観測されてます。いくらあれが大量のエネルギーを叩きつけても、
「そこを解決するのは貴殿らの職務だ」
将軍は満足そうに言った。画面では、最後のカメラが焼けついたらしい、映像が途絶えていた。
「状況は?」
『【
『目標、依然健在。時速一キロメテルにて南方へ移動中』
「ふん、計っているな」
将軍は葉巻を取り出し、少し考えて懐にしまった。
「これで敵艦も理解しただろう。お互いに十分な脅威を持っていると。ここからは、先に有効打を与えた方の勝利だ」
将軍は言った。ミルハルは縛られたまま、殴られた頬を晒していたが、おもむろに口を開いた。
「これは……」
「あ?」
「これは、なんだ?」
ミルハルは顔を歪めていた。
「着弾地点は、リェコに近いな。衝撃波はあの町をも襲ったはずだ」
「事前に警告はしてある」
「そういう話か?」
ミルハルのまなじりがつり上がった。
「なぁ、こんな破壊をもたらす必要がどこにある?人の住む場所は貴重なはずだろうが!」
「あぁ、理解していないのか」
将軍は頷いた。その首の動きは明らかに侮蔑を孕んでいた。
「……あの兵器は、空にあるんだよ」
シュタイナーは隣でそう言った。
「分かる?35000kmもの高高度に設置されてるんだ、そんな位置からだと、狙えないものはない。壁とか防衛軍とか、そんなのを軽々飛び越えるんだよ。地表の特定位置を観測してピンポイントに狙撃できる」
ミルハルは押し黙り、目を大きくしていた。将軍はまた笑った。
「絶えず移動するという【ドラグノマド】ですら射程内だ!カルディナの高慢ちきどもへ、太陽の鉄槌を下すのだ!」
「まさか……」
「こんな汚染の坩堝に住み着く理由があるか?進軍するのだ、カルディナへ。新天地が我々を待っている。慈悲深い太陽は常に我らの頭上にある。不遜な敵は陽光の餌食にしてやればよいさ」
ぎらぎらと、将軍の眼光は激しかった。
「約束の地は近い……その為の船さえある。鋼鉄の船団が、砂の海を駆けるのだ。豊かな南を目指して」
「それでは蹂躙だ!」
「だからどうした」
将軍は腹立たしげに唸り、ミルハルを怒鳴り付けようとした。
だが、ふとブラウラウ将軍は黙り込み、口元を押さえた。三、四度大きく咳き込んだ彼の掌は、それを放した時には真っ赤に染まっていた。
「ゥ……」
「……兄さん」
ミルハルは絶句した。アルハールは顔を荒っぽく拭うと、掌に目を落とした。
「……わたしには、もう時間がないのだ。躊躇いもな。どんな犠牲を払おうとも、サンフォーリングに栄光をもたらしてみせる。それが我が責務であり使命だと、そう決めたのだよ。所詮手前勝手に逃げ出したお前とは違う……!」
ミルハルとシュルールは黙って将軍を見つめた。シュタイナーですら、沈黙していた。将軍は顔を背け、叫んだ。
「状況は!」
『敵艦、上昇を開始しました』
オペレータは言った。
『高度2000メテルを早くも突破。戦車部隊の射程外です』
「……全隊、第一種戦闘配備のまま待機。狙撃仕様の機体は<プレアデス>を援護しろ」
将軍はのろのろと下知した。
「どのみちあの壁を取り除かねば弾は通らん。再度<プレアデス>に伝達をしろ」
『はい、いえ、しかし……敵艦が停止しました!』
オペレータの声に、将軍は眉をひそめた。
「停止?」
『高度3000メテルにて停泊。加えて……目標からの電磁反射強度が急激に低下しています!』
「……なになになに!」
シュタイナーは叫ぶと、司令席から飛び降りた。どたどたと、シュタイナーはオペレータに近づいた。
「見せて!」
シュタイナーの指が画面を叩く。蒼白な顔で、シュタイナーは呟いた。
「敵艦からの電磁波スペクトルがほぼ〇に落ち込んでいってる……光学映像は?」
「あっ、はい、こちらに!」
「……」
大画面に映像が復帰した。
敵艦は、真っ黒に染まっていた。優美な装甲はそのままだったが、色だけがくすんでいた。漆黒に近い装甲色の表面では、微かに虹色の帯のようなものが揺らいでいるのが見えた。
「報告にあった敵の<エンブリオ>か?」
「いえ、しかし、このような現象は確認されておりませんでした。可視光域外の電波、紫外線なども低減されています。さらには周囲の自然光までもが……」
「不味い」
シュタイナーは唇をなめた。
「まずいまずい、まずいよぉ!早く部隊を下げて!敵の砲撃だ!」
「砲撃だと?」
将軍は立ち上がった。
「だが、あの距離では……」
「分かってないなぁ、あれは光学迷彩だよ!なんで気づかなかったんだ、それがどんなに恐ろしいか!」
シュタイナーは狂ったように頭を振っていたが、その顔には隠しきれない興奮も同時に滲んでいた。ばさばさと、その袖が大きな計器の機械を撫でた。
「距離なんて関係ない!気圧、湿度、共に正常!もし、敵艦があれをやるつもりなら……」
シュタイナーはそこで、言葉を切った。メインモニターでは、敵艦が完全な黒に染まったところだった。
◆
■【浮遊航行艦 エンブリヲン】・第一艦橋
『《
『艦底面のジェスイットを解除』
『プロメテウスからのエネルギー供給を二割カット。ジェネレータ出力、イーリスへ』
口々に、オペレータ役をこなす人形たちが呟いた。黒服に身を包む蒼白な顔面の彼らは、艦橋の機器を一心不乱に操作していた。
がらくたを広げ、壁際に座っていたチャールズが言った。
「良いの?ジェスイットと違って、俺のパラス・アテナの武装植物は絶対じゃない。地上から狙撃されるかもよ」
「先だっての衛星兵器のほうがリスクとしては大きい」
ウィリアムはそう答えた。艦長席にゆったりと腰かけて、その手は穏やかに胸の前で組まれていた。
「そうだろう?」
「まぁ、脅威だね」
チャールズは頷き、天井を見上げた。第二の太陽は透かし見える筈もなかったが、その存在を意識せずにはいられなかった。
「さっきのデータを解析した。電磁波の類いならイーリスが歪めて防げるけど、あれはプラズマだ。光学操作の対象外!それが高高度、ひょっとするとMEOから狙撃してくる。戦車どもの豆鉄砲とは比べ物にならないよ」
「優秀な息子はかけがえのない祝福だよ」
ウィリアムはそう言うと、艦長席の前に嵌められたデスクのカバーを上げた。いかにも大事そうに、真っ赤なボタンがかがやいていた。
「クラリッサ?」
「いるよ」
空間が揺らめいて、幼げな少女が顔を出した。顔だけだ。身体はその能力のヴェールの内側に隠れていた。
「お父様、確認なんていらないわ。よろしくってよ?」
「よろしくってよ!」
声だけで、クラリスが愉しげに言った。
ウィリアムはそのボタンを眺めた。周りでは、ゲヘナに命令を吹き込まれた人形たちがかちゃかちゃとキーボードを叩いていた。
『照準、同期されました』
『気象は快晴。動作に支障なし』
『システム、スタンバイ』
「クラリッサ、始めてくれ」
ゆらゆらと空気が揺らめいて、クラリッサはウィリアムの前まで歩いてきた。イーリスを塗り込んだ大きなマントを翻し、クラリッサはそのボタンを押し込んで、言った。
「《
次の瞬間、エンブリヲンの周囲で光が歪んだ。
地上に落ちていた艦影が膨らみ、サンフォーリングの戦車部隊を陽光から遮った。しかしその中心では、逆にひとつの光が身を寄せあっていた。
「撃て」
光学迷彩能力を限りなく強化したイーリスの力で、全ての電磁波は歪曲され、やがて一条の光線となって、地表へ焦点を合わせた。その光に照らされたタンクたちが、みるみる赤熱する。
それは、極大のレーザービームだった。
さきのプラズマの被害すら冷めやらぬ地表で、またも熱が動いた。ガラス化した砂が再融解を始め、戦車をなめるように呑み込んでいく。
その戦車部隊の四半分も、装甲越しの熱伝導で搭乗人員を即座に焼き払われたが、即死できた彼らはまだ幸運だった。火力の足りなかった外縁では、灼熱の戦車内部で息のある兵士たちがのたうち回ることになったからだ。その光線は、<サンフォーリング革新戦線>の陣形を東西方向に寸断するように二回、切り裂いてから終息した。
「意趣返しというわけか」
ブラウラウ将軍は唸り、そして敵艦を見た。
『被害甚大!』
『こちらの幻術隠蔽にまで支障が出ています、やはり光学的な……』
「光だよ」
シュタイナーは言った。
「光学迷彩能力の発展……光への干渉能力を最大解放して、周囲の光を集束。レーザーに仕立てたんだ。【閃光術師】と同じ……!」
「クソ、<エンブリオ>か……<プレアデス>!奴らは何をしている!」
『……て……は……』
通信は、ひどく荒れていた。将軍は咳き込みながら叫んだ。
「どうした!」
『……たが、効果はない』
エルディンの言葉もまた、せんないものだった。
『……あの空間障壁だ、あれ……どうに……ことにはじり貧だ!一を食らわせても十で返され……る!シュタイナー!』
「空間干渉系の技術は持ち合わせがないねぇ……」
シュタイナーは首を振った。
「隙間はある。でも、そんな小さな攻撃じゃあ、あの敵艦は削りきれない」
たとえ空間歪曲が無くとも、純粋な強度だけで、サンフォーリングの軍は浮遊戦艦に勝てないのだ。それを破るためには、今一度、“太陽”の力を借りる他なかった。それも、空間に阻まれないように。
◇◆
一方、エンブリヲンではウィリアムが考え込んでいた。チャールズが問いかける。
「どうしたの?」
「いや。ここからはどうしたものかと思ってね」
ウィリアムはゆったりと座面に背中を預けた。
「万が一にもエンブリヲンを沈めさせるわけにはいかんが、かといってイーリスの光はそう何度も撃てない。無防備に腹を晒すのも得策ではない。丁度、しつこいのがいるようだしな」
エンブリヲンの主モニターには、地表の砲たち、そしてなにより周囲を飛び回る三機の<調装機>が映っていた。
「ヴァネッサは?」
「姉弟喧嘩の最中だよ。当分戻ってきそうにない」
ああいう手合いこそゲヘナの担当なのに、とチャールズは肩をすくめた。
「まぁ、あの羽虫の相手は俺がやるよ。パラス・アテナは応用が利くからね」
チャールズはニヤリと笑った。TYPE:レギオン・アドバンス。【砲戦華 パラス・アテナ】の武装植物なら、十分ゲヘナの真似事は可能だ。“黒蝶機”の素体になっているジャンクの【マーシャルⅡ】だって、もとはチャールズが改造したものなのだから。
カタパルトへ向かおうとするチャールズの後ろ姿を見ながら、ウィリアムは言った。
「さて、エドワード。お前は何をしている?」
返事はなかった。艦内の通信は完全に沈黙していた。
妙な予感がする。
「あの娘……何事もなければ良いがな」
◆◆◆
□【浮遊航行艦 エンブリヲン】・第二艦橋
ステラは艦内をゆっくりと歩きながら、手足を縛っていた粗末な枷を引きちぎった。木屑と釘を放り投げても、豪華な絨毯はその音の全てを吸い込んでしまった。
ステラは大きく息を吐いた。妙なものを嗅がされたせいか、頭がまだくらくらする。
それでも、大人しく捕まってやる義理はなかった。
閉じ込められていた部屋を蹴破って出てきたのは、怖かったからだ。ティアンを人間だと思っていないだろう<マスター>たちの、虜囚に対する仕打ちを想像するのが。ミルハルのくれた剣は取り上げられ、【ジェム】を仕込んだ靴も脱がされて、ステラは裸足だった。
艦の内部はあまりにも豪奢だった。むせるほどの資金力の匂いがする。無造作に踏んでいるこの敷物だって、おそらくステラの路銀の何倍もの値がするのだろう。
廊下には、小さな窓が点々と付けられていた。その向こうには、遥かな地表と、戦争の光が見えていた。
ステラはため息をつきそうになるのを堪えた。脱出する手段を見つけなくてはならない。この高高度から逃れて、戦火をすり抜けられるものを。
ふと、シリルに会いたいと思った。あの<エンブリオ>なら、どうにか助けてくれるかもしれない。けれど、ステラは首を振った。こういう気持ちは、単なる弱音だ。気をしっかり持たなくては、とステラは深呼吸した。
やがて、ステラは板張りの部屋に辿り着いた。美術品やなにかを飾っておく部屋なのだろう。その大きな博物室の中には、ガラスケースに入ったいろいろが鎮座していた。
(脱出には、役に立ちそうもない)
細やかな模様を配した壺、古びた鏡、それに色の薄れたタピスリー。別に、魔法のひとつもかかっているわけではなかった。
けれど、ステラはふと、目を見開いてひとつのケースに近づいた。透明な壁の向こう側には、ステラのよく知っているものがあった。
「あたしの……!」
それは、剣だった。
蛇の装飾を鞘に持ち、更にその上から鎖でがんじがらめにされた剣だった。ステラの剣だ。
ステラはゆっくりと、眼を釘付けにしながらガラスケースに歩みよった。その手が冷たく薄い硝子に触れた。
「やっぱり、逃げ出したのかい?」
その寸前に、ステラのうなじには刃が突きつけられていた。
「……ステラ」
肩越しに聞こえたのは、よく知る声だった。
「エドワード……」
ステラは静かに振り向いて、眉間の刃を睨み付けた。
エドワードは貴族の格好で、優美に髪を撫で付けた。その純金に縁取られた剣は、ステラの脳天を確かに狙っていた。
「分かってたの?」
「いや、そんな気がしただけだよ。君は大人しく捕まってくれる人間じゃない。諦めの悪くて、不格好にもがく、そんなティアンだ」
「そう?」
言うが早いか、ステラは硝子を砕き割り、中の剣を掴みとった。その後ろ髪を、躊躇いなく振り抜かれたエドワードの剣が切り裂いた。
ステラは止まらなかった。硝子の破片を踏まぬようにつま先立ちで、エドワードの頭上を飛び越え、博物室を出る。エドワードもその後を追い、ステラの鞘と斬り結んだ。
「諦めなよ」
エドワードは言った。
「僕は既にレベル500にも達している。君は僕に勝てない」
「分から、ないでしょ!」
ステラは艦橋の柵を飛び越えた。鞘を取り払い、刃を光らせる。代剣などより、その父の形見はよほど手に馴染んでいた。
「分かるんだよ」
エドワードは言った。
「君の両親は、弱かったから死んだ。初めて会った時のことを覚えてる?」
「あなたはレベル0で、無力だった」
「そう、だから一緒に強くなろう、って君は言ったっけね」
エドワードは嘲るように言った。
「そして、どう?僕がどんどん強くなるのに、君の才能は頭打ちだった。ティアンだからさ。やがて、君は僕を避けるようになった。技術や研鑽、そんなものよりも地力のほうが大きいことを、君だって分かっていたんだ。君の父親のこともそうだ。ティアンだから、この世界で生き残れなかった。全部、そうなんだよ。所詮、ティアンは劣等種に過ぎない」
「傲慢さまで強くなったのね、エドワード。それとも元々?」
ステラは猫のように、鋭く息を吐いた。剣先は微塵の揺れもなく、エドワードを見据えていた。
「ティアンは人間だよ。あなたと同じ……」
「あぁ。けれど、人間にもいろいろだろう。王には王の、奴隷には奴隷の。人には分がある。役目がある。器がある。それは容易く取り替えられるものじゃない。それに、人間の定義はなんだい?」
エドワードは冷徹に言った。
「この世界で人間範疇生物をそうあらしめるのは、
「それは……」
「不完全な
君にも、そうしてあげよう、と、エドワードは言った。
ステラは踏み込んだ。
「なら、あたしの剣術も、“飼い慣らし”て見せろ!」
その剣さばきは、見事なものだった。たとえ力に乏しくとも、積み重ねた研鑽は決して無駄にならないし、小手先のものでもない。勝負を決めるに十分なもののはずだった。
エドワードが後ずさる。その剣を躱して、ステラの左下からの切り上げがエドワードの頸に迫った。
そして、止まった。
「既に言ったとおり、君は僕に勝てない。力の差を埋める技術があっても、僕には
その剣は、空間に阻まれていた。エドワードの背後にいつの間にか突き立っていた十字架は、その権能をエドワードの頸もとに展開していた。
「TYPE:ワールド・アドバンス。【圏天使 ジェスイット】。空間を歪める力を、今、1%だけ僕の手元に戻した」
エンブリヲンはアドバンスの寄せ集めだ。すべての能力は普段、艦として統制され、相互に協力している。
「けれど、
青銅の十字架はウンウンと鈍く唸っていた。この戦艦を乗騎とした上で、アドバンスの力をエドワードに纏わせているのだ。
「面積にして、およそ……そこの額縁くらいかな」
そして、エドワードも剣を横薙ぎにした。ステラが飛びすさり、その頬から血が落ちた。
「命乞いの準備をするといい。君は僕の盾を破れないし、肉体のスペックでは既に敗北している」
エドワードは静かに、優美に剣を構え直した。
「さぁ、まだやるかい?」
「……当たり前!」
ステラは、息を調えながら、吐き出すように言った。エドワード・ファイアローズは小さく頷いて、薄く笑った。
To be continued